トップダウンから「逆ピラミッド組織」へ。10年で組織変革を実現した大東建託のアプローチ
2026.05.26
目次
「上司に意見が言えない」「有給休暇が取りにくい」——トップダウン型の経営により、こうした閉塞感を抱えている企業は少なくない。
こうした構造的な課題と実直に向き合い、組織文化改革を実現させたのが大東建託だ。同社は「逆ピラミッド組織」というキーワードを掲げ、現場が主役となるボトムアップ型の組織文化を浸透させてきた。「当たり前」とされていた文化を脱却し、組織を変革させるために取り組んだこととは?執行役員HR統括部長の湯目由佳理(ゆのめゆかり)氏に聞いた。
Profile

湯目 由佳理 氏
大東建託株式会社 執行役員 HR統括部長
2000年に派遣社員として入社し、2002年、正社員に。2016年に人事部のダイバーシティ推進課(現ダイバーシティ推進部)に異動。長時間労働の是正や有給休暇取得の促進、人材育成施策や労働環境と業績のバランスを見た評価指標の導入など、幅広い人事・労務施策に携わる。また、女性活躍推進を目指すプロジェクト「いろどりLAB(ラボ)」の立ち上げや、両立支援制度の拡充、女性育成プログラムの導入などを通じて、女性管理職の登用拡大にも力を注いでいる。
「物が言えない組織」から「逆ピラミッド組織」への転換
——大東建託で組織改革に取り組んでこられたと伺いました。出発点にはどのような問題意識があったのでしょうか?
弊社は長年トップダウン型の経営で業績を伸ばしてきた会社でした。ただ、従業員満足度調査や各種アンケートなどから「物が言えない組織」「経営層との距離が遠い」という声が弱みとして出てきたんですね。業績は伸びているものの、組織の中に壁のようなものがある。その問題意識が取り組みの出発点でした。
より強い組織にするためには、社員一人ひとりがボトムアップで関わることが不可欠。そうした考えにシフトし、「現場の担当者が主役であり、管理職はあくまで支援者」というメッセージを社内で繰り返し発信していきました。

——変革のキーワードとして「逆ピラミッド組織」を掲げていますが、これはどのようなものを指すのでしょうか?
2023年に竹内が社長に就任し、今の大東建託グループに必要なのは、トップダウン型の組織から、「現場主義」で「逆ピラミッド型組織」への変革だという発信をしました。これまで上司は現場の指揮を執る「指示者」という存在でしたが、これからは現場を頂点に置いて、管理職がその現場を支援するという構造へ変えていく。社員が主役となり、経営層がそれを下支えする組織が逆ピラミッド組織なのです。
その実現に向けて、「体質強化プロジェクト」を立ち上げました。役員や現場の支店長・課長など193名のメンバーが参加し、1年間で延べ5,000時間もの議論を重ねました。役員が考えて現場へ落とし込むより、現場の人々が自ら考え出したものの方が、一人ひとりが主体性を発揮しやすい。最終的には現場の支店長・課長クラスの意見を軸に、パーパスに基づく行動指針を策定しています。
このプロジェクトは三段階で進めています。最初のステップとして行動指針を策定し、次のステップでは評価や制度を自律型の組織に合った形へ変えていく。そして最終ステップとして、風土として定着させる施策を検討しています。

有給取得率が大幅に向上。価値観変革を実現する3つのアプローチ
——組織の価値観を変えるために必要なことは何だと思いますか?
変革を実現するためには大きく3つのアプローチが重要だと考えています。
まず1つ目は、ある程度の強制力を持って徹底すること。変化の初期には必ず反発が起こりますが、それでも諦めずに続けることが重要です。
2つ目は、意味の浸透です。個別の施策を推進するだけでなく、その背景にある考え方や目的を丁寧に伝え続けることが、表面的な行動変容ではなく価値観の変化へとつながります。納得感がなければ、人は動かないんです。私自身、現場からの「なぜ」に答えるためのコミュニケーションを工夫してきました。
3つ目は、評価制度との連動です。評価というのは、組織が重視している価値観を伝えるメッセージです。会社が重視している価値観と、評価制度・研修・施策の整合をしっかり取っていくことが、変革を加速させる上では効果的だと感じています。
——価値観を変革させた具体例として、有給休暇取得率の向上についてお聞かせください。
取り組みを始めた2014年度の有給休暇取得率は33.5%でした。当時は「有休なんて取らないものだよね」という空気が現場に根強くあり、残業や休日出勤も当たり前だと思われていたんです。それから10年後の2024年度には84.6%まで向上させることができましたが、そこには段階的なアプローチがありました。
まず最初に取り組んだのが「アニバーサリー休暇」という名称をつけ、有給の取得を義務化することでした。固有の名前をつけることで、社員が上司に申請しやすくなりますし、義務化することで「人事が取れと言っているので」という後ろ盾ができるようになります。
しかし、一定の効果が得られたタイミングで「アニバーサリー休暇の日数を超えると途端に言い出しにくい」という声が現場から上がってきました。そこで、思い切って「期初に取得目標(当時は70%)日数分の有給の取得計画を立て、上司と共有してください」という施策を打ち出しました。
案の定、社内からは「先の予定なんてわからないから無理です」という声が出てきました。ただ、その反発は想定内なんです。それだけ大変な日数だということにまず気づいてほしい、というのが施策に込めた意図の1つでした。「取れるときに取ろう」では、結局変化は起きないんです。
例えば、打ち合わせの依頼があったとしても、先約があればお断りしますよね。有給休暇も同じで、先に計画を立てていたならその日は動かさない。それぐらいの重要度で取り組まなければならないと丁寧に説明しながら浸透させていきました。

