企業カルチャー変革には何が必要?有識者が変革を加速させるヒントを提言
2025.04.18
組織に大きく影響を与えるとされている「企業カルチャー」。数値で表せないこの概念を可視化して企業変革につなげるため、九州大学池田研究室とUniposは「企業カルチャー白書2024」を発表した。
産学官で組織される「カルチャー変革推進委員会」の第2回分科会「『企業カルチャー白書2024』座談会」では、白書の内容を読み解いたうえで組織変革の第一人者3名で座談会を実施。企業カルチャーの現状と課題を踏まえ、変革を推進するために必要な方法を探った。
Profile

池田浩 氏
九州大学大学院人間環境学研究院准教授/産業・組織心理学会 副会長
2006年九州大学大学院博士後期課程修了、博士(心理学)。専門は産業・組織心理学。福岡大学准教授などを経て現職。現在、産業・組織心理学会の副会長を務める。組織における自律的モチベーションやセキュア―ベース・リーダーシップの研究に従事。著書に『モチベーションに火をつける働き方の心理学』(日本法令)他多数。

石井遼介 氏
株式会社ZENTech 代表取締役/チーフサイエンティスト
東京大学工学部卒。シンガポール国立大経営学修士(MBA)。組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、アカデミアの知見とビジネス現場の橋渡しを行う。心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発すると共に、ビジネスやスポーツ領域で成果の出るチーム構築を推進。著書に『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

松島稔
Unipos株式会社 代表取締役社長
2006年株式会社ネットエイジ(現ユナイテッド株式会社)入社。当時子会社のFringe81株式会社(現Unipos株式会社)へ出向し、営業組織開発・新規事業/商品開発等に従事。2013年同社取締役COOに就任。2021年Unipos株式会社代表取締役副社長COOに就任、2025年より現職。
「個人」と「組織」をつなぐ企業カルチャー
歴史をひも解くと、企業は、職場、チーム、組織などの「集団」と、働く「個人」との間で揺れ動いてきた。1960年代の高度経済成長期に個人のワーク・モチベーションが注目されると、1980年代には優秀企業の共通項をまとめた書籍『エクセレント・カンパニー』の流行により組織文化や組織風土が注目を集める…といった具合だ。現在は、2020年代に健康経営や自律的キャリアが注目された背景から、再び個人への関心が高まっている。
この「集団」と「個人」をつなぐのが、企業カルチャーだ。九州大学池田研究室とUniposは、企業カルチャーの先行研究と正社員2000名へのアンケート調査を基に制作した「企業カルチャー白書2024」を発表。白書の調査結果分析に携わった池田浩准教授は、企業カルチャーの現在地と課題を明らかにした。
まず、企業カルチャーは「人と関係志向」「ステークホルダー志向」「業績と競争志向」「支配と抑圧志向」「心理的“不”安全志向」「モラルハザード志向」の6要素で構成される。

企業カルチャーの6要素の相関関係を見ていくと、多くの企業のカルチャーの中心には「業績と競争志向」があり、その他のカルチャーと密接に関係している。「業績と競争志向」は社内での人間関係を良好にする「人と関係志向」やお客様第一などにつながる「ステークホルダー志向」など、ポジティブなカルチャーに影響を与える。その一方で、何より成果を優先させてしまう「モラルハザード志向」や失敗を許さない「支配と抑圧志向」など、ネガティブなカルチャーにも影響を与える。
また、企業カルチャーの6要素の組み合わせをクラスター分析した結果、組織は「業績至上主義組織」「人と顧客志向カルチャー組織」「カルチャー希薄組織」の3モデルに分けられることも明らかになった。これらの企業カルチャー3類型は業績や転職・退職にも大きく影響を与える。
3類型のうち、どの企業カルチャーの組織であるかにより、カルチャー変革の方向性は異なる。「業績至上主義組織」では、現在のカルチャーから新しいカルチャーへの刷新。「人と顧客志向カルチャー組織」では、現在の良いカルチャーをより良く、定着させること。カルチャー希薄組織では、そもそもどういうカルチャーを作り出していくかから考えなければならない。
経営層や上司の「こだわり」を手放すことが鍵
白書の内容を踏まえ、組織変革の第一人者3名で座談会を実施。ZENTechの石井遼介氏は、成果主義を掲げる組織が企業カルチャーを変革する難しさを語る。

