【ジョブ・クラフティング入門】社員が自ら働き方を変え、自律型人材が生まれる注目アプローチ

人事・組織をテーマにした話題の書籍の著者にインタビューし、理解をさらに深めていく連載企画「ウワサの人事・組織本」。第4回では、『ジョブ・クラフティング 仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』を取り上げる。編著者の一人である高尾義明先生に、ジョブ・クラフティングが現在注目されている背景と、導入によって企業と社員に生じる変化について話を聞いた。

Profile

高尾義明 氏

東京都立大学大学院経営学研究科 教授

京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。九州国際大学経済学部専任講師、流通科学大学情報学部専任講師・助教授、東京都立大学(旧名称:首都大学東京)准教授等を経て現職。著書に『はじめての経営組織論』(有斐閣)等がある。2021年、『経営哲学』第17巻2号に掲載された「ジョブ・クラフティングの思想―Wrzesniewski and Dutton(2001)再訪に基づいた今後のジョブ・クラフティング研究への示唆―」にて、経営哲学学会賞(論文部門)を受賞。

 

ジョブ・クラフティングが個人の仕事の幸福度を高める

──まずは、最近関心が高まっている「ジョブ・クラフティング」という概念について教えてください。

「ジョブ・クラフティング」とは、2001年にエイミー・レズネスキーとジェーン・E・ダットンによって提唱された概念です。学術上では「個人が自らの仕事のタスク境界、もしくは関係的境界においてなす物理的・認知的変化」と定義されています。

分かりやすく言うと、与えられた仕事に何らかの工夫を施して自分の仕事に作り変えていくことです。

自分が興味を持てるように仕事のやり方を工夫する、仕事をする過程で自分にとっての面白みを見つける、周囲の人と良好な関係性を築いて自分が働きやすい環境を作るなど、組織や上司から課された仕事に工夫や解釈を加えることで、自分にとって意味のある仕事や職場環境へと変えていくことを指します。

人は誰かに言われたことをやらされるより、自分で決めたことをする方により幸福感を感じるものです。働くことが楽しいとウェルビーイングが高い(心身が満たされた)状態になるため、成果も出やすくなることが、多くの研究でも実証されています。

社会環境の変化により「自分が働く意味」を求める人が増えた

──ジョブ・クラフティングは2001年に提唱された概念とのことですが、なぜ今、ジョブ・クラフティングの研究が注目されているのでしょうか。

学術文献データベース『Web of Science』の検索結果によれば、2015年頃からジョブ・クラフティングのヒット件数が増加しています。ジョブ・クラフティングが注目されるようになったのは、3つの時代背景が大きく影響していると考えられます。

一点目は、「働くモチベーション」の重要性が高まっていることです。ビジネスをするうえで、仕事のモチベーションをいかに高めていくかは永遠の課題です。いわゆるワーク・エンゲージメントは、ジョブ・クラフティングとの親和性がとても高いのです。
昔は、上司が仕事の意味や手順を説明することで部下は仕事の全容や必要性を把握し、上司からスキルに応じた仕事を割り振られることで、部下はやりがいや楽しさを実感していました。しかし社会が複雑化して仕事が専門化した現在は、仕事の全体像は見えにくくなり、会社がきめ細かいケアを行うことが難しくなってきたのです。このことから、自分で仕事のモチベーションを高める必要性が出てきました。

二点目は、「自分自身で仕事をクラフトする(作る)」という考え方です。会社の言われた通りに仕事をしていれば良かった時代は終わり、仕事に創造性や自主性が求められるようになりました。現場の意見を重視するボトムアップ型組織も増えています。

三点目は、「仕事をする意味」を求める人の増加です。与えられた仕事をやらなければならない理由を知り、自分自身が納得したうえで取り組みたいという意識が若年層を中心に生まれています。また定年を迎えて再雇用社員となったシニア層は、賃金上昇やキャリアが望めない中で働き続けることを求められています。目の前の仕事との向き合い方について悩む人が増えたのです。

──変化が激しいVUCA時代においてジョブ・クラフティングを学ぶ意義を、社員側と企業側の観点からそれぞれ教えてください。

先程の話とも重なりますが、社員側で言うと、ジョブ・クラフティングは自分自身のモチベーション管理に有効です。

テレワーク下で物理的なコミュニケーション機会が減少し、人材不足が常態化して上司もプレイングマネージャーとなる中で、組織は自律した社員を求めるようになりました。加えてジョブ・クラフティングは、将来のキャリア形成にも大きな影響を及ぼすとの研究が出始めています。
キャリアビジョンは、自分でさまざまな仕事を経験して試行錯誤することで見えてくるものです。終身雇用制度が機能しない現在、自ら考えて働くことは自身の得意分野に気付き、興味関心を広げることにつながるでしょう。

企業側では、ワーク・エンゲージメントの一つとしてジョブ・クラフティングの活用が挙げられます。少子高齢化が急速に進行する日本において社員に長く勤めてもらうためには、企業側が良い職場環境を用意する必要があります。
しかし、報酬や評価制度を用意するだけでは従業員の満足度を向上させ、働きがいのある職場を作ることはできません。長期的に従業員のモチベーションを継続するために行う選択肢の一つとして、ジョブ・クラフティングを学ぶ必要があるでしょう。

「手法」「人間関係」「認知」を作り変えて、仕事を自分のものにする

──ジョブ・クラフティングは大きく分けて「タスククラフティング」「関係性クラフティング」「認知クラフティング」の3つに分けられるとされています。この3つについて、ビジネスの実務シーンにおける具体例を挙げて解説いただけますか。

