安全第一の工場で求められる心理的安全性が改善。多様な課題を抱えつつ実行した組織変革の全貌

2016年に旭化成と三菱ケミカルのジョイントベンチャーとして生まれた、三菱ケミカル旭化成エチレン株式会社(以降AMEC)。岡山県倉敷市の水島コンビナートで、基礎化学製品のエチレン・プロピレン等を製造、両親会社へ供給している。 

両親会社からの出向者で構成されていることによる文化・業務の進め方の違い、良好とは言えなかった風通し、業務量の多さ、管理職とメンバーとの年齢差など、組織風土改革を進める上で「ハンデ」が多いともいえる環境だった。 

そのような困難な状況から組織風土改革を進め、現在は心理的安全性スコアが急上昇するなど、「空気が変わった」ことを実感している。 

今回は、佐藤社長、今村副社長、現場で組織改革を引っ張った篝課長に、意識したことや実行したことについて話を伺った(いずれも役職はインタビュー当時のもの)。 

Profile

佐藤 平吾 氏

代表取締役社長

今村 啓二 氏

代表取締役副社長

篝 由也 氏

設備技術課課長

多種多様なメンバー構成された組織、多忙な労働環境によって顕在化した「重い空気」 

——組織風土改革を始める以前の組織状態について教えてください。 

佐藤社長:
前提として、AMECは非常に多様なバックグラウンドのメンバーで構成されています。まず、旭化成と三菱ケミカルの合弁会社であり、両親会社からの出向者が半数ずついます。そして本務と兼務の人がおり、さらに派遣社員もいます。メンバーの属性が本当にそれぞれなのです。

加えて、少数精鋭のため、親会社と比較すると作業量や残業が多い状況でもありました。 

そうした疲弊感と、出身会社間での心理的な壁が積み重なり、私がAMECに出向した2020年4月当時はかなりギスギスした重い空気で驚きました。社内で「最近どう?」と声をかけると、「もう大変で、休みも取れません」と返されたこともありましたね。 

今村副社長:
親会社が違うことで、仕事の仕方や言葉の使い方も違ってくるので、お互いの理解不足や心理的な壁が生まれやすかったのだと思います。例えば、何か不都合があればネガティブなニュアンスを含んで「三菱ケミカル(の出向者)が~」「旭化成(の出向者)が~」など、言葉の使い方でも壁がありました。 

佐藤社長:
加えて、工場では管理職とメンバーの年齢差があり、親子ほど年齢が違います。管理職を含む中堅メンバーが50代中心であることに対して、10~20代のメンバーが4割ほどいます。ジェネレーションギャップがあり、相互理解が難しい環境でもありました。 

また、交替勤務制のメンバーも多く、シフトが違うと交替する際の業務引継ぎのタイミングでしか顔を合わせることがありません。マネジメントや、メンバー同士の交流の難しさにも繋がっていました。 

2016年に設立し、2020年頃にはこのような課題が見過ごせないレベルに達していました。

——「多様性」「業務量の多さ」「年齢差」など、様々な因子によって組織課題が顕在化していたのですね。  

佐藤社長:
言葉を選ばずに言うと、出向に対して「飛ばされる」といったネガティブなイメージを持っている人も少なくなかったと思いますね。 

さらに、これもジョイントベンチャーならではの事情ですが、AMECのメンバーは出向元の親会社の人事制度に拠っています。そのため、「親会社の上司がちゃんと見てくれているのか」という不安を持つ社員もいたと思います。 

篝課長:
個人的には、過去に社外への出向経験があり、当時の出向元の上司が常によく見てくれていた感覚を持っていて、「見てくれるだけで安心して働きやすくなるな」という実感がありました。その経験から「部下を見る・認める・理解する」ことの重要性は感じていました。 

安全第一の工場において必須な心理的安全性を高めるため、組織風土改革を決意 

——さまざまな組織課題を抱えられていたことが分かりました。従業員の皆さんのほとんどは工場で作業をされていると思いますが、製造業ならではの事情もあったのでしょうか。 

