【澤円】あらゆる組織課題の解決は「メタ思考」の意思と観察からはじまる

人事・組織をテーマにした話題の書籍の著者にインタビューし、理解をさらに深めていく連載企画「噂の人事・組織本」。第3弾となる今回は、『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』の著者であり、元マイクロソフト業務執行役員の澤円氏にインタビュー。日本企業が陥りがちな組織課題と、メタ思考が必要な理由について話を伺った。

Profile

澤円 氏

株式会社圓窓 代表取締役

立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、大手外資系IT企業に転職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。最新のITテクノロジーに関する情報発信の役割を担う。2006年よりマネジメントに職掌を転換し、ピープルマネジメントを行うようになる。直属の部下のマネジメントだけではなく、多くの社内外の人たちのメンタリングも幅広く手掛けている。数多くのイベントに登壇し、プレゼンテーションに関して毎回高い評価を得ている。2015年より、サイバー犯罪に関する対応チームにも参加。2019年10月10日より、(株)圓窓 代表取締役就任。企業に属しながら個人でも活動を行う「複業」のロールモデルとなるべく活動中。また、美容業界やファッション業界の第一人者たちとのコラボも、業界を超えて積極的に行っている。テレビ・ラジオ等の出演多数。

メタ思考「頭のいい人」の思考法を身につける

日本企業の「メタ思考不足」問題

――まずは澤さんが定義する「メタ思考」とは何か、改めて教えてください。

端的に言うと、客観視すること。そして自分とエイリアスを同一視して、怒られたときにやたらへこんだりすることはやめましょう、という考え方です。
エイリアスとは「別名」や「リンク機能」という意味。会社など特定の場所にいる自分を、自分自身ではなく「一部の機能を提供している」と捉えることが、客観視につながります。

さらに、他者に対する評価も、同じように客観視して行いましょう。相手の欠けている部分を見つけて否定するのではなく、良い点に目を向けることが重要です。良い部分を拡大することで、世の中を良くするパワーが大きくなります。
また、欠けている部分を他者が補うと、コラボレーションのきっかけにもなります。むしろ欠けている方が、誰かの得意と組み合わせてパズルのように繋げられます。これは一人が完璧だとできないんですよ。

――減点方式ではなく長所を伸ばしながらコラボレーションすることは、まさに昨今の企業組織に求められています。メタ思考が事業や組織をドライブさせていくのですね。反対に、企業組織においてメタ思考が欠けているとどういった問題が起こるでしょうか。

少し毒のある話をすると、日本企業はメタ思考のできない「おっさん」が中心になってしまっていて、そこに課題があります。
書籍では、仕事のエイリアスへの批判を自分への攻撃だと感じてしまう人に向けて、エイリアスと自己を切り離すことを提言しました。

他方で、企業のマネージャー層の中には、肩書や権限といったエイリアスに人々が寄ってきていることに気づかず、自分の実力だと勘違いする痛い「おっさん」が存在します。こういう人がそのまま組織内に放置されると、組織が停滞する原因になります。
というのも、自社の組織の中のただの役割であるにもかかわらず、肩書を「万能のチケット」だと勘違いして、外でも使えると思っている人が多いんですね。

例えば、自社を訪問してきた営業に対してすごく横柄な態度を取るというのは典型的なケースです。昔僕もそういう扱いを受けたことがあって、その会社のことは忘れていません。今になって仕事の依頼が来てもその会社は選びませんし、顧客になろうとも思いませんね。つまり企業にとっては機会損失になる。メタ思考ができない人が機会損失の種を作ってしまうんです。

組織にメタ思考を浸透させるために

――メタ思考をできない社員が組織にとってリスクになることはわかりました。では、マネージャー層が組織にメタ思考を浸透させるにはどうすれば良いのでしょうか。

ここでも必要になるのはメタ思考です。ビジネスの問題をどうにかしたいと思ったときに陥りやすい罠、それは「方法を探す」ことです。「どんなやり方でやればいいですか」という質問をよくされますが、外に方法を探しに行く前に、問題自体を明らかにすることが重要です。

例えば「お腹が痛いので治し方を教えてください」と言うと正露丸を渡されるかもしれませんが、ボディーブローのパンチを喰らってお腹が痛い人には全く効き目はありません。「お腹が痛い」という問題の分析が全く足りていないわけです。
問題を明確にするには、目指す状態を定義して、そことのギャップをつぶさに観察する必要があります。観察することで、問題に対する取り組み方は自然と見えてくるはずなんです。

これはメタ思考的なアプローチだと思います。メタ思考によって、もぐら叩き的な課題解決を避けることができるでしょう。

──目指す状態を定義して、そことのギャップを観察するとのことですが、そもそも企業が目指す方向性を見失っているケースも多いように思います。

多いですね。しかしここが揺らぐと会社が傾きます。ビジョンが掲げられていてそれを起点としたマネジメントが徹底されていることが重要です。正確に言えば、大事なのは目標というよりもNorth Star Metric(北極星指標)なんです。北極星はゴールではなく、進む方向を決めるための「目印」ですよね。これがないと、どの方向にどれくらい進んでいるのかが測れない。この「測れる」というのがポイントです。

