【ブレインパッド】100日で変化の土壌を築く。CHRO・西田氏が導き出す最短距離の改革ロードマップ
2024.06.27
目次
他国との差が開き下降を続ける日本のIT分野。データ活用の専門人材によるプロフェッショナルサービスを提供する株式会社ブレインパッドのCHROである西田政之氏は、日本のITにイノベーションが起こりづらい原因には「リーダーシップの欠如がある」と語る。
これまでカインズで「DIY HR®︎」と銘打った人事戦略を打ち出し、「HRアワード2022」最優秀賞受賞経験のある西田氏は昨年7月にブレインパッドに参画し、「日本一の人材輩出企業を目指す」と宣言。組織風土や社員特性をきめ細かく見つめながら、「哲学的思考」と「自律」を重んじた、人事の範囲を超越する施策を推し進めている。ブレインパッドの人事戦略、そして、人事のトップに求められる「7つの役割」とは?
※本インタビュー記事は2024年4月に実施したものであり、
Profile

西田政之 氏
株式会社ブレインパッド
常務執行役員 CHRO(Chief Human Resource Officer) 人事ユニット統括
1987年に金融分野からキャリアをスタート。1993年米国社費留学を経て、内外の投資会社でファンドマネージャー、金融法人営業、事業開発担当ディレクター等を経験。2004年に人事コンサルティング会社マーサーへ転じたのを機に、人事・経営分野へキャリアを転換。2006年に同社取締役クライアントサービス代表を経て、2013年同社取締役COOに就任。その後、2015年にライフネット生命保険株式会社へ移籍し、同社取締役副社長兼CHROに就任。2021年6月に株式会社カインズ 執行役員CHRO(最高人事責任者)兼 CAINZアカデミア学長に就任。2023年7月より現職。日本証券アナリスト協会検定会員、MBTI認定ユーザー、幕別町森林組合員。日本CHRO協会 理事、日本アンガーマネジメント協会顧問も務める。
経営と人事の改革をモデル化。「DIY HR®︎」とは?
――前職のカインズ時代に西田さんが主導した人事改革はHR業界で大きな注目を浴びました。「DIY HR®︎」とはどのようなものだったのでしょうか?
カインズの人事戦略「DIY HR®︎」は、「くらしを良くするために自分で創意工夫することすべてがDIYである」というカインズの思想を組織文化に浸透させるためのものです。人事戦略って、小難しい言葉を並べ立てても全然響かないんですよ。カインズの社員たちはまさに「DIY」という言葉に囲まれた環境で働いているわけですから、人事戦略もDIYになぞらえたコンセプトにすれば、すっと浸透していくだろうと。
コンセプトを打ち出すのと同時に、コーポレート本部の傘下にあった人事部を「人事戦略本部」として独立させ、人事戦略企画の機能を持たせる。評価・報酬体系を見直すなど人事制度を刷新し、個人の成長を後押しする。この三本柱で改革を進めました。
店舗で働くパート・アルバイトを含めた全ての従業員の個の力を引き出し、組織パフォーマンスを最大化するするため、経営と人事の両輪で行う改革。これが「DIY HR®︎」の概要です。
カインズ在籍前、私はライフネット生命の副社長として経営に携わらせていただきました。現会長の出口治明さんと働く中で、「経営=人事」だということを体感し、その経験をモデル化して実践したのが「DIY HR®︎」です。
ありがたいことに多くの人事系メディアで取り上げていただきましたが、社員特性、組織の風土、歴史を踏まえてその企業に合った施策を編み出すというのは王道のアプローチです。

