若手の意志が火を灯し、組織を動かす。東急カードが挑む「現場主導」の組織変革

現在「激変期」の真っ只中にあるクレジットカード業界。伝統ある東急グループの一員である東急カードは今、現場を中心に、自己変革を進めています。その中心となっているのが、若手有志によって結成された「職場改善委員会」です。 

今回は、組織変革を背後から力強く支える代表取締役社長の松永様と、委員会の中心メンバーである花輪様・池田様、運営をサポートする人事チームの稲垣様に、東急カードの挑戦について伺いました。 

Profile

松永 光 氏

東急カード株式会社 代表取締役社長

東京急行電鉄株式会社(現:東急株式会社)入社後、鉄道部門や子会社の事業再編等の経験を経て、2015年財務部長、2017年よりSSC(東急ファイナンスアンドアカウンティング株式会社)の社長として連結グループの経理体制変革を主導。2025年より現職。 

花輪 凌 氏

東急カード株式会社 コーポレートグループ デジタル変革推進チーム チーフ

2019年入社。営業(会員募集)・債権管理といった金融業務の現場を経験後、2022年にDX推進部へ異動。現在はデジタル変革推進チームとして、会社施策のシステム開発・導入に加え、生成AI、RPA等の活用による業務のデジタル化の推進を担っている。職場改善委員会ではリーダーとして案件のとりまとめ、推進を担当。 

池田 穂乃香 氏 

ビジネスサービスグループ お客様センター リーダー

2018年入社。TOKYU POINTに関する業務や入金管理の現場を経験後、現在はコールセンター業務を行うお客様センターで、お客様から寄せられたお問い合わせの対応に従事している。 職場改善委員会ではUnipos推進担当として立ち上げから携わる。 

稲垣 杏菜 氏

コーポレートグループ 人事チーム リーダー

2021年入社。債権管理の現場を経験後、現在は人事担当として新卒・キャリア採用をはじめ、社員の教育やエンゲージメント向上の推進を担っている。 

 

有志で集まった若手社員たちから始まった、組織変革の第一歩 

――まずは、東急カードの組織変革を現場から引っ張っている「職場改善委員会」が立ち上がったきっかけや、具体的な活動内容を教えていただけますか。 

松永様:2025年に当社の役員となって、まず社員全員と面談をしたのですが、みなお客様の大切なお金や情報を扱う会社の社員として責任感を持って仕事をしている半面、組織の壁の厚さにモヤモヤを感じ、「こうしたら会社がもっと良くなるのに」と考えている若い社員も多いと感じました。 

一方、エンゲージメント調査を行ったところ、当社は「組織に対するエンゲージメント」が特に高く、「周囲のメンバーのために役立ちたい」という項目が他社の平均点を大きく超えていることも分かりました。こうした、組織に対する愛着を感じてくれている人が多いという持ち味を活かしながら、若い社員のエネルギーで「組織の壁」を壊していきたい、と考えたのが「職場改善委員会」を立ち上げたきっかけです。 

花輪様:私たち「職場改善委員会」は、一言で言えば「自分たちの職場を、自分たちの手で、より良くより面白く変えていく」ためのプロジェクトチームです。メンバーは35歳以下の若手社員を中心に約10名で構成されており、会社からの指名ではなく自ら手を挙げた有志で構成されています。部署や所属もバラバラで、普段の業務では接点のないメンバーが「職場を良くしたい」という一点で集まっています。 

花輪様: まず活動をスタートさせるにあたって、自分たちだけの思い込みで動くのではなく、全社員にヒアリングを行うことから始めました。日々の業務で感じている「ちょっとした違和感」や、「ずっとモヤモヤしていたけれど、どうにもならなかった困りごと」といった現場のリアルな声を徹底的に収集したのです。職場改善というと、つい大きな制度変更や仕組みづくりをイメージしがちですが、実際には日々の業務の中で感じるちょっとした違和感や困りごとに向き合うことが、何よりも大切だと考えています。 そのため、委員会の活動はメンバーだけで完結させるのではなく、できるだけ多くの幅広い年代や職位の社員の声を拾い上げ、現場にとって本当に意味のある改善につなげることを意識しています。 