「業績至上主義組織では、成果を出すため現場に頭ごなしに“上のやり方”を強いる、マイクロマネジメントを行うなど、従業員に過度な負荷をかけます。それでも業績が思ったように上がらないと、『こんなに取り組んでも成果が出ていないのだから、心理的安全性に取り組むと、さらに業績が下がるのでは?』と考える。しかし白書の結果を見ても、心理的“不”安全性の低い企業、つまり心理的安全性の高い企業ほど業績が良い傾向にあります。私は『業績至上主義でも構いません。しかし、実際に成果を出すために、上意下達やマイクロマネジメントとは異なるアプローチを試してみませんか?』と呼び掛けています」(石井氏)
また、働き方やマネジメントの『常識』は時代ごとに変わる。工業化社会の到来直後のような、つくるべきものが分かっており、つくっただけ業績が上がる時代には、正解を知る上司が部下をコントロールするマネジメントが求められた。しかし、現在の社会課題は多くの要素が複雑に絡み合っている。誰にも正解が見えない時代では、従業員同士が協力し合って答えを導き出す必要がある。過去の時代のままのマネジメント・スタイルを踏襲する企業では、そのようなボトムアップや、チーム全員活躍のカルチャーをつくることは難しい。

また、「心理的“不”安全性」について石井氏は、一般的には役職が上がると、当人の感じる心理的安全性は高くなるが、例外があると述べた。
「企業や組織によっては、主任や課長など、一般社員から1~2段階昇進した方の心理的安全性が低くでることがあります。自分が上司から受けたマネジメントの方法が過去のものになる中で、マネジメントに迷い、上下からの板挟みに遭っているという状況です。
『上下関係は厳しくあるべきだ』と考える企業も多いが、白書からみても『支配と抑圧傾向』が高い企業は、必ずしも好業績ではない。ゼンテクで行った日本企業を対象とした調査でも、過剰に厳しい上下関係は、心理的安全性を下げるだけではなく仕事の基準を下げ、またモラルハザードにも繋がりやすいことがわかっています。この傾向は、所属する方々の生の声として『当社では厳しい上下関係は重要だ』と回答する企業ですら、実際のデータをみると、成果を挙げるために厳しさは効果的ではないことが分かります。」(石井氏)
池田准教授は、管理職の育成心理に注目する。管理職としては、部下に指示を出して自分の思い通りにプロジェクトをコントロールする方が「仕事への手応え」を感じるが、従業員目線では「仕事をやらされている感」につながる。
逆に従業員がプロジェクトを主導すれば従業員自身は生き生きと働くことができるが、管理職はマネジメントしているという手応えを感じにくい。「成果が上がりやすいのは後者であるため、管理職が部下をコントロールすることにこだわりすぎないことが大切」と語った。
池田准教授は、不祥事の一因となる、企業カルチャーのネガティブ要因を解消していくにあたり、業種業態が企業カルチャーに影響する可能性に着目した。例えば「人と顧客志向カルチャー組織」が多い金融・保険業や官公庁では、企業カルチャーがネガティブサイドに陥りにくい構造があるのではないかと指摘。
石井氏も、「業績至上主義組織が48.1%と突出して多い電気・ガス・水道業で何が起きているのかは興味深いですね。業績至上主義組織は、カテゴリ名としては「業績至上主義」ですが、中身を見ると「モラルハザード志向」が最も高く、次いで「支配と抑圧志向」と「業績と競争志向」が高いことが特徴です。数多くの生活者を主要な利用者とする社会インフラ企業では、利用者一人ひとりと向き合うことは現実的にも難しく、より社内政治が優先されうる構造にあることが一因かもしれません」と応じた。

