リーダーの重圧から解放される「両利きのプロジェクトマネジメント」のススメ

リーダーやマネージャーは何かと板挟みになりがちです。「あちらを立てればこちらが立たぬ」という矛盾する状況で、調整に苦しむ管理職は「罰ゲーム」と揶揄され、避けられてしまうことも。

そんな中、株式会社コパイロツトの米山知宏氏は、書籍『両利きのプロジェクトマネジメント 結果を出しながらメンバーが主体性を取り戻す技術』の中で、チームを率いる人がそんな孤独な闘いから脱却するためのヒントとして「両利きのプロジェクトマネジメント」を提案しています。米山氏に、リーダーやマネージャーがメンバーと協力し、健全な組織づくりを実現するために必要な考え方を伺いました。

 

 

Profile

米山知宏 氏

株式会社コパイロツト Project Enablement 事業責任者/新潟県村上市役所CIO補佐官

東京工業大学大学院社会工学専攻修了後、株式会社三菱総合研究所、新潟県新発田市役所を経て現職。民間企業や自治体におけるデジタル・トランスフォーメーションや組織変革を支援しながら、プロジェクトを推進する方法論を探究している。

なぜ「両利きのプロジェクトマネジメント」が必要なのか?

――まず、米山さんが提唱している「両利きのプロジェクトマネジメント」とは何でしょうか?

両利きのプロジェクトマネジメントとは、目的に向かって最短距離で進む「直線」的なやり方と、状況に合わせて柔軟に対応しながら進む「曲線」的なやり方を、両方取り入れたプロジェクトの進め方です。

直線的なモードは、ゴールに対してスケジュールを切ってタスクを配分し、効率的に業務を遂行します。一方、曲線的なモードではメンバーの状況や価値観、手持ちの資源からゴールを探究します。そのためにはメンバーそれぞれの思いを話し合い、把握することが大事になります。

この両方のやり方を取り入れることは、チームでプロジェクトを進めるときに起こりがちな「視点の偏り」を防ぐために有効です。何事も選択肢が一つだけの状況は、脆弱でサステナブルではありません。

特に、日本企業では「直線的」なやり方が重視されがちです。しかし本来は、時には立ち止まって、現状を把握し、柔軟にやり方を変える必要があるのです。直線的なモードだけでプロジェクトを進めていると、小さなズレを修正せずに進んでしまい、後から大きな問題が発生して炎上する、といった事態になりかねません。

二つのモードをバランスよく使い分けるのが、両利きのプロジェクトマネジメントです。

――両利きのプロジェクトマネジメントを取り入れることで、チームにどんな影響があるでしょうか?

まず、リーダーは楽になると思います。

リーダーが一人で全てを判断して、メンバーに指示しながら進めるのは非常に直線的なやり方ですが、不確実性の高い現代において、プロジェクトの判断をすべて一人で担うのは無理があります。メンバーみんなで対話しながらよりよい解を見つけていく曲線的なやり方を取り入れることで、リーダーが一人だけで責任を背負わなければならないという重圧からは解放されるでしょう。

一方で、メンバーに求められる水準は厳しくなるかもしれません。メンバー自身がどう考えているのか、常に問いかけられることになるので、「指示待ち」の姿勢ではいられないからです。「私はこう思う」「私はこう感じている」ということを発言し続けていく必要があるのです。

とはいえ、曲線的なやり方によって、メンバーが自分の意見を出せる環境になるので、心理的安全性につながるという効果もあります。メンバーからリーダーに対して、「それは違うのでは」といった指摘を言えるようになれば、プロジェクト全体で判断を間違えにくくなるはずです。結果的にチームの仕事の質が高まります。

リーダーが名ファシリテーターにならなくてもいい。両利きの会議の始め方

――両利きのプロジェクトマネジメントを始めたいリーダーは、何から着手すればいいでしょうか?

