内定辞退をなくそう!採用担当者が抑えるべき「報酬設計」とコミュニケーションのポイント

人事のプロフェッショナル青田努氏に、読者の皆様から寄せられた「人事」に関するお悩みに回答いただく連載企画。

UNITEにて募集したお悩みの中から各回のテーマをピックアップし、人事の方が直面している業務におけるお悩み、組織やキャリアのお悩みにご回答いただきます。今回は面接で採用候補者の本音を引き出す質問術、年収による内定辞退を防ぐための方法についてお答えいただきました。

Profile

青田努 氏

Cast a spell合同会社 代表

リクルートおよびリクルートメディアコミュニケーションズに通算10年在籍し「リクナビ」の学生向けプロモーション、求人広告の制作ディレクター、自社採用などを担当。その後、ドリコム、アマゾンジャパン、PwCでの人事マネージャーを経験。2015年からは人事向けメディア「日本の人事部」にて、人事・人材業界向け講座、人事の交流会・勉強会組織などの企画・立ち上げ・運営に携わる。2017年にLINE入社。人材支援室副室長を務めたほか、マネジメント層の成長支援プロジェクトのリード、採用・タレントマネジメント関連のさまざまなプロジェクトを推進。LINE在籍中の2021年にCast a spellを設立。「採用を体系的に学ぶ会」、「組織行動論おすそわけ勉強会」、3600人超の匿名相談コミュニティ「人事のへや」などを運営。

面接で「本音」を引き出す5つの質問例

たなかさん、ご質問ありがとうございます。多くの候補者は自分の弱みにつながる回答をすることに対して、「評価が下がるのでは?」「不合格の原因になるのでは?」「そもそも初対面の面接官に弱みをさらけ出すのは怖い」という心理が働き、どうしても模範解答になりがちですよね。

弱みについての質問は、「あなたの弱みについて教えてください」と直接聞くのではなく角度を少し変えて質問することがポイントです。

以下、それぞれの質問がどのような情報を引き出すかを解説し、面接での活用ポイントをご紹介します。

①「他の人は簡単にできるのに、自分にとっては苦戦しやすいことって何ですか?」

これは「あなたの弱みは?」と直球で聞かないため、候補者の防御反応が起きにくい質問です。

・具体的な行動単位で語られやすい

・その人の不得意領域が自然と表に出る

・本音に近いニュアンスでも抵抗少なく話せる

実務でのつまづきポイントがクリアに見えてくる質問でもあるため、育成方針の判断にもつながりやすくなるのではないでしょうか。

②「職場の同僚や上司が認識してくれているあなたの弱みは何ですか?」

これは自己認知よりも、他者からの評価をベースにしてもらう質問。本人に自覚がなかったり、言語化しづらい弱みが浮かびやすくなります。

・360度評価的な視点が取れる

・自分では言いにくい弱みでも「他者の声」として語れるため少し話しやすくなる

「強みよりも、むしろ弱みこそ他者のほうがよく知っている」ことは現場でもよくあります。そこにアクセスするための質問です。

③「自分にあえて注文をつけるとしたら、何になりますか?」

これは「弱み」ではなく、「改善してほしい点」というニュアンスで聞く質問になります。候補者は自己否定に感じにくいため心理的安全が高まります。

・弱みをポジティブ表現で語ってくれる

・行動指針や価値観のクセが見える

・入社後のマネジメントポイントがわかる

「こういう時に○○しがちなので、こうしよう」という具体例が出てきやすくなる質問となります。

④「周囲の人(上司)が、あなたに『もっと○○してほしい』と期待していることは何ですか?」

これは弱みというより「周囲からの期待値ギャップ」を聞き出すアプローチです。

・その人が改善すべき行動習慣

・成長フェーズや壁になっているポイント

・チーム内での役割期待

が現れやすくなります。

弱みは「できていないこと」ですが、期待値ギャップは「伸びしろ」。候補者も語りやすく、採用部署にとっても育成指針が立てやすい情報となります。

⑤「あなたの良さを引き出すため、周囲の人はどんなサポートをすると良いですか?」

ここが最も重要な質問です。候補者は“弱みそのもの”を語らなくても、「どんなサポートが必要か」から逆算して、自然と弱み・特性が浮き上がります。

・苦手な環境

・ストレス要因

・パフォーマンス低下のトリガー

・活躍しやすい条件

・マネジメントスタイルとの相性

これらが一挙に把握できるため、採用後のミスマッチ防止効果も高い質問です。

質問だけではなく、面接官の「スタンス」も重要

質問を工夫するだけでなく、面接官が「弱みを採用の合否の材料にしようとしているわけではない」と示すことが大切です。

例えば、「あなたの評価を下げるためではなく、“働きやすい環境を整えるため”に知りたいと思っています」「人間なので強みと弱みの両方があるのは当然です。私たちは従業員それぞれの弱みの扱い方を知りたいので質問させていただきます」といった質問の意図を伝えるだけでも候補者は通常よりは安心し、率直に語りやすくなります。

候補者が弱みを語らないのは「隠している」からではなく、語ることにリスクを感じているからです。

そのため、以下のようなアプローチを用いることで、候補者は自然に本音を開示しやすくなります。

・直接的に弱みを聞かない

・具体的な状況に置き換える

・周囲の声や期待値として聞く

・サポート条件から逆算する

結果として、「弱みが分かる面接」ではなく「候補者の方が安心して自分を出せる面接」に変わり、採用の質も向上していくのではないでしょうか。

年収による内定辞退を防ぐには?

