常識を疑い「ネガティブ」を取り除く。パプアニューギニア海産が実践するユニークな働き方の設計

いつ働いても、いつ休んでもよく、連絡不要で欠勤できる「フリースケジュール」。嫌いな作業をすることを禁じる「嫌い表」。従業員が働きやすい環境づくりのため、こうしたユニークな制度を独自に考案したのは海老フライ工場を営むパプアニューギニア海産の代表取締役工場長・武藤北斗氏だ。

食品製造業においてこの先進的な制度を導入したのち、2025年8月に開業したレストラン「海老フライ武藤」においてもフリースケジュールを採用。実現不可能だという周囲の声を覆し、常識破りな制度によって働きやすい組織風土を実現している。なぜこれらの制度が実現可能なのか?独自の制度に込めた思想と、組織改革に挑む経営者へのヒントを武藤氏に聞いた。

Profile

武藤 北斗 氏

株式会社パプアニューギニア海産・代表取締役 工場長

1975年福岡県生まれ。芝浦工業大学金属工学科卒業後、築地市場の荷受けを経て、2000年㈱パプアニューギニア海産に入社。2011年東日本大震災の津波により本社や飲食店舗など全てが流される。福島第一原発事故の影響も考慮し、一週間の自宅避難を経て大阪への移住を決意。震災による二重債務を抱え大阪府茨木市で再出発。2020年に大阪府摂津市に新工場を設立し、2021年に代表取締役就任。2013年より争いのない働きやすい職場を目指し、好きな日に連絡なしで働けるフリースケジュールなど固定観念に囚われない働き方改革で注目を集める。2021年WORK DESIGN AWARDグランプリなど受賞。著書に「生きる職場 小さな海老工場の人を縛らない働き方」(イースト・プレス)がある。

 

 

「休みの連絡」をなくすために、シフト制度を廃止

──パプアニューギニア海産と海老フライ武藤の事業内容について教えてください。

パプアニューギニア海産は父が創業した会社で、パプアニューギニアの天然海老だけを輸入・販売しています。海老フライやむき海老などを大阪・摂津の工場で製造し、スーパーや飲食店、個人のお客様に届けています。従業員は私のほかに社員が3名、パートが20名弱です。天然海老はさまざまなサイズが獲れますが、なかには売りにくいサイズもある。その在庫を活かすために開いたレストランが海老フライ武藤です。

──パプアニューギニア海産では好きな時に働けて、休みの連絡もしてはいけない「フリースケジュール」が導入されています。このユニークな制度はどのように生まれたのでしょうか?

元々私は、シフトをきっちり組んで管理するタイプで、それに合わない従業員が退職してしまうのは仕方ないことだと思っていました。

転機となったのは東日本大震災です。拠点を構えていた宮城の工場が流されてしまい、「なぜ経営するのか」「何のために働くのか」を根本から考えるようになりました。そして、大阪に工場を移し、経営再建を始めて2年が経った頃、長い間パプアニューギニア海産で働いてくれた社員が辞めることになりました。信頼していた彼までもが離れてしまったことを機に、根本的に経営の仕方を変えなければいけないと思ったのです。それがいつ働いても、いつ休んでもよく、連絡不要で欠勤できる「フリースケジュール」という制度づくりの出発点です。

──具体的には、どのように制度を設計していったのでしょうか?

まず、パートタイムで働いている従業員の声を聞くことにしました。どうすれば働きやすい環境をつくれるかという趣旨で質問を投げかけたのですが、彼らから出てきた意見は「どうすれば休みやすいか」でした。

彼らが言うには、会社に休みの連絡を入れることは私が想像していたよりもはるかに気が重いことだったんですね。そこで、どうすれば従業員が休みの連絡を入れなくてもいいかと考えたところ、そもそもシフトがない方が良いという結論に至ったのです。シフトが存在せず、誰もがいつでも出勤できる状態であれば、そもそも「休み」という概念がなくなるからです。

シフトをつくらないと出勤する従業員が把握できず、生産計画が成り立たないのではないかと疑問に思うかもしれませんが、問題なく業務を行えています。休みの連絡をなくすために考案した制度ですが、シフト制作業務もなくなるという想定外のメリットがありました。

──「シフトは組むもの」という常識が根強いなかで、導入のハードルは高かったのではないですか。

大それたことをしている自覚はなく、「有給を取りやすくする」程度の感覚で始めました。

例えば、従業員の子どもが発熱したとします。その従業員に「出社しろ」と強要することはできないので、結局は休んでもらうことになります。であるならば、経営者としても嫌な顔でOKを出すか、気持ちよくOKを出すかの違いしかないんです。それならば、気持ちよく送り出せるための仕組みにしようと考えました。

──連絡なしで出勤・欠勤するとなると、人が不足してしまうのではないでしょうか?

