これからの企業に必要な「チームレジリエンス」の高め方。3つのステップ

急激に変化する業界情勢や、取引先からの無茶な要求、エースメンバーの退職……企業は常に脅威にさらされています。予測不能な事態や困難に直面した際に、いかにチームが回復し、成長していくか。その鍵となるのが「チームレジリエンス」です。チームレジリエンスの高いチームを目指すには、どんな取り組みが必要なのでしょうか。

『チームレジリエンス 困難と不確実性に強いチームのつくり方』の著者である池田めぐみさんに、「チームレジリエンスとは何か」から、チームで実践する際のポイントまで詳しく解説していただきました。

Profile

池田めぐみ 氏

筑波大学ビジネスサイエンス系助教  株式会社MIMIGURI リサーチャー

東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。東京大学大学院情報学環 特任研究員、東京大学 社会科学研究所附属 社会調査・データアーカイブ研究センター 助教を経て、2024年4月より現職。主な研究テーマは、職場のレジリエンス、若手従業員の育成。

チームレジリエンスとは何か?その重要性

――そもそも「チームレジリエンス」とは何を指すのでしょうか?

チームレジリエンスは、「チームが困難から回復したり成長したりするための能力やプロセス」であると定義されています。

例えば営業チームから突然エース社員が抜けてしまったら、チームは困難に向き合うことになるでしょう。ほかのメンバーがより多くの仕事をしなければならなかったり、営業成績が悪化して目標を達成できなくなったりするかもしれません。

こうした困難を乗り越えて回復し、さらに成長するプロセス全体のことをチームレジリエンスと呼びます。そして、これを可能にするためにチームが備えるべき能力のことも、チームレジリエンスと呼んでいます。

――困難から回復する「能力」と「プロセス」の両方が、チームレジリエンスなのですね。

そうです。そしてチームレジリエンスはいくつかのパターンに分類できます。私たちは書籍の中で、「バネ型」「風船型」「こぼし型」「柳型」の4つの象限に分類しました。

横軸は回復にかかる時間を表していて、困難に対してすばやく対処することもあれば、ゆっくり対処する場合もあります。また、これまでのやり方を変えず、つらい時期を耐えしのぐ形(ストレスをあしらう)がある一方で、ピンチをチャンスに変え、新しいスタイルを導入することによって回復する方法(機会を活かす)も考えられます。

例えば営業のエースが抜けたとき、今までの営業のやり方は変えず、残った社員を教育して回復していく方針があり得ます。あるいは、この困難を機に営業スタイルを変え、顧客のもとに足しげく通うプッシュ型の営業をやめて、広報やマーケティングに力を入れるという戦略もあるでしょう。いずれもチームレジリエンスだと言えます。

――チームレジリエンスがなぜ、企業において重要なのでしょうか?

1つ目の理由は、企業におけるチームはさまざまな困難に直面するからです。「目標を達成できるか?」という不安や、取引先からの無茶な要求、パンデミックなど、チームは常にさまざまな困難にさらされています。

2つ目の理由は、強い個人がいても、必ずしもチームが回復できるとは限らないからです。

レジリエンスの高い(強い個人)は、困難下では自分を守ることを優先し、難しい状況から距離を置くと言われています

また、責任感のある強いリーダーも、いつも困難に立ち向かうと、疲弊してしまうかもしれません。さらに、一人に頼っていると「三人寄れば文殊の知恵」が生かせず、本来いろいろな人の専門知識を組み合わせればうまく解決できるはずの問題が、解決できない可能性もあります。

こういった観点から、チームの問題はチームで、チームレジリエンスを発揮して乗り越えることが大事なのです。

チームレジリエンスの高いチームを作るには?

――池田さんから見て「チームレジリエンスの高いチーム」とはどんなチームでしょうか。

例えば、2024年の年始に羽田空港であったJAL機の衝突事故。あの時の客室乗務員のチームはチームレジリエンスが発揮された例と言えるでしょう。ましい事故でしたが、JAL機に乗っていた乗客・乗務員は全員無事に出しました。短い時間で何百人もの乗客を避難させなければいけない状況は、大きな困難ですよね。それをチームの連携でうまく乗り越えたわけです。

また、企業のSNSが炎上した際に、そこから教訓を得て再炎上を防ぐために研修をしたり、投稿前のチェック項目を整えたりしているチームも、チームレジリエンスが備わっていると言えます。困難から回復するだけでなく、次に生かすことができるという点もポイントです。

――では、チームレジリエンスを高めるためには何をすればよいでしょうか。

研究では、困難から回復し成長できるチームは「3つのステップ」を実践していると言われています。

一つ目は、「課題を定めて対処する」。チームで何か問題が起きたとき、いろいろな要因が複雑に絡まりあって困難な状況が生まれていることが多いと思います。また、リーダーやメンバーといった立場によって、何を課題と捉えるか異なります。視点が違うチームのメンバー同士で、まずは目線の共有と課題の整理が必要なのです。その後、期限や役割を決めて対処していきます。

