【オルビス】経営の大転換において、人事は組織文化変革にどう立ち向かうのか
2024.12.03
2018年から「第2期創業」としてリブランディングを進めてきたオルビスは、経営・マーケティングの構造改革と同時に組織・風土変革改革も急速に進めてきた。「未来志向」「オープンマインド」を組織文化のキーワードに掲げ、旧来型の保守的な組織文化を刷新した。同社では、大胆な組織変革時に起きる課題をどのように乗り越えたのか。その道のりを主導したHR統括部部長の岡田悠希氏に聞いた。

岡田悠希 氏
オルビス株式会社 HR統括部部長
ポーラに入社し、トータルビューティ事業本部で九州を中心とした店舗マネジメントを経験。店長のリーダーシップやマネジメントが売上の差につながることに気づき、人材マネジメントに興味を持つ。自らHRを希望し2018年にオルビスへ異動。同社の第二期創業のタイミングからメンバーとして組織変革に携わり、現在はHR統括を務める。
構造改革のために、チャレンジできる組織文化が必要だった
――岡田さんは、まさにリブランディングが始まる2018年にHRに参画されたのですね。当時を振り返って、会社の第二期創業におけるHRのミッションをどのように捉えていましたか。
2018年に小林が代表取締役社長に就任したタイミングで、就任のあいさつとともにオルビスの新しいビジョンが語られました。30分ほどのプレゼンの中で、リブランディングの方針とそれを実現していくためのマイルストーンが発表されたんです。それを聞いて「めちゃくちゃ面白そうだな」と。これまでのオルビスから想像できないほど、大きく会社が変革していくのだと感じました。
そのチャレンジを実現するために、「組織文化を『セクショナリズム』『シニシズム』から『未来志向』で『オープンマインド』なものへ変えていきたい」という話が代表からありました。新たな挑戦をためらってしまう空気がある現状の組織文化から、チャレンジする人を応援する文化を作って行きたい、と。
HRのミッションはまさにこの変革を担うこと。組織の文化をアップデートしていくことなのだと捉えました。

――貴社が目指す新たなビジョンの実現には、そういったチャレンジに前向きな文化への転換が不可欠だったわけですね。
そうですね。オルビスが急成長した2000年代前半頃は、競合他社ができていなかったデータドリブンなマーケティングで優位性を築いていました。当社はカタログからスタートしてダイレクトマーケティングのビジネスモデルを中心にしていたので、お客様の購買データを基に、どのタイミングでどのようなキャンペーンを打てば購買につながるか、一定の成功パターンを確立していたのです。このパターンに従って確実に仕事をするためには、部署ごとに業務をきっちり分担した縦割りの組織構造が効率的です。
しかし、他社も当然のようにデータマーケティングを実施するようになると、当社の優位性は失われていきました。商業施設の魅力的な場所にも出店させてもらえず、新しいお客様からは選ばれにくいブランドになっていたんです。
この状況は、旧来の成功パターンに従って「決まったことを大量にスピーディにやり続ける」だけでは打破できません。正解が分からない中で仮説を立て、トライして検証していくような取り組みが必要だと判断しました。
そのためには組織文化から変えなければいけない。既存の方法から逸脱しないことが求められる文化から、「未来志向」「オープンマインド」にアップデートしていくことは、これからの事業戦略を見据えれば当然必要なことだと腹落ちしましたね。