データ分析力✖️哲学的思考力✖️実践力で「経営人材輩出企業」を目指す
――カインズでの人事改革を成し遂げたのち、昨年7月にブレインパッドのCHROに就任されました。参画されたきっかけは?
日本企業ではまだ数少ない理系志向の経営人材を輩出できると思ったことが一番の理由です。
「世界デジタル競争力ランキング(出典:IMD, World Digital Competitiveness Ranking 2023)」によると、日本は2023年時点で総合32位。コスト削減・効率化ばかりで、イノベーションのための投資が行われず、現行のプロセスや人に合わせて開発されたシステムやアドオンが技術負債を生み、リプレイスが利かない状態になっている。これらの問題はリーダーシップの欠如、つまり「判断」ではなく「決断」できる経営者が日本に少ないことに起因しています。
ブレインパッドは、200名超のデータサイエンティストを擁するデータアナリティクスのプロフェッショナルファームです。そこに経営的な思考を掛け合わせていくことによって、ブレインパッドは日本一の人材開発・輩出企業になるポテンシャルがあると感じたんです。
――CHROとして、どのような人事戦略を打ち出したのでしょうか?
「データ分析力」「哲学的思考力」「実践力」、この3点を掛け合わせた人材戦略が重要だということを掲げました。
「データ分析力」は、すでにブレインパッドが担っている事業そのもの。「実践力」は顧客にサービスを提供する過程で養われるもの。問題となるのは「哲学的思考力」です。
「哲学的思考力」とは批判的、抽象的、論理的な思考を多面的に深く洞察する力であり、これに「データ分析力」と「実践力」が掛け合わさることで高度な経営判断ができる人材を育成できると考えています。
データを経営にどのように活かすかというのは、周知の通り、多くの企業が抱えている課題です。その答えを導く人材を育成していく。また、将来的には人材輩出企業となることが我々に課せられた責務だと考えています。そうした考えが、ブレインパッドの人事戦略の根幹となっています。
組織を100日で変えるサプライズプラン
――具体的にはどのようなことから着手したのでしょう?
様々な企業で人事戦略の策定・実行を行ってきましたが、ファーストステップとして重要なのは「100日で結果を出す」ということ。社外から人事担当者が入社し、「本当にこの会社は変わるんだろうか?」「西田って何をするんだ?」と、社員たちは少なからず身構えているわけです。
そこで圧倒的なスピードで施策を打ち出し、一気呵成に実行する。何をするかはもちろんですが、それ以上にサプライズを与え、本気で「変わるんだ」と思ってもらうことが重要なのです。人事のトップが熱量を持ち施策に取り組んでいく様子を開示しながら社員たちを巻き込んでいく。すると、その熱が伝わり、マインドチェンジされていきます。
――人事戦略は一般的に数年がかりで効果を発揮するものですよね。100日という短期間で結果を出すために、どのような施策を行なったのですか?
まずは優秀なOB・OGにインタビューをしました。彼らはブレインパッドの内情を知っていると同時に、客観的に評価する視点を持っている。彼らの話を聞くことで、会社の課題から解決策までの大きな見通しを立てることができる。
次に幹部へのインタビューと、社員との1on1を行いました。1on1にあたっては、全員に共通した7つの質問をします。
①ご自身のキャリアを手短に教えてください。
②現在の職責での課題やチャレンジをお聞かせください。
③ブレインパッドでこれだけは守ったほうが良いと思うことはなんでしょう?
④ブレインパッドで変えたほうが良いと思うことはなんでしょう?
⑤西田にもっとも期待することはなんでしょう?
⑥西田にもっとも懸念することはなんでしょう?
⑦西田に何かアドバイスしていただけることはありますか?
この7つの質問は現状の把握や課題の設定までの時間を圧倒的に短縮してくれるキラークエスチョンです。
とはいえ、外部からやってきた人間にいきなりこんなことを聞かれても、本音を話してくれるわけではない。そこで、私は自身の生い立ちから現在までの経験を包み隠さず記した自己開示ブログを書いたんです。
――ブログ、ですか。
相手に聞く前に、まずはこちらから全てをさらけ出す。それによって「西田ってこんなバカな野郎なんだ」ということをわかってもらい、心のシャッターを少し開けてもらいたいなと(笑)これは極端な例かもしれませんが、結局、人事の基礎にあるのは1対1のコミュニケーション。相手に心を開いてもらうことが必要です。
そして、これらの回答を「理念・意識改革」「人事・組織改革」「文化の醸成・維持」「プロセス改善」の4つに集約し、戦略の土台とし、3カ年の計画に落とし込んでいく。

――中長期の戦略はどのようなものでしょうか?
中期戦略としては、3年で「稼ぐことも意識した強くて善い会社になりきる」という目標を掲げました。2024年は理念浸透や人材育成のベース作りなどの環境整備を行い、2025年に施策の効果による変化の萌芽が生まれることを目指し、2026年には個の自律が促進されて社内に創発が生まれ、数値としても成果が出ているという状態に持っていこうとしています。
具体的には、「共生型のキャリア開発(Symbiotic Career Path)」「理系志向をベースとする経営人材の養成(Nurturing STEM executives)」「柔軟な人材配置とチーム組成(Agile Workforce Allocation)」「理念浸透(Purpose Penetration)」「共感的なコミュニケーションの実現(Sensible Empathetic Communication)」の5つの頭文字をとって「Synapse(シナプス)」と名付け、この5本柱をもとに36の新施策を進めています。