今村副社長:
製造現場は「安全第一」です。弊社では、大量の危険物・高圧ガス・多種多様な設備を扱っていますので、怪我や事故の防止は最優先です。これを実行するための組織文化において重要な要素の一つが「心理的安全性」だと考えています。 

現在、製造現場に携わる人員の4割が若手社員である中、「分からないことが聞けない」「心配ごと、気になることが報告できない」といった心理的安全性が低い状況は、事故・トラブルや怪我の発生に直結するものと考えています。弊社工場は、不具合や事故により停止した場合、両親社の設備も含めた水島石油化学コンビナートの多くの工場が止まってしまうような基礎原料を製造する基幹プラントです。もちろん安全が最優先事項のため安全リスクがあれば止めますが、その停止は事業に直結することも事実です。      

「安全」と「最小コストでの安定した原料供給」の両面を追求する弊社にとって、事故・トラブル・怪我を防止する位置付けで、高い心理的安全性の組織文化を保つことは必須要件の一つです。 

佐藤社長:
採用・育成面の課題もあります。主要な工場人員は、製造課が約40%、設備技術課が約30%を占める構成となっています。800基ほどある複雑な設備を動かしているのが製造課で、健全な状態に維持するのが設備技術課です。これらの設備を適切に運転・管理できる一人前になるには数年から10年近くかかると言われており、非常に長い育成の時間が必要です。 

また、若者の就業に関する選択肢が多様な現代で、採用が難しくなっているのも事実です。
こうした背景からも、離職が生まれない、働きやすくやりがいのある環境をつくる必要があると考え、ソフト面の施策として心理的安全性の向上を軸とした組織風土改革に踏み切りました。 

 

言葉を変え、認識を変えた。「大変な仕事を“つらいと思うか、“おいしい”と思うか?」 

——そのような状況の中、組織風土を変えるため、どのような取り組みをされたのでしょうか。 

佐藤社長:
成果に結実したのは、大きな施策というよりも日常的なコミュニケーションを積み重ねたことなのではないかと考えています。 

まず、とにかく従業員の不満を聞き、現場を理解しようと努めました。
その上で最初に変えたのは「使う言葉」です。例えば、先ほども話にあがったような「旭化成が」「三菱ケミカルが」というような対立構造を作り出す言葉、否定的な言葉を使わなくて済むようにしたいと考えました。また、設備技術課では両親会社での仕事のやり方が大きく違っていたため、業務フローの整理や業務上で使う言葉の認識合わせも行い、出身会社間での溝がなくなるよう働きかけてもらいました。 

次に行ったのは「称賛」です。言葉を前向きに変えると、少しずつ行動も変わってきます。そうした行動を、Uniposも使いながら、称賛しみんなに広げていきました。 

UniposUnipos社が提供する全社参加型カルチャープラットフォーム。社員同士で良い行動への称賛と共に少額のポイント(インセンティブ)を送り、全社にシェアすることができ、他の社員から拍手でポイントを送ることもできる。 

篝課長:
私は、「部下を見ること・称賛することは管理職の仕事」と考えています。そして、部下は「上司に何かを相談して解決してほしい」というより「話や愚痴を聞いて理解してほしい」のかな、と感じていました。そのため、私も日常的な対話や称賛はとても大切にしています。 

正直、Unipos導入に関しては最初反対派でした。ですが、経営陣の意思もあって使うことになったとき、「どうせ使うなら上手く使おう」と思いました。
マネジメントは管理職の一番大きな仕事です。日々現場で働いていると、自分が知らないところで部下が製造課の運転員と設備改善を考えてくれていたり、ちょっとした不具合を解消してくれていたりします。Uniposによってそうした情報が得やすくなり、想像以上に見えていないことが多かったのだな、と気付きました。小さなことでも愚直に頑張っている人をもっと称賛しないといけない、と考えています。 