キックオフなど、プロジェクトの開始のタイミングで取り入れるのがおすすめです。

最初ならまだ問題も起きておらず、チームの雰囲気も悪くなっていないので余裕があるはずです。「このプロジェクトを良くしたいから、新しい方法を試したい」と、提案しやすいと思います。

例えば、リーダーが一人でプロジェクトの計画書を作って共有する直線的なやり方が習慣になっているチームなら、キックオフミーティングの時にみんなで計画を考えてみるなど、曲線的なやり方を取り入れてみるとよいでしょう。

また、プロジェクトの最初にチームメンバーの役割をすり合わせておくことも重要です。リーダーがメンバーに対して役割を与えるだけでなく、メンバーからリーダーに対しても要望を出すのです。「こういうサポートをしてほしい」といった、リーダーに期待することを伝える場があることで、互いの考えを知ることができ、安心してプロジェクトに取り組めます。

体制図だけでごまかさずに、メンバー同士が対話的に役割を決めることで、その後のチームの雰囲気はガラッと変わります。

――新しい業務を始めるタイミングで、対話の場を設けることが重要なのですね。メンバーに意見を出してもらうために、どのように働きかければよいでしょうか?

新しく始まるプロジェクトがない場合でも、定例会議のやり方を変えてみるなど、チームメンバーが意見を言える「場づくり」が重要だと思います。

会議の進行役として「意見を引き出さなくては」と考えるリーダーの方が多いのですが、必ずしも名ファシリテーターになる必要はありません。問いかけが上手くなくてもいいのです。むしろ、「みんなの意見を教えてほしい」と熱量を込めて伝えて、メンバーやツールにどんどん頼っていきましょう。

例えば、従来は会議のアジェンダをリーダーが事前に用意して、メンバーに投げかけることが多かったと思いますが、両利きの会議にするために、メンバーに議論したい項目を出してもらう。最初はなかなかテーマが出てこないかもしれませんが、回を重ねるうちに出してもらえるようになるでしょう。

意見を出しやすくする「道具」を活用するのも有効です。書籍では、ふせんを使って意見を出し合うような議論のフォーマットを紹介しています。オンライン会議ならMiroなどのデジタルツールを使ってもいいでしょう。「このテーマについて一人一つは意見を出そう」と決めてしまえば、みんな一つずつくらいは出せると思います。

そして、会議の最後には振り返りも欠かせません。「この会議、どうだった?」「今のプロジェクトで困り事はない?」と確認し、メンバーから最低一つは意見を出してもらうようにします。そういった会議を重ねていくと、徐々に自分の意見を出すことへの抵抗感がなくなっていきます。

――「メンバーやツールに頼っていい」という考え方は、リーダーの負担を軽減させてくれそうですね。

みんなが意見を出しやすい「仕掛け」をつくることが大事なんですよね。私自身にとっても、ファシリテーションのスキルを上げるのは難しいので、なるべく仕組みに頼りたいと思っています。

一回の取り組みで効果を期待しないこともポイントです。「意見が出たらうれしいし、出なかったらそれでもいい」という程度に考えて始めるのがいいと思います。

リーダーは100点を目指す価値観から解放されてほしいですね。メンバーの考えを100%把握できたら理想的かもしれませんが、現実的ではありません。

なので、まずはメンバーとの考えの違いを理解すること。10%でいいので理解度を高めることが大事かなと思います。例えば、メンバーの発言に納得はできなくても「こういうことを言っていたな」と受け止めて、覚えておく。自分とは違う意見を持っていても、それを知ることが重要だと思います。

チームでプロジェクトを進めるという目的のために、全員の意見を完璧にそろえる必要もないはずです。互いのずれを許容できる範囲の中で振る舞って、成立しているチームがほとんどだと思います。

方法論に依存せず、最適なやり方を見つけてほしい

――両利きのプロジェクトマネジメントの実践にあたって、陥りがちな失敗はありますか?気を付けるべきポイントを教えてください。

「日本企業は直線的なモードに偏重しがち」と話しましたが、直線的なモードが悪いわけではありません。むしろ、曲線的なモードだけでは対話ばかりでプロジェクトが前に進まないといった問題が起きるでしょう。期限のない新規事業プロジェクトや、まちづくりの会議などでは、そういった課題を抱えているケースも多いです。

