強いカルチャーが競争力を高める? 「ものづくり白書2024」から読み解く、製造業の人材課題

「デジタル化対応」「グローバルサプライチェーンの複雑化」「人材不足」、製造業の各社はこの大きな3つの課題に直面しています。日本企業において特に喫緊の課題となっているのが、人材不足です。少子高齢化により労働人口の減少が進む中、この課題を避けて通ることはできません。

本記事ではUnipos組織コンサルタントの鍋島が、経済産業省より発行された「2024年度版ものづくり白書」の内容を解説しながら、製造業における人材課題と、その解決のためのアプローチをご紹介していきます。

鍋島 大智

前職では人材開発のプロフェッショナルファームにて、経営幹部育成等のプログラム設計/運営を多数経験し、日系大手企業の人材開発を支援。現在はUnipos株式会社にて大手企業専任チームに所属、主に大手製造業・金融・物流の事業変革期における組織風土変革を支援

 

 

人材課題への向き合い方で、生産ロスの1/3へアプローチできる

人材不足などを背景に、製造業では、「人材課題」の解消が喫緊の課題となっています組織コンサルタントとして日々お客様に向き合う中、よくお伺いする内容から「人材課題」を紐解いてみると、大きく4点が挙げられます。

1点目は「人材不足とスキルギャップ」。労働人口の低下による人材不足に加え、デジタル化や技術革新に対応できる高度なスキルを持った人材が不足してきています。

2点目は「人材育成の遅れ」従業員のスキルアップやリスキリングなど、能力開発に課題を感じる企業が非常に増えています

3点目は「技術継承」。熟練技術者のノウハウや経験を次世代に引き継いでいくための仕組みづくりが求められています。

そして4点目は「部門間の連携不足」。営業・開発・製造など各部門のコミュニケーション不足により生産性が上がらないという問題です。ここからは、「ものづくり白書2024」の解説とともに、これらの人材課題を解決するためのアプローチをご紹介していきます。

製造業においては、生産活動の疎外要因が類型化されています。それが、下記の「16種の生産ロス」です。このうち約3分の1が人材関連で発生しているのはご存知でしょうか?

生産設備や原価に関しては、日々改善されている企業が多いと思います。一方、まだ十分に解決策が見出されておらず、最も伸びしろがあるのが、人材関連のロスです。人材課題にどう向き合うかで、生産ロスの3分の1にアプローチが可能であるということを、まずご認識ください。

では、その人材課題解決をどのように解決していくべきか。3つのポイントがあります。それが、組織の共通価値観の浸透」、「コミュニケーションの活性化」、「自立人材の育成」です。これらに取り組むことにより、結果として業務効率化・コスト削減、生産性向上、マネージメント負荷の軽減が実現できるのです。

CHROとCFOの連携による、日本的経営からの脱却

次に、「ものづくり白書2024」の内容のサマリーを5つのカテゴリーに分けてご紹介します。

まず1つ目のカテゴリーは「経営の潮流」に関するレポートです。

上記の図の通り、「ものづくり白書2024」では日本的経営とワールドクラスの経営の特徴の比較がなされています。日本的経営の大きな課題として挙げられているのは「長期的な視点や競争力」と「経営の意思決定の仕組み化を阻害する属人性や根回しの問題」の2点です。

前者は、中期経営計画という固定的な時間軸での思考に囚われてしまい、抜本的な改革に踏み出しにくいこと。後者は、いわゆる「阿吽の呼吸」や組織内での属人的な根回しといった日本特有の企業文化が成長を妨げているということです。

そして、もう一点挙げられている潮流が、CxO(C-suiteモデル)のパラダイムシフトです。日本企業ではCxOが執行役員を兼任するケースが少なくないですが、グローバルでは、2014年以降からそれぞれの領域のCxOが各役職を専任するという傾向が強くなっています。

特に着目したいのが、人事における責任者であるCHROと財務責任者であるCFOの協働が進むと、経営効率と業務生産性が向上するという調査報告です。CHROが財務と連動することで、経営マターの人材としての重要度が高まり、経営課題への関与比率が上がることで、人事関連の職責も果たしやすくなったというデータがあるのです。

これは、経営と人事の連携が求められる人的資本経営導入における潮流とも一致します。CHROの役割・機能を見直すことで、人材だけでなく、経営課題へのアプローチが可能であるということが、これらのデータから理解できるのではないかと思います。

 

グローバル市場の中で、日本が突出している「製品複雑性」とは?