佐藤社長:
もう一つは、「物事に対する考え方」を変えていこうとしました。ここで、私が社内でもよく話すエピソードをご紹介します。 

前述の通り、AMECは親会社と比べて業務量・範囲が広大で、多忙な環境です。経理業務では事業管理・財務・税務・会計という4領域を一人でやる必要があり、非常に大変だったと思うのですが、ある若手メンバーは「親会社では一通りの業務を経験するのに10年かかるが、AMECだと2年で学べる。AMECで働けることは経験も積めるし、親社での昇格の要件も手に入れられるので“おいしい”」と言ったのです。
私は彼のこの言葉に驚きました。大変なことを「つらい」と思うのか、「経験ができておいしい(良かった)」と思うのか。全ては物事に対する考え方、捉え方だと感じました。
これに影響を受けて、設備設計をしている技術のメンバーには、「親会社ではなかなか扱えないような多くの件数、多額の投資金額の設備設計ができる。こんな機会は他では経験できない!」と話をして、弊社で仕事をすることのメリットを感じてもらうようにしています。 

忙しいことや大変なことも成長の機会と捉えて、「こうしたら楽しくない?」「こうしたら未来の可能性が広がらない?」というように、捉え方を変えるためポジティブな問いかけをしています。 

 心理的安全性が高まり、重かった空気が軽やかになった 

——それらの実行によって、組織が変わってきた実感はありますか。 

篝課長:
組織の空気はとても軽くなったと感じます。事務所でも会話や笑い声が増えました。以前は「元気?」と話しかけても誰も返答してくれないこともありましたが、現在は「元気です!」と返ってきたり、「実は忙しくて……」といった感情も素直に返ってきたりします。
他課と協力しやすくなったおかげでトラブルも減りました。個人的にも、職場の雰囲気も良くなり、仕事に行くのがより楽しくなりましたね。

また、心理的安全性の内容も含め、設備技術課の変革に向けた取り組み推進による職場風土改善というテーマで、2023年度社長表彰を課として受賞しました。課全体で取り組んだ成果を会社に認めてもらえたことを、嬉しく思っています。 

今村副社長:
去年、飲み会で「事務所を綺麗にしたい」という意見が出て、すぐに許可して改装しました。こういった提案がメンバーから出てきて、早々に実行に移されるというのも、以前は考えにくかったと思います。
事務所が明るく、働きやすくなると、雰囲気も明るくなって会話も増えました。すると色々なことが回り始めます。ようやくここまできた、という感覚です。 

佐藤社長:
定量的には、Zentech社調査による心理的安全性スコアがUnipos導入当初の2021年から2023年にかけて急上昇し、元々調査対象全体の平均以下だったスコアが、平均を越えました。Uniposのアクセス率(1か月間でアクセスしているメンバーの割合)は、導入時から90%以上を維持しています。
私は理系出身なので数字を見ることは大好きですが(笑)、ただ、数字を維持することは本来の目的ではありません。常に本来の目的に立ち返ることを心がけています。 

 

——AMEC社においては2年ほどかけて今の状態まで改善されたと思いますが、組織風土をつくる/変える上で必要な時間軸をどのように捉えていますか。 

佐藤社長:
長期的な取り組みになることは間違いありません
だからこそ、2:6:2の法則(※)でいわれるのを上回る3割の味方を作ることが重要だと考えています。ネガティブ層を動かすのには大変な労力がかかりますが、ポジティブ層が増えていけば、マジョリティから波及効果を及ぼすことはできます。 

※2:6:2の法則:どのような組織も「ポジティブな2割」「中間層の6割」「ネガティブな2割」で構成されるという自然律のこと。 

組織はケアし続けないと劣化する 

——組織づくりにおいて、どのようなことを大切にしながら進められていますか。 

佐藤社長:
重ね重ねになりますが、日常的なコミュニケーションの積み重ねが何より大切だと考えています。

私は普段は東京本社にいるのですが、定期的に水島工場に出張し、現場の様子を見たり従業員と関わったりします。水島へは片道4時間ほどかかりますが、去年は2週間に1度以上の頻度で足を運びました。
事務所にはよくどら焼きなどの差し入れを持っていくのですが、どら焼きに釣られて皆が集まってくれて、とても話が弾みます。このような、オフィシャル以外の地道なコミュニケーションや、日々の声かけの積み重ねが組織を変えていっていると思います。Uniposの投稿を見て、「あの投稿見たよ」と話のきっかけにすることも多いです。 