また、すぐに大きな成果を出そうとするのではなく、できることから一つひとつ形にしていくことも大切にしています。小さな取り組みであっても、それによって「声を上げれば変わる」「自分たちで職場をより良くできる」という実感が生まれます。 その成功体験の積み重ねが、組織全体の前向きな変化につながると信じているからです。 

そうしたプロセスから生まれた施策は非常に具体的で、かつユニークなものばかりでした。例えば、社内で大きな反響を呼んでいる「コンコンルール」があります。会議が長引くことで、会議室を使いたい次のグループに迷惑をかけてしまうというどこの会社にもあるような光景を、ルール一つで変えられると考えました。そこで、「会議終了の3分前にドアをノック(コンコン)して、終了を促しても良い」という公式ルールを作ったのです。ノックが聞こえると「あ、そろそろ終わらせなきゃ」という意識が働き、相手の時間を尊重する感覚が生まれます。 

松永様:あれは非常にシンプルですが、意識を変える効果がありましたね。 

花輪様:他には、物理的・心理的な壁を取り払うための場として「フラットヌーン(ランチ会)」や、就業後の「フラットナイト(懇親会)」を毎月開催しています。フラットナイトは、就業後に、お寿司やピザなどのケータリングを囲んでお酒も交えながら文字通りフラットに語り合う場です。東急グループには美味しいグルメを扱う会社も多いため、グループの強みも活かしています。ここでは役職は一切関係ありません。普段は真面目に黙々と仕事をされているベテラン社員の方が、実はアイドルの熱狂的なファンだったなど意外な趣味を持っていることが分かって、若手社員と大盛り上がりしたりしています。仕事中の顔しか知らなければ「近寄りがたい」と思っていたかもしれませんが、人となりを知ることで「あの人に相談してみよう」という、業務上のスムーズな連携にも確実に繋がっています。 

池田様:松永さんも参加してくださっていますし、初参加の方がいらっしゃったときには「あ、今日は〇〇さんも来てくれたんですね!」と拍手で迎える流れが自然にできたりして、非常に温かい雰囲気です。 

花輪様:こうしたリアルな交流と並行して、デジタルの力も活用する必要があると考え、ピアボーナス®ツール「Unipos」を導入し、日々の小さな感謝や素晴らしい行動を可視化するようにしました。導入してみて驚いたのは、あまり感情を表に出さないタイプだと思われていた方が、実は若手の仕事を細かく見ていて、熱い称賛のメッセージを送っていたりすることです。全社員のログイン率も非常に高く、全社を巻き込む大きなうねりになっています。 

また、職場改善委員会での施策を実施して終わりにするのではなく、その後に社内アンケートをとったり、日々の会話で出てくる感想や意見をしっかりキャッチアップしたりして、現状維持ではなく常に次へつなげています。 

こうした活動を通じて、社内の温度が確実に上がっているのを感じます。最初は「若手が何か始めたな」と遠巻きに見ていた方々も、今では「今月のフラットナイトはいつ?」と聞いてくれるようになりました。 

「挑戦の火」を守るために、社長が担う究極のサポーター役 

――若手社員のパッションが全社を動かしているのですね。松永様は、この「職場改善委員会」を社長としてどのように位置づけ、サポートされているのでしょうか。 

松永様:私は彼らの活動の「究極のサポーター」でありたいと考えています。委員会をスタートさせる際、私はメンバーに5つの方針を提示しました。 

自主的な運用をすること
社長直轄の組織ではありますが、私が細かく指示を出すことはありません。運営はすべて自分たちで考えてもらいます。 

②生産性向上につながること
単に仲良くなる、というのではなく、コミュニケーションの改善が最終的に業務効率や付加価値の向上に繋がることを意識してもらっています。 

③若手に閉じないこと 
若手による若手のための取り組みにならないよう、全世代・全部門に波及するアクションにするよう、お願いしています。 

④活動をオープンにすること 
イントラへの活動報告などを通じて全社員に見える形で行ってもらっています。 

原則として、提出された提案は、私が実現させること 
彼らが「これをやりたい」と持ってきた提案に対して、私は「どうすれば実現できるか」をアドバイスし、予算や他部署との調整が必要な場合は全面的にバックアップします。もし、出てきた提案が会社として「できない」と判断した場合は、私が社員に対する説明責任を果たすことを約束しました。 