「タスク」は仕事、「関係性」は人間関係、「認知」は仕事の見方を、自分にとって好ましい形に作り変えることと捉えると分かりやすいです。

「タスククラフティング」は、業務の内容や方法を変更するなど、仕事のやり方を工夫することです。例えば、SNSの活用に関心のある採用担当者が、これまで人材紹介会社に委託していた採用活動を、SNSで自社の魅力をアピールすることで求職者側から興味を持って応募してもらえるようにする、といったものです。目的を遂行するために自分の仕事の手順ややり方を変えることで、新たな仕事を作ることが挙げられます。

「関係性クラフティング」は、仕事で関わる人との付き合い方を変えることです。仕事をするうえで、私たちは同僚、上司、顧客、取引先など多くの他者と関わります。こうした人たちと積極的にコミュニケーションを取り気軽に雑談を交わす間柄になれば、仕事の報連相や商談もスムーズに行いやすくなるでしょう。他者と積極的に関わりを持つ、あるいはコミュニケーションを通じて関係性を深めることで、自分が仕事をする環境を整え、仕事に取り組みやすくする行為が該当します。

「認知的クラフティング」は、仕事の目的を自分なりに捉え直すことです。タスククラフティングや関係性クラフティングのように仕事や環境を直接変えるのではなく、仕事への認識そのものを変える行為を指します。例えば事務員が自分のやっている経費精算について、会社の仕事全体の中でどういった意味を持っているのか、この仕事を行うことで誰の役に立っているのかを理解すれば、仕事への向き合い方が変わりモチベーションを上げることにつながります。

本人に任せきりにせず、会社や上司がサポートすることが大切

──仕事環境の変化に伴い、世界中でさまざまなジョブ・クラフティングの研究が行われています。私たちが理解しておくべき研究や、現在注目されている内容について教えてください。

書籍『ジョブ・クラフティング 仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』の中から、代表的な研究を3つ紹介します。

一つ目は、第5章にある「ジョブ・クラフティングを続けるための周囲の支援」です。自分目線で主体的に仕事を作り変えていくジョブ・クラフティングは良い面ばかりではなく、仕事へのこだわりや偏り、抱え込みといった悪影響も生じます。個人にとっては意味を感じられる仕事が、上司の求める内容や企業の利益にも貢献するとは限りません。やらなければならない仕事が疎かになる、組織から発令された辞令を拒むなど、ジョブ・クラフティングが周囲との軋轢を生むこともあります。
こうした副作用を防ぐためには、組織や上司はジョブ・クラフティングを行う社員をサポートする必要があります。具体的には、ジョブ・クラフティングに取り組めるポジションを用意する「機会提供」、情報収集や学びをサポートして本人の知見を広げる「能力開発」、得た情報をチームにも還元する「共有支援」、企業と個人の目標がブレないように重ね合わせる「方向づけ支援」を行うと良いとされています。

二つ目は、「人材の多様性によって生じるジョブ・クラフティング」です。中でも企業からよく問い合わせを受けるのは、第11章の「シニア労働者のジョブ・クラフティング」についてです。

シニア労働者にはこれまで働いてきた経験やキャリア、仕事に対するプライドがあります。一方で再雇用社員となるとそれまでやっていた仕事から外れて補助業務に就くことも多く、若い時のように賃金の上昇も見込めません。本人にはスキルややる気があるにも関わらず、第一線から退く状況に戸惑いを感じてモチベーションが下がってしまうのです。
彼らには後進育成や現役世代がやっていない仕事への挑戦など新たな仕事のやりがいを見つける、体調やポジションに合わせて仕事量を調整するなど、変化に適応していくことが必要となってきます。

三つ目は、第7章にある「ジョブ・クラフティング介入プログラム」です。今まで組織や上司から仕事を課されてきた社員の立場からすると、突然ジョブ・クラフティングを導入して主体的に仕事をしてくださいと言われても、何をすればいいのか分かりません。
そこで企業側からのアプローチとして、本人の強みを見つけるための研修や、実務でのジョブ・クラフティング実践をサポートするワークショップなどが行われています。最初のきっかけづくりをどのように行っていくかについては、今注目されている研究の一つです。

──ジョブ・クラフティングは主体的な活動ですが、本人に任せるだけでもうまくいかないのですね。ではジョブ・クラフティングを行うにあたり、企業側が留意すべきことはありますか。ジョブ・クラフティングを行うのに向いている会社、もしくは適さない会社といった特徴はあるのでしょうか。

ジョブ・クラフティングはあくまでも社員が自主的に行うことなので、基本的には所属する企業の状態は問いません。

ただし個人が仕事の範囲を自分で決められる余地があることが大前提なので、役職を問わず意見交換ができる会社、多様性を認める会社にはジョブ・クラフティングを行いやすい風土があると考えられます。
逆に仕事に対して自律性が低い会社、あえて言うなら金融業のように厳格なルールが設定されている業態や、上位下達な風土がある企業ではやや浸透しにくいかも知れません。

しかしマニュアル通りの仕事やルーチンワークでも、個人がマインドセットを行うことは可能です。例えば私は大学の試験監督業務が苦手ですが、「受験生に伝わるように注意点を読み上げる」「試験を通して未来の学生に会っている」など、できることが限られている中でも業務への取り組み方を変えることはできます。
企業には業務の余白を残しておくことが求められるでしょう。

──研究に携わっていらっしゃる高尾先生は、将来ジョブ・クラフティングを通じてどんな社会を望んでいらっしゃいますか。

一人一人が仕事を通じていきいきと働けるようになればいいと考えています。組織に所属している以上、仕事を100%自分の思い通りに行うことできませんが、自分らしい仕事ができるチャンスやフィールドは必ず生まれます。ジョブ・クラフティングは、仕事に自分らしさを出すきっかけになり得ると考えています。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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