【徹底対談】挫折をチカラに変える、人的資本経営のあり方

人的資本経営は、働く人を管理する対象(人的資源)ではなく、自らの意志によって価値増幅を起こすことのできる投資先(人的資本)として捉え、適切な環境を用意することで中長期的な企業価値向上に繋げる経営手法だ。人的資本経営を行う上で必要な環境づくりについて、青山学院大学陸上部の監督で『「挫折」というチカラ』を著した原晋氏と、Unipos代表の田中弦がそれぞれの持論をぶつけた。

Profile

原 晋 氏

青山学院大学 地球社会共生学部 教授
陸上競技部長距離ブロック監督

1967年、広島県三原市出身。中京大学卒業後、陸上競技部第1期生として中国電力に進むも、故障に悩み、5年目で競技生活から引退。95年、同社でサラリーマンとして再スタートし、ビジネスマンとしての能力を開花。陸上と無縁の生活を送っていたが、2004年に青山学院大学陸上競技部の監督に就任。09年に33年ぶりの箱根駅伝出場を果たす。15年、青学史上初となる箱根駅伝総合優勝。18年、箱根駅伝4連覇。19年の箱根駅伝は、惜しくも総合2位(復路優勝)。20年、大会新記録で箱根駅伝5度目の総合優勝を果たし、再び頂点に返り咲く。21年の箱根駅伝では、往路12位から巻き返し、復路優勝(総合4位)。22年の箱根駅伝では、2年前の大会新記録を更新し、6度目の総合優勝を果たす。

『「挫折」というチカラ 人は折れたら折れただけ強くなる』(マガジンハウス)

青学はなぜ何度も駅伝王者に返り咲くのか?勝負強さは「挫折」から作られる。強靱なメンタルを育てる逆境力。

挫折と挑戦が生まれる環境のつくり方

――― 原氏は著書の中で「挫折とその克服こそが個の力を成長させる上で欠かせない」としていますが、挫折と成長が生まれ続ける環境はどのように作れるのでしょうか。

原氏「挫折というのはそれありきの話というより、挫折するくらいの本気の努力が必要だということを言いたいわけなのですが、その本気の努力を生むためには経営者的な発想で仕事をする人間を増やさくてはならない時代になってきたのだと思います。今までは経営者層と労働者層に分かれて経営者層の考えに従わせ、ルーティン作業を確実にこなす社員がいい社員とされていましたが、そういった業務はもうコンピュータやAIが果たすべき仕事になってきている。そうした業務を人間が行うケースが減ってくることを考えると、まずは経営者的な発想を容認するという経営者でなくてはいけないと思います」

田中「原さんは挑戦と挫折を生むにもその土壌が必要だと仰っていて、青学ではその土壌を監督や選手、そしてコーチの方々が一体となって作っているように思います。一方、日本企業においては人に関することは人事の仕事だという風になりがちで、全員が関わる環境なのに責任が一部に押し付けられ、現場感との乖離が発生していると思うんです」

原氏「そういう場合、前提となっている組織の土壌やルールというものは結局人間によって作られたものなので、いつ・どういう状況のときに・何の目的で作られたものが今の土壌になっているのかということから考え直す。そして、その前提が今の環境に合っているかどうかを疑えと、選手たちにもよく伝えています。そして、前提を疑うことから生まれた発想については経営者側も『生意気だ』と切り捨てず、立ち止まって受け入れる余地を持っておかないといけません

組織全体でカルチャーを変えるには

田中「全員でその土壌を作っていくということを考えると、特にスポーツの場合は上意下達な文化が浸透し過ぎていて、主体的な関わり方がイメージできずについてこれないメンバーも多いのではないかと想像します。そうしたときに、どのように組織全体でカルチャーを変革されたのでしょうか」

原氏「最終的に個の力と組織の力が両方付いて、全員で考え行動できる土壌になるまでにはチーム結成から10年程度は必要でした。最初は個の力も組織の力もなく、まずは個を引き上げるために必死でしたから、それこそ上意下達なコミュニケーションで指導していた時期もありました。その時についてきてくれた選手たちには感謝の言葉しかありませんが、唯一言えるのはとにかく掲げた夢を一切ブラさずにやってきたという一点がやり切れた要因ではないかと思います。そのフェーズを乗り越えると徐々に選手たちが自ら考えられるようになり、主体的に試行錯誤できる状態になっていきました」

組織の力がついたと実感する瞬間

田中「実際に自主性のあるカルチャーが浸透して、組織にとって当たり前の水準となったことを実感されたのはどういったタイミングだったのでしょうか」

原氏「就任当時から変わらず実施していた目標管理ミーティングで、選手たちのコミュニケーションの変化を目の当たりにした瞬間がありました。初期の頃は、選手たちから『こんなこと陸上に何の関係があるのか、なんでこんなことをやらないといけないんだ』という反応ばかりで、5年間は自分が介入してプレゼンさせながら細かく指示を出していた。そこからいつしか、選手たちが『目標管理ミーティングやりましょう!』と自発的に活動するようになっていたんですね。そしてある時、酔っ払った自分が寮に帰ってそのミーティングに入ろうとすると激論を交わしていたので、入ろうとした扉を思わず閉めたこともありました。その時は選手たちの大きな成長を感じて、とても嬉しかったことをよく覚えています」

