LIXILに学ぶ「やらされ感」ゼロのD&I戦略――4つのフェーズでインクルージョンの文化を育む
2025.03.25
D&I推進に力を入れるLIXILは、2030年までの目標として女性取締役・執行役比率 50%などを掲げ、グローバル全体でインクルーシブな企業文化を醸成している。大きな目標を掲げるだけでなく、繊細なロードマップの設計や、ERGs(従業員リソースグループ。インクルーシブな職場環境を目指し、5つのテーマで従業員が主体的に活動する)の取り組みによって、着実にD&Iを前進させてきた。昨今では、インクルーシブな企業文化からより多様な顧客ニーズに答えるサービスも生まれてきている。LIXILはどのようにD&Iの文化を根付かせてきたのか。D&Iの推進を担う2人に伺った。
Profile

岩井真愛 氏
Human Resources, Talent Management, Learning & Career COE 統括部長 責任者
2021年にキャリア採用でLIXILに入社。前職では、数社の外資系企業にて約15年以上にわたり、人事および人材開発部門での経験を積む。LIXIL入社当初は日本担当のみであったが、社内でのキャリア機会に恵まれ、アジア・アフリカも担当し、さらに現在はLIXIL Internationalのその他地域を含むグローバル全体の責任者として任務を遂行している。

小林真理 氏
Human Resources, Talent Management, Learning & Career COE, Learning & Career Japan リーダー
2002年に新卒で入社し、サッシ建材工場での現場加工・生産管理を経て、ハウジング事業の生産管理部、エクステリア事業部で業務改善と各部門連携のスタッフ職を経験。2020年10月、HR部門へ異動し、D&I戦略と施策推進に従事。インクルーシブな文化の定着を目指し、D&I教育プログラム開発、ワークショップ実施、グローバルでのERG立ち上げに携わる。
D&IはLIXILのPurpose(存在意義)達成に必要な基盤
――LIXILのD&Iは、経営においてどのような位置づけになっていますか。
岩井:LIXILは「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」というPurpose(存在意義)を掲げ、「インパクト戦略」の推進を通じて、暮らしと社会によい影響を生み出しています。インパクト戦略では、世界的な社会課題のうち緊急性が高く、またLIXILが専門性を活かして大きなインパクトを生み出すことができる優先課題に取り組んでいます。そのインパクト戦略の一つが「多様性の尊重」、つまりダイバーシティの推進です。
また、ビジネスにおける優先課題に「革新」があり、イノベーションを起こして新たなコア事業を創出することに注力しています。そういったイノベーションは、既存のメンバーだけでなく、より多様な従業員が参加することで実現できます。さらにインクルーシブな環境があることで、従業員がより能力を発揮でき、エンゲージメントが高まり生産性も向上していく。
D&Iは、弊社が企業としてのPurposeを達成するために必要な基盤なのです。

小林:D&Iの推進がビジネスの成長につながっていくというストーリーは、弊社取締役 代表執行役社長 兼 CEOの瀬戸をはじめ、取締役 代表執行役専務で人事トップ(CPO)のジン・モンテサーノも常に発信しています。決して流行りに乗った取り組みではなく、ビジネス戦略の一環であるということが、LIXILのD&Iの基本の考え方です。

――貴社のD&Iの推進組織は、どのような背景で立ち上がったのでしょうか?
小林:当社は2018年3月期に「D&I宣言」を発表し、2020年3月期には全社共通の施策に取り組むためD&Iをグローバルに推進する部署を設置しました。また、2021年3月期にはCEOを議長とし執行役と部門長で構成されるD&I委員会を設立しました。
このD&I委員会で議論されたD&Iの方針が、2021年に発信されました。それが「インクルージョンの文化を定着させ、ジェンダー不均衡を是正する」という目標です。
そして2024年3月に、D&I委員会は「D&I審議会」に変わり、経営層・人事主導から現場部門長の主導へと引き継がれました。D&I審議会は、インクルーシブな文化をどう作って根付かせていくかを考えて実践する草の根の活動を行っています。現場に自走してもらうために、審議会に参加するメンバーのアサインも部門に任せています。トップダウンで始まったD&Iを、LIXILのDNAとして深く浸透させるために、従業員主体の体制へとシフトしています。

岩井:また、2022年に「ERGs」(従業員リソースグループ)が発足しました。ジェンダー平等、多文化、障がい、働く親や介護者、LGBTQ+の5つのグループが従業員主体で活動しており、グローバルの全社員が参加できます。ERGsは各テーマにまつわる情報を発信したり、イベントを開催したりしています。

――貴社では、2030年までに役員の半数以上を女性とする目標を掲げており「ジェンダー不均衡是正」のための取り組みが目立ちます。女性活躍推進の重要性をどのように位置づけているのでしょうか?
小林:D&I戦略の目標としてわれわれが目指しているのは、「インクルージョンの文化の定着」です。これを適切に推進できているかどうか測る指標の一つとして、ジェンダー不均衡是正の目標を立てました。
いくつかのインクルージョンのテーマがある中で、ジェンダー均衡の指標を採用したのは、データで捉えやすい指標であることと、管理職における女性比率の低さ、D&I調査において、女性が回答したスコアが低いという結果が明らかになったことなどが背景にあります。
4つのフェーズで着実にD&Iを浸透
――D&Iの推進にあたって、これまでにどういった施策を実施されてきたのでしょうか?
岩井:2021年に、2030年までのD&Iのロードマップを作りました。ビジョンからバックキャストで考え、フェーズ1~4までの段階で構成しています。

