言語化未満の“違和感”こそ、組織を立て直すヒント。誰かのせいにしない組織改革
2026.06.09
「チームの空気が悪い」「部下とうまくコミュニケーションがとれていない気がする」。具体的な問題が何かはわからなくても、職場で違和感を抱いたことのある人は多いのではないだろうか。会議で意見が出てこないとき、1on1で話がかみ合わないとき、何となく抱いたもやもやは、口に出すことなく放置してしまうことも。
そんな組織の課題と向き合うためのヒントを伝えているのが勅使川原真衣氏の著書『組織の違和感』だ。日常のふんわりした違和感からでも、本当に組織を変えられるのか。違和感をキャッチすることから、どのように組織をよくできるのか、勅使川原氏にうかがった。
Profile

勅使川原真衣 氏
組織開発コンサルタント
1982年、横浜市生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て組織開発コンサルタントとして独立。2児の母。2020年から進行乳がん闘病中。新書大賞2025にて第5位入賞、HRアワード2025書籍部門入賞の『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社、24年)他著書多数。近著に『「働く」を問い直す』(日経BP)、『人生の「成功」について誰も語ってこなかったこと』(KADOKAWA)、『組織の違和感』(ダイヤモンド社)、『「頭がいい」とは何か』(祥伝社新書)がある。論壇誌Voice、読売新聞「本よみうり堂」にて連載中のほか、文化放送 武田砂鉄ラジオマガジン水曜パートナーとしても発信中。
「あの人が問題」は思い込み? 職場の違和感とどう向き合うか
――まず、勅使川原さんの言う組織の違和感とはどういうものを指しているのか、なぜそれをキャッチすることが重要なのかを教えてください。
違和感とは、「なんか変だな」「これはどういう意味だろう」と思うような、問題提起以前のものです。一言で言うと、「しっくりこない」という感覚ですね。どんな人でもこういった違和感をもったことがあるでしょう。
なぜなら、違和感というのは多くの場合、自分が大事にしているものと周りが大事にしているものが異なる際に生じるサインのようなものだからです。大事にしているものは一人ひとり絶対に違うし、その違い自体をなくすことはできません。だから、違和感は一生つきまとうものなんですよね。
違和感は、取り除かなければいけない問題ではありません。働くということは、2人以上の人間が目的を持って活動することですから、共同作業である限り違いは生まれます。だからこそ、「うまく言えないけれどなんか少し変だ」という段階で口に出すことが大事なんです。
というのも、違和感を放置したり、言語化できるようになるまで待ったりしてしまうと、その間に蓄積・発酵して事態の悪化を招くことになるからです。
――事態の悪化とは、具体的にはどのような状況が生じるのでしょうか?
一言で言えば、「問題の個人化」です。本当は違和感という主観的な情報から始まった話なのに、誰かひとりの能力や性格のせいにして、「あの人は能力が低いから自分と合わない」「あの上司は役職が上がって性格が悪くなった」という愚痴になっていく。
個人の能力の問題にしてしまうと、組織の違和感はいつまでも拭えなくなってしまいます。

――相手の愚痴になってしまうというのは、多くの職場でよくある話だと思います。ではどう向き合えばいいのでしょうか。
誰しもそれぞれの背景や本人なりの合理性に基づいて言動をとっているので、個人を変えるよりも、取り巻く環境や仕事の進め方を変える方がよいでしょう。決めつけたくなる気持ちはわかるのですが、その前に「それぞれの合理性に沿って変えられることはないか」と考えたほうが現実的です。
4つのソーシャルスタイルで「すれ違い」を可視化する
――では、違和感を環境や働き方の変革につなげるためには、どのようなことを実践すればよいでしょうか?
違和感は、それぞれが大事にしているものの違いから生まれています。まずはお互いの差異を把握するために、「ソーシャルスタイルの4パターン」を参考にするとよいでしょう。組織のメンバー同士のソーシャルスタイル(言動の傾向)をつかむことで、どんな時に心理的な距離感が出やすいかを捉えることができます。

