イノベーションを生む、丸井グループの経営戦略としての多様性推進
2024.09.13
丸井グループはDE&Iの取り組みに力を入れ、社外から評価を得ている。LGBTQ+の働きやすさを実現する取り組みを評価する「PRIDE指標」で7年連続ゴールド認定を受けるほか、「D&I AWARD 2023」においては「D&I AWARD大賞」を受賞。組織の多様性が進んだ結果、事業にも成果が表れている。大企業の組織内でDE&Iの取り組みが推進され、文化が根付くには、どのような試行錯誤があったのか。丸井グループ 人事部 ワーキング・インクルージョン推進担当の後藤久美子さんに話を伺った。

後藤久美子 氏
2007年度入社。営業店で販売促進業務を経験後、自社通販サイト「マルイウェブチャネル」の企画・制作やプライベートブランドの商品開発・ブランディング・事業戦略を経て、2021年度に管理職に昇進。1年間フィンテック事業に携わり、2022年度より現職。
日々の仕事に「インクルージョン」の精神が根付く
──丸井グループがDE&Iを推進する背景には、どういった思想があるのでしょうか?
まず、当社のミッションは「すべての人が『しあわせ』を感じられるインクルーシブな社会を共に創る」ことです。また、2050年までに達成したいビジョンとして「インパクトと利益の二項対立を乗り越える」という目標を掲げています。なので、誰も置き去りにしない「インクルージョン」の考え方は、われわれが日々仕事をするベースになっています。
そもそも丸井グループの創業期のビジネスは、家具の月賦販売。創業の精神として、「お金持ちしか買えなかった家具を、一般の人も分割払いで手が届くように」というインクルージョンに通じる発想がありました。現在は、既存の金融ではサービスが行き届かなかった若者を中心としたすべての人に、豊かなライフスタイルを実現する金融サービスを提供しています。
また、「すべてのお客さまに喜んでいただける商品」の取り組みとして象徴的だったのが、パンプスの商品開発です。それまでの当社のパンプスは、22.5~24.5cmまでのボリュームゾーンのサイズしかラインナップがありませんでした。もっと小さい・大きい足のサイズの方は履けるパンプスがなく、仕方なくスニーカーを履いているというお客さまもいらっしゃいました。このようなお客さまを取り残さないように、2010年よりパンプスのサイズを拡大してきました。現在は19.5cm~27cmまでのサイズを展開し、すべての人に喜んでいただける商品開発を実施してきました。

──見過ごされてきたお客さまをインクルードしていく動きが生まれたのですね。一方で、社内組織のDE&Iはどのように進んだのでしょうか?
2013年から、「男女」「年代」「個人」の3つの多様性を掲げて、企業文化の変革を進めてきました。上位職や意思決定の場が、いわゆる「おじさん」ばかりの偏った組織にならないよう、意識的に組織変革を行ってきたのです。現在では女性も若手も、積極的に意思決定の場に加わり、女性管理職も当たり前になってきました。
──直近の特徴的な取り組みにはどんなものがありますか。
例えば、2021年から2022年まで「ジェンダーイクオリティプロジェクト」を推進してきました。
男性は仕事・女性は家事育児といった性別役割分担意識があるために、本当は家事育児に参画したい男性が仕事ばかりになってしまったり、女性は家事育児の方にリソースを振ってしまって会社でなかなか活躍できなかったりという事情が存在します。この課題をできる限り払拭し、誰もが自分の可能性にチャレンジできる組織風土を目指すプロジェクトとして、活動を行いました。
この活動を始めるにあたって、プロジェクトの中心メンバーが議論していたのが「社員の男女比は半分ずつなのに、短時間勤務は女性ばかり」という問題です。「子どものお迎えに行ってきます」「子どもが熱を出したので休みます」という言葉は、男性社員から聞くことは少ないですが、本来は男性が短時間勤務を選んでもいいはずです。家事育児分担の偏りの問題では男性が悪者になりがちですが、「男性も本当は家事育児をしたいのでは」とも思うんですよね。一方で「結婚したら男は仕事で稼ぐべき」という謎の意識が、丸井グループだけでなく社会全体にある。そうしたアンコンシャスバイアスが、企業の女性活躍を阻むのではないかという仮説がありました。
そこで、具体的な取り組みとして、性別役割分担意識のバイアスを理解してもらうために、わかりやすい漫画を制作・展開。また、チームで勉強会を行うほか、専門家を呼んで全社員が参加できるイベントを開催しました。

丸井グループにある身近な事例を表現した漫画
その結果、当社の女性活躍の重点指標である「女性イキイキ指数(※)」のいくつかの項目が向上。例えば、男性が育児休暇を1か月以上取得する割合は、2%から52%まで上がってきました。また、社内アンケートで聞いた「性別役割分担意識を見直すことに共感しますか」という質問に「共感する」と答える社員も増加しました。

※女性活躍の取組の進捗状況を可視化する独自のKPI。例えば、女性のリーダー比率の向上や上位職志向、男性の育児休暇取得率などの項目で数値目標を掲げる。
丸井グループがここまでDE&I推進できた理由
──2023年には「D&Iアワード」を受賞されました。ここまでDE&Iの取り組みが進み、評価される理由について、後藤さんはどのようにお考えですか。
ポイントの一つは、トップダウンとボトムアップの両方で進めることだと思います。
2015年3月期から中期経営計画において「多様性推進」を明確に掲げ、「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」(内閣府)への参画をはじめ、全社員に配付した「ダイバーシティブック」でトップメッセージを発信、方向性を示しました。
一方で、管理職で構成する「多様性推進委員会」と、グループ横断の社員で構成する「多様性推進プロジェクト」を結成し、社内の多様性への理解を浸透させる草の根活動をくり拡げるなど、トップダウンで方向性を示し、ボトムアップで多様性の取り組みを推進してきました。
社長の号令だけでは「言われたからやらなければいけない」という義務になりがちです。しかし、当社では「手挙げ」の制度があり、公募のテーマに対して課題を感じている社員たちが集まって、そのメンバーを中心にプロジェクトを進めていきます。先述のジェンダーイクオリティプロジェクトもその一つです。募集人数に対して多くの応募があるため、論文を提出してもらい、名前を伏せた状態で選考してメンバーを選出しています。
手挙げでは、店舗勤務の社員や管理職、新社員など、さまざまな所属や立場の社員が集まるので、異なる多様なアイデアが共有されます。現在は、中期経営推進会議も手挙げ制となり、参加メンバーが単一的だった会議の多様化が進んでいます。