フェーズ1は、そもそもD&Iとは何かを知る「認知」の段階、フェーズ2はその理解を深めるD&Iの「基盤づくり」の段階です。3つ目はD&I推進に向かって行動する「コミットメント」、4つ目は、DNAとしてD&Iを根付かせる「統合」のフェーズになっています。それぞれのフェーズで目標を掲げて、アクションプランを策定・実施してきました。
この取り組みの特徴は、フェーズ1~2までをわれわれHR部門が主導した後、フェーズ3以降を現場の従業員が主体で推進している点です。
小林:フェーズ1、2では、「女性」「障がい」といった個別のテーマにフォーカスする前に、「インクルージョンがなぜ大事なのか」を丁寧にひも解き、従業員の理解の促進に取り組みました。
また、女性のキャリアを支援するために、育児休暇や時短勤務に限らないさまざまな制度を整えました。産休・育休を長く取得したい人もいれば、早く業務に復帰したい人もいます。ただ働くのではなく、多様なキャリアを実現できるようにするための制度の整備を進めました。
――多様なキャリアを選べる体制を整えているのですね。
岩井:そうですね。一方で、ジェンダーギャップを避けるためにルールを決めている部分もあります。それは、日々の仕事は全員リモートワークで行い、オフィスはコミュニケーションの場として活用するというスタンスです。
在宅と出社の「ハイブリッド」の勤務形態の場合、従業員に自由に選んでもらうと、女性はリモートワーク、出社しているのは男性ばかり、といった偏りが生まれかねません。
こういった状況を生まないために、「一人で仕事をする時は必ずリモートで」というルールにしているのが、弊社の特徴です。
――現時点で、D&I推進に関してどういった成果があらわれていますか?
小林:ジェンダーに関する目標に対して、女性取締役・執行役の比率が31.3%まで増加しています。また、女性管理職の比率はグローバル全体で17.1%となっています(2024年3月期実績)。

また、従業員サーベイの中に、インクルージョンスコアという指標を置いて計測しています。「自分らしく働けているか」などの設問回答から、従業員がインクルージョンを実感できているかを測る指標です。これは現在71%まで向上しています。
納得感の醸成で「やらされ感」ゼロに
――全社でD&Iの取り組みを推進するにあたって、貴社が重視しているポイントは何でしょうか。
小林:数値目標が女性比率に関するものだと、女性活躍だけの推進と捉われがちですので、「インクルージョンの実現がD&Iの目標である」こと、そして「インクルージョンの実現はビジネス戦略の一環である」ことを強調して全社に発信しています。目的を全従業員に丁寧に共有することが重要だと考えています。
岩井: LIXILのD&I推進の成功要因は、「従業員が主体的にD&Iに取り組める環境」にあると感じています。
従業員も初めは「なぜD&Iが必要なのか」「具体的に何をすればよいのか」といった疑問を抱えているものです。LIXILでは、まずHR部門が主導してロードマップを提示し、D&Iの基礎知識や意義を丁寧に伝えることで、従業員の理解を促進したうえで、従業員主体の活動を促すという段階を踏んでいます。

これにより、従業員は「やらされ感」なく、主体的にD&Iに取り組むことができているのだと思います。
小林:管理職向けのD&I推進プログラムにおいては、人事ではなく管理職自身がファシリテーターを務める形式を採用しました。これは、ワークショップを単に受講するだけではなく、教える立場になることで理解を深める狙いがあります。
ワークショップに先立ち、リーダー向けのD&I推進ガイドブックを発行しました。ガイドブックには、リーダーがD&I推進において直面する課題や、インクルージョンにおけるリーダーの役割、推奨・非推奨の行動、ベストプラクティスなどを記載しています。
このガイドブックを実際に行動に移してもらうための取り組みが、今回のワークショップです。参加者からは、自部門のトップがD&Iについて語ることで、具体的な内容が理解できたという声が多く寄せられました。
――「D&Iはビジネス戦略である」という点を強調されている貴社ですが、実際にビジネスにどのようなインパクトをもたらしていますか?
小林:インクルーシブな目線でのものづくりは、あらゆるお客様のニーズに応える商品を提供することにつながっています。
5つのERGの一つに「障がい」のテーマにフォーカスしたものがあります。その日本の執行役を務めているのは聴覚障害のあるメンバーです。
そのメンバーの提案で、「LIXILオンラインショールーム」というオンライン相談に、音声認識を活用した文字起こしが導入されました。耳が不自由な方にも安心して使っていただけるサービスになっています。
岩井:また、身体障がいのある従業員の商品についての意見が社内SNSなどで投稿される機会も増え、開発担当者の意識の変化や使う発想の広がりも出てきていると感じています。「ボディハグシャワー」は、一般の方はもちろん、車いすのままでも前身を温められる点をLIXILの車いすを使う従業員が体験レポートで伝えるなど、そういった考え方が反映された商品PRの一つです。
従業員自身の意見や感想が商品に反映され、お客様の役に立つ喜びは、エンゲージメントの向上にも結びついています。
――貴社のD&Iの今後の展望をお聞かせください。
岩井:KPIの達成に向かって歩んでいくことはもちろん、従業員が「LIXILで働きたい」と思える環境づくりに力を入れていきたいですね。
現在は、従業員のキャリアは配属のローテーションに左右されている部分が大きいのですが、今後はより自律的なキャリアを後押ししたいと考えています。
小林:私はD&I推進に長年関わる中で、「継続すること」に対する使命感を持っています。D&Iがトレンド的に注目されている今、時代が変わったら優先度が下がってしまうといった事態は避けたい。エンゲージメントの向上やD&Iの文化醸成は、目に見えないことが多いのですが、継続してこそ成果が表れます。
われわれD&Iの推進担当は、取り組みを継続するためにどうしたらいいか、これからも考え続けていきます。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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