横軸は自己開示の程度(シャイかあけっぴろげか)、縦軸は他者への関心が強いか弱いか、という指標になっています。Aのドライバータイプは、はっきりと主張し、競争力が強く、効果や成果にこだわるタイプ。Bのエクスプレッシブタイプは、人好きで明るく、周りをよく見るムードメーカーです。
また、Cのエミアブルタイプは、変化より安定・安全を重視し、協働的で周りの意見に耳を傾けます。Dのアナリティカルタイプは、論理にこだわり、人よりモノ・コトへの関心が強いタイプです。
この類型を知ることで相手の「当たり前」を理解し、組織を変えるきっかけにすることができます。
例えば、ドライバータイプの上司とエミアブルタイプの部下の間で起こるコミュニケーションのズレや誤解が、組織内の停滞感や離職意向につながっている事例があります。
ドライバータイプの上司は直感による行動が得意で、自分が思いついたタイミングで部下に進捗を尋ねます。しかし、エミアブルタイプは予定を決めて積み上げていくタイプ。気まぐれに「そういえばあれどうなったっけ」と聞かれるとやりづらさを感じることもあるでしょう。
また、ドライバーの上司が自分のようなタイプのみを優秀な人材だと判断して、採用で自分と異なるタイプを落としてしまい、組織に偏りが生まれていることがあります。
「性格・能力の問題ではなく、すれ違いなんだ」ということを理解するために、まずは組織のメンバーがどの4象限のどの位置にいて、どのような関係性になっているかを共有することが重要です。そうすることで、違和感が生まれた時に「互いにかけている眼鏡が違うからだね」と認識をそろえることができます。
リーダーが、自分の声掛けがエミアブルタイプの人からは「思いつき」に見えると認識できれば、「あらかじめ『15分のミーティングをお願いします』と伝えておこう」と、仕事の進め方を変えられます。
――この4象限のマッピングは、どのように活用するのが理想的ですか?
この取り組みは全員でやってこそ意味があります。取り組むときは、チームのメンバーが集まって診断し、結果をもとにディスカッションすることをおすすめします。
私はこれまでに2万人以上にコンサルティングを提供してきました。コンサルティング中に、よく「この人はこのタイプかな」と考えてしまうのですが、それでは私の決めつけになってしまいます。必ず組織が採用しているアセスメント(SPIやCUBICなど)を使って4象限にマッピングするやり方をとっています。
そして、マッピングした結果は全員がアクセスできる情報にしなければいけません。あるクリニックではスタッフの休憩室に4象限のマッピング結果を貼って、それを見ながらフランクに組織の問題を話し合っているそうです。
もし公開することに抵抗感があるとしたら、持ち味の情報を能力主義的に捉えてしまっている証拠です。良い性格・悪い性格があると思っているから抵抗感が生まれる。良し悪しではないんだとしっかり説明した上で、取り組むことが重要です。
リーダーが「鎧を脱ぐ」ことから始まる組織改革
――マッピングを行っても問題の個人化から抜け出すのが難しい場合、どのようなアプローチが有効でしょうか。
マッピング後も問題の個人化が起こることはあります。そういう場合、大体は自己正当化が伴っています。特に自分が頑張ってきた人ほど「相手の努力不足だ」という主張になりがちです。
そうした場合、まずは「弱さを開示するワークショップ」を3時間ほど用意し、「私はこれだけ頑張ってきたけど、ここがうまくいっていない」という自己開示を促します。自分自身が認められていないから他者に原因を求めている、というのが人間の本質だからです。
特にリーダーは弱みを見せることに慣れていない立場にあります。上司の側に取り繕いが残ったままだとワークショップが形骸化するため、私がコンサルに入っている場合は実施前に「あなた自身も鎧を脱がなければいけないのですが、大丈夫ですか」と確認しています。
とはいえ、リーダーこそ、能力主義的な考えで無限の努力を強いられてきた方がほとんどです。意外とリーダー自身も「これがさらに10年続くのはつらい」「これ以上能力を高め続けるのはもう無理だ」という苦悩を抱えていることが多いのです。そのため、ワークショップを積極的にやりましょうというリーダーの方も多いです。
実際にワークショップをやってみると、「初めてジャッジされずに話を聞いてもらえた」「憎いだけだったけど、あの人もあの人なりに苦しいことがあったんだとわかった」という前向きな変化が起こります。

――違和感から組織改革を行うにあたって、人事の立場からできるアプローチはありますか?
組織をよくするにあたって、人事に求められる大きな役割は、マネジメント層が鎧を脱げるように手助けすることだと思います。
多くの組織では、人事業務の成果をどのように評価するかがあいまいで、研修の実施などのわかりやすい実績が評価されやすい傾向があります。「わかりやすい成果を残さなければ」と考えるあまり、リーダーシップ研修などの能力主義的な方向の施策を提案しがちではないでしょうか。
しかし、先述の通り、多くのマネジメント層が能力開発の限界を感じています。そこで、その鎧から解放されるように、人事が手助けしてあげることが重要なのです。人事が本当に力を発揮できるのは、社員の違和感を拾い上げ、組織の状態を改善すること。一度立ち止まって、推進している施策の背景を考えていただくといいと思います。
また、組織がソーシャルスタイルの視点を持つと、人材配置やリスクマネジメントにも活かせます。問題が大きくなってから対処するのではなく、日頃から違和感を早期に察知して、コストをかけずに手を打つ。重大な問題が起きる前に、少し人の組み合わせを変えてみる、ということも可能です。
――最後に、組織改革に悩む人事担当者やリーダーへ、メッセージをいただけますか。
もし組織のことで悩んでいるとしたら、それはすでに一歩進んでいる、すごくいいリーダーだと思うんですよ。一番まずいのは、悩みがなく「うまくやっている」と思い込んでいるリーダーだからです。
悩みの原因は、何かが不足しているからではなく、すでにあるものの整理が追いついていないだけかもしれません。先ほど紹介した4象限のソーシャルスタイルを活用することで、組織の目的に合わせて体制ややり方を見直すことができると思います。
そして、このアプローチの特徴は「痛みがない」ことです。誰かを辞めさせたり、降格させたりする必要はありません。組織改革というと大掛かりなコンサルや派手な施策が必要だというイメージがあるかもしれませんが、身近な違和感から始められるものです。
施策をやり尽くしてきたと感じている人事の方も、成長疲れの蓄積を取り除く感覚で、一度足元の違和感から見直してみてほしいです。みんなが求めているのは、等身大で、誰かを悪者にせずに、少し心が落ち着くような取り組みだと思います。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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