出勤人数は減ると思われがちなのですが、実際には減っていません。むしろ出勤する人は増えたほどです。人の心理は面白いもので、シフトによって「この日は働かなければならない」と縛られると、かえって休みたいという気持ちが湧いてくる。そして「子どもが熱を出したらどうしよう」と、意識が休む方向にばかり向き、不安を抱えながら働くことになる。

ところがフリースケジュールでは自由に休めるので、休むことにインセンティブがなくなり、「いつ働くか」へと意識が切り替わるんです。

──反対に、人員過多になることはないのですか。

ありませんね。20名弱のパートさんのうち、平均すると毎日10名前後が出勤しています。最も少なかった日でも5名ほどでした。反対に、全員が出勤する日もありません。

「小さい組織だから成り立つのでは?」と言われますが、私はむしろ逆だと考えています。働く人の分母が大きく、考え方やライフスタイルが異なる人が混ざるほど、出勤日の平均化は進むはずです。

──フリースケジュールが成り立つ要因はなんだと思いますか?

結果が良ければ理由は何でもいい、というのが正直なところです(笑)。そもそも休む理由を聞いていないので、検証のしようがない。というより理由を解明しないことが、うまくいっている要因でもあると思うのです。休む理由を問わないことこそが重要であり、休む理由を聞き出した途端、この仕組みは崩れる気がします。

──「海老フライ武藤」でもフリースケジュールを採用されていますね。

「連絡なしで休めるのは工場だからだ」と10年以上言われ続け、飲食店では絶対に無理だと言われてきました。ただ、誰もやったことがないのに、なぜそう考えるのだろうと疑問を持っていました。チャレンジしてダメならばシフトを組めばいい。その気持ちで導入して約1年、現段階では飲食店でもフリースケジュールは問題なく実現できています。

──飲食店ならではの工夫はありますか。

メニューを1種類に絞り、ランチだけの営業としています。また、出勤するスタッフの人数によってメニューの値段が変わる仕組みにしているため、出勤時だけはLINEで連絡してもらっています。毎朝その日のメニューの金額をInstagramに投稿するので、何人出勤するかを把握する必要があるんです。

これはフリースケジュールを前提としたシステムですね。人手が多い日はたくさんのお客さんに来て頂きたいですが、人数が少ない日は客足も少ないほうが助かります。値段が安い日は来客が増え、値段が高ければ来客が減る。そのような発想から来店人数をコントロールできると考えたのですが、実際は思惑どおりにいかず、あまり値段に関係なくお客様が来てくださっています。店員が1人の時は1人とわかっているので、お客さんが優しい気もします。

嫌いな作業は1ヶ月禁止。「嫌い表」導入の狙いとは?

──フリースケジュールのほかにも、自分のやりたくない業務を事前に知らせておく「嫌い表」という制度も導入されています。これはどのような発想から生まれたのでしょうか?

私は掃除が大嫌いなため、「みんなも嫌いだろう」と勝手に思い込んでいました。業務においても掃除を均等に割り振っていたのですが、面談で「私は掃除が好きです」という人が現れたんです。そこで、誰かの嫌いは、誰かの好きになりうるんだと気づきました。そして、みんなに好きな作業を聞いてみたところ、見事にバラバラだったんです。

そこで、当初は好きな作業と嫌いな作業の両方を回答してもらい、「嫌いな作業はやってもやらなくてもいい」という形で運用していました。ところが、「やらなくていい」では、みんな周りの様子を伺いながらもやってしまうんですね。それでは意味がないので、途中から「嫌いな作業をやるのは禁止」に切り替えました。

──「やらなくてもいい」では、効果がなかったんですね。

そうですね。そして嫌いを避けるのが当たり前になると、今度は「好き」と回答した作業に目が向き、「好きと回答した人はもっと積極的にやってよ」とお互いを責める空気になってしまったのです。そこで「好き」を聞くのはやめました。