——評価制度との連動はどのように実現させたのですか。
2018年度に当社独自の評価指標である「健全経営ランキング」に有休取得率の項目を加えました。これは営業成績・収益といった業績結果に加え、「生産性」「人材育成」「働きやすい職場環境づくり」という、組織の健全経営に欠かせない要素を盛り込んだ指標です。有休取得率は「働きやすい職場環境づくり」の指標に含まれています。
印象的だったのは業績トップの支店の事例です。その支店は、業績においては1位なのに「健全経営ランキング」では10位以下という結果でした。支店長が原因を特定したところ、有休取得率が他の支店よりも低かったのです。そこで、すぐに育休取得率の向上に取り組み始めました。
——指標化することでアクションにつながったのですね。
すぐに数値にも現れ始め、やがて支店全体の空気が変わっていきました。誰かが休んでいることが当たり前の状態になり、有休取得への抵抗感がなくなる。そうした環境で業績も上げなければならないため、結果的に業務の効率化にもつながっています。
また、並行して取り組んできた長時間労働改善の成果として、月平均残業時間も2018年度の約24時間から2024年度には約14時間まで削減されました。離職率についても、2014年度の17.4%から2024年度には9.4%まで改善しています。
——「働きやすさ」と「働きがい」の両立についてはどのようにお考えでしょうか。
営業ならお客様に喜んでいただけることだったり、技術職なら物件が完成することだったりと働きがいは人それぞれであり、制度によって一律に作れるものではありません。だからこそ、まず働きやすさという土台を整えることに注力してきました。
どんなに働きがいのある仕事でも、休みが取れず、身体を壊してしまうようなことがあっては本末転倒です。働きやすい環境があるからこそ長く働けて、エンゲージメントが高まっていく。そうした環境があってこそ、良いパフォーマンスが出せて、働きがいを感じられる。働きやすさが土台にあってこそ働きがいが生まれるものだと思っています。
支援型リーダーシップへの転換により、女性活躍推進を実現
——女性活躍推進については、どのような取り組みをされてきたのでしょうか。
女性活躍推進法が施行されたタイミングで課題を特定したとき、最優先課題として浮かび上がったのが長時間労働の改善でした。家庭を持つ社員にとって長時間労働はキャリアアップの障壁になります。そこでまず労働時間の短縮に取り組みました。
また、女性管理職比率の向上を目指し「クオータ制」をはじめとした「女性育成プログラム」を導入しました。3年後の女性管理職の人数を設定し、執行責任者(役員層)の責任において、計画的に育成、登用する仕組みです。重要なのはポストの数や候補者の状況を根拠に人数を設定し、目標値ではなく必達とすることです。
設定された人数が目標値であれば「優秀な女性がいたら登用する」というスタンスになってしまう恐れがありますが、必達事項であればマネージャーは本気で候補者を探し、登用するためのアクションを起こします。
実際、この取り組みを始めた際に、マネージャーから「女性管理職の候補者が少ないことに改めて気づくことができた」という声が上がってきました。そして、その後は各部署ごとに女性社員に向けたヒアリングが行われるなど、自発的なアクションにつながっていきました。

——新たに女性管理職となる方々に向けて、どのようなフォローを行ったのでしょうか?
女性育成プログラムの中でリーダーシップについての研修を行いました。弊社はもともとトップダウンが強い会社でしたから、「強くなければ管理職はできない」というイメージを持っている女性が非常に多かった。過去に女性の部長や役員はいましたが、「あの人だからできる」という見方になってしまい、ロールモデルとして機能していなかったのです。しかし、女性たちにボトムアップでチームをまとめていく「支援型リーダーシップ」のあり方を伝えると、「私にもできるかもしれない」という声が出てきました。
指示命令を出し、部下からの期待に応える完璧な上司でなくていい。みんなで頑張ろうと言いながらチームと一緒に走るリーダーがいてもいい。こうした支援型リーダーシップへの転換は、女性だけへの働きかけではありませんでした。実はその頃には、昇進時の新任管理職研修の内容は支援型のリーダーシップに変えていました。
女性活躍推進の取り組みは、現場主義・逆ピラミッド組織への転換とも根底で繋がっているのです。
組織の「強み」「弱み」は変化するもの
——これまでの取り組みの成果を湯目さまはどのように捉えていますか?
各施策のKPIにおいて数値的な成果が現れていることに加え、エンゲージメントも右肩上がりに向上しています。上司・職場との信頼関係に不安がある低エンゲージメント社員の割合は、第1回調査時には25%近くありましたが、直近では6%台まで下がっています。離職率も低下してきていますし、設計職では新卒採用の約半数が女性を占めるまでになりました。
ただ、私が重視しているのは数値を上げることではありません。組織の強み、弱みがどこにあるかは、社会と共に変化していくものです。弊社においてもトップダウンが良しとされてきた時代を経て、現代ではボトムアップ型の組織風土が求められるようになりました。数字の変化を追いかけることではなく、組織が変化するための対策が適切に行われていくことが重要だと考えています。
——今後、大東建託ではどのような変化を目指していくのでしょうか。
これまでの10年は課題を特定して解決策を打つというフェーズでした。今後は人事戦略と経営戦略をより深く連動させていきたいと考えています。来年度にはまた新たな中期経営計画の策定を行っていく予定です。より戦略的に、経営に直結させるアクションができるかを議論し、人事の観点から強い組織づくりにチャレンジしていきたいと思います。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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