2年で約3倍へ社員増。採用強化中でも"カルチャーフィット"を最優先する10Xの人事戦略
2023.12.01
目次
小売業界向けECプラットフォーム『Stailer(ステイラー)』を提供する株式会社10X。メディア露出も多く、2023年3月には15億円の資金調達を完了するなど、注目を集めるスタートアップの一つだ。
10Xでは、事業面だけでなく組織づくりにも注力している。HR本部長として人事部門をリードする吉田氏は、組織拡大が加速していた2022年10月に同社にジョインした。「人事は事業にインパクトを出すために非常に有効」と語る吉田氏に、人事として事業成長を加速させる組織づくりについて話を聞いた。

Profile

吉田 毅 氏
株式会社10X HR本部長
流通業・商社を経て03年にヤフー株式会社に入社。法人営業、営業企画などを担当したのち、12年から人事部で組織開発推進に携わる。15年6月にSyn.ホールディングス株式会社(現Supershipホールディングス株式会社)に入社、人事部門を管掌。19年6月にDATUM STUDIO株式会社 代表取締役社長に就任、22年6月に退任。同年10月より株式会社10XにHR本部長として入社。
組織の急拡大を機に「ポジティブフィードバック」に着目
——10X社は、組織について対外的にブログやポッドキャストで発信されていることもあり、組織づくりに注力されているイメージがあります。吉田さんがHR本部長に就任された当時のお話をお聞かせください。
私が就任した2022年10月当時は、1年間で社員が50名から100名へと倍になるほどの拡大期を迎えていたのですが、代表の矢本がかなり細かいところまで人事施策をデザインしている状況でした。
今後のさらなる拡大も見据えていたため、拡大に耐えうる組織づくりとして、人事制度の刷新やマトリクス組織の導入に取り組んでいました。
矢本たちが作った人事制度は思想に基づいた設計で丁寧に作られていたので、制度導入のタイミングで一任されたことにプレッシャーも感じました。一方で、11年ほど人事の仕事に従事する中で「人事を通じて経営や事業へアプローチする」ということをやり切りたかったため、胸が躍りました。

——創業当時から組織づくりに注力されている印象を受けますが、特に力を入れるきっかけはあったのでしょうか。
コロナ禍である2020~2021年当時は、ネットスーパーの需要が急拡大し、事業として伸長していました。それに伴って、組織もフルリモート下で拡大・細分化していくというフェーズだったことが大きなきっかけです。
代表の矢本、コミュニケーション全般を見ているコミュニケーションズ本部長の中澤を中心に、より「互いを信頼し背中を預けながら、成果創出に各々がコミットできる組織 」を目指すため、感謝や称賛などのポジティブフィードバックを継続的に巡らせることが重要と考えていました。
組織の「機能体」と「共同体」を両立させる
——手段として「ポジティブフィードバック」に着目されたのは何故だったのでしょうか。
私の解釈ですが、組織には二面性があると考えています。
一つ目は「機能体」としての組織です。外部に達成したい目的や目標があり、それに向けて組織の機能を整えていきます。株式会社は機能体組織の象徴的な例といえます。
二つ目は「共同体」としての組織です。共同体組織の目的は内側にあり、そのコミュニティに所属していることそのものに価値があります。共同体組織の例としては、家族や地域コミュニティなどが挙げられます。
企業運営においては、このどちらかが行き過ぎても組織不全になるため、この2つをどうバランスさせていくのかが重要だと考えています。
フィードバックの話に戻すと、ネガティブフィードバックは、組織のマイナス部分=組織課題を解決し、プラマイゼロの状態に持っていくプロセスです。ギャップフィルアプローチで計画・施策に落としていくことが多く、先ほどの「機能体」としての組織との相性が良いです。
一方で、組織をよりよくしていくにはネガティブフィードバックだけでは不十分です。組織のあるべき姿を描いて、現状からよりプラスに向かうためには、感謝や称賛などのポジティブフィードバックが非常に有効だと考えています。

