人事担当者は「しつこく」あれ。プロから学ぶ、成果につながるマインドセット

身近に手本となる「プロ」がいないことが多く、成長がイメージできない。真面目に取り組む人ほど一人で課題を抱え込み、孤独に陥りやすい。これらは、規模や業種を問わず多くの企業が直面している共通の課題でもある。では、どうすれば「人事のプロ」を育成することができるのだろうか?

人事担当者のための学びと交流の場「人事図書館」の館長であり、書籍『人事のプロはこう動く』の著者でもある吉田洋介氏が、成果を出す人事に共通する資質として挙げるのが「しつこさ」だ。ネガティブにも聞こえるこの言葉に込められた真意とは何か。継続的に成果を上げる人事に必要なポイントを聞いた。

Profile

吉田 洋介 氏

人事図書館 館長

2007年立命館大学大学院政策科学研究科卒業。新卒でリクルートマネジメントソリューションズに入社。組織人事支援として国内外500社以上の採用、人材開発、組織開発、人事制度等に関わり、支社長・事業責任者等を歴任。2021年に独立し株式会社Trustyyleを設立。祖父、伯父2人が大学教授、両親ともに大学で勤務という影響を受け、読書と議論が大好物。ビジネス書から漫画まで保有書籍数は5000冊超。

 

 

人事の悩みを受け止める「駆け込み寺」をつくりたかった

──まず、人事図書館を立ち上げられた背景をお聞かせください。

私は新卒でリクルートマネジメントソリューションズに入り、14年間人事領域で働いたのちに独立し、2024年に人事図書館を設立しました。

立ち上げの背景にあったのは、独立後に感じた情報格差です。リクルートマネジメントソリューションズは全国の企業とつながりを持ち、社内に研究部門も備えた、いわば人事の知見の宝庫でした。ところが、退職して外に出てみると、アクセスできる人事関連の情報が想像以上に限られていたのです。

事例を知りたいと思ってリサーチしても、出てくるのは華々しい成功事例ばかり。企業の人事部門がどんな試行錯誤をし、どんなプロセスをとっているのかといったリアルな情報には辿り着けません。

また、困っている人事担当者ほど、情報にアクセスする時間的な余裕がないことも、実体験として感じていました。人事担当者の業務は膨大なため、リアルタイムで欲しい情報が手に入らないうちに「悩みの旬」が過ぎてしまいます。結局、場当たり的な解決策で一時的に絆創膏を貼る、というケースが非常に多いのです。

だからこそ、困ったら「とにかくここに来れば何とかなる」と思ってもらえる場所をつくりました。人事図書館は3000冊の人事関連の蔵書を用意しているワークスペース兼交流の場です。人事担当者が悩んだ時は、ここに来ればヒントを得られるという場所でありたいと考えています。図書館であり、人事担当者の駆け込み寺。それが人事図書館です。

──吉田さんが上梓された書籍『人事のプロはこう動く 事業を伸ばす人事が考えていること』にも、同様の問題意識で執筆されたと書かれていました。

人事図書館を運営し始め、困っている人事担当者と出会う頻度が増えたのですが、彼らが抱えている課題は驚くほど共通していました。それは、人事として成長し、成果を出すためには何をすればいいのかがわからないということでした。

制度設計や労務管理といった知識を得るための書籍は豊富にありますが、人事になったばかりの人が最初に何を学うべきかを描いた本は見当たらなかったのです。

一方、私は組織内で成果を上げ、経営から強い信頼を得る「人事のプロ」には共通する要素があると感じていました。彼らの知見をギュッと詰め込んで一冊にすれば、救われる方がいるのではないか。それが『人事のプロはこう動く 事業を伸ばす人事が考えていること』の執筆の動機です。

「しつこさ」とは「成果への執着」である

──本書の中で人事担当者には「しつこさ」が重要だと書かれています。しつこさとは、具体的にどういったものでしょうか?

一言で表現するならば、成果への執着です。

マネジメント研修を例に考えてみましょう。一般的な人事担当者ならば、アクションプランを立て、研修を実施し、3ヶ月後にフォローアップをして、上司に報告をする。これで一連の業務が完了します。滞りなく業務を終えられれば、一般的には「丁寧な仕事」と評価されるでしょう。

けれど、私が出会ってきた人事のプロは違いました。ある人は、研修で学んだことを本当に実践しているかどうかを受講者全員のもとに足を運んで確認しに行っていたのです。現場を見て、実践していない管理職がいれば、なぜなのかと問い詰める。「忙しくて」と言い訳されても、「それを変えるための研修ですよね」と引き下がらない。そしてその研修の重要性を繰り返し説明することで、意識が変わり、はじめて実践してくれるようになる。それを受講者全員にやり切る人がいたのです。

その人がゴールに置いていたのは業務フローを完了させることではありません。現場の管理職のアクションが変わるということなのです。そこに徹底的にこだわることこそが人事のプロが持つべきしつこさなのです。

──多くの人事担当者が、そこまで「しつこく」なれないのはなぜでしょうか。

大きく2つの理由があります。

1つ目は、成果の定義がずれていること。研修を滞りなく実施し、満足度の高いアンケート結果を得ることがゴールになってしまっている。「実施」がミッションになっているので、完了すれば文句を言われることはありませんし、一般的には不要とされるフォローアップまでやれば120点だと、周りも本人も思ってしまうのです。その結果、本来の成果である「現場の行動変容」から目が逸れてしまうのです。これは人事担当者のあるあるだと思います。

