管理職の負担を軽減しながらカルチャー変革を実現する「共通価値観マネジメント」とは
2024.08.13
目次
カルチャー変革がなかなか進まない/実行にうつせない背景に、「管理職との壁」「管理職の負担」があるのではないだろうか。
企業の競争力の土壌であるカルチャーを変えるための理論や事例を解説する本連載。今回は、この課題を突破するための「共通価値観マネジメント」を提唱者であるUnipos社COO・松島が解説する。
なぜ経営・人事と事業部間での相互理解は困難なのか。増していく管理職の負担の正体とは何なのか。そして、どうしたら管理職の負担を軽減しつつ、カルチャー変革を遂行できるのか――。 組織のOSとして「共通価値観」を機能させ、カルチャー変革を成功に導く方法論を解説する。
Profile

松島 稔
Unipos株式会社 代表取締役副社長COO
2013年、現Unipos株式会社(旧Fringe81株式会社)取締役COOに就任。同社COOとしてプロダクト企画/事業開発/事業提携/営業マネジメントを管掌。2016年、同社の東証グロース市場への上場に貢献。2021年、Sansan社との資本業務提携を主導。2021年、Unipos株式会社 代表取締役副社長COOに就任。現在は、事業/コーポレート/プロダクト全体を管掌し、組織風土/カルチャーに関するセミナーも実施。
経営・人事と事業部門の対立は、構造的に起きている
こんな経験をしたことがある方は多いのではないでしょうか。
経営・人事サイドは、全社のエンゲージメント向上のために、1on1や人事制度改革を実施する。または、中期ビジョン達成のためにDX推進を強化する。
一方、事業部サイドにおいては、リソースが不足している中で常に目標を追っており疲弊している。その中で新しい施策が始まることへの抵抗がある。何のために施策を行うのかよく分からず、経営・人事が言うことが抽象的に感じてしまう。
そんな現場に対して、「負担を減らすためには会社を変えなければいけない。そのための施策なのに……」という想いが、経営・人事の本音でしょう。
双方が会社のために取り組んでいるはずなのに、想いや行動がかみ合わない——こうした経営・人事と事業部間の壁は「認知的対立」であり、構造的に避けることが難しいものです。
認知的対立は、双方における「時間軸」と「課題の抽象度のとらえ方」の違いによって生まれています。

事業部は、基本的には四半期などの区切られた期間の中で目標の数字や事業計画を達成していく、というミッションを持っています。そのため、「今目の前で起きている課題」の優先度が上がりやすい構造です。
一方、経営・人事は、3か年など中長期的かつ全社的に組織や事業をどうしていくか、という視点で物事を考えることが多いしょう。
この時間軸と抽象度の違いによる認知的対立が解決されず、コミュニケーションに梯子がかからないと、双方のことを「理解していない」という感情的対立に発展していきます。双方が目的達成のために頑張っているのに、どうしてもシナジーが生まれないのも、このことに原因があります。
共通価値観を中心に据えた組織運営——7Sフレームワーク
ここで、「7Sフレームワーク」を紹介させてください。これは世界的に有名なコンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニー社が提唱した、組織変革のフレームワークです。内容は以下の通りです。
【ハードのS(組織の構造に関するもの)】
①戦略(Strategy):競争優位性を維持するための事業の方向性
②組織(Structure):組織の形態や構造
③システム(System):人事評価や報酬、情報の流れ、会計制度など、組織の仕組み
【ソフトのS(人に関するもの)】
④価値観(Shared Value):組織全体で共有されている基本的な価値観や信念
⑤スキル(Skill):営業力、技術力、マーケティング力など組織に備わっている能力
⑥人材(Staff):社員や経営者など個々の人材の能力
⑦スタイル(Style):リーダーシップのスタイルや組織全体の行動様式(マネジメントスタイル・コミュニケーションの方法・意思決定のプロセスなど)