そもそも、海老フライ作りの工程が心から楽しいという人はあまりいないと思うんです。なので、組織がまず目指すべきは、組織の中にポジティブな部分を増やすのではなく、ネガティブな部分を取り除くことだと考えるようになりました。

──フリースケジュールや嫌い表は従業員の自主性を重んじているからこそ実現した制度のように感じます。

制度を運用するうちに「自分で選ぶ」ことの重要性を実感しました。
嫌い表でバツをつけた作業は1ヶ月行えないというルールなのですが、バツをつけるということはほかの作業を多く担当することでもある。すると初めて「本当に嫌いな作業か」と考え、仕事に向き合うのです。同じ作業でも、自分の判断が介在すると、仕事の捉え方は大きく変わる。私にはそれが極めて合理的に映りますし、ただ合理的な制度を導入しているだけです。

そもそも私は、人間は争ってばかりのどうしようもない生き物だと思っています。小さな組織であっても、仲の良い職場で、みんなが大きな声で挨拶していれば上手くいくなんてことは絶対にないんです。それを直視した上で、どうすれば争わずにすむかを考えるようにしています。

──働きやすい組織づくりを行ってきた中で、印象に残っている出来事はありますか。

パプアニューギニア海産は休憩は1人で取り、従業員同士のプライベートな質問も禁止するなど、あえて距離を保つコミュニケーション設計をしています。組織の目的は仲良くなることではなく、業務を円滑に進めること。必要以上に距離を縮めることは人間関係がこじれる原因となるからです。

ところが、従業員同士の仲が良いと誤解して入社し、温度差を感じて辞めていった人もいます。こうしたミスマッチによって去っていってしまった人たちのほうが、私の記憶には強く残っています。

そこで、現在は職場の雰囲気を包み隠さず伝えるようにしています。ミーティングの動画をYouTubeで公開しているのですが、ある動画では「感じが悪い」という声をもらったこともあります。しかし、その動画を会社の求人ページに載せてから離職率は大きく下がりました。求人の応募が増えたのはフリースケジュールや嫌い表といった制度のおかげかもしれません。しかし、離職率の低さは職場の実情がどれだけ正しく伝わっているのかによって左右されるのだと思います。

本当の「対話」を生み出すために必要なこと

──組織改革に取り組む際に、最初に行うべきアクションはどのようなものでしょうか?

本当の意味で現場と対話をすることです。働き方改革を「損を覚悟で社員のわがままを許すこと」だと捉える人は少なくありませんが、それは間違いだと思います。働きやすい職場づくりに損はなく、むしろ利益が増える取り組みなのです。

働き方に課題を抱えている企業は、おそらく対話ができていないのだと思います。自分の生活を大切にできる職場があれば、人は落ち着いて仕事に向き合える。その先に、合理的な働き方や組織経営が立ち上がってくるはずです。

──武藤さんの考える「対話」とは、どのようなものですか?

私が考える対話とは、一対一の状況で、本音で交わされる会話のことです。仮に職場内での雑談やコミュニケーション量が増えたからといって、意味はありません。

対話を生み出すために必要なのは、心理的安全性を担保し「この人になら話して大丈夫だ」と思ってもらえる環境をつくること。面談を行う時も、作業を頼むふりをして従業員を呼び出していました。面談をしていることを周囲の人に悟られると、話すことをためらってしまう場面があるからです。対話とは、それぐらい細心の注意を払ってはじめて成り立つものではないでしょうか。そしてもらった意見には必ず答えを返し、聞きっぱなしにはしません。耳の痛い意見だったとしても、自分なりの捉え方や今後について説明する責任があります。

また、私は従業員全員にあなたの意見は聞くが、誰かの代弁は聞かないと伝えています。複数人が関与する問題があった場合、一人ひとりの話を聞いた上で、「あなたが正しい気がする」「あなたが間違っているかもしれない」と一個人として意見を返します。つまり、私も一個人として向き合うということです。

経営をしてきて分かったことは、人が仕事において最も悩むのは人間関係だということです。どれだけ注意を払っていても、組織内で人間関係の悩みがなくなることはありません。だからこそ、従業員に困りごとがあった時に、安心して打ち明けられる存在でいたいと思っています。

 

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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