オープンな人事で切り拓く新時代 。NTTドコモの人的資本経営
2024.12.02
目次
通信業界の変革期を迎え、事業の多角化と新たな価値創造に挑む株式会社NTTドコモ(以下、NTTドコモ)。同社が掲げる「人的資本経営」の核心とは何か。組織が大きな変革期を迎える中、NTTドコモの人材戦略はどのように変化しているのか。NTTドコモで総務人事部長を務める本昌子氏に、同社の人材戦略と人事トップとしての考え方について話を伺った。

本 昌子 氏
株式会社NTTドコモ 執行役員 総務人事部長
1990年、日本電信電話公社に入社。1992年に、設立したばかりのNTTドコモへ転籍。研究開発部門でアプリケーション開発に携わった後、2002年より法人事業部門で開発に携わる。2014年に人事部ダイバーシティ推進室長に就任し、女性活躍推進に尽力。その後多摩支店長や北海道支社長執行役員を歴任し、現職の総務人事部長に就任。
人材の価値を上げることがお客様への価値を生む
——2021年に新ドコモグループが誕生し、中期戦略で法人事業とスマートライフ事業の拡大を掲げています。ドコモグループを取り巻く事業環境の変化をどのように捉えていますか。
いまやスマートフォンは誰もが持つようになり、通信事業自体は飽和状態となっています。そのため、NTTドコモがさらなる成長をしていくためには事業の多角化が必要です。同時にお客様のニーズも多様化しており、それに応じた事業変革をしていかなければなりません。
競合他社は従来の通信業界だけではなくなってきており、お客様にさらなる付加価値を提供していくためにも迅速な意志決定や機動的な事業運営、新たなサービスの創出につなげるDXが不可欠です。
こうした背景から、2021年にグループ再編を行いました。NTTドコモが通信事業とスマートライフ事業を、NTTコミュニケーションズが法人事業を、NTTコムウェアが法人事業の開発部隊を担い、事業責任の明確化を図りました。この再編にともない、人材の最適配置やグループ全体でのシナジー創出が新たな課題となっています。
このようなさまざまな経営課題に対してNTTドコモとしてどのように対応していくか。結局のところ行き着くのは、やはり「人」です。社員一人ひとりの力を最大限に引き出すことが新しい価値創造につながっていきます。
人材の価値を上げることがお客様や世の中に対する価値を生むという流れをつくり、価値を提供した暁にはお客様からの信頼を得て事業が成長していくというサイクルをしっかりと回していく。こうした考えでNTTドコモでは人的資本経営を推進しています。

——人的資本経営推進にあたり、どのような人事戦略を描いているのでしょうか。
3本柱で強化を進めているのが「事業の挑戦」「個人の挑戦」「風土文化」です。
「事業の挑戦」の領域では、経営戦略と事業戦略を連動させ、動的な人材ポートフォリオの構築を進めています。それを見ながら重要なケイパビリティを強化し、適切な人材のシフトをグループ一体で機動的に行っています。
「個人の挑戦」の領域では、社員一人ひとりの成長を後押しするために何が必要かを考え、多様なプログラムを用意しています。動的な人材ポートフォリオを構築するためには「どういうスキルがどの部門で必要か」を考える必要があります。そこで、HRBPを創設し、各事業でどんなスキルが必要かを明確化し、人材育成につなげる取り組みを進めています。
「風土文化」の領域では、ウェルビーイングな環境をつくり、社員が活躍できる場を提供することに注力しています。

自律的なキャリア形成を促し、成長と活躍の機会を提供
——NTTドコモの人材育成への考え方について教えてください。
NTTドコモが大切にしているのは、「挑戦」「多様性」「エンゲージメント」です。
世の中に価値提供をしていくためには、今ある課題に対してどう向き合うかを自ら考え、挑戦していくことが重要です。そして、より良いものを生み出すためには、社員一人ひとりが持つ多様な視点やスキルを組み合わせて活かしていくことが欠かせません。
その土台となるのがエンゲージメントであり、社員に働きやすい環境を用意するのはもちろんのこと、成長と活躍の機会を提供していくことが不可欠だと考えています。
——挑戦する人材の育成では具体的にどんな取り組みを進めているのですか。
NTTドコモでは社員が自身のキャリアを主体的に選択し、新しい分野にチャレンジするさまざまな機会を提供しています。
しかし、制度を用意したらすぐに挑戦が活発化するわけではありません。まずは社員が自分で目標を立て、スキルを磨いて、挑戦するというステップが必要です。
そこで、NTTドコモでは最初の目標設定をサポートするため、社内に150名ほどいるキャリアコンサルタントの中からサポートメンバとして立候補してくれた54名と面談できる「キャリアサポートメンバーシップ」といった仕組みを提供したり、役職問わずにメンターになってくれる人と気軽に1on1をできる「ふらっと1on1」という仕組みをつくりました。目標が定まれば次に踏み出せる状態になり、スキルアップや挑戦のステップへと移ることができます。