二つ目に、「困難から学ぶ」ことです。問題に対処するためにプロジェクトを推進した結果、最後は打ち上げをして終わり、また犯人捜しをして終わり、となることが多いのですが、それではチームレジリエンスは向上しません。そのチームに起きやすい困難というのがあって、それはまた起こる可能性が高い。困難から回復した後も、「次に困難が起きたときにどうするか」「そもそも困難を起こさないために工夫できることはないか」まで考えるのが重要です。

最後の三つ目は、「被害を最小化する」ことです。先ほど例に挙げたJALのように、トラブルが起きたら大きな被害につながる企業もあります。そういった困難を抱える可能性があるチームは、被害が大きくなるのを防ぐために、日ごろから被害を最小化する練習をしたり、早期に困難の芽をつむ機会を設けておくことが大事です。

――なるほど。困難を乗り越えるだけでは、チームレジリエンスは発揮できないのですね。

その通りです。一つ目のステップだけが注目されがちですが、実は三つ目が非常に重要だと研究では言われています。困難が起きないようにすることは大事ですが、それでも全く困難に直面しないチームはありません。起きた困難から学び、事前の備えをすることを大事にしてほしいですね。

そのうえで、「チーム基礎力」があると、そもそもチームの中で起きている困難、例えば人間関係がぎくしゃくしているといった問題を回避でき、チームレジリエンスを発揮しやすいと言われています。

――「チーム基礎力」とは、具体的にどんな力を指すのでしょうか?

全部で5つあります。一つ目に、チームの一体感。チームは同じ目標に向かっていく集団であるはずですよね。チームが「何のためにあるのか」を皆が理解して納得していないと、チームのための行動も起きないと思います。そのため、チームのメンバーが腹落ちできる目標を設定したり話し合ったり、成果を上げたときに皆で喜ぶなど、日ごろから一体感を増す環境づくりが大事です。

二つ目は、心理的安全性です。先ほどのステップ3で被害を最小化するには、問題の種を発見することが重要。ですが、小さなミスを報告しづらい環境だと放置されてしまい、問題の種がいつの間にか大きな困難になってしまいます。安心して意見が言える環境を整えておく必要があるでしょう。

三つ目に、適度な自信。無理難題に挑んでいるときは、「どうせ無理だ」という雰囲気が蔓延してしまうと頑張れないですよね。「うちのチームならできる」という気持ちを養っておくことが大事です。

四つ目に、状況に適応する力も重要です。ステップ1で課題を定める際、困難な状況下ではリーダーが細かく指示できないかもしれません。不測の事態でも主体的にメンバーが動けるなど、状況に適応する能力があるとよいでしょう。

最後の五つ目は、ポジティブな風土。この書籍を書く際に、いろいろなチームにお話を聞いたのですが、チームが困難を乗り越えられた要因として「明るいメンバーがいたこと」が挙がることが非常に多かったです。チームが前向きなムードでいられると、困難な状況でもチームレジリエンスの一歩を踏み出せます。

――今、三つのステップとチーム基礎力を紹介していただきましたが、チームレジリエンスを高めたいと思ったら、まずはどこから手をつけるべきでしょうか?

チームの状態に合わせて、どこから着手するか決めることが大事です。

今、差し迫った困難に向き合っているチームなら、一つ目のステップからやるしかありません。一方で、今はうまく回っているチームなら、自分たちに足りないチーム基礎力や、困難の種について考察してみるとよいでしょう。

例えば、システム運用を担当しているチームが、システムに障害が起きたときに被害を最小化する工夫が不十分だと気づいたら、システム障害訓練を実施して備えておくことが大事です。

チームの状況や業務の特性に合わせて、どこにフォーカスするかを決めてチームレジリエンスの実践を始めてほしいです。

――人事の視点からは、どんなアプローチが考えられるでしょうか。

困難から学ぶためには「振り返り」が重要ですが、これが苦手なチームも多いので、人事からサポートするとよいかもしれません。困難を乗り越えたあと、誰かを怒ったり、誰かが謝って終わり、とならないために、教訓を次に生かすための振り返りが大切です。研修などを通して、その重要性を伝えたり、振り返りのグランドルールを整備したりすることが、人事ができる一つのアプローチだと思います。

振り返りのコツをいくつか紹介すると、「目的を提示する」こと、そして「別のアプローチをしていたらどうなっていたか考える」ことなどが挙げられます。

また、チーム基礎力である適度な自信をつけるには、「前例がある」ことを伝えると効果的です。例えば新規事業のチームで、新しい挑戦に自信がないメンバーに対して、会社全体の歴史の中から類似の成功事例を共有してあげる。その時、自信になりやすいように、エリート集団が成し遂げた例ではなく、そのチームと似たチームの成功であることが大事です。万が一自社にそのような前例がなくても、他社の事例や書籍などで勇気づけることもできるでしょう。