ハードは目に見えやすく、施策として比較的着手しやすいため、取り組んでいる企業は多いでしょう。一方で、ソフトは目に見えにくいものが多く着手しにくい。ソフトが成熟していないと、ハードの変革を実行しても変わらないため、ハードとソフトを連動させて変容を起こしていくことが重要です。
ここで注目したいのは、ハードにしろソフトにしろ、実行していく上で「共通価値観」を中心に据える必要性がある点です。共通価値観は、行動指針やバリューなど、とるべき行動や思考の方針のことを指します。
「共通価値観」はMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)などの形で明文化されていることが多くありますが、従業員がそれをどう捉えているのかには、会社によって大きな違いがあるのではないでしょうか。「明文化しているが陳列されているもの」という認識の場合、「共通価値観を重要視していない」ということが価値観として受け入れられている状況なので、注意が必要です。
時間軸や抽象度を超えるためには、組織のOSにあたる「共通価値観」を明確にし、それを基点にコミュニケーションすることによって、経営・人事と事業部が重要な共通言語を持ち、組織マネジメントに一丸となって取り組むことが解消策になります。
以上が構造的な課題です。一方で、そうはいっても机上の空論で、なかなか上手くいかない……と感じられる方も多いでしょう。その背景には、構造的な課題に加えて、昨今の社会的背景から「管理職の負担」という別観点の問題が潜んでいます。
難易度と複雑性が増す現場マネジメントとその社会的背景
「管理職の負担が大きすぎる」。恐らく、このことは多くの組織において実感されているのではないでしょうか。2024年に発売された小林祐児氏の著書『罰ゲーム化する管理職』は、とても話題になりました。
ここからは、一連の背景と実態をデータに基づいて見ていきます。
パーソル総合研究所の2019年の調査結果(*1)によると、「去年と比べて業務量が増加した」と回答した中間管理職は46.3%、「自分の組織は人手不足である」と答えた中間管理職は50.8%と、どちらもほぼ半数にのぼります。
それでは、管理職は特に何に対して困っているのでしょうか。
同じくパーソル総合研究所の調査結果によると、ダントツで多かったのは「部下マネジメントの難しさ」でした。具体的な要素としては、「世代間ギャップにより意思疎通が困難」「部下のメンタル問題への対応増加」「部下の離職の増加」が続きます。こうしたマネージャーとしての対応と、事業成果を出すためのプレイヤーとしての側面が求められ、業務負荷が上がっています。
もう少しマクロに、時代背景の変化も見てみましょう。

上記の調査(*2)からは、2013年から2023年の10年間にかけて、新入社員が上司に期待することが「厳しく指導すること」から「良い行動をほめること」にシフトしていることがわかります。心理的安全性が注目されてから久しいですが、昨今は若手メンバーのマネジメントにおいて、ポジティブなフィードバックによる相互理解や信頼関係構築がより求められているといえます。
このように管理職のマネジメント領域は、人・組織のマネジメントから、戦略立案・実行のマネジメント、顧客マネジメントまで、多岐にわたります。
別の観点からも考えてみましょう。社内では、内部統制の強化により報告・開示義務が増えていることも考えられます。
さらに、そもそも日本は人口減の時代に突入しており、労働市場でも人手不足が叫ばれています。人が足りず自身がプレイヤーを兼ねている、という管理職も多いでしょう。
そこに、ハラスメントへの対応や、Z世代などバックグランドの違う新入社員へのコミュニケーションの複雑化などが重なり、管理職の負荷問題の構造は複雑を極めています。

