事業家の思考で「成果」にこだわる採用を。U-NEXT HOLDINGSの常識に囚われない人事戦略
2026.06.25
エントリーシートの廃止、学生が面接官を選ぶ仕組み、地方学生のもとへ面接官が出向く最終面接…これらの常識にとらわれない新卒採用活動を行っているのが、U-NEXT HOLDINGSだ。
同社の人事統括部 採用戦略部長を務める野村大河氏は、2009年にUSEN(現U-NEXT HOLDINGS)へ新卒入社して以来、法人向けネットワーク営業、組織マネジメント、新規事業立ち上げなど約15年にわたりビジネスサイドでキャリアを積んだのち、2023年に人事部門へ異動。現在は採用戦略部長として、新卒採用活動を推進している。
ビジネスの現場で培った事業家の目線は、人事業務においてどのように活かされているのだろうか?「学生にとってフェアな新卒採用を実現したい」と語る野村氏に話を聞いた。
Profile

野村 大河 氏
株式会社U-NEXT HOLDINGS 人事統括部 採用戦略部長
USEN(現U-NEXT HOLDINGS)に新卒入社。企業向けネットワーク・セキュリティ・クラウドなどのICTソリューション営業に配属。その後、組織マネジメントや新規事業の立ち上げ、オフィスBGMの事業責任者を経て、2023年より採用戦略部長に就任。現在は新卒採用の責任者を務める。
人事の成果を「見える化する」重要性
——野村さんは新卒入社から一貫して事業部で経験を積まれたのち、2023年に採用戦略部長に就任されたと伺いました。どのような経緯で人事部に移られたのでしょうか?
きっかけは、当社の次世代経営者育成プログラム「未来塾」への参画です。会社の未来と自分のキャリアを重ね合わせながら、今後どう歩んでいくかを見つめ直す場でした。事業責任者としての経験を活かしつつ、今後はグループ全体の経営に関わる仕事をしたい。未来塾への参加をきっかけに、そうした思いが明確になりました。
私自身、若い頃からマネジメントに携わる中で、人事の仕事への関心は早くからありましたし、得意な領域だという自覚もありました。未来塾のプログラムが終了したタイミングで、自ら志願して人事部へ異動しました。
——人事部へ異動し、業務内容が大きく変化したかと思います。壁のようなものは感じましたか?
そうですね。両者の一番の違いは、結果が出るまでの「時間軸」です。事業は短期でも成果を測ることができますが、採用は数年先を見据えて動くことが求められます。何を指標に設定し、どのように振り返りや改善を行っていくのか。目標設定やKPIの設計の仕方から、手探りで考え直す必要がありました。

——その壁に、どのように向き合ったのでしょうか。
事業経験で培った視点は人事の業務にも活きる。そう確信し、2つの視点を意識しながら人事に向き合っています。
1つは「マーケット目線」です。事業では、競合との比較や市場の動きを読むことが日常的に求められる一方、人事の現場はどうしても社内の目線を重視してしまう傾向があります。しかし、採用は人材の獲得競争であるため、市場動向を見据えて戦略を設計することが不可欠。そこで、「経営が何をしたいか」だけではなく、「市場で自分たちはどう見られているか」「どこをベンチマークにして勝ちにいくのか」という視座から採用戦略を設定していきました。
もう1つは「成果へのこだわり」です。事業では利益や投資対効果をシビアに追います。人事の仕事は数値化しにくい領域とも言われますが、それは言い訳にはならない。どのように成果を設定し、数値化していくかが人事担当者の重要な仕事であると考えています。だからこそ一つひとつのアクションに対してシンプルなKPIを設定するようにしました。
エントリーシートの廃止、面接官選択制。常識に囚われない「フェア」な採用活動を
——U-NEXT HOLDINGSの新卒採用の方針をお聞かせください。
当社は2021年、新たなコンセプトを掲げ、グループにおける新卒採用方法を大幅に刷新しました。学生の皆さんがより自由に、自分らしいスタイルで就職活動を進めることができるよう、さまざまな施策を展開してきました。
現在も時代に合わせてアップデートを続けていますが、根底にある「企業と学生は徹底してフェアな立場である」という価値観は変えることなく受け継いでいます。就職活動は「企業が学生を一方的に選ぶ場」とイメージされる方も少なくありません。しかし、本来的にはお互いが対等に評価し合い、マッチするかどうかを見定める場だと考えています。