今までは飲み会や雑談の中で、人づてに過去の事例を聞いて励まされることがあったかもしれませんが、今の時代はそういう機会も減っています。そのため、意図的に社内でアーカイブを溜めて発信するといいかもしれません。

――書籍には「困難時のチーム作りのコツ」として「助けてくれた人が損をしない仕組み」をつくることを推奨していましたが、評価制度も人事が工夫できるポイントですよね。

単に「助けてくれた人に報酬を与える」という仕組みにすると、報酬目当ての行動になってしまうので難しいなと思います。

そんな中、会社において「感謝」がもたらす利益が大きいということも言われています。自分が任された以上の仕事をやったのにもかかわらず感謝されないと、人は満たされない気持ちになります。一方で、誰かの手助けをしたときにその分感謝されると、気持ちの満足感は下がりにくいそうです。

なので、感謝しあう文化をつくり、「あなたの親切な行動が誰かの役に立っている」と認められる環境をつくることが大事です。例えばスターバックスでは、誰かがミッションに沿った行動で助けてくれたとき、感謝を伝えるメッセージカードを渡し合う文化があるそうです。誰かがうれしい手助けをしてくれた時に、そのことを助けられた人が語り、上司や周りのメンバーもそれを知れると、感謝の文化が根付いていくと思います。

リーダーが一人で抱え込まなくていい。実践のコツ

――上述のステップが重要であることは理解できても、実行できていない企業が多いと思います。チームレジリエンスのための取り組みを軌道に乗せるポイントはありますか?

いくつかポイントはあるのですが、前提として「すべてリーダーが全てを背負わないことが大切」ということを強調しておきます。

私が企業の研修などでチームレジリエンスの話をすると、チームのマネージャーやリーダーから「普段から忙しいのに、追加でこんなに活動するのは無理です」といった声をいただくことがあります。

しかし、チームとして困難に向き合う練習をすれば、ひいてはマネージャーの負担を下げることにもつながります。リーダーが一人で頑張ろうとするのではなく、チームにこの概念を浸透させて、チームとして練習することがチームレジリエンスの実践のコツです。

とはいえ、最初はリーダーの負担が大きいでしょう。そのため、マネージャーやリーダーには、「仕事を15%減らす」ことを試みてほしいです。1日1時間ほどを危機対応に割けるよう、今までの仕事を見直し業務を調整してみてください。

コロナ禍を振り返ってみても、普段の業務以外に、予想外の問題に対処する時間が必要だったと思います。特に困難に直面しているチームのリーダーは、これを機に不要な会議を減らしたり、部下に仕事を委ねたりすることで、時間を捻出しましょう。そうすることで、部下の成長にもつながります。

まずはリーダーが困難に向き合い、チームレジリエンスを向上するための取り組みに時間を充ててほしいのです。時間はかかるかもしれませんが、チームの基礎力が上がれば、被害を最小化したり、そもそも困難の芽を早い段階で摘んだりできるチームになれます。

――なるほど。まずはリーダーが困難に向き合う時間を作ることで、結果的にはチームで困難に対処できるようになるわけですね。

そうですね。あとは、リーダーという職務自体を一人でやろうとしないことも大事だと思います。

多くのリーダーは、事業の成長に責任を持つ役割と、メンバーを育てたりチームの関係性をよくしたりといったピープルマネジメントの役割の両方を担っています。しかし、一人のリーダーがその両方の責務を負うのは結構しんどいですよね。

例えば、事業サイドのリーダー業は得意だけれど、メンバーの育成は苦手というリーダーなら、育成はサブリーダーに任せるというのも一つの手です。リーダーが自分の苦手な部分を認めて、ほかのメンバーに頼っている様子が伝わると、チーム全体にも協力し合う文化が生まれやすいと思います。

私がリサーチャーとして所属するMIMIGURIでは、事業のリーダーとチームづくりのリーダーの二人体制で運営していて、うまく回っています。そういった体制がなくても、得意な分野をメンバーに任せたり、あるいは人事が人材マネジメントをアシストしたりすることで、リーダーが一人で悩まなくてよい環境が整えられるとよいですね。

――最後に、自社内のチームレジリエンスを向上しようと考えている人事やマネジメント層に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。

今の時代、マネージャーやリーダーに負担がかかりすぎてしまっていると思います。責任感が強く、知らず知らずのうちに「一人で解決しなければ」と抱えてしまう方も多いのではないでしょうか。チームの問題を一人だけで頑張って解決しようとすると、メンバーの目線を取り入れられないかことから、返って空回りしてしまうこともありますし、疲弊もしてしまいます。この状況は会社にとってもサステナブルではないですよね。

チームのメンバーは仲間なので、リーダーが困ったときには「助けて」と言ったり、「皆で解決しよう」と言えるチームになれるといいなと思います。リーダーが一人で頑張りすぎず、チーム皆で進んでいくための一歩として、チームレジリエンスの実践をおすすめしたいです。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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