私はよく「火を守る」という話をするのですが、組織の理屈や、金融業ゆえの「ミスをしてはいけない」という保守的な風土の中では、若手から生まれた新しい「挑戦の火」は、すぐに吹き消されてしまいます。だからこそ、社長直轄という特別な場を作って周りからの圧力から彼らを守り、その火が大きく燃え上がるのをサポートする必要があると思っています 

――社内を巻き込むためのポイントはありますか。 

花輪様:大切にしているのは「自分ごととして捉えてもらえる伝え方」と「参加しやすい接点づくり」です。 

職場改善の取り組みは、一部のメンバーだけで進めても大きな変化にはつながりにくいと考えています。そのため、委員会の活動内容を発信する際には、「会社全体のため」という大きなテーマだけでなく、「自分たちの日々の働きやすさにつながるもの」として受け取ってもらえるよう意識しています。 

また、いきなり大きな協力を求めるのではなく、アンケートへの回答や意見出し、ちょっとした対話の場への参加など、社員が無理なく関われる機会をつくることも重要だと感じています。小さな接点を積み重ねることで、少しずつ関心を持ってもらい、「自分も関わっていいんだ」「声を届けてもいいんだ」と感じてもらえるようにしています。 

イベントを実施する際には各部署に所属が散らばっている職場改善委員会のメンバーが各部署の従業員に声掛けをしてもらうことが大切なポイントと考えています。社内に目を惹くチラシを掲出することも休憩中などの従業員同士の話題にもつながっているのではないでしょうか。 

加えて、寄せられた声に対して、できる限り何らかの形で反応を返すことも大切にしています。すべてをすぐに実現できるわけではありませんが、「声が届いている」「検討されている」と感じてもらうことが、次の参加や協力につながると考えています。 

こうした積み重ねを通じて、職場改善委員会の活動を特別なものではなく、社員一人ひとりが職場づくりに関わるきっかけにしていきたいと考えています。 

変化の時代に求められる「守り」と「攻め」の両立 

――なぜ東急カードに変革が必要だったのか、その背景にある組織課題について深くお伺いしていきたいと思います。松永様が着任された際、どのような危機感をお持ちだったのでしょうか。 

松永様:テクノロジーの進化や競争の激化により、クレジットカード業界は今、かつてない変革の波のなかにあります。 

一方で、冒頭にお話しした通り、全社員との面談を通じて、社内にある「組織の壁」や「世代の壁」を感じていました。同じフロアでも隣の部署の状況が分からず、幹部の意図も現場に届かない。そんな状態では、変化に対応して競合に勝ち抜くことはできないと、強い危機感を覚えました。 

池田様:若手の視点からも、会社を良くしたいという漠然としたエネルギーはあっても、それをどこに発信すればいいのか、どう形にすればいいのかという「出口」が見つからない感覚がありました。部署内のコミュニケーションは良くても、一歩外に出ると情報の不透明さを感じていました。 

松永様:昨年(2025年)のエンゲージメント調査では、興味深いデータが出ていました。職場やチームの仲間に対する貢献意欲は非常に高く、5段階評価で4.5を超える項目もある一方で、会社全体や将来に対する期待値が低いという結果だったのです。これは「隣の誰かの役には立ちたいが、会社という大きな仕組みを変えられるとは思えない」という諦めにも似た感情の表れだと感じました。 

金融サービスという性質上、ミスをしない、個人情報を大切に預かるという「守り」の意識は絶対的な価値であり、我々の根幹です。しかし、今の環境の変化に対応するには、それだけでは足りない。「守り」を大切にしながら、いかに「攻め」を上乗せするか。この難しい命題をクリアするためには「組織のOSの書き換え」、つまり現場で起きていることをオープンに議論し、自分たちで課題を解決できるようにしていくことが必要だと思いました。 

