経営危機、合併…地銀復活を支えたコミュニケーション起点の人財戦略
2024.09.03
目次
りそなホールディングスに属し、関西圏を営業基盤とする関西みらい銀行。もともとは2019年に2つの地方銀行が合併してできた企業であり、2021年にりそなホールディングスの完全子会社になったという経緯がある。短い期間で組織体系が大きく変遷する中で、りそなグループの一員として関西みらい銀行ではどのように組織風土改革に取り組んできたのか。関西みらい銀行人財サービス部担当の牧博文氏が語った。

牧博文 氏
株式会社関西みらい銀行
人財サービス部担当 兼 コンプライアンス統括部担当 執行役員
経営危機から20年。変わり続けてきたりそなグループ
関西みらい銀行の牧博文氏は、「りそなグループには変革する組織風土が根付いています」と語る。
りそなグループが抜本的な組織風土の変革に取り組むきっかけとなったのは、2003年にりそな銀行が巨額の公的資金の投入を受け、実質的に国有化された「りそなショック」だ。
当時りそなホールディングスの人事部門に在籍していた牧氏は、「あの頃はリストラ一辺倒でした。社員の給与は3割カット、ボーナスもゼロ。1年のうちにグループ全体で約5000名が早期退職するという厳しい状況でした」と振り返る。
経営危機をきっかけにりそなグループでは改革を断行。当時、JR東日本から細谷英二氏を会長に迎え、「りそなの常識は世間の非常識」という言葉のもと、従来の慣行にとらわれることなく財政改革、ガバナンス改革、オペレーション改革、サービス改革などを実施した。退職者が多い中、残された人財だけで業務を行うために一人ひとりが最大限に力を発揮できる組織づくりに取り組んだことは、今のりそなグループのダイバーシティマネジメントにもつながっている。
危機を乗り越えてきた歴史から、変革が組織風土として根付いているりそなグループ。2023年5月にはりそなグループとして社会にどのように貢献していくかを示すべく、「金融+で、未来をプラスに。」というパーパスを制定した。「地域に寄り添い、金融の枠にとどまらない発想で未来を変えていくという想いが込められています」と牧氏。
こうしたりそなグループの背景やパーパスをふまえ、関西みらい銀行ではどのような組織づくりに取り組んできたのか。
2019年4月に関西の2つの地方銀行が合併して設立された関西みらい銀行では、資産形成や事業承継などの既存の領域だけにとどまらない新しい取り組みを積極的に推進してきた。従来の銀行業の枠にとらわれず、地域のお客さまの商品を世に送り出すためにクラウドファンディングを運営するみらいリーナルパートナーズ(株)を設立し、中小企業にクラウドサービスの導入サポート事業を開始するなど、さまざまなチャレンジを行っている。
新規ビジネスの拡大に取り組む一方、組織基盤改革にも着手した。合併後に勘定系システムを統合して、店頭サービスやインフラの共通化を実施。また、適正な拠点数を実現するために合併後100拠点以上減らすなどの経営基盤改革に取り組んだ。その結果、りそなグループへの貢献利益は合併以降大幅に成長を遂げている。
コミュニケーションの量と質を高め、正しい行動ができる組織に
りそなグループでは2023年に、パーパスと経営理念のもと長期ビジョン「リテールNo.1」の実現を目指して人財戦略を策定した。
経営戦略の実現に必要な価値創造やウェルビーイングを生み出すために欠かせない3つの柱として、「共創」「プロフェッショナル」「エンゲージメント」を設定。これらを動かしていく6つのドライバーとして、「リーダー」「越境」「専門性」「自律と支援」「働きがい」「働きやすさ」を掲げ、具体的に人財戦略に落とし込み、各項目で2030年度までのKPIを設定して取り組んでいる。

