組織不正は悪意ではなく「正しさ」から起こる? メカニズムを解説
2024.12.06
人事・組織をテーマにした話題の書籍の著者にインタビューし、理解をさらに深めていく連載企画「ウワサの人事・組織本」。第8回は、『組織不正はいつも正しい ソーシャル・アバランチを防ぐには』(光文社)の著者、立命館大学経営学部准教授 中原翔氏。
本書では、組織不正が個人の悪意からではなく、組織の構造や風土、特に組織における「正しさ」に起因する身近な現象であることが解説されている。書籍を執筆した背景、組織不正が起こるメカニズムを改めて伺い、人事が押さえておくべきポイントについても聞いた。

中原 翔 氏
立命館大学経営学部准教授
立命館大学経営学部准教授。2016年、神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。同年より大阪産業大学経営学部専任講師を経て、2019年より同学部准教授。主な著書は『社会問題化する組織不祥事:構築主義と調査可能性の行方』(中央経済グループパブリッシング)、『経営管理論:講義草稿』(千倉書房)など。
長年「組織不正」がなくならないのはなぜ?
――中原さんは経営学が専門ですが、中でも特にどういった領域を中心に研究されてきたのですか?
専門は組織論です。組織論には大きく組織行動論とマクロ組織論の二つがあります。組織行動論はリーダーシップやモチベーションなどがキーワードで、組織を心理学的なアプローチで分析する学問です。
一方、私の研究の中心はどちらかというとマクロ組織論で、組織を社会学的な見地から分析しています。
――書籍『組織不正はいつも正しい』はどういった内容でしょうか。
本書は、「組織不正がなぜなくならないのか」について考察した本です。企業にとって行わない方がよいのは明らかであるのに、組織不正は後を絶ちません。それは組織不正が「正しさ」に基づいて起きるからです。このことを、国内企業の不正事例を交えて解説しています。
例えば、海外の自動車メーカー、フォルクスワーゲンの排ガス不正は日本でも注目されました。その後、本書でも取り上げている通り日本の自動車メーカーの燃費不正も問題になりました。また、会計不正は国内でも長年なかなかなくならない問題です。
こうした問題が頻繁に話題に上るなかで、従来から唱えられてきた不正のメカニズムだけでは説明がつかないのでは、という疑問をずっと抱いていました。
――従来の「不正のメカニズム」とは、どのようなものですか?
「不正のトライアングル」という有名なモデルがあります。人が不正を行ってしまう理由を「機会」「動機」「正当化」という3つの要素で説明したものです。
しかし、世の中で問題になっている実際の組織不正は、この3つの要素を持った個人から起きる不正ばかりではありません。個人の意図的な不正はともかくとして、組織不正は構造的に起きていることが多いと思います。
そこで本書では、不正のトライアングルではない別のアプローチで組織不正を捉えています。それが、「組織不正は組織の『正しさ』に基づいて起こるのではないか」という観点です。

組織不正は「正しさ」に基づいて起こる
――そもそも「組織不正」とは何を指すのでしょうか。不祥事との違いも気になります。
端的に言えば、不正とは「法令違反」です。不祥事が消費者等に被害を与えた現象を指す一方で、不正の場合は、法令に違反した方法で製品を作ってしまったものの、最終的な製品には問題がないこともあります。不祥事は最終的な結果ですが、不正はプロセスにおける逸脱と言えるでしょう。
なので、組織不正は社内外の調査や内部告発、監査等で明らかになるケースが多いのです。
――さきほどおっしゃっていた「組織不正は組織の『正しさ』に基づいて起こる」とはどういうことでしょうか。
例えば、メーカーにおいて技術的に「正しい」とされているやり方があり、より良い製品づくりのためにその方法が追求されているとします。ある時までは法令との整合もとれていたものの、法令改正によって法令で定められたやり方から乖離してしまうことがあります。
この時に、本当は新しく法令に従った方法を浸透させなければならないのですが、その組織で一度構築された技術的な「正しさ」を変えることは難しい。
なぜなら、長年追求されてきた「技術的に正しいやり方」は、製品の製造において必ずしも不適切ではないからです。むしろその方が、法令より効率的で合理性が高いこともあります。
社内的に受け入れられている「正しい」やり方は、担当者から次の担当者に引き継がれ、疑問視されるタイミングがありません。生産部門が行っているから、販売部門もそのやり方でいいと信じてしまう。こうして組織全体に「正しさ」が波及していくのです。
これが組織の「正しさ」から不正が起こるメカニズムであり、本書で一番伝えたかったことです。つまり、どんな組織でも不正が起こりうる怖さがあるのです。