――「未来志向」で「オープンマインド」な風土を醸成するために、HR部門はまずどんなことから着手されましたか?
大きく二つありました。一つは、HR部門自体のマインドセットの転換です。従来の人事には「人の管理」が求められていましたが、「事業変革に必要な組織文化を作っていく」というミッションへ変わりました。そのため、新しいメンバーにも入ってきてもらいながら、まずはHR部門の組織文化を刷新していったのです。
もう一つは、どうすれば目指す組織文化を実現できるかを考えて、4つの方針として社内に提示しました。4つの方針とは、「行動指針の策定と浸透」「採用の改革」「人材開発の方針変更」「人事評価制度の改革」です。スローガンを掲げるだけでは組織変革はできないので、この方針の作成が重要でした。
――それぞれの内容を詳しく伺えますか。
組織文化は、社員一人一人の言動や振る舞いの積層です。現状のセクショナリズム・シニシズム的な行動をやめて、「未来志向」「オープンマインド」に繋がる行動をしましょう、と。それが具体的にどんな振る舞いなのか定義し、7項目の行動指針を提示しました。
二つ目の採用の改革で、採用基準の真ん中に行動指針の要件を設定し、その価値観においてお互いにマッチする人材を積極的に採用し、同時に三つ目の人材開発では、行動指針を実践するためのマインドや振る舞いを身に着けられるよう、支援できるカリキュラムとの接続をし、文化形成を加速させます。また、年功序列型だった評価制度を刷新し、未来志向・オープンマインドを体現し、成果を出した人を高く評価する仕組みにしました。
行動指針の浸透を目指し、一貫した人事施策
――行動指針はどのように議論して策定されたのですか。
経営陣とワークショップを行い、定義を議論しました。経営陣の中でも「未来志向でオープンマインドな文化を目指す」という点についてコンセンサスはとれていたものの、そのための適切な行動までは共有できていませんでした。
そこで、HRサイドから20個の行動の項目の案と、5つの行動レベル(程度)を提示して、経営陣の一人一人にオープンマインドで未来志向につながると思う5つを選んでもらいました。選ばれた行動のうち、どれを優先するべきか、融合するのかなどを議論して、最終的に7つの行動指針にまとまりました。
――行動指針を浸透させるために、どういった取り組みを実践したのでしょうか。
特徴的な活動としては、3か月に一回「STYLE QUEST(スタイルクエスト)」という、メンバーが上司のふるまいを匿名でフィードバックする機会を設けています。行動指針の項目一つひとつに対して、上司がどの程度発揮できていると思うか5段階で評価し、その理由もコメントします。
マネージャーは、高く評価された項目を強みとして認識し、自信につながることで、その項目の行動発揮は今後も再現性高く発揮されることになるでしょう。評価がよくない項目は自己認知して、改善につなげられます。ま文化形成を減速させる行動の抑制にしたい考えです。
この時にメンバー自身も、評価をつけるにあたって行動指針やビジョンの定義を見返すので、概念をその都度インストールできます。特に行動指針を体現していた優秀なメンバーは、全社総会で表彰される機会も設け、文化形成の楔(くさび)としました。
すべての人事施策は、一貫して未来志向とオープンマインドにつなげていく。そうすることで「この7つの行動項目を理解してもらいたい」というメッセージを社員に発信し続けました。

――こうした組織変革の実践の中で、HRとして特に工夫したポイントはどこでしょうか。
一つは、行動指針のアンチパターンを示したことです。人の考え方は、簡単に変わるものではありません。旧来の文化を断ち切るためにも、強いメッセージを発信する必要がありました。そのために「こういう行動をしましょう」という行動指針だけでなく、「こういう行動は止めましょう」とアンチパターンを提示することは効果的だったと考えています。
また、HRがマネージャーと向き合い、マネジメントをアップデートすることも重要でしたね。当時30人ほどいたマネージャーひとり一人と1on1を実施しました。そこで、STYLE QUESTの結果を含めて振り返りながら、どうすればマネージャーとして新しいビジョンを体現できるか話し合い、チャレンジができるよう働きかけました。
最初は「時間を取られる」と不満に感じていたマネージャーも、回数を重ねるうちに徐々に価値を感じてくれるようになっていきました。些細なことも含め、チームビルディング、メンバーとの関係性で悩んでいるマネージャーが多いことにも、気づくことができました。HRとしては、「今悩んでいるのなら、一緒に悩んで、一緒に解決します」というコミュニケーションを心がけていました。時に現場で孤立しがちなマネージャーの味方となり、頼ってもらうことが増えたと思います。