そのような困難な状況下で「共通価値観を基にマネジメントしていこう」といえど、そんな余裕はないと思われる方も多いでしょう。
ここで注目したいのは、「共通価値観マネジメント」によって部下の積極的行動が増えることが、管理職の負荷軽減につながるということです。
例えば、メンバーが上司の出す要求や目的を理解しようとする、自分に割り当てられた以上の仕事を進んで行うなど、組織としての目的のための行動が増えると、管理職の負担は間違いなく軽減します。
共通価値観は社として大切にしている価値観であるため、社に属している観点で否定がしにくい点、かつ主観ではない価値観である点で、意義の伝達が容易かつ一貫性があることも特徴です。管理職としては、会社の価値観が明確かつ組織内で浸透しているとしたら、その前提をもってフィードバックに臨むことで心理的負担は軽減されます。マネジメントのOSとしての共通価値観が機能すると、個人によるコミュニケーションの差も生まれにくくなります。
管理職に真に求められているのは、自律的なチームをつくるために共通価値観を基点とした行動を促すコミュニケーションをしていくこともいえます。
一方で、メンバーへ「会社が言っているから」と強いるようなメッセージングをしてしまうのは逆効果であるため、経営・人事、HRBPなどのミッションを持つ方が管理職を支援できる体制をつくることも重要になります。
*1:パーソル総合研究所『中間管理職の就業負担に関する定量調査(2019)』より
*2:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ『新入社員意識調査2023』より
「共通価値観マネジメント」のメソッド解説
ここまでの概論を踏まえ、いよいよ「共通価値観マネジメント」の方法論を解説していきます。
このメソッドは大きく4つのステップを経て、組織に共通価値観を根付かせ、事業成長とエンゲージメント向上を両立させる強い組織をつくることを目的としています。

【ステップ1:共通価値観を定義する】
形骸化しているか根付いているかは別にして、企業理念やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)と呼ばれるものがある組織は多いでしょう。ここでは、特に行動指針(バリュー)を組織の目的やありたい姿に合ったものに定義します。
まずは、行動指針(バリュー)を重視する意義をお話します。
理念/パーパス/ミッション/ビジョン等は、基本的に現在より未来を語ったものですが、行動指針は時間軸を現在においています。前述したように、経営・人事と事業部間で時間軸が異なってしまうとき、合言葉になるのはこの行動指針です。今すぐに行動できる、今変えられる行動指針をきちんと定義することが、時間軸を揃えていく上でのポイントになります。
また、行動指針を明確化する上で押さえたいポイントは、なるべく動詞表現にするということです。
例えば、「多様性」という行動指針があったとしましょう。これを動詞表現に変えると「多様な価値観を認める」といった表現になります。こうすることで、より具体的に行動のイメージができる指針になります。

【ステップ2:行動指針に紐づいた「具体的行動」を組織で合意する】
ステップ1で定義した行動指針は、実際に起きている行動と比べると抽象的な表現である場合が多いでしょう。このステップにおいては、実際に起きている行動をピックアップすることで、より具体的なイメージを組織で合意していきます。
方法として、①過去の行動を振り返って既にある良い行動に気づく、②未来に生み出したい行動を議論する、という2点を行います。
現場に目を向けてみると、過去・現在で、既に自社らしい/自社の行動指針に沿った行動は起きているはずです。このような理想的な行動を見つけることが第一歩です。
また、未来の軸でも、経営計画や事業方針と中長期的に連動させて「(今はない行動だが)こういう行動を増やしていきたい」という行動を定義します。未来の時間軸については、現場の管理職よりは上級管理職を中心に議論し、現場の管理職に落とし込んでいくほうが現実的でしょう。