匿名さん、ご質問ありがとうございます。給与が原因で内定辞退が続いているということは、採用市場の変化に対して、自社の報酬設定や採用戦略が時代に追いついていないサインでもあります。これは採用担当者個人の努力で解決できる問題ではなく、制度・組織戦略・市場相場・採用要件が複合的に絡む構造課題です。

「なぜ辞退が続くのか?」「企業としてどんな打ち手があるのか?」を以下に整理します。図にある「報酬設定」における3つの要素が非常に重要になります。

①Can:どれくらい払えるか(労働生産性・労働分配率)

これは自社の財務体力の話です。企業がどれだけ人件費を投じられるかは、事業収益・人件費構造・利益率で決まっています。

②Must:どれくらい払わなければいけないか(労働市場・相場)

これが現在、最もズレている可能性があります。採用では “企業が払える金額” ではなく、“市場が求める金額” によって難易度が決まるため、Must(市場相場)が Can(支払える額)を上回ると、辞退が続きます。

③Will:どれくらい払うか(報酬ポリシー・戦略性)

企業として「中途採用にどこまで投資するか」という意思決定の部分です。

市場の上位3割に合わせるのか、中央値ターゲットにするのか、水準は低いが成長機会で勝負するのかなど業界水準に対する位置付けを明確にしていない企業は、候補者への価値訴求も曖昧になり、結果として辞退されやすくなります。

採用には「人材レベル・お金・リードタイム」のトレードオフがある

また、こちらの図では、採用における重要な原則を示しています。

多くの企業が「全部どうにかしたい」とお考えになるかと思いますが、これは構造的に不可能です。

例1:いい人を安く採りたい → リードタイムが長くなる

市場価格より安い状態で優秀人材を狙うと、オファー辞退が続き、採用期間が伸びます。

例2:安く・早く採りたい → 人材のレベルに妥協せざるを得ない

採用要件を下げる必要があり、結果的にミスマッチのリスクが上がります。

例3:いい人を早く採りたい → お金が必要

これは近年の採用市場では特に顕著です。待遇改善・採用広報・スカウト強化など、投資が欠かせません。

これらを踏まえ、まずは「相場を知る」ことから始めましょう。適切な年収設定の第一歩は市場相場の把握です。一般的に、以下の情報源を組み合わせることで、相場は高い精度で推定できます。

①報酬サーベイ

大手組織人事コンサル・調査会社が出している職種別年収データです。報酬サーベイに参加するには工数も費用もかかりますが、比較的精度が高い手法になります。

②給与の口コミサイトなどの公開情報

エンジニア職などは「どの企業のどの等級の社員がどれくらいの年収なのか」が分かる口コミサイトが存在します。企業によってはクチコミ件数が多く、参考になります。

③候補者の現在年収

面接でヒアリングできる最もリアルな情報です。特に即戦力層は現在年収が市場水準に近いことが多いでしょう。

④退職者ヒアリング

退職後の転職先の年収を知ることで、「同じスキルセットを持つ人材が市場でどれくらい評価されているか」がわかり、参考になります。

⑤紹介会社・スカウトDB(求人票データ)

転職活動中の動いている候補者の希望年収を見ると、市場価格のトレンドが掴めます。

ただし、注意すべきなのは「制度を変えない限り、採用は改善しない」ということ。採用担当者がもっとも苦しむポイントはこの点です。年収による辞退が続く場合、採用担当者だけが努力しても根本的な改善は難しいことが多いです。なぜなら問題の本質は 「報酬制度の陳腐化」にあることが多いためです。

年収テーブルが5年以上更新されていない、評価制度と給与が強く紐付いており柔軟に調整できないといった構造的な要因を解決しない限り、辞退は続くこととなります。

報酬見直しは「ファイナンス・事業リーダー・外部コンサル」と連携すべき

Can / Must / Will の図が示す通り、報酬設計は人事だけでは担えません。

・Can(どれだけ払えるか) → CFO・ファイナンスの判断

・Must(市場が求める水準) → 人事・採用が把握

・Will(どれだけ払うか) → 経営・事業戦略による意思決定

この3つが揃ってはじめて、合理的な報酬水準が設定されます。

もし現在、採用担当者が「相場より安い気がする」と感じているのであれば、その感覚をデータに変えて関係部署を巻き込みながら制度改善の議論を始めることをおすすめします。

年収による辞退が続くということは、以下の4つの問題のいずれかが起きています。

・報酬テーブルと市場相場に乖離がある

・採用ターゲットと給与レンジが一致していない

・採用のトリレンマのバランスが崩れている

・報酬設定のCan / Must / Will が揃っていない

この状態では、採用担当者の努力だけで解決するのは困難です。ぜひ「相場データの収集」と「社内への問題提起」から始めてみてください。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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