すでに実行フェーズに入っているものとしては、能力開発のためのワークショップや「Liberal Arts Core」という企業内アカデミアの設立が挙げられます。専門能力と哲学的思考力、次代のビジネス人材育成などの研修体系を整えていくと同時に、哲学的思考力開発講座、選抜された若手社員が作成した理念浸透ワークショップなどを実施しています。
また、社内ハッカソン支援をすでに実行し、成果が出始めています。現在はまだ環境整備のフェーズですが、これから成果評価のあり方の見直しなどにも着手し、3年で社内外に通用する経営人材の育成を行っていく予定です。大きなロードマップを迅速に立て、一つ一つをやり切ること。それはどんな企業の人事改革においても重要です。
人事トップに求められる7つの役割
――西田さんが考える人事トップの役割とはどのようなものでしょうか?
人事トップの役割は非常に広範囲に渡ります。人事=経営と表現した通り、従来の人事領域に囚われることなく、経営目線でのアクションが求められるからです。それらを集約すると、以下の7つが挙げられるでしょう。
「会社目標と個人目標のベクトルを合わせる」
「自律を促す」
「ステークホルダーに価値提供する」
「アートとサイエンスを使いこなす」
「軸を作る」
「平時と戦時を見極める」
「繁栄チャネルを活性化する」
1つ目は「会社目標と個人目標のベクトルを合わせる」ということ。経営陣は会社のパーパス、ビジョン、ミッション、バリューを示す。その上で、「なんのために生きるのか?」と個人のパーパスを考える問いを立て続けることが大切です。
そこに繋がるのが、2つ目の役割である「自律を促す」。答えを示すことがリーダーの役割だと思い込んでいる人は多いですが、それは間違いです。リーダーの役割は「自律心を養うこと」。つまり、自分の力でどこまでできるのか、どこまで他人の力を借りなければならないのか、そのバランスを自ら取れるようになるための補助をすることです。その力を養うために、答えは言わず「どうしたの?」「どうしたいの?」「手伝えることは?」という3つの問いを投げかけるようにしています。
3つ目の役割は「ステークホルダーに価値提供する」。これは人事に限らず、全ての経営陣に求められること。CHROの場合、経営、社員、株主、お客様、従業員という5つのステークホルダーにどのような提供価値提供ができるかを常に考え、実行しなければなりません。

4つ目の「アートとサイエンスを使いこなす」はやや抽象的な役割かもしれません。フランスではさまざまな文化や言語、人種が交錯する国家の中で、自分の主張を伝えるためにアートが発展してきたという歴史がある。たとえば絵画は言葉よりも抽象的な表現ですが、だからこそ言語を超えて伝えることができる。人事や経営も同様だと思うんです。論理的に正しいだけでは伝わらない。熱量やストーリーテリングなど感情的な部分で人を動かす力と、そこから生まれる組織の科学反応、つまりサイエンスの要素が必要だと感じます。
5つ目は「軸を作る」ということ。人事は時として答えのない問いに向き合うことが求められます。その際に思考の拠り所となる強固な価値観を持っていなければなりません。私は「どんなメンバーでも部下ではなく同僚・仲間と呼ぶ」「言ったことは必ず即実行」「直観に従う」「邂逅を大切にする」「インテグリティー(お天道様の下で恥ずかしくない行動を取る)」「恩送り(施しを受けた相手に恩を返せない場合は他の人に恩を送る」「美意識を研く」「歴史に学ぶ」ということを軸にしています。
6つ目は「平時と戦時を見極める」。危機的状況においては、長期戦略ではなく、目の前の危機をいかに乗り切るかという短期戦略求められる。組織運営も同様に、平時は大局観でいられますが、短視眼的な対策を取らねばならない時が必ず訪れます。今、企業が置かれている状況が平時・戦時なのかを見極め、スタンスを変えていく柔軟さが必要です。
7つ目は「繁栄チャネルを活性化する」こと。人間の頭の中には、脅威に対して優位に動く「生存チャネル」と外に向かって機会(チャンス)を広げようとする「繁栄チャネル」があります。最年少でハーバード大学の教授になったリーダーシップ論の第一人者ジョン・P・コッターは「優秀なリーダーはメンバーを加熱した生存チャネルに追いやることはしない。自分自身や周囲の人々の繁栄チャネルを活性化するために、多くの時間を費やしている」という理論を説いています。つまり、リーダーはプレッシャー与えることよりも、心理的安全性が保たれた中で、機会に目を向ける増やすことに注力すべきなのです。

これらに加えて私が常日頃言っているのが、「1億総哲学者の時代」だということ。これまでは先頭を走る人についていけば勝ち馬に乗れたけれど、VUCAの時代と言われる現代に、そんな未来予測が通用するわけではありません。つまり、自分の頭で考えなければならない。
人類が繁栄した最大の理由は、自らの脳内にある知識だけでなく、他人や所属するコミュニティなど身体の外側にある環境、蓄積されてきた知識に頼りながら思考をしてきたからです。データを活用し、自分の頭で考える。そして知のコミュニティに参加し、自らも貢献することで、哲学的思考が養われていきます。
森林の木1本1本は自立していますが、実は土の中では菌を通じて支え合い、共生しているんです。組織にとっても、そのような状態が理想的だと考えています。成長を促しながら創発によって変革を起こす自律連携型の組織を目指していきます。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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