組織を強くする「カルチャーデザイン」。ロードマップから浸透までの具体的なプロセス
2024.06.05
目次
人事・組織をテーマにした話題の書籍の著者にインタビューし、理解をさらに深めていく連載企画「ウワサの人事・組織本」。第7回は、『企業文化をデザインする』の著者であり、株式会社ラントリップの取締役でもある冨田憲二氏。創業期のスマートニュースにてカルチャーデザインを実践してきた冨田氏に、その具体的なプロセスと、実行する上でのポイントについて伺った。
Profile

冨田憲二 氏
株式会社ラントリップ取締役
1981年生まれ。東京農工大学機械システム工学部卒業。2006年、USENへ入社し、モバイル系コンテンツ事業に携わったのちVOYAGE GROUPにてgenesixを創業し、多数のスマートフォンアプリを手がける。その後、創業期のスマートニュースに8人目の社員としてジョインし、グロース、マーケティング、セールスを中心として立ち上げ、同社初の専任の人事として組織を国内外に200名まで成長させる。現在は、株式会社ラントリップの取締役としてサービスのグロースとカルチャーの普及に取り組むほか、複数社のスタートアップで人事・カルチャーのアドバイザーに従事。
「50人の壁」で実感したカルチャーデザインの重要性
――冨田さんがカルチャーデザインの重要性に気づいたきっかけは?
前職のスマートニュースで人事を担当することになった時ですね。僕が入社した当時、社員8名のうち、ビジネスサイドを担っているのは僕を含めて2名だけ、ファウンダーを含めた6名がエンジニア。加えて、創業メンバーが会社組織未経験ということもあり、組織よりも個人のパフォーマンスをいかに最大化するかに重きを置いたエンジニアファーストの組織でした。
そんな環境下のため、次第に広報、バックオフィスを含めた全方位的な業務を担うことになり、50人規模に組織が成長したタイミングで人事も担うことになりました。
当時、僕は創業者の魅力に惚れ込んで入社し、熱量高く働いていましたが、当然メンバー全員が自分と同じモチベーションで働いてくれるわけではない。組織内で一貫した価値観を醸成していくために、組織カルチャーが手がかりになると考えました。

――いわゆる「50人の壁」の打開策だったと。
組織が小規模なうちは大きな問題にならないのですが、カルチャーを整備しないまま組織が成長すると、情報伝達が上手くいかなくなり、やがて価値観に大きな齟齬が生まれるといった弊害があります。また、一貫性を持った採用戦略を立てていく上でも不可欠な要素です。
今でこそ多くの企業がミッション、ビジョン、バリューを策定するなど、その重要性が認知されていますが、当時は「カルチャー」という言葉は一般化しておらず、関連する書籍や文献も多くありませんでした。なので、他社の事例を参考にながらも、過去の経験を元に設計していったのです。
――過去の経験、というのは?
私は新卒でUSENに入社し、その後VOYAGE GROUPへと転職をしたのですが、両社ともに「いかに従業員のモチベーションを上げるか」を基軸に社内カルチャーが設計されていました。
企業が社内表彰や報酬制度の設計を丁寧に行い、従業員の間でも「担当する部署で結果を出すのは当たり前」、その上で「全社的な視点を持って領域横断的なアクションを起こす」「より大きなインパクトを生む」といった価値観が浸透していたんです。
僕自身、「成果を出したい」という強いモチベーションを持って働いていましたが、それは組織カルチャーが無意識のレベルで個人に浸透していたから。そして、そのカルチャーが原動力となって組織の競争力生んでいたことに、スマートニュースで50人の壁に直面したタイミングで気付かされました。
明文化し、背中で語る。ハード・ソフトの両面から設計を
――具体的に、どのような方法でカルチャーデザインを行っていったのでしょうか?
まず、可視化フェーズと浸透フェーズ、大きく2つのプロセスに分けて戦略を立てました。
可視化というのは「ミッション・ビジョン・バリュー」のように価値観、行動規範を明文化していくこと。浸透フェーズでは、それらをビジュアライズし、インストールのための研修を行い、評価制度に導入するといった具体的な施策に落とし込んでいきます。
可視化フェーズのポイントは、明文化する内容を極力シンプルにすること。行動指針のような明文化しやすい部分をのぞき、カルチャーというのはどこまで詳細に共有しようとしても、ある程度は個人個人による解釈の違いが生まれてしまうものです。ある程度の余白は残しつつも、絶対にブレてはいけないエッセンスを数点に集約して抽出し、コアメンバーはそれを徹底する。もし経営陣の中に体現できないメンバーがいるのであれば、明文化した内容を見直す必要があると思います。
――浸透フェーズではいかがでしょうか?
浸透フェーズにおけるポイントはソフト・ハードの両面から施策を打つこと。評価・給与体系、各種制度といったハード面は比較的共有しやすいのですが、問題となるのは従業員の価値観や行動指針といったソフト面です。
たとえば、「ミッション・ビジョン・バリュー」が浸透したからといって、それだけで従業員全員の価値観が一致するなんてことはあり得ません。組織が大きくなるほど、従業員の間で理念の解釈が多様化してしまうからです。