重要なのは、プロジェクトの「ゴールは何か」を明確にすることです。直線的か曲線的かといった進め方はあくまで手段であり、本質ではありません。本当に大切なのは、チームメンバーが何を達成したいのか、どのような意思や情熱を持っているかという点です。

書籍ではプロジェクトマネジメントの方法を提案していますが、「方法論に依存してほしくない」という思いがあります。なので、両利きのプロジェクトマネジメントでは、チームメンバーの意思を確認するプロセスを大事にしているのです。

達成したいことが明確でなければ、どんなに正しい方法論を用いても意味がありません。また、プロジェクトマネジメントや組織作りに正解はありません。この記事や書籍の内容を鵜吞みにせず、自分たちに最適な方法を考え続けていただきたいと思います。

そのためには、「どうしたらいいですか」という問いをやめること。ビジネスの現場では「失敗したらどうするんだ」という正解主義の価値観が大きくなりがちですが、その考えからは脱却する必要があります。もっと気軽に仮説を試して、失敗を繰り返しながら、よりよい方法を模索していくことが求められます。

――ゴールを明確にしたうえで、「直線的なモード」と「曲線的なモード」を行き来するタイミングは、どのように見極めるとよいでしょうか?

これもリーダーを含むチームメンバー全員で判断することが重要です。プロジェクトの進行中に「空気の悪さ」や「違和感」を感じた際は、まずその感覚をチーム内で共有し、合意が得られればモードを切り替えるべきです。

例えば、「メンバーの主体性がない」という悩みを抱えるプロジェクトマネージャーの方に出会うことがたびたびあります。この場合、リーダーから「主体的に行動してほしい」と指示する直線的なアクションだけでは、状況は変わりにくいでしょう。チーム全員での対話の機会を設けたり、会議のアジェンダをメンバーから募るなど、曲線的なモードを取り入れることが有効です。こうした「違和感」を抱いた時こそ、モード切り替えを検討するタイミングです。

また、組織が直線的なモードと曲線的なモードのどちらが強い傾向があるか把握し、チーム内で共有しておくことが望ましいです。リーダーは過去のプロジェクトを振り返って、違和感があったポイントでどちらのモードになっていたか、モードを切り替えたらうまくいきそうかを分析してみるといいでしょう。

――最後に、組織作りに悩むリーダーたちに向けて、メッセージやアドバイスをいただけますか?

組織変革には、まずは「変わることに慣れる」というステップが必要だと思います。組織の習慣や文化を変えるには困難がつきものですよね。

なので、小さな単位の「一つのプロジェクト」や「一つの会議」から組織を変えるのがおすすめです。そこで一人ひとりに新しいやり方のよさを経験してもらうことが大事。いい体験の積み重ねが人の価値観を変え、組織文化を変えることにつながるのです。

目の前のプロジェクトの進め方に違和感があるならば、まず自分たちのプロジェクトで新しい方法を試してみる。プロジェクトで難しいならば、一つの会議で挑戦してみる。例えば、会議で「ホワイトボードとふせんを用意してきたんですけど、使いませんか?」と提案して、いきなり怒られることはないでしょう。

ぜひ自分たちのチームになじむやり方にアレンジしてください。日本には「和洋折衷」という言葉があるように、海外の文化を自分たちなりにアレンジして受け入れるのが得意ですよね。プロジェクトマネジメントやチームづくりでも、新しいやり方を自分たちなりのデザインをほどこして、受け入れやすくするのです。

組織をいきなりガラッと変える必要はありません。書籍で解説している内容を、そのまま受け取る必要もありません。「両利きのプロジェクトマネジメント」という考え方を、自分たちの組織らしく取り入れてもらえたらうれしいです。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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