例えば会社では「なるはやでいい感じに」といった曖昧な表現が使われることがありますが、人によって解釈が異なり期待したアウトプットから外れる可能性があります。なので指標を決めて、測定可能な状態にしておくことが重要なのです。

――そんなアプローチを実践できる「メタ思考人材」になるために必要なことは何でしょうか。

意思です。「理想とギャップがあるなら埋めよう」という意思が重要であって、スキルの問題ではないんです。書籍にも「他者に興味を持つのは『意志』の問題」だと書きました。
顧客に対しても社内のメンバーに対しても、興味を持つ意志があればギャップに気付き、それを埋めていくことができます。

――メタ思考ができている「メタ思考組織」の事例があれば教えてください。

メタ思考をすると決めて邁進し、復活した企業としては、僕がまさにお手伝いしている日立製作所が挙げられます。僕はよく「原発から鼻毛カッターまで作る会社」と言うのですが、それくらい幅広い業態を持った企業です。同社は2009年のリーマンショック時に7800億の大赤字を出しましたが完全復活を遂げ、現在は3期連続で最高益となっています。

これだけの巨大企業なので、近視眼的な打ち手ではそう簡単にV字回復しないでしょう。経営者たちがメタ思考で「なぜダメなのか」を俯瞰してボトルネックを分析し、全体観を持って取り組んだからこそ、ここまで大きく回復できたのだと思います。

それが実現できたのは、優秀な経営者と、その影響力を受け入れられる組織体があったから。社員の話を聞くと日立のメンバーであることに誇りを持っているし、経営者の言葉も非常にわかりやすいので動きやすいんです。

人的資本経営はメタ思考からはじまる

――メタ思考を組織文化になじませるために、人事や制度にできることはありますか?

先ほどと同様に、まず意思が大切です。俯瞰的に物事を見てそれぞれの仕事とつないでいくことが重要であると社員一人一人が自覚できたら、メタ思考は組織に定着しますよね。これを社員に促し、意思を持たせるためのアプローチは組織ごとに異なるでしょう。

従来は成功モデルがテンプレート化されていたので人事のアプローチもテンプレート化したものでよかったんです。同じ企業に長く務めて出世して、ある程度のポジションで退職し、そのあとは年金をもらって……という流れが決まっていた。この当時に最適化されたシステムが残っている企業も未だに多いのですが、もうワークしません。

――まず人事が意思を持って自社を俯瞰して、その会社にふさわしいやり方を考えていく必要がありますね。

特に人事は人を見るのが仕事なので、「うちの営業の連中は」などと印象で捉えて雑な手を打つのは悪手です。面倒くさくても個別の人を見ていかなければいけません。
例えば、未だに多くの日本企業ではマネージャーは名誉職として与えられて、昇格したら向き不向きにかかわらずチームを持つのが一般的です。

しかし、僕のいたマイクロソフトでは僕より年齢もポジションも上の本部長二人が、僕がマネジメントするチームに所属していました。マネージャー職と、いわゆるプレイヤー職があって、制度上両者を行き来することができるんです。もちろん、マネージャーからプレイヤーになったからといってジョブレベル(給与)が下がることはありません。

今は、世の中にはたくさんの生きざまがあり、出世して役職につくことが必ずしも正解ではないとバレている。日本においてもこれからのマネージャーや人事は、社員に対して「あなたにとって最適なキャリアは何だろう?」と常に聞かなければいけないということです。
一方で、目の前の社員の要望にただ応えればよいわけではありません。会社全体を俯瞰しながらメタ思考をする必要がある。そういう意味では、人事もプロフィットを生み出すために機能してるという意識を持たないといけないですよね。

――人事がプロフィットを意識するというのはどういうことでしょうか。

単にBS/PL上の利益だけではなく、社会貢献に対する対価のことをプロフィットと捉えます。つまり会社は社会に貢献するので、会社を大きくすることでプロフィットも増大します。そのためにはどういう社員が必要なのかを考える。この考え方が人的資本経営につながるわけです。資本であるからにはざっくり捉えるのではなく個々を細かく観察することも大事ですね。

そして個々に向き合い評価するアクションにつなげているのがUniposのピアボーナスです。ピアとは素晴らしいことを見つける細かい観察眼なんですよね。この仕組みは社員に観察と発見を促し、ポジティブな評価をすることで良いサイクルを生み出しています。

――人事の課題に対しても方法論に飛びつくことなく問題を観察することが大事。そのために個人に向き合うことと、メタ思考的な視点が必要ということですね。

そうですね。目の前に見えていることだけで判断すると思い込みが入り込みがちなので、まずは全体を俯瞰して見ることが重要です。しかし、視点をズームアウトして本来見えないところまで見ようとするには、確かな意志が必要です。

人的資本経営や戦略人事など、人事が今取り組むことが求められるさまざまなテーマがあります。その第一歩は皆さんが意思を持って、メタ思考することなのではないでしょうか。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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