利他主義のカルチャーから自然と生まれたLIFULLのD&I。小さな活動から全社推進へ

「D&I AWARD 2023」でD&I AWARD賞を受賞した株式会社LIFULL。同社では、「D&I+(ディーアンドアイプラス)委員会」という有志チームが、D&Iに関する活動を主体的に推進している。そして、「LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL」という事業活動を通じて、多様な人に住まい探しの機会を提供することも目指している。D&Iの活動が形骸化してしまう企業も多い中、社員ひとりひとりがD&Iを自分事として捉え、現場に根付いた活動が実現できるのはなぜなのか。

同社の「D&I+(プラス)委員会」の委員長を務める堺亜希さんと、同委員会の事務局でもあり、人事本部組織開発グループグループ長の村川麻衣さん、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALLの事業責任者 龔 軼群さんにお話を伺った。 

堺亜希 氏

LIFULL HOME'S事業本部 サービス企画マネージャー、D&I+委員会委員長

業務系アプリケーション開発のシステムエンジニアとして社会人キャリアスタート。その後、通信機器販売企業、ジョイントベンチャーを経て2009年にLIFULL(当時ネクスト)に企画職にて入社。LIFULLでは売買領域の企画・新規事業(ヘルスケア事業)・CRM(メールマーケティング)などを経験し、現在は新築一戸建ての企画グループ長を務める。

 

村川麻衣 氏

人事本部 組織開発グループ グループ長

2009年にLIFULL(当時ネクスト)に人事として入社。入社以来、LIFULLの組織開発に携わり、D&I+委員会の立ち上げ時から事務局を務める。

 

 

龔 軼群(キョウ イグン) 氏

LIFULL HOME'S事業本部
FRIENDLY DOOR 責任者

2010年新卒入社。2018年に新規事業提案制度「SWITCH」で優秀賞を獲得し、2019年11月、社会的弱者に対して包括的に住まい支援を行う「FRIENDLY DOOR」をサービスローンチし、事業責任者を務める。LIFULLの社会貢献活動委員。

社員主体の小さな活動から、全社のD&I推進へ

――LIFULLでは2021年から「D&I+委員会」が発足し、活動を推進されています。D&Iの取り組みをどのように位置づけていますか?

堺:D&I+委員会は「誰もが多様性を持つ一員として存在し、情熱を持ってあらゆるライフをフルにする」というビジョンで活動しています。これは弊社の理念と繋がっています。

LIFULLは「あらゆるLIFEを、FULLに。」を掲げて、住まいを探す多様な人たちが受け入れられるサービスを目指しています。そのためにまず私たち自身が、多様な個人を歓迎して理解し合う組織であるべきだと捉えています。そういう意味で、LIFULLにとってD&Iは非常に重要な取り組みです。

村川:D&I+委員会が立ち上がったのは2021年ですが、実はそれ以前からD&Iに該当する活動はありました。LIFULLには、課題意識を持った社員が自発的にワーキンググループを作り、課題解決に向けて活動する文化があります。

例えば、子育て中のメンバーが有志で集まって、働くママのサポートを考える活動や、障がい者と一緒に働くというテーマで活動しているグループがありました。D&Iに限らず、テーマに賛同する人が部署を越えて集まり、自主的に運営しているんです。

D&Iにまつわるテーマで活動していた5つのワーキンググループを束ねて、より推進力を高めていこうと組成されたのがD&I+委員会です。委員会の活動はワーキンググループと異なり、会社の公式な組織のひとつです。そこで、年2回、全社のインクルージョン度を測るアンケートを実施するなど、全社員を巻き込んだ取り組みに拡大しました。

堺:体制としては、テーマごとに5つのチームで構成されています。「ジェンダーギャップ支援チーム」「子育て・持病・介護支援チーム」「エンパワチーム(障がい者・スペシャルニーズ支援)」「多文化共生支援チーム」「LGBTQ支援チーム」の5つです。

これに加えて、今期は横断チームとして、アンコンシャスバイアスを全社に啓発するチームも発足しました。

――すでに社員が主体的に行っていた活動に、D&Iという名前がついたのですね。委員会化してからは、まずどんなことに取り組んだのでしょうか?

