【食べチョク】事業と採用を連動させる。スタートアップの人事は「経営者」であれ

生産者と消費者をつなげる産直通販サイト「食べチョク」を運営するビビッドガーデン。コロナ禍での需要増を機に従業員数を1年で約4倍に増やしたほか、2024年には新規事業を二つローンチするなど、事業拡大と共に新しい組織づくりを進めてきた。

スタートアップとして急成長していく中で、組織づくりや採用に対してどう向き合ったのか。急成長する過程で、人事としてどんなことを行ってきたのか。事業戦略や組織設計、採用など、ビビッドガーデンの成長を牽引してきたCOO・山下麻亜子氏に伺った。

Profile

山下麻亜子 氏

株式会社ビビッドガーデン 取締役執行役員COO

京都大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。マネジャーとして主に消費財・小売業の全社戦略、新規事業立ち上げやオペレーション改善の案件を主導。社内の人材育成採用にも従事。2020年6月に株式会社ビビッドガーデンに入社。2021年2月より同社取締役として、事業戦略の策定や採用、組織設計など全社横断的に管掌。2022年5月より取締役執行役員COOに就任。

COO直下に人事を配置した理由

──山下さんはコンサルティングファームからビビッドガーデンに参画されています。入社当時の会社の状況はどうでしたか。

私が入社した2020年はコロナ禍で、緊急事態宣言が発令されたことにより巣ごもり需要が生まれ、サービスが急拡大したタイミングでした。当時の従業員数は10人程度でしたが、事業拡大に伴い採用も強化したので、一年で約40人にまで成長しました。それからも採用を継続して、現在は約80人が働いています。

──山下さんは元々あったコーポレートチームから人事機能を独立させ、COO直下の組織としてPeople Empowermentチームを結成されています。なぜでしょうか?

小さい組織ということもあり、入社当時は私が事業部門とコーポレート部門の両方を管轄していたのですが、ガバナンス上良くないため2つを分離し私はコーポレート部門から離れました。ただスタートアップでは事業と人事は非常に密接しており、事業の成長に合わせて組織や制度もフレキシブルに変えていかなければなりません。

そのため人事機能を持つPeople Empowermentチーム(以下、PE)に関してはCOO直下に置き、引き続き私が管轄することにしたのです。

──現在の人事組織と役割はどうなっているのでしょうか。

PEは、私、人事マネジャー、チームメンバーの3人で、採用、組織開発、制度設計を担っています。時期によって強化すべき事案は違うので、担当は設けず全員で柔軟に対応しています。

PEのミッションは、事業の成長に必要な人材像を明確にし、従業員のパフォーマンスを最大限発揮できるポジションや組織づくりを行うことです。メンバー全員が事業経験もあるため、事業チームにヒアリングを行いながら各自が今の組織課題を理解し、自発的に動いています。

──スタートアップに限らず、事業と人事を連動させようと考える企業は増えています。COO直下にPEを置いたことで、良い影響はありましたか。

私が事業と人事を両方見ているため、状況に応じて柔軟な選択肢が取れることは大きな利点です。例えばチーム編成を事業部主体で行うか、人事部が主導するかというケースについても、弊社は両者の状況を把握していることから臨機応変に対応できます。

また、個人的には事業部と人事との橋渡しができる点にメリットを感じています。現職で人事に携わることで、採用までにかかる時間や組織編制の難しさを理解できるようになりました。

現場から「すぐに人が欲しい」などのリクエストが来ることは多いのですが、人事目線で考えると組織編成や新規採用はすぐに対応できるものではありません。事業部と人事それぞれの意見を反映させた採用計画を組むなど、落としどころを建設的に話し合うことができるようになったと感じています。

人事ポリシーを言語化し、カルチャーミスマッチを防ぐ

──組織が急拡大するタイミングでは、新規人材も必要となってきます。現在の採用市場についてはどう捉えていますか。

売り手市場ということもあり、企業規模を問わず条件が良い企業が増えました。そのため、求職者側は自分の「やりたいこと(will)」ができるかを重視する傾向が強いです。

──ビビッドガーデンは、秋元(里奈)社長がメディアに積極的に出演しています。ビジョンが伝わりやすいことで、カルチャーフィットしている人材が集まってくるのではないでしょうか?

確かにビジョンや代表の思いは理解されやすいのですが、弊社はメディア出演が多いことから「すでに組織もサービスも出来上がっている」と周りから思われることも多いです。

でも、実際には泥臭いこともたくさんやらなければいけないフェーズで、カオスな側面も多い。

PEとして、ビビッドガーデンがどんな組織なのか、人材に対してどう向き合っているのか、事業の状況や展望はどうなっているかなど、会社の状況を正しく発信していかなければいけないと考えています。

──2023年には、行動指針にあたるバリューを改定しました。この背景についてもお聞かせください。

弊社では『生産者の“こだわり”が、正当に評価される世界へ』をビジョンとして掲げています。ビジョンを実現させるには、組織が成長し続けることが不可欠です。

そこで、組織としてどのような行動を是と考えるかをバリューで示しているのですが、組織が拡大することによって取るべき行動も変わったため、2023年に内容改定を行いました。