――組織における「正しさ」が、法令の正しさを超えてしまうのですね。使い勝手の悪い法令側に問題がある、とも言える気がしますが……。
そういう場合も少なからずあります。その場合には、企業が正直に申告して、法令との不整合を主張しても良いかもしれません。しかし、法令を定めている監督官庁に対して企業側が「こういう方法を使っています」とわざわざ言えば、同時に法令違反を明らかにすることにもなってしまう。企業としては、ジレンマを抱えて言いづらい場合が多いのではないでしょうか。
「正しさ」によって起こる組織不正の問題、乗り越えるには
――どういった企業がこうした組織の「正しさ」の課題を乗り越えて、組織不正を回避できているのでしょうか。
法令意識が高く、法令の意味を理解して、それを遵守しようとする企業は不正を食い止める力があります。「法令に従わない品質は無意味だ」と考え、法令が一番に優先されている企業です。
そういった企業は、法務部門だけが高い意識を持っているのではありません。役員や品質部門をはじめ社内全体で「何のために法令を守るか」という、法令遵守の意識が浸透していることが特徴です。
先ほども言った通り、技術的な観点で見れば法令よりも「正しい」と思える方法があるかもしれません。その上でなぜ法令というものが存在し、守らなければいけないのか。社員全員が理解できるように浸透している企業は、組織不正が起こりにくいと思います。
――法令遵守の意識を高めるために、企業はどんなことができるでしょうか?
書籍にも書きましたが、企業の「倫理規範」を掲げることは一つの方法です。
ただしこの時、倫理的な取り組みに対して後ろ向きな抵抗勢力も出てくるものです。反対する人たちを押さえつけずに、その反発力を援用するとよいでしょう。例えば、その人たちが賛成できるような別の方法を考えて実行してもらう、といったやり方です。
また、法令は変わるので、今あるものだけを守ればいいわけではありません。その都度「なぜこの法令があって、守らないとどうまずいのか」を考える必要があります。なので新人への研修はもちろん、ベテランの社員に対しても常に働きかけることが重要だと思います。
――書籍では、組織不正が「起こった後」どう対応するか悲観的に備えておくべき、という提言もありました。なぜこの発想が大事なのでしょうか?
先述の通り組織不正は法令からの逸脱です。コンプライアンス意識を高めても、法令に従うように完璧に会社を動かすことは難しく、簡単に逸脱は起こります。
不正があっても品質に問題がない場合も多い。しかしいざ組織不正が問題になったときに対応が遅れれば、企業の評判が落ちてしまったり、株主や消費者への影響が出てしまったりします。
組織不正を「起こさない」というのは楽観的な考え方で、実際にこれだけ多くの組織で不正が発生している現状を踏まえると、「どの組織でも起こりうる」という前提で備えることが重要ではないでしょうか。悲観的に想定することで、万が一不正が発生した際にも迅速に対応でき、被害を最小限に抑えられる。このような考え方が浸透していってほしいと期待しています。

人事が押さえるべきポイントは?
――「正しさ」から起きる組織不正に対して、企業の人事はどのようなことを意識すればよいでしょうか。
組織において絶対的になりがちな「正しさ」が疑われるためには、人材の多様性が重要です。
会議では同質的な人が集まる方が速く進むと思いますが、同じ方向でしか物事を見ていない分、リスクも見えづらくなります。特定の人しか知りえない状態で製品づくりが進めば、間違った方法を指摘することもできません。
なるべく組織をオープンにして、いろんな人の意見が入るように人材を配置することで、組織の絶対的な「正しさ」に注意を向けられるようになるはずです。なので、多様な人材を採用・配置し、透明性を保つことが重要です。書籍では、その一歩目として女性役員を登用する重要性を強調しました。
また、社員に法令意識を持ってもらうための取り組みも、人事の方にやっていただきたいことの一つです。
多くの人が「自分が不正に関わるはずがない」と考えています。しかし、自分は不正とは無縁だという考えこそが一番怖いのです。「良かれと思ってやっている業務上の行為が、実は法令と乖離があるかもしれない」といったことを説明して、組織不正が身近に起きる可能性を理解してもらうことが重要です。
とはいえ、「不正に関する研修」と仰々しくうたうと、社員の皆さんは身構えたり嫌がったりすると思います。そうではなく、「仕事をやる上で習慣化していることはありますか?」「後輩・部下に引き継ぐときにどんなことをしていますか?」といった、問いかけから始めるとよいと思います。

――人事が組織不正の問題に向き合うヒントをいただけた気がします。
ニュースではメーカーの製造現場における組織不正が多く取り沙汰されるため、人事からは縁遠いテーマに思えるかもしれません。
しかし、お話しした通り組織不正は人に関わる問題ですし、実は人事の方にこそ注目してほしい問題です。組織不正に悲観的に備えるなら、役員が辞職した場合の人材配置や、人事制度の見直しなどまで柔軟に身構えておく必要があります。
ぜひ本書が組織不正について人事の方が目を向けて考えていただくきっかけになればと思います。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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