既存の社員を否定せず、自信を醸成するためには
――この組織文化の変革において、岡田様が失敗から学んだご経験はありますか?
「組織文化を変えていく」という方針を発信した後の次の一手として、その文化形成を加速させるために、採用する人材の要件を刷新する方針を全社員に説明しました。その時、最悪の失敗をしてしまって。「新卒採用の基準を180度変えます」と強いメッセージを伝えたところ、一部の社員には、新卒プロパーから働いてきた既存の社員たちを否定するメッセージに捉えられてしまったのです。本当に社員の視点が足りていなかったと猛省しました。
実は、あえて強いメッセージを発することで、くすぶっていた若手・中堅社員に火がついて新しいチャレンジに向かってくれることを期待していたのです。ところが、むしろ「自分のスキル・素質で大丈夫なのだろうか、自分は必要とされるのだろうか」と社員の不安をあおる形になってしまった。
このことに気づいてからは、コミュニケーションのすれ違いが起きているメンバー一人一人に「ごめんなさい」と伝え、対話を通して解消していきました。こちらが発信したい正論で組織が動くことはなく、社員が共感してくれて初めて動いていくものだと実感した失敗でした。それ以来、メッセージの発信の仕方やコミュニケーションの取り方にはより注意を払っています。
――たしかに、組織が求める人材の価値観が大きく変わるとなれば、当然既存の社員は不安になりますよね。安心して新しいビジョンに向かえるようになるきっかけはあったのでしょうか?
メンバー同士がお互いの強みやスキルを共有し合える取り組みの一つとして、社内アカデミー「ORBIS LAB」を定期的に実施しました。何かしらの強みを持った社員に登壇してもらい、その知見をシェアしてもらう活動です。カンファレンスの登壇のような高度な内容である必要はなく、例えば、新卒の社員がZ世代の価値観をシェアしてくれる回なども盛り上がりました。自分の強みを共有して、参加者から「勉強になりました」と言われることで自信につながるのです。
想いをのせた人事を目指して
――現在は「未来志向」「オープンマインド」に加えて、「お客様視点」を追加した新しい行動指針を掲げたと伺いました。定着してきた文化を更新する意図や重要性について教えてください。
前提として、組織戦略は事業戦略に基づきます。オルビスの中期経営計画を考慮したときに、「お客様視点」が必要不可欠だったということがあります。当社は、「スマートエイジング」という体験価値を届けたいという考え方を持っています。スマートエイジングとは「自分らしく、ここちよく年齢を重ねる」という意味。こうした体験価値を届けるためには、プロダクトを通じて肌悩みにアプローチするだけでなく、お客様のライフスタイルや生活における悩みにまで寄り添っていきたいと考えています。
また、組織文化を醸成するサイクルを回し続けるためにも、行動指針の更新は必要でした。組織文化は、行動の積層で成り立ちます。組織文化のもとで社員一人一人が力を発揮し、その行動が積み重なって、それがまた文化を形成するという循環があるのです。

そのため、2018年に作った行動指針に留まるのではなく、進化させることで、このサイクルをアップデートするに至りました。
――岡田様がHRトップとして、大切にされていることを教えてください。
「ナラティブを出すこと」を大事にしていて、HRのメンバーにもよく話しています。「ナラティブを出す」とは、自分の中にある思いやストーリーを相手に伝えるという意味です。
人事のミッションは、事業を成長させるうえで必要な「ヒト」「モノ」「カネ」のうち「ヒト」のリソースを最大化すること。3要素のうち唯一、意思と感情があるのが「ヒト」という要素です。人事のミッションを達成するためには、人としての感情をこちらから出すことで、相手からも感情が返ってくるという、本質的なコミュニケーションが大事なのです。
例えば、HRから全社に対して「いつまでに目標を設定して提出してください」と案内することがあります。この時、定型的に用件だけを送るのではなく、「目標設定は、『上司からの期待を確認できる機会』であり、『自分の挑戦したいことを上司に伝えられる半年に1度の大事なコミュニケーション機会』だと考えています」といったHRの担当者なりのメッセージを込めて案内すれば、受け取る社員もポジティブになれると思うんですね。
そういった「人対人」の想いを載せたコミュニケーションは、デジタルでは効率化できない部分なので、今後もより大切にしていきたいですね。
また、現在オルビスのHRが力を入れているのがマネージャーの育成です。世間一般では管理職が「罰ゲーム」と言われていて、なりたがる人が少ないじゃないですか。そこでオルビスではピープルマネジメントのサポート・フォローはHRが担い、現場マネージャーには事業のマネジメントに集中してもらうという体制を作っています。というのも、マネージャーとチームメンバーの関係性が良好でないと、事業におけるチャレンジもできません。なので、マネージャー候補者が昇格する前にチームの関係性を良くするために、HRのメンバーがファシリテートするミーティングを行っているのです。
ミーティングでは、チームメンバーが、マネージャー候補のメンバーの良いふるまいと課題と感じる点を挙げて、匿名でマネージャー候補に伝えます。マネージャー候補はメンバーからのリアルな声を聞くことで自分と向き合い、良い点は自信に変え、課題点は内省し、行動変容していくことができます。
この時、HRは仕組みや場を提案するだけでなく、現場に介入して伴走することを大事にしています。今の時代、AIに聞いたら正解に近いやり方は返ってくるかもしれませんが、実行しきれるかどうかが競争優位に直結し、企業経営の鍵になる。社員1人1人の力を最大化していくために、実行力を持ったHRを目指していきたいですね。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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