堺:委員会には、これまでワーキンググループで活動していたメンバーはもちろん、新たな有志メンバーも加わって、新卒1年目からベテランまで約30名が集まりました。そこで最初に議論したのは「なぜ私たちはD&Iをやるのか?」ということ。この目線合わせと言語化には時間を費やしましたね。

村川:結構時間がかかりましたよね。ワーキンググループをやってきたメンバーも、特定課題への感度は高くても、D&Iの知識はない。まずは自分たちが正しい知識をインプットするために、他社の事例や書籍からD&Iを学びました。

堺:そのうえでLIFULLが目指すべきD&Iは何かを議論し、先ほどお伝えしたビジョンと、D&I+委員会という名称が決まりました。「プラス」には、多様な人を包摂する通常のD&Iに留まらず、機会の公平性を実現することや、その先のイノベーションを目指す意味を込めています。

村川:数か月の議論を経たことで、「LIFULLの理念を実現するために、D&Iに取り組む」ということを、まずは委員会メンバーが納得しました。

その次に取り組んだのは、このD&I+委員会のビジョンを全社で共有すること。そのために全社員が参加するワークショップを行いました。これが、全社でD&I活動を浸透させるポイントだったと思います。

そこで伝えたのは「なぜ委員会を作るのか」「何を目指しているのか」「そのために全社員に協力してほしいことは何か」といった、D&I活動のベースになる思想です。例えば、「誰しもアンコンシャスバイアスを抱えているので、それに気づくところから始めましょう」といった話を、一方的な研修ではなくディスカッションという形で共有できたのがよかったですね。

活動の成果がスコアに顕出、さらなる自信に

――D&Iの活動における目標はどのように設定し、それに向けてどんな活動を行っていますか?

堺:委員会の目標KGIは「インクルージョンスコア」の向上です。それに対してチームごとに施策のアイデアを練り、実施しています。いずれもワーキンググループとして主体的に活動してきたチームなので、具体的な目標と施策の決定は各リーダーに任せています。

チームごとにさまざまな取り組みがありますが、代表的なものが「LIFULL大学ゼミ」の開催です。LIFULL大学ゼミとは、社員が自由に参加できる社内勉強会です。

例えば先日はジェンダーギャップ支援チームがゼミを開催しました。女性社員のキャリア支援を目的に、先輩女性社員に聞いた「20代の時にやっておけばよかったこと」をランキング形式で共有しました。

また、多文化共生支援チームは、英語を学ぶ勉強会を開いたり、外国にルーツを持つ社員へのインタビューを社内報に連載したりといった取り組みを行っています。

――取り組みの成果はどのように表れていますか?

堺:目標としているインクルージョンスコアは順調に向上しています。これは半年ごとに実施しているインクルージョンサーベイでのポジティブ評価(※)の割合です。2022年9月期の時点でも74%と高い値だったのですが、2024年9月期時点で86%まで伸びました。社員全員が自分の力を発揮できる環境に近づいてると言えます。

また、「D&I AWARD 2023」でD&I AWARD賞を受賞したことも一つのいい結果でした。スコアの向上やアワードでの評価が、「これまでの活動は間違っていなかったんだ」という自信にもつながりました。

※誰もが自分らしく活躍できる環境であるかを社員自ら5段階で評価、「4 まあ発揮できる環境」+「5 発揮できる環境」の合計

村川:また、先述の通り今期は「アンコンシャスバイアス」を啓発する活動も全社(全部署)で行いました。これは個別の属性課題とは別に、D&I推進のために取り組むべきテーマ。委員会としてD&Iに取組むようになったことでこうした全社に向けた施策に着手できたのも一つの成果だと感じています。

アンコンシャスバイアス啓発のチームでは、メンバーが各部署のミーティングにお邪魔してアンコンシャスバイアスを学ぶ動画を用いたオリエンテーションを行いました。改めてアンコンシャスバイアスを学び、意識して、日常のコミュニケーションを振り返ってもらいました。

――オリエンテーションの時間を割くのは敬遠されることもありそうですが……各部署からはどんな反応がありましたか?

堺:皆さん前向きで、快く参加してくれましたね。「なんでこんなものをやるの?」とあしらう人は全くいません。D&I+委員会立ち上げ時にビジョンを丁寧に共有しているので、D&Iに取組む意義は理解してくれているのだと思います。

活動後は、社員同士の会話の中で「それってアンコンシャスバイアスじゃない?」といった気づきが生まれています。劇的に変わるというより、草の根的にじわじわと広がって、良いコミュニケーションが生まれていくんだろうと思います。

事業活動にもD&Iの精神が根付いている

――LIFULLでは、事業領域である住まいや暮らしにおいてもD&Iを体現する活動「LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL」に取り組んでいますよね。どういった事業でしょうか?