自分の隣にいる仲間がすごい熱量で、「こう変えていきたいんだ」と共有してくれると、周りの社員にとってもだんだんと自分事になってくる。手挙げ制度は自主性が高まる仕組みになっています。
もう一つのポイントが、活発な部署異動の仕組みです。さまざまな部署を経験することによって、好きなことや得意領域を増やして成長してほしいという狙いで、2014年から行っております。今ではグループ全体の約85%の社員が、職種変更を経験しています。
ほとんどの社員が異動したり、異動者を受け入れたりする経験が当たり前にあるので、多様性を受容する土壌があると感じます。私も経験があるのですが「異なる意見を取り入れることがプラスに働く」という実感があるのです。
──とはいえ、全く異なるバックグラウンドの社員同士が、建設的に意見交換ができるようになるまでには、困難もあったのでは?
そうですね。例えばレディースシューズ売場20年の小売経験が長いベテランの方が、本社のフィンテック事業関連部署に異動すれば、全く常識が異なる世界で働くことになる。孤独を感じたり、意見を聞いてもらえなかったり、ハレーションも多かったと聞きます。しかし、新しく入った社員の意見を試しに取り入れてみると、成果が出たりするんですね。その動きが波及して、今では当たり前に違いや気づきを発言できる文化が根付いています。
この困難を乗り越えられたポイントは二つあります。一つは、マネジメントです。管理職が外から来た人を寛容に受け入れて、きちんと声を聞こうというスタンスになれれば、チーム全体にもその姿勢が広がっていきます。
もう一つは成功体験によって実感が伴ったこと。これまでの常識を変えて、新しい意見を受け入れてみたら、自分にとってもお客様にとってもいい結果が生まれた。その経験が、次に異なる意見と出会ったときにも、対話へと促してくれます。
──DE&Iの取り組みを進めることは、丸井グループ全体にどのような成果・影響をもたらしていますか。
ミッションにも組み込まれているように、経営戦略として多様性推進に取り組んできました。仕事のベースに「画一的な組織からイノベーションは生まれない」という考え方があり、多様性を推進することが新たな価値創造や新規事業、利益につながると考えています。
実際に起きたイノベーションとしては、ある女性若手社員の提案したエポスカードのデザインが、人気を博し大きく発行数を伸ばした事例があります。それが人気のアニメキャラクターのデザインの券面です。担当者が「そのアニメが好き」という熱い思いをもって提案・交渉し、誕生したという経緯があります。性別や年齢関係なく、意見を通せる環境であることと、個の「好き」を大事にする文化が、事業貢献につながった象徴的な事例です。
また、DE&Iの取り組みを発信することで、社外評価も向上しています。ブルームバーグ株価指数やESG指標の評価が高まっているほか、なでしこ銘柄としても選出されています。企業価値の向上という側面でも、DE&Iの取り組みの意義は大きいと感じます。
丸井グループのDE&I、これからの取り組み
──DE&Iに関して、今まさに力を入れている取り組みや、これから着手したいことがあれば教えていただけますか?
丸井グループでは、障がい者と健常者が一緒に働くインクルージョン配置が進んでいます。その中で、社内表彰制度である「Breakthrough Award」を障がいのある二名の社員が受賞しました。お互いの得意を掛け合わせて、苦手はフォローしあうことで成果を出し、評価された形です。
実は、障がいのある社員の方が「強みを生かしてチャレンジしている」と感じている割合が正社員より3割ほど高いというアンケート結果も出ているんです。強みと弱みをさらけ出して、それぞれの個性を掛け合わせて働くことは、正社員も目指したい働き方です。今後は、多様なメンバーがともに働くワーキングインクルージョンに引き続き力を入れていくとともに、「個性を掛け合わせる」働き方を、組織全体に広げていきたいと考えています。
また、丸井グループは、社員一人ひとりが物事に没頭できる「フロー」状態(※)の組織を目指しています。そのため、「自分の『好き』を仕事に生かせているかどうか」も一つのインパクトKPIとして置いています。「アニメキャラクター券面」の事例もそうですが、「好き」いかせているほどフロー状態になっていたり、パフィーマンスも高いはず。一人ひとりの「好き」を尊重し、こうした人を増やしていきたいですね。
※心理学者のM.チクセントミハイが提唱した概念で、人が精神的に行為に集中している状態。楽しさや喜びを伴い、その人の最高の力が引き出される、とされている
──最後に、DE&I推進を通してどのような世界を目指していくのかお聞かせください。
丸井グループの課題は、当社だけでなく社会の課題でもあるんですね。例えば、「男性が育休を取得しづらい」「女性管理職が増えない」といった問題は、社会全体が共有している課題です。丸井グループは、その課題解決に実験的に取り組み続ける「社会課題解決企業」への進化を目指していきます。
また、働く人の幸せと利益は二律背反ではありません。社員がイキイキと幸せに働くことと、成果を出すことは対立しないはずなので、DE&Iを通じて両立できるように働きかけていきます。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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