今村副社長:
組織はケアし続けないと劣化するものと考えています。Uniposは施策の一つ、心理的安全性は重要な要素の一つなので、他の手段も組み合わせながら、組織風土をより良くする取り組みを地道に続けていきます。 

——困難な状況から組織風土改革を実行され、変化を実感されてきている身として、組織づくりに悩んでいる方に伝えたいことや、今後の展望はありますか。 

佐藤社長:
組織は最初から軽いことはあまりなくて、重たいものです。このことは、Unipos社の講演で気づきました。
制度や施策を新しく始めようとしたときに反対意見が出ることは弊社でもあります。ただ、まずは使う言葉をポジティブにして、繰り返し話していくと、少しずつでも周りの行動が変わってきます。そうして組織の空気を軽やかにしていくと、組織風土は変わると考えています。特にリーダーは率先して言葉や行動を変えていくことが大事だと、自分自身にも言い聞かせています。 

篝課長:
私は、機会があって一緒に仕事をすることになった仲間たちと、しんどいことがあっても楽しく仕事ができる環境づくりがしたいと思っています。そのために、日々の対話の積み重ねによってより良い組織にしていくことが重要だと考えています。
そして、自分を育ててくれたこのプラントのことが好きですし、トラブルを減らすことによって競争力をつけ、このプラントの存続や成長に寄与することで社業に貢献したいと思っています。 

今村副社長:
弊社はようやくマイナスの状態から、組織の壁を越えてコミュニケーションがとれる状態へ変わってきました。私は、2024年4月から社長に就任します(インタビューは2024年3月)が、この組織風土をより良くする取り組みを継続するとともに、「AMECで働くことは成長へのチャンス・良い経験である」という考えが組織のスタンダードになること、そして、親会社からは「育成のためにAMECへ部下を送り出したい」と思わせる組織を目指したいと考えています。  

Unipos社から見るAMEC 

ここからは、2021年のUnipos導入当初から支援しているUnipos視点でこれまでの支援過程や今回のインタビューからAMEC社の組織変革の秘訣を改めてまとめてみた。

①コミュニケーション量の多さ——凡事徹底 

本文でも触れたように、AMEC社は本社・工場共に、日常的なコミュニケーション量が多い。リーダーや管理職から常に声かけをし、対話がされているため、メンバーも本音を話しやすく、心理的安全性が担保されているのだろう。
何か大きな施策を設計して動かすというより、こうした日々のコミュニケーション量が効果を生んでいる。 

リーダーの一貫性・吸収力 

こちらも本文で触れたように、佐藤社長の「とにかく最初に言葉を変えれば、行動や習慣が変わる」「物事は捉え方が全てである」「重い空気を軽やかにする」といったメッセージは、常に一貫している。
また、良いものはすぐに取り入れる・吸収するというフットワークの軽さもリーダー陣から感じられる。心理的安全性において重要な「傾聴」の姿勢と捉えることができる。 

③「拡声器」としてのリーダー 

AMEC社では、社内で生まれたエピソードや名言が社員全員に浸透しており、「ああ、あの話ね」といったリアクションが多い。リーダー陣が「拡声器」として社内にシェアしているからだ。聞き手が聞き飽きるほど“伝える”ことが、“伝わる”ことに繋がっている。手を変え品を変えながらコミュニケーションし続けることが、思想や理念を組織へ浸透させることに重要であるといえる。 

話し手に関わらず「傾聴」し、良いものは自分の解釈と共に組織へ「拡声」するといったリーダーシップが、組織を変えている。 

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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