龔:「LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL」は、さまざまなバックグラウンドを理由に住宅の選択肢が限られる「住宅弱者」の問題を解決するための活動です。あらゆる人の“したい暮らし”を実現することをミッションに掲げており、2つのプロジェクトが紐づいています。

一つは、LIFULL HOME'S「FRIENDLY DOOR」という事業です。高齢者、外国籍、LGBTQなど、属性を理由に家探しを断られてしまう方がいます。そういった方が安心して住まいを探せるフレンドリーな不動産をつなぐサービスです。

もう一つは、難民やDV被害者といった、住まい探し自体が困難でサポートが必要な方に手を差し伸べる「えらんでエール」。こちらは民間シェルターを支援する活動です。LIFULL HOME'Sで問合せしたユーザーが応援したい非営利団体を選ぶことで、当社がユーザーの代わり売上の一部を支援する仕組みです。

なぜこうした活動をLIFULLがやるのかと言えば、公的な支援が足りていないからです。資金が足りず、弱い立場に置かれた人々への緊急支援を行なっている民間シェルターが潰れてしまうという社会問題がある。LIFULLは企業の社会的責任として、この課題に向き合っています。

住まいを自分で探せる人向けには事業として、緊急の支援が必要なところには寄付の形でサポートすることで、あらゆる人が“したい暮らし”を実現するのが「LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL」です。

――LIFULLが企業として利益を上げるという目的を超えて、社会課題に向き合いD&Iを実現する事業を作れるのはなぜでしょうか?

多くの企業が売上至上主義だと思うんです。でも、LIFULLは創業時から人のためになる活動をして、それに対する「ありがとう」が売上になって返ってくることで大きくなってきた会社です。社員はその精神に共感していて、有志メンバーによって社会貢献活動委員会も運営されています。私もその一人です。

なので、社内のD&I活動と同様、「LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL」も以前から取り組んできた事業がD&Iとして評価されたという形だと思います。

社員主体のD&Iを実現できた理由

――D&I+委員会から「LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL」の事業まで、LIFULLでは社員の皆さんが主体的にD&I活動に関わっている姿が印象的です。なぜここまで自分事としてD&Iを進められるのでしょうか?

堺:一つは、社是である「利他主義」の文化が浸透していることが大きいです。皆、誰かの困りごとを解決したいという精神を持っているんですよね。社内でわからないことがあれば、忙しくても嫌な顔をせずに時間を割いてくれます。ビジネスや社会に対しても同じスタンスで向き合っているから、社員の活動が自然とD&Iに結びついたのだと思います。

村川:人事としては、そういう利他主義の精神を持った人を採用することを大事にしています。社是や経営理念に本気で共感して「この船に乗りたい」と思ってくれる方だけを採用して、仲間になってもらっています。また、人事制度にもそれは一貫しています。

龔:それから、私が「FRIENDLY DOOR」の事業を提案したときにも感じたことですが、出る杭を叩くのではなく「応援する」文化があります。想いをもってやりたいことがある人を後押しする環境もポイントだと思います。

堺:社内で声を挙げられる雰囲気は本当に大事ですね。実は、D&Iにまつわる課題を感じている人がいても「こんなこと言っていいのかな」「誰にも賛同されないんじゃないか」といった不安があると、動き出せないと思うんです。

――LIFULLのように社員が気軽に声を挙げる文化がない場合でも、人事が主導して醸成できるものでしょうか?

村川:人事としては、社員が提案したり相談しやすい仕組みや機会をつくるようにしています。社員が「小さな一歩」を踏み出せる仕組みが大事だと思っています。

また、マネジメント層の理解も重要です。上司が部下の提案に対して嫌な顔をすれば、アイデアはそこで止まってしまう。「出る杭を生かすマネジメントをしましょう」と、人事からも伝えています。

堺:LIFULLでは、マネジメントはもちろん経営陣も社員の声を大切にしてくれています。経営陣が社員の声に耳を傾け、そこから制度改善されたり、新しい取り組みが生まれたりしてきました。こういった経営層の姿勢も、社員が提案しやすい空気の一助になっていると思います。

――これまでのD&Iの活動を通して、改めてD&IはLIFULLの企業活動にとってどんな意義があると感じますか。

村川:D&I推進によって社員一人ひとりの経験や個性やバックグラウンドが生かされる環境をつくることが大切だと思います。D&I+委員会がめざしているのは、社員全員が力を発揮しやすくなることです。「出る杭」を生かして、挑戦を増やしていくことがイノベーションにつながり、事業のよい結果に結びついていきます。そうした文化を作ることがLIFULLのD&Iであり、意義があることだと思います。

――最後に、これからのD&I活動の展望をお聞かせください。

村川:究極は、D&I+委員会の「発展的解散」にたどり着けたらいいですよね。社員の声を集めたり、定期的にインクルージョン度を測る役割は残しつつ、委員会という支えがなくてもD&Iの精神や仕組みが当たり前に根付いている状態が理想です。

堺:そうですね。とはいえ、今はまだテーマごとに見えている課題があります。D&I+委員会の各チームが目の前のギャップを埋めるために活動を続けていきます。その上で、D&I全体の取り組みをもっと社内外に発信していきたいですね。

社内に向けては、D&Iをテーマに気軽に楽しく参加できるイベントを開催するのもいいかもしれません。D&Iにアンテナを高く張っている社員だけでなく、これまで興味が薄かった社員にも当たり前に参加してもらえるように工夫していければと思います。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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