——具体的にどのような施策を行っているのでしょうか?
まず、代表的な取り組みがエントリーシートの提出を廃止したことです。その代わりに、Smart PR(30秒程度の自己紹介動画)の提出をお願いしています。これは、書類から読み取れる「属性」だけで判断をしないという当社の意思表示でもあります。
学生の皆さんから「動画の編集技術が求められますか」と聞かれることもありますが、編集スキルを評価することはありません。撮影場所の選定や表現の仕方など「自分らしい表現ができているか」といった個性の部分を見ています。
動画を提出いただくことでエントリーシートよりも圧倒的に多くの情報を知ることができますし、当社のカルチャーとマッチするかを見極めやすくなりました。
もう1つ、代表的な取り組みは、学生が面接官を選べる仕組みです。
選考が進む段階で面接官のプロフィールを公開し、学生が自身の判断で面接官を選択できるようにしています。興味のある事業部の面接官を選んでいただければ解像度の高いコミュニケーションが取れますし、自分と志向が近い面接官を選んでいただければより実力を発揮しやすいはずです。
これらの施策を通じて、企業が学生を選ぶだけではなく、学生が企業を理解する場として面接を設計しています。
——こうした施策のアイデアは、社内でどのように実現しているのでしょうか。
根本にあるのは「就職活動の常識を疑う」ということです。エントリーシートは本当に必要か。企業が学生を選ぶだけの形が本当にベストなのか。このように常識とされているものをゼロベースで検討し、その逆となるような施策を試しています。
それまでの常識を変えるのは、当然大きなコストがかかりますし、承認のハードルも上がります。なので、目的を明確にした上で、小さく始めることが重要です。1週間で結果が出る試みであればリソースはそこまでかかりませんし、実際に成果が出たのならば、少しずつ拡大していけばいい。これも事業と同様の考え方ですね。
——採用活動の「成果」をどのように定義されていますか?
チームとしてのゴールは「採用した人材がグループの事業会社の社長になること」です。
当社では以前より「100人の社長を育て、一社100億円規模の事業を生み出しながら、1兆円企業を目指す」という構想を掲げてきました。その方針が、2030年に向けた中期経営計画における人的資本経営の注力領域として改めて明確化されました。そのために、企業のトップとして活躍できる人材を獲得し、20代のうちに事業を率いるための視座を身につけてもらうことが人事としての成果になります。
それを達成するために、1年後の定着率や、入社後に会社の期待値に対して130%を超える成果を上げた人材の割合など、中間指標を設定してウォッチしています。大きなゴールを置いた上でシンプルなKPIに落とし込む。こうした考え方は、まさに事業経験が活きている部分です。
また、当社の経営課題として、次の経営を担う中核人材を求めています。グループ全体として事業が多角化し、ポストの絶対数が増えていく中でリーダー人材が必要不可欠です。当社はM&Aによってパートナー企業と新たな事業を作っていく戦略も取っていますので、異なるカルチャーを掛け合わせ、シナジーを生み出せるような広い視野と強いリーダーシップを持つ人材は重宝しています。
「未来塾」は、まさにリーダー人材を育成するためのプログラムですが、新卒採用においても一貫した方針で取り組んでいます。

人事担当者は意図的に「外」へ出よ
——野村さんは採用チームをマネジメントする立場でもありますが、どのようにチームを運営しているのでしょうか?
まず、採用活動を大きく3つのフェーズに分解しています。大きく市場の動向を把握し戦略を設計する「マーケティング」、入社希望の方々に当社への理解を深めていただくための体験を創出する「エンゲージメント」、主に採用活動を遂行する「エグゼキューション」の3つですね。採用チームのメンバーは年度ごとに担当領域をローテーションしながら、全ての業務を経験してもらっています。
採用における全体の流れを理解しなければ、個々のフェーズで何をすべきかが本当の意味では見えません。3年かけて全員がすべての役割を経験できるよう設計することで、再現性のある採用組織を構築することができます。
また、幅広い経験をすることで、メンバー自身も中長期でキャリア設計をすることができる設計になっています。
——最後に、人事担当者として大切にしていることをお聞かせください。
まず「フラットな視点」です。人事は社内では重要なポジションと見られることもありますが、役割が違うだけで、上も下もありません。組織の事業を深く理解しお客様のために何ができるかを考えるという点は、事業部と同様に重要です。そうした視点を忘れないように心がけています。
もう1つは「経営の言葉を現場に届ける」ということです。経営者が打ち出す大きな方針を、社員一人ひとりの立場に合わせて噛み砕き、前向きなエンゲージメントにつなげていく。これは人事だからこそ担える役割であると考えています。
両者を実現するためには、社内に閉じない広い知見が不可欠になります。ただ、日常業務に没頭していると視野は自然と狭くなる。そこで、もう1つ大切にしているのが、意識的に「外」へ出ることです。
自分が所属している組織や領域を飛び出し、考えの異なる他者と出会う。そうした経験を通じて自社を俯瞰して捉える目線を養う。その姿勢こそが、人事として成長していくために最も重要なことだと考えています。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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