なぜ今、カルチャー変革なのか。専門家が語る変革推進のためのヒント

組織のカルチャー変革について、必要性を認識しながらも、実践に至っていない企業は多い。企業が組織カルチャーの醸成と浸透に真剣に向き合わなければいけない理由は何なのか。また、これからの不確実性の高い時代において、どのようなカルチャーが求められるのか。産官学連携イベント「カルチャー変革推進委員会」で語られた内容から、今、組織が向き合うべきイシューについて考察していく。

 

Profile

唐澤俊輔 氏

Almoha共同創業者COO / Startup Culture Lab.所長

新卒で日本マクドナルド入社後、マーケティング部長や社長室長としてV字回復に貢献。その後、メルカリにて執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長、SHOWROOMにてCOO、デジタル庁にてCCO(Corporate)などを歴任し、事業・組織の成長を推進。
現在は、Almohaにて組織カルチャー診断などの人事システム「WEALL」の開発および、経営・組織コンサルティングを行う。一般社団法人カルチャーモデル研究所代表理事。Bravesoft社外取締役。グロービス経営大学院客員准教授。『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』著者。

 

田中信 氏

一般社団法人チームスキル研究所 代表理事 コ・ファウンダー

芝浦工業大学大学院 工学修士課程修了。日本能率協会コンサルティングにて企業・組織の改革・改善活動の支援に関わる。それと並行して人と組織の力を最大限に引き出す各種支援サービスを開発してきた。2012年一般社団法人チームスキル研究所を設立。現在までエグゼクティブ・コーチング、職場開発(チームスキル)インターナルコンサルタント養成や組織改革内製化など企業や団体の改革を支援している。著書にアトラエWevoxチームとの共著「わたしたちのエンゲージメント実践書」などがある。
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森山雄貴 氏

株式会社アトラエ Wevox事業責任者

2012年に株式会社アトラエに入社後、エンジニアとして転職メディア「Green」の企画・開発を担当。 入社3年目より同社ボードメンバーとして経営にも参与。2017年より組織力向上プラットフォーム「Wevox」を立ち上げ、事業責任者を務める。2021年には実践的なスキルや事例を共に学ぶアカデミー「Engagement Run!Academy」を発足させ、現在は講師としても第一線で組織づくりに携わっている。

 

北居明 氏

甲南大学経済学部教授

滋賀大学経済学部卒業。神戸大学大学院経営学研究科後期博士課程修了。大阪学院大学講師、助教授、大阪府立大学准教授、大阪府立大学大学院経済学研究科教授を経て現職。著書に、『学習を促す組織文化』(有斐閣) 『経営管理論(ベーシックプラス)』(中央経済社、共著) 『経営学ファーストステップ』(八千代出版、共著)など。

 

 

これからの企業経営にカルチャーが必須なわけ

この10年間で、企業経営における「カルチャー」の注目度が高まってきた。ミッション・ビジョン・バリューや、パーパスといったキーワードを軸に、よい組織を作ることで売り上げを伸ばす企業が増えてきたからだ。

その代表例がNetflixだ。同社では「Freedom&Responsibility」(自由と責任)という文化を浸透させている。カルチャーを明文化し、浸透させたことで、従業員の自律的な意思決定を促し迅速な事業判断を可能にした。その結果、NetflixはDVDレンタルというアナログなビジネスモデルから、動画配信プラットフォームへの転換に成功したという。

一方で、東芝の不正会計の問題は「経営に物を言いづらい雰囲気」などの組織カルチャーに原因があったと第三者委員会で結論づけられている。意図せず醸成されたカルチャーがネガティブに働いた例である。

多くの企業では、カルチャー変革をやった方がいいという認識はありつつも、目の前の売上が優先されがちだ。しかし、意図せずに醸成されたカルチャーがビジネスに深刻な影響を及ぼす前に、企業が主体的に組織カルチャーを設計しなければならない。

唐澤氏は「事業を行う際にビジネスモデルを必ず設計するように、組織のカルチャーモデルも不可欠なもの」と指摘する。

「組織カルチャーが定着すると、意思決定の基準が浸透しているので、ビジネスのスピードが圧倒的に速くなります。また、カルチャーはルールではなく価値観。解釈の余地があるからこそ、従業員一人ひとりが考えて行動できる強い組織になります」(唐澤氏)

では目に見えないカルチャーをどのように形作るのか。唐澤氏は、カルチャーモデルをデザインするためのフレームワークとして下図の「7S」を紹介した。

ここで重要な軸になるのが、「経営スタンス」である。自社が目指したい組織像を「Stance」として定めて、それにフィットする人事制度や行動指針といった7つのSを整理するのが望ましい。