続いて紹介するのは、カテゴリー2「マクロ環境」についてのデータです。各国の競争力ランキングにおいて、日本は先進国の中で低迷を続けているというのが現状です。

中でも注目したいのは生産性・効率性」と共に、「態度・価値観」のポイントが非常に低いこと。「態度・価値観」の項目は、言い換えるならば組織内のカルチャーのことであり、その評価の低さが企業の競争力の低迷につながっているのです。

一方で、日本は「世界の製品複雑性ランキング」において1995年から現在まで1位を守り続けているという実績があります。

例えば、Tシャツのように比較的どこの国でも生産可能な商材は競争優位性を確保するのが難しい。しかし、半導体のように複雑な製品を組み合わせる分野において日本の競争優位性は高い。つまり、複雑な行動を理解して改善を繰り返して秀逸なプロダクトを作る能力においては、日本は未だに世界でもトップを維持し続けているのです。

この複雑性のある製品の生産能力を次世代に引き継いでいくために重要なのが、人材への投資と組織カルチャーの整備です。高い生産能力を維持するために組織内での価値観の共有を行い、技術を継承していくことが求められているのです。

ベテラン人材が保有している技術とは、熟達した技能のような目に見えるものだけではありません。「お客様への責任感」や「自社の製品へのプライド」「自分の仕事のスタンス」といった定性的な側面が多分に含まれています。

状況や環境に合わせて進化し続けるためには、熟達した技能と同時に、定性的なノウハウの安定転移が行われなければなりません。両者が組織内で共有されていくことにより、ベテラン人材の技術やノウハウを、次世代へと引き継ぐことが可能になります。それができるための土台として必要なのが、カルチャー投資による組織内の価値観共有です。

データ活用が「技術継承」のカギを握る

カテゴリー3は「人材の重要性」です。ものづくり白書2024では有形固定資産と人材、それぞれの投資額が示されています。

両者を比較すると、人材関連投資が17.2%、有形固定資産が9.2%。しかし、約2倍の投資がなされているにも関わらず、84.8%の企業が「能力開発や人材育成に関する課題がある」と感じているのです。

また、その主な要因としては「指導者不足」「人材育成をする時間がない」という2点が挙げられています。

では、両者をどのように解決していくのか。この2つの課題に対しては、データを活用して組織文化を醸成することが有効です。

そのポイントとなるのが、カテゴリー4の「DX時代における組織連携」についてです。DX推進においてデジタル化・アナリティクス(分析)・オペレーションの連鎖が必要であることは、ご承知の通りかと思います。それらに加えて、組織内のカルチャー醸成、風土づくりがDXの推進を後押しするのです

例えば、ある熟練した技術者の方にセンサーを付けて行動をトラックしたデータを収集し、そのデータを元に若手の方に切削加工をしてもらったところ、不良率が削減し、切削の速度も従来に比べて20%上昇したという事例がありました。

これは、現場で日々行われている行動や改善提案、可能性探索をデータ化し可視化することが、組織内のカルチャー・価値観が継承を後押ししたという一例です。

組織内のカルチャーは、3つのレベルに分けられます。まず、レベル1は日々のルーティーンのような組織の土台となるような行動。レベル2が改善のための行動。その先に生み出されるのが、レベル3である新しいもの・イノベーションを生み出す行動です。

多くの企業はレベル2、レベル3の行動に意識を向けがちですが、レベル1の土台となる行動を見過ごさずに拾い上げることができるかが、カルチャーづくりのポイントであるといえます。

個人個人が当たり前の行動基準を徹底することで、組織のカルチャーレベルが向上していく。カルチャー変革のためには、従業員の日々の行動が重要です。その積み重ねが、組織全体のエンゲージメント、心理的安全性の向上につながり、そして事業成果として実を結ぶのです。

人材課題の解決は競争力の強化に直結している

最後に、カテゴリー5「組織価値を向上させるための投資」についてのレポートをご紹介します。

設備投資に関するアンケートを見ると、主に業務効率化やコスト削減に対する比重が高い。「設備投資の効果を何によって実感しているか?」という設問では、作業環境や働き方の改善が最も多い回答となっています。

また、製造業においては各部門の連携が重要です。ソフトウェアの導入対象に関しては、部門ごとに特化したシステムではなく、全社一貫したシステムが最も導入比率が高いという結果が示されています。これは、各部門のデータ・業務を細分化せず、連携を実現するという意識の表れと言えるでしょう。

ご注目いただきたいのは、無形固定資産への投資を行っている企業のうち、当期取得額の対売上比率が高い企業ほど営業利益率が高いというデータです。上記のグラフが示す通り、上位10%の企業は、売上高へ営業利益率平均の中央値において、0.6%上回るという結果が得られています。

上記のデータを総合すると、ソフトウェア投資を含む適切な無形資産投資は、作業環境、働き方改善による人材課題の解決に加え、生産性の向上にも寄与するということです

以上がものづくり白書2024から読み解ける、製造業の人材課題とソリューションに関する考察です。さまざまなデータを元に多角的な視点から分析を行いました。私が特に強調したい点は、人材関連の課題へのアプローチは、働きやすさや組織カルチャーを改善するだけでなく、企業の競争力を高めるということです。

本記事でご紹介した内容をご理解いただいた上で、続く中編「現代におけるマネジメント」、後編「これからの組織づくり」についての記事をご覧いただければと思います。

 

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

この連載の記事一覧

UNITE powered by Uniposをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む