この挑戦のステップにあたるのが、2023年から一般社員向けに導入した新しい人事制度「NTT Group Job Board」です。社員の手挙げにより希望する仕事に挑戦できるという仕組みで、制度導入後、自ら手を挙げて異動する社員の数が増加しており、組織の活性化につながっています。
異動の一歩前のステップとして社内ダブルワーク制度も導入しました。勤務時間の20%を所属部署以外の仕事にあてることができるという制度です。社員が自身の専門性を活かしながら新しい分野の経験を積み、キャリアの幅を広げることができます。
ポスト数、応募数ともに年々増えており、この制度を利用してダブルワークをしながら次のキャリアステップを探る社員が増えています。事業部側としてもダブルワークを経て異動してきた人材は即戦力になるというメリットがあり、好循環を生み出しています。

また、社内起業を支援する「docomo STARTUP」というプログラムも実施しています。社員が自身のアイデアをビジネスプランとして提案し、社外のベンチャーキャピタルからの出資を受けたうえで、社内の審査も通過すると、スタートアップと同じように自ら立ち上げた会社で事業を行うことができるというプログラムです。2024年は5社がスピンアウトしました。
さらに、社員が1年程度、他業界の企業で働く機会を得ることができる「出稽古」制度も設けています。異なる企業文化や業務プロセスを経験することで新たな視点や知見を獲得し、それまで見えていなかった課題を把握することができます。今後は出稽古先の企業を拡大していく予定です。
——専門人材の採用、育成においてはどのような取り組みを行っていますか。
事業の多角化を推進する中で専門人材が必要になってきますが、既存の通信事業からは新たな領域の専門人材は生まれにくいという課題があります。外部から採用する必要があるため、現在はキャリア採用に力を入れており、2023年度は41%はキャリア採用となっています。
※対象範囲:ドコモ、コミュニケーションズ、コムウェア、機能分担子会社11社
新卒採用では、学生にインターンシップとして希望する部門で経験を積んでもらってから入社してもらう「ポスト確約型WILLコース」を導入しました。NTT Group Job Boardと同様に、学生としてはやりたい仕事ができる、事業部側としては新卒でありながら即戦力の人材を採用できるメリットがあります。
また、一般的な新入社員研修のあとに2年間、一人前になるために自分の業務の課題を見つけて改革していくという内容のプログラムを組み込んだ若手研修を実施しています。2023年度からはイノベーションコースを設け、スタートアップをつくるならどんな事業に挑戦したいかを考える研修を行っています。2023年度は約200名が参加。「docomo STARTUP」で立ち上がった5社のうち1社は、このイノベーションコースに参加した新入社員が立ち上げた会社です。
加えて、高度な専門人材が活躍できる環境を整えるため、2023年度からスペシャリストグレード制度を導入しました。講演活動や論文発表を行うなど特に市場価値の高い専門性を有する社員をスペシャリストとして認定し、適正な処遇のもと、特化した仕事に注力してもらう環境づくりを行っています。
——多様性やエンゲージメントの部分はどのような取り組みを行っていますか。
当社ではエンゲージメントサーベイで6つのEX「Mission」「Growth」「Harmony」「Workstyle」「Lifestyle」「Reward」を見ています。
図の上半分は前述した「事業の挑戦」「個人の挑戦」と重なりますが、「Mission」では会社として事業戦略をしっかりと示し、「Growth」で社員は自分が何をやりたいのかを考え発信する。それを掛け合わせることで個のスキルアップや事業の成長につながっていくという考えです。また、「Harmony」で示しているように、社員が目標を実現するためにはコミュニティやネットワークづくりも大切です。会社としてもそうした環境づくりに取り組んでいきたいと考えています。
図の下半分は人的資本の考え方の「風土文化」と近いですが、「Workstyle」で社員一人ひとりがスキルを発揮できるようにするためにも柔軟に働ける環境を用意することに加えて、「Lifestyle」で示しているように言いたいことを言える、困ったときにいつでも相談できるという心理的安全性を担保することが重要だと考えています。
そこにも関連して特に当社で力を入れているのが、「Reward」で示している称賛の文化の醸成です。互いに「すばらしかったね」と言い合い、成果を可視化していくことで、一人ひとりが次にやるべきことが見えてくるはずですし、エンゲージメントの向上にもつながっていくと思います。