理想の『良い組織』があるわけではありません。例えば、『とにかく徹底して数字を上げる組織にしよう』といった風に、自分たちのスタンスを決めることが大事です」(唐澤氏)

最後に、唐澤氏は「変化と成長」を前提にしたカルチャーの重要性を示した。唐澤氏は「カルチャーに正解・不正解はない」と強調したうえで、これからの時代を生き抜く企業には、イノベーションによって継続的に変化・成長する組織文化が不可欠だと分析する。

というのも、日本の労働生産性はこの30年間伸びていない。今後は労働者数がますます減少していくことを考慮すると、イノベーションによって新しい価値を生み出し続ける成長志向の組織が重要になってくる。

そして、そういった成長志向型の組織を実現するためには「カルチャー変革のサイクル」が重要だというのが、唐澤氏の考えだ。

カルチャー診断によって組織の現状を可視化し、どういった施策があるのか最新のトレンドを踏まえて学び、実際の改善プロジェクトに落とし込んでいく。このサイクルを約半年の周期で回していくことで、成長と変化に強い組織カルチャーを目指せると提言した。

組織変革を遂行する現場の担い手をどう育てるか?

アトラエの森山氏と一般社団法人チームスキル研究所の田中氏は、カルチャー変革の「実行者」にフォーカスして、これからの組織変革の実践について語った。

田中氏は、企業のメンバーが主導してカルチャー変革を進めていくための育成支援を行っている。その経験から、組織カルチャーの重要性を以下のように指摘する。

「ある程度の規模の企業では、従業員を結束させるカルチャーが求められます。しかし、良いカルチャーを持っている日本企業でも、当たり前すぎて空気のようになっているケースが多い。そこに新しい人材が入ってくると、カルチャーが薄まっていくので注意が必要です」(田中氏)

実際、カルチャーの重要性に気づき、組織変革に取り組む企業は増えている。組織変革の数が過去に比べて5倍に増加しているという。

一方で、「変革疲れ」しているというデータも無視できない。組織変革は一朝一夕で実現するものではないため、長期的な取り組みになる。しかも、「DX」や「人事制度改革」など複数のプロジェクトが並行して走っているので、マネージャーやリーダーといった多忙なメンバーの業務を圧迫することも多いのだ。

「マネージャーの方は、マルチタスクで多くの業務を担っています。売上の向上など優先順位の高い施策をやりながら、さらに組織変革のプロジェクトに取り組むのは限界があります。結果として疲弊につながっているのではないでしょようか」(田中氏)

では、こうした組織変革のプロジェクトを、マネージャーの負担を軽減しながら実践するには、どのような取り組み方が理想的だろうか。

田中氏は「組織変革は現場を良くするためのもの。マネージャーがなんとかするのではなく、現場を巻き込むことが大事。社員一人ひとりがオリジナルな強みや関心を持っているはずなので、変革プロジェクトのテーマに合った従業員を起用することが重要だ」と指摘する。

多くの日本企業が、中期経営計画と同じように上層部から現場に落としていくやり方で組織改革を進めようとするが、それでは現場は何をしていいかわからず、立ち止まってしまうという。そうではなく、「関心のあるメンバーをアサインして、その人たちに機会を提供することができれば、順調に進んでいく」と田中氏は提言した。

田中氏は、そういった社内における変革のスペシャリストを「インターナルコンサルタント」と名付けている。インターナルコンサルタントがやるべきTODOとして、改革のマトリクス表(下図)を紹介した。

「わたしたちのエンゲージメント実践書」(株式会社アトラエ Wevoxチーム・田中信 著/日本能率協会マネジメントセンター)より引用

 

縦軸は改革のミッション、横軸はそれを実現するHOW(打ち手)となっている。組織変革というと、ビジョンなどの抽象度の高い話から始まることが多いが、このマトリクスでは具体的なアクションをイメージしやすいのが特徴だ。

「最初にビジョンから逆算して改革を推進したい人もいるが、皆がそうとは限らない。私自身も、こういったTODOから着手する方がやりやすい」と田中氏。また、「これをすべて実施するのは負担が大きすぎるので、あくまでもこれを参考にしながら、議論の相手を見つけることが大事」と補足した。

近年では、カルチャー変革をはじめ、DXや制度改革など、企業の中で「変革」を推進できる人材が求められている。つまり「変革のスキル」のニーズが高まっているのだ。田中氏は、これからのビジネスパーソンに求められるスキルであり、強みになることを強調した。