――そのために、草の根のアプローチだけでなく、制度面での改革も行われたとお聞きしました。 

松永様:はい。今年度から新人事制度をスタートさせました。等級、評価、報酬の制度を見直して、会社の成長戦略に向けて社員の成長を後押しできるようにしました。 

例えば「クリエイティブコース」という専門コースを設け、「クリエイティブオフィス」という研究開発を行う社長直轄の組織を新設しています。クリエイティブオフィスは従来の「守り」の業務とは切り離し、攻めの領域を専門に扱います。メンバーは「手上げ制」で募ったのですが、ちゃんと応募もあり、心強く感じています。 

――すべての活動において「社員の意志」を重視されているのですね。 

松永様:異動もプロジェクトへの参画も、できるだけ本人の意思を尊重する仕組みに変えています。「やらされ仕事」より、「自分で選んだ仕事」、「得意な仕事」のほうが、一人ひとりの社員が主体的に取組んでいけると思うからです。 

こうした趣旨を理解してもらうことも含めて、なぜこの制度が必要なのか、会社が何を目指しているのかを私から社員に直接説明する場を何度も設けました。制度は「運用が命」ですから、スタートして、ここからが本番だと思っています。 

現場に広がる変化の兆し。目指すのは「自走する組織」のインストール 

――その結果、現場にはどのような変化が起きているのでしょうか。 

池田様:私の視点からは、大きな変化を感じています。特にフラットナイトなどの取り組みと、松永さんが直接説明するという行動がセットになったことで、「会社が本気で変わろうとしている」という実感が全社員に浸透しました。 

稲垣様: 今年のエンゲージメント調査では、コミュニケーションスコアが対前年比で大幅にアップしました。上下の疎通が良くなったことで、若手からも「こうしたい」という意見が以前よりずっとスムーズに出るようになっています。 

松永様:部門にまたがる業務プロセスの非効率に対しても、部門横断で解決しようとする動きが出てきました。 

現在は、3つの部門横断のプロジェクトが動いています。通常の業務に加えて業務改善の仕事を上乗せするとなると、「忙しいのに仕事を増やすな」と反発が出そうですが、現場のリーダーを担う若いメンバーは「今の非効率なやり方を変えたかった」「改善できる機会がもらえた」と、非常に前向きに取り組んでくれています。これは、職場改善委員会の活動を通じて「斜めでも話せる関係性」の土壌ができていたことも大きいと思います。 

――大きな変化ですね。採用の面では影響はありましたか。 

稲垣様:はい。私は採用も担当していますが、内定者や就職活動生から「東急カードは若手社員が活躍しているイメージがある」「自分の意見を聞いてもらえそうだ」という期待の声を非常に多くいただくようになりました。 

以前は「挑戦できる環境があります」と言っても、どこか実感が伴わない部分があったかもしれません。しかし今は、実際に若手が職場を改善し、成果を出しているリアルな姿があります。この「事実」こそが、何よりも強いメッセージになっています。 

――若手の熱気と、それを支える制度、そしてトップの想い。すべてが噛み合い始めているのを感じます。最後に、東急カードが目指すゴールについて教えてください。 

松永様:我々には、東急グループの一員として沿線のお客様の生活を豊かにするという大きなミッションがあります。 

この使命を果たすには、自分たちの意志を持って、東急グループの他の会社を巻き込み、動かしていく力が必要です。幸いなことに、東急グループには各社の意思と挑戦を尊重する素晴らしい文化があります。であれば、自ら「やってやろう」というマインドを持たないのは、非常にもったいない。 

私の役割は、私がこの会社を去る時が来ても、現場が自律的に変化を捉え、課題を解決していける「自走する組織」にすることだと思っています。私がいてもいなくても、現場が自分たちの意志で動き、結果を出し続けられる会社にすることが、私のゴールです。 

花輪様:松永さんが「業務として職場改善を認めてくれている」という安心感があるからこそ、私たちは全力で走ることができますこれからも、現場の違和感を大切にし、小さな改善を積み重ねながら、会社全体の景色を変えていきたい。若手がその先頭に立ち続けたいと思っています。 

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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