自己効力感を育む新しいメンタリング。女性社員のキャリア形成支援事業「withbatons」
2026.04.16
女性活躍推進に取り組む企業が多い中、日本の企業における課長相当職以上の管理職に占める女性の割合は12.7%にとどまっている(「令和5年度雇用均等基本調査」厚生労働省)。その背景に「女性社員の自己効力感の欠如」があると指摘するのが、株式会社ベネッセコーポレーションwithbatons(ウィズバトンズ)事業責任者の白井あれい氏だ。
withbatonsは現役女性リーダーとの出会いを通じてキャリア支援を行うメンタリングサービス。自分自身のキャリアの方向性に悩んでいた白井氏の経験を元に2024年6月にサービスがスタートし、現在約12,00名以上のメンターがエントリーしている。
withbatons立ち上げの背景、女性活躍施策の落とし穴、そして、女性リーダーを増やしていくために必要なことについて白井氏に話を伺った。
Profile

白井あれい 氏
キャリア支援事業本部 DE&I事業開発部 部長
大学卒業後、厚生労働省に入省し、コンサルティング会社に転じる。出産後、生後半年の長男を連れて、英大学院に留学。帰国後、大手化粧品メーカーで商品開発、マーケティングなど幅広く従事、海外勤務を経て、2020年にベネッセコーポレーションに入社。自らの提案で「withbatons(ウィズバトンズ)」を立ち上げる。
現役女性リーダーとの対話で「自己効力感」を育む
——まず、「withbatons(ウィズバトンズ)」の概要について教えていただけますか?
withbatonsは、女性社員が自社内にとどまらず、他社の現役女性リーダーたちとのメンタリングを通じて、自分自身のキャリアの軸を見つけていく、キャリア形成支援サービスです。メンタリングとは、メンターとの1対1の対話を通じてキャリア支援を含む成長をサポートする人材育成の手法ですが、本サービスは、「メンターが毎回異なる」「自分に近しい環境や状況、価値観の人と対話をする」という点が特徴です。
6回のメンタリングで毎回異なる女性リーダーと対話をしていただくのですが、プロのコーチやキャリアコンサルタントではなく、現役の女性リーダーの方々に参画してもらっています。
日本の多くの企業ではいまだ女性が管理職に就くことが一般的ではありません。そのため、管理職として活躍している女性は高い能力があり、スーパーウーマンであるように捉えられる傾向があります。すると、多くの女性は「自分にはとてもできない」と思ってしまう。つまり「自己効力感」が低いことが要因となっているのです。

このような状況は、企業側からすると「女性たちが管理職をやりたがらない」と映ります。ただ、それは本人たちの意欲の問題というよりは、組織として女性が活躍できる機会や環境が与えられていないにすぎません。
自己効力感とは、ある対象に対して「自分にはできる」と取り組む前から思える未来への自信のこと。自己効力感を上げる方法はいくつかありますが、その1つが「代理経験」です。例えば、ある人が難しい試験に受かったとします。結果だけを聞くと「凄いな」と、自分とは遠い世界の出来事のように感じるでしょう。しかし、その人が自分と似た環境で育ち、同じような経歴を辿ってきたと知ったら「自分も頑張ったらできるのかもしれない」と感じます。
似た境遇の人が困難を乗り越えたり、何かを成功させたりすることで、実際に自分は経験していないけれども自己効力感が高まる。これが代理経験です。