2つ目は、取るべきアクションのイメージが持てないこと。実はこちらのケースが非常に多い。先ほどのマネジメント研修の話をすると「ここまでやって良いんですね」と驚く方が少なくありません。成果を出すために必要な引き出しを持っていないと、世の中平均の動きが正解だと思ってしまうのです。

だからこそ本書では、私が出会ってきたプロのアクションをリスト化しました。こうした行動は、実例がなければなかなか思いつきません。一方で、人事のプロがどう育ってきたかを分解していくと、優秀な上司の元で育っているケースがほとんど。それは、具体的なアクションが継承されているからなのだと思います。

「人事の成果は見えにくい」は本当か?

──人事は成果が見えにくい仕事だとよく言われますが、吉田さんはどうお考えですか?

正直に言うと、「成果が見えにくい」というのは言い訳だと思っています

もちろん、そう言いたくなる気持ちはよくわかります。私自身もベンチャー企業で人事を担当していますし、数値や言葉にならない大切なことが人事の仕事にはたくさんある。育休の際に人事が手厚くサポートして、社員が「人生にとっていい時間になった」と言ってくれたことがありました。これは数字で表すことができないけれど、とても大切なことです。

しかし、それは営業であっても同様です。お客様との信頼関係のような、数字にならない大切なことは無数にあります。しかし、営業担当者が「成果は見えにくいものなので」と言うことは許されないでしょう。営業も人事も数字を追うべきなんです。

人事がコミットすべきは事業がいち早く目的に到達することです。ただし、人事は直接収益を上げるのではなく、人を介して成果を出す職種です。そのため、業績アップまでの因果を高い解像度で描けるかが鍵になります。

──「高い解像度」とはどういうことでしょうか?

たとえば営業のAさんが自社プロダクトの説明だけでなく、相手企業の決算書を読み込んだ提案までできれば業績が伸びるとわかっているとしましょう。すると、なぜAさんはその提案ができないのか、その課題を特定する必要がありますよね。知識がないのか、スキルがないのか、上司から指示されていないのか、あるいは評価項目に入っていないのか。様々な理由が考えられます。

仮に上司からの指示がなかったことが理由なのであれば、上司が指示を出せばいい。しかし、上司は自身の業務に追われてメンバーに関わる時間がない。ならば業務を引き剥がし、マネジメントに集中できるよう働きかけねばなりません。このように実際に成果につながるアクションを起こすルートが描ければ、途中の指標も最終的な成果も測れるのです。

ところが多くの場合、「マネジメントが弱いからマネジメント研修をやる」という粗い解像度で施策が動いてしまうため、「人事の成果は見えにくい」と結論づけられてしまうのです成果が測れる状態をつくり出すまでコミットし続けることが重要なのです。

孤独な人事を支えるもの

──「人事としての成長のイメージができない」「成果を出すために何をすれば良いかわからない」という人事担当者にアドバイスをするとしたら、どのような声をかけますか?

人事は構造的に大変な仕事であり「孤独」な業務だと言われることが多いです。経営と現場、現在と将来、目先の業績と将来の業績…常に板挟みの構造の中にいて、疲弊しやすい。大変な仕事だと思います。

人事のプロに共通していたのは「なぜ自分はこの仕事をしているのか」という動機への自覚でした。「社員のためになりたい」という人もいれば、「この経営者が好きだから」「とにかく儲けたいから」など動機は様々です。ただ、人事の仕事が自分にとっても大事だという強い自覚がないと、辛い時に安易な選択をしてしまうのです。

経営と現場に挟まれたとき、現場寄りに徹して「経営と戦います」と言い続けるのは、ある意味で楽なのです。経営に寄り添って「現場に言うことを聞かせます」と言うことも同様で、どちらか一方だけの立場に寄り添うことは簡単なんです。しかし、それだと人事がいる意味がなくなってしまう。

意見が対立したとき、両者の希望を満たす打ち手を考え続けることが人事担当者にとって大事なマインドだと思います。とても苦しいですが、自分の中に強い動機があれば安易に流されることはないはずです。

──人事担当者が孤独を克服するためには、どのような方法がありますか?

1つは、学ぶことです。本を読む、専門的に学べる場に身を置くなど、自分の実力を高めるためのアクションを起こすことで、難しい局面を乗り越えることができます。

基本的に、自分だけがぶつかる壁はありません。先人が似たような壁にぶつかり、次の人が同じ思いをしなくていいようにと知見を残してくれている。それを学んでさえいれば、悩みは1人のものではなくなるのです。

もう1つは、所属組織以外のコミュニティに身を置くことです。人が集まる場に足を運べば、他社の事例に触れたり、悩みを共有することができます。人事の悩みはある程度共通したものです。そのことを実感するだけでも、孤独感は和らぐのではないのでしょうか。

自分の中に動機をしっかり持ち、学び合う仲間を持つこと試行錯誤している人事担当者の方には、まずこの2つを実践いただきたいですね。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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