上記に時間軸に掛け合わせて、行動レベル軸でも振り返ります。
弊社ではMVV浸透のためのワークショップ・研修を実施しておりますが、その際に皆さまに「行動指針に沿った行動として、どんな行動がありますか?」と問いかけると、多くの方が「新しいものを生み出す行動」「イノベーションを起こす行動」など、かなりレベルの高い行動を想像されます。
一方、そのような素晴らしい行動は、一朝一夕では生み出せないはずです。その土台にあるのは、日常的に生まれている「保つ行動」や、「よりよくする行動」です。こうした行動を当たり前として見過ごさずに拾い上げ、可視化し、蓄積していくことが「新しいものを生み出す行動」につながります。
上記の行動レベルについては、こちらの記事で詳細に解説していますので、ぜひご参照ください。
このステップで「行動指針に紐づいた行動とはどのような行動なのか」と考えても、普段の業務上で使う思考回路とは違うため、思考停止してしまうことがあるかもしれません。これをなるべく防ぐためには、問いかけの工夫が有効です。
例えば「あなたのチームの自慢の社員を紹介してください」や「この人は自社っぽいな、と思う人を挙げてください」と投げかけると、よりイメージしやすく、具体的な行動をイメージすることができます。「現状から気付く・見出す」という行為そのものが非常に重要です。推奨される行動を組織内で対話することで、「新しいものを産み出さなければいけない」という心理的負担から解放されることと同時に、組織全体の効力感も高まります。先にもお伝えした通り、行動は常に「現在」です。
同時に、「組織内でやめたい非推奨行動」も合意することも場合によってはおすすめしています。近年では「インシビリティ行動」と定義されることも多い行動です。
具体的には、他人を軽視する言動や態度、意図的に無視する、非協力的な態度をとる、感謝や挨拶を欠くといった行動が含まれます。これらの行動は、明確な攻撃意図を持つものではなく、むしろ微妙な形で表れることが多いです。
共通価値観に沿わない行動を適切に指摘することは、組織内の安全な環境設計にも役立ちます。個人の選択の自由と、集団の目的達成における一貫性のバランスを重視するとよいでしょう。
【ステップ3:行動結果による成果が生まれる】
定義ができたら、実際に行動にうつされたものに意味づけをしていくステップに移ります。
ここでは、組織ごととして、良い行動を見つける・良い行動を称えることの習慣化を目指します。 管理職からだけではなく、メンバー同士が見つけ合う・称え合うことができる施策を運用できるとベストでしょう。
効果的な施策の例として、「行動表彰」が挙げられます。
一般的な表彰は「目標達成」など成果に焦点が当てられがちですが、行動表彰はプロセスに焦点を当てた表彰制度であり、行動に対して表彰を行います。実際に起こった良い行動を拾い上げ、ノミネート・選出し、全社的に共有する。そして、なぜ表彰されたのかをマネジメントラインから意味づけ(解説)する、という内容です。

成果表彰だけだと「成果を出す人だけが偉い」という雰囲気になり、行動指針に沿った行動を行うことを大切にする文化との整合性がとりにくくなります。
行動表彰は、①定量的な成果以外の貢献・活躍を表出して組織効力感を高めることができる点、②具体性の高い行動を取り上げることで共通価値観の認知や理解の促進につながる点で、とても効果的な施策です。
【ステップ4:共通価値観が根付く】
共通価値観が組織にインストールされ、従業員の行動が変わり、事業成果にもつながるようになってくると、「こういう行動をとるべきなんだな」ということが分かり、組織の当たり前の基準が上がります。
このフェーズがある程度成熟して、事業方針が変わるタイミングがあれば、またステップ1に戻って改めて自分たちがとるべき行動指針を議論します。このサイクルが回ると、組織のカルチャーは確実に変革し、市場の変化や不確定さに強い組織になっていくはずです。
ただ褒めるだけではむしろ逆効果?
ここまで「称える」ことの重要性をお話してきましたが、様々な調査から、ただ褒めるだけでは逆効果であるということが分かっています。
例えば、具体的なフィードバックでない場合。また、プロセスを無視したフィードバックである場合。その場合は、逆に誠実さを欠くと感じられ、内的動機やエンゲージメントを低下させるリスクがあります。そのため、抽象的な言葉で称えるのではなく、「あなたのこの行動が、こういう行動指針に紐づいていて良かった」などのように具体的なフィードバックをするほうが有益です。
「ただ褒め合う」ではなく「良いフィードバックをする」と捉えて、ぜひこのようなコミュニケーションを実践してみてください。
おわりに
今回は、経営・人事と管理職の壁を構造的に解説し、さらに管理職の負担の正体を考察した上で、管理職の負担を軽くしつつカルチャー変革を推進するマネジメント方法を紹介しました。
一方で、自社内の経験値や推進力では実行が難しい場合も多いと考えています。そうした皆さまへ向けて、数百社のカルチャー変革をご支援してきた経験から、メソッド・事例をX(旧Twitter)で定期的に発信しています。ご興味をお持ちいただけた方は、ぜひ覗いてみてください(松島稔・Xはこちら)。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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