「昔は、変革はコンサルタントの業務でしたが、最近ではマネージャーの役割になっています。今後は現場の第一線で働く従業員に求められるスキルになっていくはずです。また、組織における改革のスキルは、その会社以外の環境にも活用できるので、人手不足のこれからの時代に副業のスキルとしても注目されていくでしょう」(田中氏)

コミュニケーションがつくるエンゲージメントと心理的安全性

甲南大学経営学部の北居教授は、日本における組織文化論研究の第一人者である。これからの組織に求められるコミュニケーションのあり方について、自身の研究から解説した。

コミュニケーションには二つの側面がある。一つは、情報や感情の伝達の役割。もう一つは関係や意味を作り出す役割である。北居教授は「関係や意味を構築するためのコミュニケーションはしばしば忘れられがちだが、実は企業組織においてはこちらが重要だ」と指摘する。

例えば、思うように商品が売れないことに悩んだ経営者が、その原因を「自社の営業パーソンのスキル不足」と分析して、研修を受けさせたとする。ところが、営業パーソンたちのモチベーションは上がらず、売上は改善しない。なぜなら営業部門の従業員たちは売上不調の理由について「経営者の戦略が悪い」と考えていたからだ。

そんな中で研修を受けるよう指示されれば「売れない理由を自分たちのせいにしている」と不信感を抱き、営業パーソンのモチベーションが下がることは当然だ。

北居教授は、こうしたケースについて「経営者の分析が正しくても、こういった問題が起きてしまう。それはコミュニケーションに原因があります」と指摘した。

組織の問題は二つに分けて考える必要がある。「因果関係で解決できる問題」と「当事者同士が相互に影響している複雑な問題」だ。前者は、原因を特定し、それを改善・排除することで解決できる問題のこと。例えば、パソコンの故障などの問題は原因を見つければ解決できる。

しかし、先に挙げたコミュニケーションの問題は後者にあたる。北居教授は「組織で発生する多くの問題は、原因追究では解けない問題だ」と言う。

そこで、北居氏は「問い」を投げかける「解決志向」という方法を提案した。

これは、問題が解決した状態と現在の状態を問うことで、解決への手がかりを見出すやり方である。原因を追究する「犯人探し」のようなやり方とは異なり、感情的にならずに問題点について話し合うことができるのが大きなメリットだ。

この解決志向は、なぜ組織の問題解決に効果的なのか。北居教授は3つのポイントを挙げる。

まず、組織の多くの問題は、原因と結果が複雑に入り組んでいて、ある解決策がほかの問題の原因となり、結局問題を深刻化させる危険性がある。最初の例に挙げたケースでは、よかれと思って実施した営業研修が、かえって営業部門のモチベーションを下げてしまっていた。原因を追究しないアプローチが、組織の問題解決には向いていることが多いのだ。

二つ目に、問題を抱えた組織・個人を支援する際に、原因を探るアプローチは相手を問題の「犠牲者」とみなし、効力感を損なう可能性がある。本来は、彼らを元気づける必要があるので、問題が解決された状態を想像しながら進める解決志向のやり方のほうが適切と言える。

三つ目に、解決志向では、援助される側の強みや可能性を、援助する側とともに探究することで「共同の問題解決者」という関係を形成しやすい。この点が組織の問題解決に効果を発揮する最も重要なポイントだ。原因を追究するやり方では、責める側と責められる側に人間関係が分断しやすい。しかし、解決志向ではむしろ味方として関係性を構築しながら事態を解決へと導けるのだ。

北居教授の研究では、さまざまな企業組織を対象に解決志向を実践できているか調査している。その結果、解決志向の実践が、従業員エンゲージメントやワークエンゲージメントを高める働きがあることがわかった。

また、解決志向が心理的安全性を高める効果も確認されている。「敵と味方に分断されないため、意見が言いやすい環境が作られる」と北居教授。反対に、問題志向(原因を追究する解決方法)は、相手を責めるような印象を与えるため、心理的安全性を下げてしまうという。

「私たちの研究では、解決志向のコミュニケーションが人々を元気づけ、なんでも言いやすい関係を作るうえで大きな影響を与えることが示されています。マネージャーの方は、問題の原因を特定することも重要ですが、一方で解決志向のコミュニケーションの割合を増やしていく必要があるのではないでしょうか」(北居教授)

唐澤氏が指摘したように、これからの企業にとってカルチャー変革の推進は必須である。しかし、カルチャー変革の一歩目をどのように踏み出せばいいか分からない企業も多いはずだ。田中氏や北居教授の提言をヒントに、小さなアクションから始めるといいだろう。

 

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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