社員の自主性を後押しするカルチャーが浸透
——本さんご自身はNTTドコモの立ち上げ期から在籍していらっしゃいますが、当時と今とで社内のカルチャーはどのように変わってきましたか。
今はドコモグループ全体で約5万人の社員がいますが、NTTドコモ立ち上げ当初は3000人に満たない小規模な組織でした。
当時は移動体通信事業自体がこれから何をしていくのかを模索しているような状況で、社内にはベンチャーのような雰囲気がありました。何をやるにも前例がない中、上司からは「やってみないとわからない。失敗したら自分が責任を取るから恐れずにやってみろ」とよく言われましたね。この「自ら考え行動する」という文化は今のNTTドコモにも受け継がれていると思います。
iモードの普及後は通信事業が急拡大し、組織も大きくなりました。業務の細部化が進み、オペレーションの効率も求められる中、どうしても立ち上げ当初のようなベンチャーマインドは薄まっているところもあります。しかし一方で、新規事業の領域においては、NTTドコモ立ち上げ当初のベンチャーマインドあふれる部署がまだまだ存在するように感じます。
——5万人の社員にカルチャーを浸透させるのは難しいと思います。どのような工夫をしているのでしょうか。
インフラ事業者としてつなぐ使命感を持つ「守りの社員」と、新規事業に挑戦する「攻めの社員」がバランス良く共存するのが今のNTTドコモです。それぞれのマインドが混ざり合うことで新しい価値の創出にもつながっていくと考えています。
その根底にあるのは、社員の自主性を大切にするというカルチャーです。
他部署ではどういう仕事をしているのか興味を持つ社員が増えていますし、社会課題について熱い想いを持ち、事業化を進める社員もいます。また、社内のSlackで同じ興味を持つ人が集まるコミュニティが数多く立ち上がっており、そこから何か新しいものが生まれそうな期待もあります。
主体的に取り組む社員を会社として後押しできるように、今後もさまざまな場や機会を提供していく考えです。
オープンな人事を実現し、社員一人ひとりの価値を高めていく
——本さんは研究開発やダイバーシティ推進室長、支店長や支社長など多様なキャリアを経て、人事のトップに就任されています。人事トップの役割をどのように考えていますか。
総務人事部長に就任して1年ほどですが、現場にいたときから多様性を重視しなければならないという思いが強くありました。現場でいろいろな社員が力を発揮するためには何が必要かを考えてきた経験が、総務人事部長として新しい価値創出やエンゲージメント向上につなげていく人事戦略を考えることにも活きています。
これまでの人事は「人事部が社員を動かす」という考え方だったように思います。しかし、もはやそういう時代ではありません。「社員が自分のやりたい仕事を自分でつかむ」という考え方が主流になり、人事のオペレーションもレガシーから脱却し、大きく変えていかなければなりません。
社会の価値観の変化やテクノロジーの発展を受けて、ようやく今それが実現できるようになりました。社員のエンゲージメントやスキルをデータで可視化し、人事だけでなく経営層も社員も同じデータを見て、一緒に考えていくというのが健全な人事であり、オープンな人事を実現していくことが私の目指すところです。今はそれに向けて一歩ずつ進んでいる段階です。
人事としての重要な役割は、事業の成長をしっかりと見ながら、一人ひとりの社員が持っている力をいかに引き出すかだと思います。
本人が目指す方向性とスキルが一致し、最大限に力が発揮されると、圧倒的な成果を生み出すことがあります。社員一人ひとりの価値を高めていくことの本質を追求し、それを実現するための施策を考え、実行していく。そこから、社員の成長と会社の成長が一体となるような好循環を生み出していきたいと考えています。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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