——「機能体」と「共同体」の両立を重要視するようになったのは、吉田さんの個人的な経験や考えに基づくのでしょうか。
そうですね。10年間ほど人事の仕事をする中で、人事が腕まくりして「組織課題はないか」と探せば探すほど、現場が疲弊するジレンマがあると感じます。課題は解決されたはずなのに組織のエンゲージメントは上がらない、といったことが起こります。「機能体」の強化と同時に「共同体」としての保全をバランスよく行うと良さそうだということは、経験の中で実感として得たものです。
——吉田さんの感覚として、その二面を取り組む優先度はありますか。
あります。事業会社が存在する第一義は「事業を推進すること」であるため、短期・中期の視点だと、組織は事業戦略に従うことが正しいと私は思います。
ただ、それだけだとやはり組織は疲弊し崩壊していくので、適切なタイミングでどう「共同体」を保全して疲弊を避けるかが、人事の妙だと考えています。
例えば弊社では、四半期に一度全社員が一堂に会する全社オフサイトミーティングを行っており、これは「共同体」を保全するための取り組みの一つになっています。
先日の実施時には、中期的な事業計画などの経営方針発表を先んじて行い、そこで消化しきれないクエスチョンを持ち寄ってもらい、社員120名と経営陣4名とで対話セッションを展開しました。質問に対して経営陣が答え、そこで生まれた質問に対してまた答える……という対話を繰り返す取り組みを行いました。正直、始める前は成立するのか不安な部分もあったのですが、蓋を開けると3時間設けていた時間内に収まらないほど質問が出てきて対話は盛り上がり、翌週におかわりの会も実施しました。
対話を重ねることで質問者の理解が深まることは当然ですが、セッション全体を通じて120名の社員が他部門のメンバーが抱える問題意識や課題、事業への想いや組織への願いに触れ、相互にそれらを理解する、ということが起こりました。

120名という組織規模であっても対話セッションが成立した要因は弊社のカルチャーにあると思っています。バリューの一つに「As One Team」があるのですが、これは「背中を合わせてそれぞれの役目を果たすために、人・チームに対してオープンな姿勢を貫く」というものです。これが浸透し、社員ひとりひとりが実行していることが、セッションの結果にも表れていると思います。
徹底してカルチャーフィットを重視する
——社員の皆さんが事業そのものに興味が強そうな印象を受けました。フルリモートの中でそうしたカルチャーをつくるのは困難だと思うのですが、どのように醸成されていったのでしょうか。
採用時に社員のカルチャーフィットを重視している点は、要因として大きいです。
採用広報面では、ブログやポッドキャストで経営陣・社員ともに積極的に情報発信しているため、応募者の方のカルチャー理解にもつながっていると思います。
また、「トライアル選考」は弊社の特徴的な取り組みの一つです。面接選考で合格が出た方と業務委託契約を結び、入社時と同じ環境下で入社後のミッションに紐づくテーマを与え、2~3週間ほどでアウトプットを出してもらうというものです。
応募者の方も大変ですし、選考する我々にも負荷はかかるのですが、この過程を経ることで入社後のミスマッチはかなり少ないですね。