――どのような打開策があるのでしょうか。
明文化できない部分は経営陣をはじめとした「模範となる従業員」が日々の行動で示していく。抽象的な表現になりますが、「背中を見せる」。これが最も有効な方法だと思います。リクルート、サイバーエージェントのような強固なカルチャーを築いている企業は、まさにこの点を徹底しています。
スタートアップなど、規模が小さい組織では自然と他の従業員の動きが目に入るので、特に意識をする必要はないかもしれません。一方、大企業では部署やオフィスが分かれ、物理的にも精神的にも距離が生まれてしまう。なので、模範的な従業員と他の従業員の接点を意識的につくり出す必要があります。具体的には、社内でカルチャーを体現している人を見つけ、彼らをカルチャー軸に設計するプロセスが有効です。
例えば、「自社の価値観を体現している人を挙げてください」と従業員に投げかけると、ある程度共通した名前が上がってくるはず。その人こそが、可視化しきれないソフト面のカルチャーを体現しているキーマンです。
彼らがしっかり評価される制度となっているかを見直す。その上で、組織のさまざまなポジションに配置する、他部署と交流する機会を創出する。制度ではなく、人を軸に浸透させていくプロセスなので、人事担当者の方にとっても取り入れやすいのではないでしょうか。

機能するカルチャーはトップダウンでしか生まれない
――企業がカルチャーデザインに取り組むべきタイミングはありますか?
早いに越したことはないと思います。それこそ、創業期から行うべきだったということはスマートニュースでの経験から実感しています。しかし、創業期にいくら地盤を固めたところで、組織の成長や事業のピボットに合わせてカルチャーは変わっていくもの。実際、そうしたタイミングでコンサルティングの相談を頂くことは少なくありません。
その際にお伝えしているのは、「そもそもカルチャーづくりが議題に上がるということは、解決すべき課題があるはずなので、まずはそれを明確にしましょう」ということです。
人材、制度設計だけでなく、事業戦略や競争環境に至るまでを点検し、課題がどこにあるのかを見極める。その上でカルチャーデザインによるアプローチが有効なのかを検討する。本来、組織内にカルチャーが存在しないということは有り得ません。「可視化」という表現の通り、そこにあるものを見えるようにするというのが基本的な考え方。「カルチャーがない」「浸透しない」というのは、そもそもの課題設定を誤っている可能性が高いです。
こうした事態を避けるためには、プロジェクト化する時点で、経営陣や人事メンバーを中心にコアバリューや事業を見直し、浸透までのロードマップを引いておくことが望ましいです。でなければ、施策によって一時的な変化は生まれたとしても、いずれ形骸化するアウトプットになってしまうでしょう。

――ということは、トップを巻き込んだアクションが必須であると。
ほとんどの会社組織は経営層、ミドルマネジメント、従業員というピラミッド構造になっていますよね。カルチャーとは、ボトムアップではなく、トップダウンで形作られるものなんです。経営層のコミットなしには実現しませんし、ピラミッドの下層から上層にカルチャーが伝播していくことは基本的にはあり得ません。
実は、人間の脳には、集団内における強者の行動や振る舞い、言語を真似する性質があるんです。カルチャーのような抽象的な価値観を共有するにあたり、トップダウンで行うことは組織構造的にも、脳の特性的にも理にかなった方法なのです。
しかし、当然ながら、ピラミッドの下層からの働きかけることも必要です。実務上は人事や現場の担当者が担う部分は多く、近年はベンチャーなどを中心に、近年は事業責任者が採用を担うケースも増えてきました。現場を置き去りにしたカルチャーデザインにならないよう、各レイヤーの担当者が主体性を持って取り組んでいくことが重要です。

組織カルチャーは「生き様」。企業活動は「山登り」。
――カルチャーデザインを行うにあたっては社内での共通理解が必要だと思うのですが、冨田さんは「カルチャー」をどのように定義していますか?
おっしゃる通り、「カルチャー」はとても多様で抽象的な言葉です。100社あれば100通りの答えがありますし、それぞれの答えもまた、企業の成長と共に移り変わっていく。
一言で表現することは難しいですが、あえて言うならば「生き様」でしょうか。たとえば、「失敗もあったけど、こんなことを成し遂げた」「ここはダメだったけど、憎めない奴だったよね」というように、企業が他者にどういう存在であったと語られたいのかをイメージすると良いかもしれません。
企業はビジョンという「頂」を目指して、山を登っている。その方法やルートは十人十色です。最速で頂に辿り着きたい会社もあれば、時間をかけて迂回路を選択する企業もあるでしょう。途中で人を助ける判断をしたり、登る山を変えるという判断もあり得ます。その「登り方」にこそ、会社の生き様が現れるのだと思います。
――法人の「生き様」を規定し、山の登り方を考える。
その道中で、周囲を見渡すことも重要です。「競合企業があっちのルートに行くならば、私たちはこっちから登ろう」というように、相対的に自分たちが進むべき道が見えてくるはずです。
自分たちが何を最も大事にして山頂を目指すのか。それを明確にすることがカルチャーを、ひいては組織を強くしてくれるはずです。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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