Uniposの松島稔は、企業カルチャーがトップやマネジメント層の影響を受けた実例を語る。例えば上司の言行不一致が常態化すると、従業員もそれが組織風土だと考えるようになる。経営者は不祥事が起こると「会社に問題がある」と考えがちだが、実は自分自身が変わる必要があることに気付かないケースは多い。
池田准教授もこの意見に同調し、校長室の例を引き合いに持論を語った。
「学校訪問をすると、校長室のドアがいつも開かれている学校では先生がよく校長に相談しており、子どもたちも校長室に遊びに来る。しかし校長室が閉まっている学校では、現場の状況を把握していないと校長が不機嫌になるなど、風通しが良くない傾向がある。企業も同様で、開放的で、互いにコミュニケーションをとりやすい環境を作ることが大切。職位が上がると周囲も忖度するようになるので、経営層は現場を知る機会を意識して設ける必要がある」(池田准教授)
心理的安全性がエンゲージメントを高め、業績向上に導く
これらの議論を踏まえて、企業カルチャー変革に取り組む参加者からの質問に3名の有識者が回答した。
「企業カルチャー変革への意識は職位によって変わるのか」という質問に、松島は「あくまでも肌感覚」と前置きをしたうえで、「中間管理職は、『企業カルチャーを変えたい』人と『どうせ変わらない』と諦める人とで二分化している。職位ではなく、個人の意識による印象」と回答した。
また石井氏は「上位管理職は、企業不祥事など問題が表面化して初めて変えようと思う人が多い。何かが起きる前にカルチャーづくりに目を向けることが重要」と指摘。池田准教授も、「経営層は、企業カルチャー変革への意識が低いのが現状。業績悪化や不祥事など目に見える指標が出てきた段階で、初めて働くプロセスや仕事のしやすさを見直す傾向がある」と補足した。
エンゲージメント向上に取り組む参加者からの「現場から企業カルチャーを改革推進する方法はあるか」という質問に対し、石井氏は二つの観点からアドバイスした。一つは、チーム内で心理的安全性を作り、組織内へと徐々に広げていくこと。二つは、外部から企業トップにアプローチする方法だ。
「心理的安全性の研修や、組織変革の伴走の中で、企業トップへアプローチする際、『小さな行動の約束や宣言をしてください』とお願いをしています。例えば『現場のトラブル報告は、途中で口をはさみたくなっても、必ず最後まで話を聞き、報告に感謝を伝える』など、小さな行動で構いません。単に『心理的安全性に取り組む』『カルチャー変革に取り組む』と伝えるだけではなく、そのようなカルチャーづくりのため、トップが行動の約束をし、それを守り続けることが、トップの本気を伝えます。トップ層の言行が一致すれば、次第に企業カルチャーも変わり始めます」(石井氏)
松島は、経営層にも現実を受け止めてもらう重要性を述べる。経営会議で現場からのリアルな声を集めたアンケートを掲示した事例を挙げて「経営層に残酷な現実を伝えるのは勇気がいるけれど、実行さえできれば必ず状況は改善する」と質問者を後押しした。
最後の質問は、「『企業カルチャーを変革すべき』と経営層に思ってもらうためにはどうしたらいいか」。池田准教授は、企業カルチャーと業績の間に幾つかのプロセスがあると指摘。石井氏も、自社で行った調査結果から、心理的安全性が職場への愛着などを示す「情緒的コミットメント」と、仕事そのものの楽しさに該当する「ワークエンゲージメント」に大きく影響を及ぼし、パフォーマンス向上につながる仕組みを解説。心理的安全性と業績向上に相関関係があることを述べた。
松島は石井氏の調査結果を受けて「人の行動から業績は生み出される」という前提を語り、人の行動につながる因子は心理的安全性だと明言。心理的安全性が守られた状態では従業員のパフォーマンスが上がり、結果的に業績向上にもつながると結論付けた。
「実態のつかめない企業カルチャーへの投資合理性を、経営層に感じてもらうことは難しい。ただ、現在は価値を生み出す人の希少性が高い。従業員のパフォーマンスを向上させるためには、企業カルチャーが重要だと経営層に理解してもらう必要がある」(松島)

企業カルチャーは一朝一夕で作られるものではなく、それまで企業が積み重ねてきた仕事の仕方や人間同士の関わり合いにより生み出される。不祥事やトラブルが起きてから、ステークホルダーの信頼を取り戻すには時間がかかるだろう。だからこそ経営層を中心に、普段から意識的にカルチャー変革に取り組む必要がある。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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