バリューの浸透や、「共同体」の保全という面では、Unipos(※)も上手くいっている取り組みの一つです。弊社では、Uniposを通じてポジティブフィードバックに少額のインセンティブを添えて送り合っています。チャットツールであるSlackと連携しているため、皆さんかなり投稿を見たり送ったりしてくれていますね。
マストではないですが、投稿の際に10Xの3つのバリューをハッシュタグとして紐づけて送っています。そのことでバリューを目にする機会自体が増えていますし、エピソードとしてバリューの理解や共感にもつながっています。
また、毎週の全社ミーティングの冒頭5分程度を使って、一週間で投稿された投稿の中からバリューを体現しているものをピックアップし、投稿者に紹介してもらうという施策も行っています。
結果として、四半期に一度の組織コンディションサーベイでも、バリュー浸透に関わる項目は非常に高い結果が出ています。Uniposを使った施策の一連のデザインは、バリュー浸透に効果的に機能していると思います。
※「Unipos」とは:Unipos社が提供する全社参加型カルチャープラットフォーム。社員同士で良い行動への称賛と共に少額のポイント(インセンティブ)を送り、全社にシェアすることができ、他の社員から拍手でポイントを送ることもできる。
未来志向の組織デザイン
——さまざまな取り組みの話を伺ってきましたが、人事施策の全体像についても教えてください。
かつては採用中心に人事の機能を構えていたのですが、現在は「採用」「制度」「人材開発」という3つの人事企画領域を設けています。大上段の方針は中期経営計画に沿って経営陣と対話し、優先順位をつけた上で、それぞれの企画リードと相談しながら半期ごとの施策を進めています。
また、8つの本部毎にHRBPの担当をつけています。HRBPは本部長のパートナーとして、事業推進に効果的な組織課題解決を推進していくという役割です。また、人事企画がデザインした施策をしっかりと現場にデリバリーする役割も担っています。
2022年10月にはマトリクス組織(※)を導入しました。100名ほどの規模でマトリクス組織を導入するのは、結構チャレンジングだと思っています。組織のサイズに対してファンクションが多くなるため、クロスアサインが発生してしまうのです。
一方で、弊社の組織づくりの思想としては未来志向で、「先々どういう組織にしたいか」という視点を大事にしています。事業成長を実現するために組織に何が必要なのかを探索し、採用・人材開発を含めて施策をつくり込んでいます。
※「マトリクス組織」とは:管理ラインが2つ以上ある組織を指し、事実上、複数のレポートラインを持つことになる。明確な事業目標へ集中しやすいというメリットがあるが、構造が複雑になりやすい。
人事戦略実行の鍵は「求めるべき人材の解像度を上げ、言語化すること」
——これまでのご経験を踏まえ、どのようなことを大事にしながら人事の仕事を進められているのでしょうか。
私はセールスやセールスプランニングの仕事に長く従事したのち、40歳の時に人事部門へ異動となり、そこから今日まで人事パーソンとしてのキャリアを積んできました。また、10Xに参画する直前の3年間は事業会社の代表を務めていました。その経験の中で、人事は事業に大きなインパクトを出すことができる道具であると実感しました。しかし、多くの経営者は人と組織で悩んでいます。「人事をうまく使いこなせない」という経営者の声を、当時よく聞きました。
一方、自身が人事責任者を経験する中で「経営者になりきれていない」「経営に資する人事を実践できていない」と感じることもありました。人事の仕事に就く仲間から、同じような声を聞くことも多いです。
約1年前、自分の今後のキャリアを考えた時に「もう一度人事パーソンとして経営と人事の間にあるこのテーマに向き合おう」と思い、10Xへの入社を決めました。「事業に資する人事の実践」を意識して、日々の業務に臨んでいます。
矢本からバトンを渡されるという意味ではプレッシャーも感じましたが、矢本が想いを持ってつくったものを授かり、実行し、越えていくということはまさしく私のやりたいことと一致していたため、とても良い機会だと嬉しく思いました。

——人事経験の中で、「人事を通じて経営へアプローチする」ためのキーポイントなどは見えてきていますか。
事業戦略と人事戦略の結節点を描き、それを実行していくことがキーポイントだと捉えています。
そのキーポイントの一つは「人員計画」です。事業戦略を実行していくのは最終的に人であるため、その実践の精度を高めていくための人員とは一体どのようなものなのか。その解像度を上げ、それを採用・人材育成の戦略に落とすことが本質なのではないか、と気づきました。組織は人の集合体なので、人材の要件に最後は落とし込めるはずだ、と考えています。

とはいえ、ジャストフィットするということはなかなかない領域です。採用時は、面接やトライアル選考の中で、我々を主語にした場合に「どの要件は満たされていて、どこは十分明らかではないのか」「その十分明らかではないところが許容できるのか」ということを見極めています。
採用後については、弊社では等級制度を設けていますが、ここでも解像度を上げた言語化がキーになります。等級要件は「リーダーシップの発揮」「求められる成果」「能力の発揮」という3つに区分しており、それぞれ細かく言語化し、採用応募者の方にも見ていただけるようにオープンな場所でも公開しています。
現時点の成果についてですが、組織コンディションサーベイやeNPSなどの定量指標は、高い数値を維持できています。「共同体」的な指標かもしれないですが、私自身、10Xに所属していることに対するやりがいや満足度は非常に高いです。現場で顧客に向き合っている社員、開発に携わる社員と同じように、ある種の緊張感とプレッシャーを持ちつつ、HR本部のメンバーと共に人事としての成果を追い求めていきたいと思っています。
おわりに
拡大する中で事業成長を促進する組織づくりがうまく進んでいる背景として、採用時から採用後の育成・評価まで一貫してバリュー浸透を含むカルチャーフィットを徹底していることが再認識できた。
矢本代表が”価値は事業のアウトプットであり、事業は組織のアウトプットである”と表現している通り、すべての土台に組織とカルチャーが存在するといえるだろう。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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