——withbatonsのメンターを現役女性リーダーにすることで、代理経験を得ることができるのですね。
おっしゃる通りです。プロのコーチやキャリアコンサルタントは傾聴をしてくれますが、代理経験は生まれません。
withbatonsは代理経験を重ね、自己効力感を上げながらキャリアの軸を練り上げていただこうという仕組みなのです。多くの男性は身近に男性リーダーがいるので自分でも気づかぬうちに代理経験が積めているけれど、女性たちは周りに女性リーダーが少ないことで積めていない。ここが、女性たちが管理職を敬遠する大きな要因だと考えています。
——白井さんがwithbatonsを立ち上げたきっかけはどのようなものでしたか?
実は、このサービスは私自身がキャリアを積む中で「こんなサービスがあったらいいのに」とずっと思い続けていたものなんです。20代の頃から、自分はどういうふうに生きていくんだろう、どこを軸にしたらいいんだろうと悩んでいました。キャリアの理論は本でたくさん読みましたが、理論ではなく、実際にキャリアを築いている女性リーダーから直接話を聞きたいという気持ちが強かった。
前職時代に初めての育休を取得した時、キャリアが止まってしまうような不安を感じました。その後留学や転職を経て2人目を出産したのですが、子どもとの時間は充実させながらキャリアも築いていきたいという思いを持っているものの、それを共有したり、悩みを打ち明けたりできる人がいなかった。同じような価値観を持つ先輩たちに相談できたらと、強く思っていました。
ベネッセ入社後に、ベネッセグループの社内提案制度が立ち上がり、事務局に入りました。そこで見たのが、新規事業を本気で支援したいと考える経営陣と、その立ち上げに動く優秀なメンバー。ここでなら、私がずっと大事に温めていた、女性のキャリアを支援する事業ができるかもしれないと思えたのです。ちょうど政府が上場企業の女性管理職比率を上げていくという目標を明確に掲げた時期でもあったので、翌年の提案制度に応募し、受賞をしてサービスを立ち上げました。
自分にぴったりのロールモデルは存在しない
——白井さんご自身の経験から生まれたサービスだったのですね。メンターとの出会いはどのように設計されているのでしょうか?
AIを使った独自のアルゴリズムでマッチングを行っています。対話ごとにメンティーの状況を把握し、AIが次のメンター候補を3名選出し、最終的にはメンティー本人にその中から選んでもらいます。現在、約1,200人以上のメンターにエントリーいただいています。
——毎回違う人とメンタリングする理由は?
100点満点のロールモデルとの出会いはほとんど存在しません。様々な人と話して、その方のどこが素敵だと思ったのか、何が自分にとって印象的だったか、という「気づき」を溜めていく。それによって自分がどうしていきたいのか、キャリアの軸、キャリアアンカーを見つけることができると考えています。
また、みなさんの様子を見ていると、初めの2回は漠然とした不安や不満の話がほとんどですが3、4回目あたりで「どうやって強みを見つけたのか」「キャリアチェンジの決め手は何だったか」など具体的な質問が出るようになります。プログラムが進むごとに気持ちや考えがどんどん変化していくんですね。
5、6回目になるとおよその悩みは解決しているので、せっかくなら普段会えない人に会って越境体験をしたいと、新たな出会いを求めるようになってきます。プログラムを通じて参加者自身が自分のキャリアを発見する旅を紡いでいくことができるのです。

——これまでサービスを利用された方の中で、印象的だった人はいらっしゃいますか?
ある方は課長になったばかりで、課長として人を育てることがすごく楽しい、と充実した日々を送っていました。しかし、だからこそ今の充実した状態を守るために「部長にはなりたくない」とおっしゃるのです。実はこういったケースは少なくありません。経験したことのない世界に飛び込むにはやはり心理的ハードルがあるのです。
その方は部長や本部長、役員の職に就くメンターとの対話を通じて、ご自身が課長になる前と課長になった今で見えている景色が違うことを具体的に認識し、部長になった先の景色を見てみたいと思われたそうです。のちに部長昇進試験を受けたいと会社に申請されたと伺いました。リアルな話を聞くことで次の一歩を踏み出せるのだと実感しました。
私たちは「面白い人と会った」という刺激で終わらせたくないと思っています。ロールモデル探しをしてほしいわけでもない。自分のキャリアの見通しが立った、今後管理職にチャレンジしようという意欲が生まれたなど、参加者の方々の変化を生み出していきたいと考えています。
人生の軸を考えるきっかけとなる出会いを届けたい
——多くの企業が「女性活躍」を推進していますが、陥りがちな失敗パターンはありますか?
マーケティングの失敗例と同様なのですが、特に多いのが「全員活躍」のような言葉を掲げてしまうパターンですね。
対象とする属性を絞るからこそインパクトが生まれるにも関わらず、「男性も女性も」と対象を広げてしまう。すると、誰にも届かない施策となってしまう。これはよくある失敗例だと思います。

——そうしたケースに陥らず、意識の変化を組織内で広げていくためにはどのような取り組みが有効でしょうか?
ダイバーシティや女性活躍に関する議論は感情論に終始しやすいですが、それでは何も生まれません。
まずは実際にモデルケースを周知していくことですね。こういう環境を作ってこういう研修を受けたら〇〇さんはこう変わっていった。それによってあの部門は良くなっていった。こうした変化を社内で事例としてきちんと見せていくことが重要です。
「トップの意識が低いと変わらないですよね」という意見もありますが、それでも出来ることはあると考えています。トップの意識が高いに越したことはありませんが、それぞれが育ってきた時代や環境が異なるので、現状に対する認識も大きく異なります。その人たちを一生懸命説得するよりも、実際に変化が起きているという事実を周知していくことの方がよほど有益です。
——最後に、今後のwithbatonsの展望についてお聞かせください。
20年、30年と女性の労働環境を見てきましたが、やはり変化を生み出すには時間がかかります。これだけ変わらなかったということは、今後も急速に変化が訪れると楽観視することはできません。でも、それでも出来ることはあります。
マイノリティであり続ける女性たちが何かを相談したり、何かを知りたい、こういう考え方をと思ったときに、必ず横にあるようなサービス、インフラとしてのサービスになっていきたいと考えています。
ベネッセは「よく生きる」を理念として教育事業を展開していますが、人との出会いから得る学びは大きい。出会いや対話を通じて、この人生の自分の軸を何とするかを考える、withbatonsがそのきっかけになれたらと思います。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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