それとは別に、人事ポリシーとしては『成長と挑戦』というキーワードを掲げています。人事ポリシーは、会社が従業員に何を求めるか、逆に会社は従業員に対して何を提供できるかを言語化したものです。スタートアップにはリスクが付き物ですが、リスクを取って挑戦する勇気を持った人には新しい機会を提供したいという会社の姿勢を打ち出しました。

目指すのは、組織の進化を支える人事

──2024年には新規事業として、プライベートブランド『Vivid TABLE』、食材が選べる定期便『食べチョク ドットミィ』をローンチしています。PEでは新規事業立ち上げにどのように関わったのでしょうか。

新規事業の立ち上がりから実現までの過程では、組織体制が事業のスピードに追い付かないことがあります。

既存事業ではどういった人材が必要かを事前に見通すことができますが、新規事業では構想が固まるにつれて強化したいポジションが新たに発生することもあります。

組織体制が不十分では新規事業の成長に影響が出てしまうので、PEでは新たな組織づくりに着手しました。新規事業部への配属計画、自社だけでスキルやリソースが不足する部分については外部パートナーや業務委託の採用を計画に組み込むなど、事業のスピード感を損なわない方法を積極的にとって組織づくりを行いました。

──採用した社員が組織の中で活躍できるようにするために、工夫したことはありますか。

新規採用者には、私から会社や事業の概要を直接お話しています。チームに配属された後はそのチームの仕事で忙しくなってしまうため、俯瞰的な会社の状況や周りのチームが何をしているのかが見えにくくなってしまいます。そのため入社したタイミングで、ビビッドガーデンの目指す方向性や数字面など、投資家に話すような内容も包み隠さず説明しています。

また新しく入ってきた社員にはそれぞれのバックグラウンドがあるので、入社後にカルチャーショックを受けることがあります。例えば弊社ではキャリアを問わず積極的に意見を出すことが求められますが、上長の意見は絶対とする企業もある。カルチャーギャップが生まれたタイミングで、弊社の考え方や仕事の進め方などは意識して伝えています。

──スタートアップでは、課題が山積する中で取捨選択も必要になってくると思います。アーリーやミドルステージにいる企業の人事がやるべきことについて教えてください。

企業が大事にしたい姿勢を強く打ち出すべきだと思います。会社として何を大切に考えていて、従業員にどんな働き方を求めるか、芯を作ることが重要です。特にスタートアップはやるべきことがたくさんありますが、むしろやらないことを決めることが大切です。

これまでの反省点としては、人事制度はまだ細かく作り過ぎなくても良かったなと感じます。スタートアップは刻々と状況が変わるため、せっかく制度を作りこんでも上手く機能しないことも多いです。そもそも制度がないとやっていけないような人はスタートアップで働くことを選ばないと思うので、自分たちで状況に応じてルールを決めていくなど、自由度を高くするべきだと感じます。

──2025年度のビビッドガーデンの経営戦略について教えてください。

産直ECの会社から、一次産業に貢献する会社へと進化したいです。そのためには、既存事業、新規事業両方の成長が求められます。既存事業の「食べチョク」はより多くの生産者やユーザーに利用してもらうため、事業をグロースさせることが求められます。一方で新規事業はやってみなければ分からないことも多く、事業開発や新しい組織作りが必要です。PEとしては全く違うことが求められるのですが、それぞれの事業に必要となる要件を定義し、採用方針や行動指針を見失わないようにしたいです。

──PEとしては、今後どんなことに取り組んでいきたいと考えていますか。

一つ目は業務フローの整備です。少人数であれば人に仕事が付く側面もありますが、人数が増えれば組織としての効率を考えた仕組み作りが大切です。

二つ目は、会社が成し遂げたいことの言語化です。少人数なら意思疎通が図りやすいので自然と同じ目線でゴールを目指すことができますが、組織が拡大して仕事が細分化すれば全体像が見えにくくなります。「言わなくても分かるだろう」と思うようなことも分かりやすく伝えるなど、メンバーと対話していくことを心掛けていきたいです。

──お話を伺っていると、人事責任者にはさまざまな能力が求められるように感じます。山下さんは人事のトップにはどういう人が向いていて、どんな役割が求められていると思いますか。

「経営者であるべき」だと思います。人事部門のトップはどうしても現場から遠ざかってしまいがちですが、だからこそ人事以外の事業領域をしっかり把握しようと努めることが大切です。会社全体や事業の状況を見通せていないと、人事としてのアプローチがズレてしまいます。そのためには現場をリスペクトし、現場のマネジャーや他メンバーから挙がってくる意見を意識して吸い上げることが必要だと考えています。

また人事領域は多岐にわたるので、人事のトップは自分のウィークポイントを補ってくれる人材と組むなど、強いチームを作れる人が適任です。一人で何でもできるスーパーマンを目指すのではなく、マネジャーを束ねてしっかりとした組織を作れる人が向いているのではないでしょうか。

 

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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