田中「それは指導者としてこの上ない喜びを感じる瞬間ですね。他方で、そのような良い土壌・環境を一度作れたとしても、さらに維持し続けていく難しさについても経営者の方々からよく聞くお悩みなのですが、どのような工夫をされていたのでしょうか」

原氏「何も手を打たないと、徐々にその行為自体が目的になってマンネリ化していくのは避けられません。そうしたとき、選手たちには『前提に立ち返れ。形だけキレイにまとめても意味はないぞ』ともう1度介入を挟むんです。改めて、この組織においては自分で考えて是々非々で物事を論じることが良い行為だと定義付けし直していましたね」

限られた期間で成果を出すために

田中「原監督は20年近くに渡って監督として大きな組織変革をされてきたわけですが、日本の経営者は3〜5年という限られた任期の中で成果を出さなくてはならないのが一般的です。大きな組織を短期間で変革する上でのポイントはどこにあるとお考えですか」

原氏「組織のトップに就任した人が新しい文化を取り入れるときにも、組織として変わることのない理念の助けのもとで行うことではないでしょうか。社長が変わるたびに理念まで変わってしまうと組織がどこに向かえばいいか分からず混乱しますから、先程の話正解のない時代を生き抜くためのリーダーシップの繰り返しになりますが、新陳代謝を促すべき文化と保ち続けるべき理念の見極めが第一歩となるでしょう」

組織変革に日々悩む方へ

―――最後に、組織変革に日々悩まれている経営者やビジネスリーダーの方へ、メッセージをいただけますか。

原氏「私が広島から移住までして青学の監督に就任したときにもそうでしたが、誰もが初めてのことをやるときには悩みや迷いが生まれるのは当然で、チャレンジすること自体が大事なんです。そして、悩みが100%消えて全ての状況が見えるまで待つのではなく、6〜7割程度固まった段階で楽しそうだと思う方向に舵を切る。人間、楽しいと思ったら頑張れますし、自分が心から楽しいと思える方向に一点集中していると自ずと味方になってくれる人が見つかりますから」

田中「味方を見つけるという点は私もとても重要だと思っていて、様々な経営者の方とお会いする中で思うのは、みなさん一人で悩んでしまっているんですね。テレワークが一定以上進み、メンバーと廊下ですれ違うこともなく顔も分からなくなると、余計にその傾向が強まっていると感じます。しかし人的資本経営で言われているように、組織を変えるということは全員に対する投資に他ならないわけで、一人だけで悩むのではなく周囲を巻き込み応援団を徐々に増やしていくこと。私もこれが重要ではないかなと思います」

原氏「個の力と個の意思によって、組織の力・関係の力は生まれてきますからね。まさにUniposというサービスは、そのプロセスを可視化して増幅させるためのものなわけですよね」

田中「仰る通りで、結局組織の中で誰がどんなことをやってるかなんて分かりようがないんですよ。同じチームでさえ分かりづらいのに、チームや部署を超えてしまうと尚更把握することは不可能になる。しかし、成果というのは陰ながら頑張っている人たちが支えてくれてるから初めて出るものじゃないですか。 成果に繋がった隠れたプロセスや人の力が忘れられ、見えやすい成果を出した人だけが褒められても健全性がなく、組織の力を生み出すことはできないと考えています」

原氏「そう考えると、このサービスは転勤サイクルが早い金融業界や、工場を持っているようなメーカーに受け入れられそうですね」

田中「そうなんです。Uniposは多様なお客様からご導入いただいていますが、静岡銀行様や関西みらい銀行様などで全社的な導入をいただいていますね。特に関西みらい銀行様は、全社6,500名もの従業員の皆様を対象に導入され、Uniposの金融業界における事例としては過去最大規模の大きな期待を寄せられています」

関西みらい銀行様のプレスリリースより引用

原氏「先程(編集注:自ら挑戦し、挫折し、成長する。 “自律型” 組織のつくり方でも伝えた通り、結局はプロセスなんですよ。プロセスさえ上手く行っていれば、タイミングによって多少のブレはあれど確実に組織の力は上がり、いつか大きな結果に結びつく。Uniposでこれまで見えなかった組織のプロセスを可視化することは、指導者・経営者にとって組織の力を底上げする大きな助けとなると思います。これからも応援しています」

田中「ありがとうございます。これからも頑張ります」

経営資源の中でも、唯一「ヒト」は自らの意志によって創造性を高め、価値の増幅を起こせる投資先である。原氏は、その価値増幅の土壌を作る上で、組織内の関係の質に着目し、プロセスを適切に可視化・管理する重要性を理論と経験の両側面から繰り返し語った。組織変革を起こす上で、心に留めておきたい考え方だ。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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