こうしたりそなグループの人財戦略をふまえ、関西みらい銀行では「コミュニケーション」を起点として地域に貢献していくことを目指し組織運営を行ってきた。
「今後ますますお客様のニーズが多様化し、フェイストゥフェイスのコンサルティングは高度化していきます。組織としてお客様のニーズや課題に対応していくとともに、一人ひとりが自立的に考え行動できる人財になることが必要です。また、経営統合後に急ピッチで経営基盤改革に取り組んだ弊害として、社員が組織の変化に対応できない状況が生まれていました。加えてコロナ禍も重なり、組織の中に疲弊感が出ていたのです。こうした課題を解決するべく、社員の結束感を高めて、小さなことでもお互いを認め合い、正しい行動ができる風通しの良い企業を目指すことを掲げました」(牧氏)
関西みらい銀行では、コミュニケーションの量と質ともに高めることで、6つのドライバーを動かし、さらに同時多発的にさまざまな施策を展開することで変革のスピードを加速させてきた。

社長自ら積極的に発信。社内にカルチャーを浸透させる
具体的な取り組みの1つが、入社4年目までの社員に、入社5〜10年程度の中堅社員がメンターとして付いて育成するという「メンター制度」を導入したことだ。定期的なミーティングの実施に加えて、同社ならではの仕組みが「メンター活動サポート制度」だ。
「メンターとメンティーの懇親機会をサポートするため、懇親会を開いた場合にメンターとメンティーの双方に会社から1人2000円を支給しています。複数のペアが合同で懇親会を開催することもあり、若手社員にとっては悩みを共有し、より多くのアドバイスをもらえる場となっています」(牧氏)
また、若手社員が役員とコミュニケーションの機会を持つ「リバースメンタリング」も導入。役員が普段接することが少ない若手社員の価値観に触れる場となるだけでなく、若手社員にとっても自らの考えを役員に伝えることで経営参画ができるという点で相互理解の促進につながっている。
社内の結束感を高めるためのコミュニケーション施策として取り組んでいるのが「サークル活動サポート制度」だ。2部署・5名以上・年1回以上活動するサークルには1人あたり年2000円をサポート。3部署・10人以上・年4回以上活動する本格的なサークルには年10万円をサークルに補助する。これまでに144サークルが設立、約1400名が参加しており、着実に広まっている。
関西みらい銀行では社員がお互いを認め合う文化を育むことを目的に、社員同士が感謝の気持ちを伝えあうUniposの仕組みを導入。「Mecha!(めっちゃ)」という独自名称で2023年4月からスタートしたところ、1年間で投稿数は約6万2000件、投稿に対する拍手数は約145万件となった。投稿された内容を紹介する「Mecha!通信」を毎月発信するほか、優れた投稿は表彰しインセンティブを渡しているという。部や支店の枠を飛び越え、関連会社の社員も含めてコミュニケーションが活発化していることから、牧氏は「かなりの手応えを感じている」と語る。
「2024年6月には設立5周年記念と社員同士のリアルなコミュニケーションを提供する機会として運動会を実施し、社員とその家族含めて約2200人の社員が参加しました。終了後、準備を進めてくれた若手有志に向けて、社長が『Mecha!』で感謝のメッセージを送ったんです。この投稿に対してあっという間に拍手が1000件以上つきました。実は社長は『Mecha!』のヘビーユーザーなんです。お客様から『○○支店の○○さん、対応が良かったよ』といった話を耳にすると、『Mecha!』を使って全社に発信しています。このように、新しい制度を単に導入するだけでなくトップ自らが積極的に取り組むことが、企業文化の変化には不可欠だと思います」(牧氏)
各施策が有機的につながり、大きな成果を生む
関西みらい銀行が行っている一つひとつの施策は多くの企業でも導入しているものであり、小さなものかもしれない。しかし、明確なテーマを決めて熱量高く同時多発的に施策に取り組んでいくことでコミュニケーションの質も高まり、大きな成果につながっていると言える。
「社員同士のコミュニケーションを活性化する施策を意識的に実施することで各施策が有機的につながるだけでなく、思わぬところで新しいつながりやネットワークが生まれることもあります。今後もコミュニケーションを起点にして風通しの良い文化をつくり、しなやかで強靱な組織を目指していきたいです」(牧氏)

関西みらい銀行がグループの人財戦略の実現に向け、「コミュニケーション」を起点にした取り組みを始めてからまだ1年ほど。すでに従業員意識調査では「充実度」や「やりがい」、「誇り」といった項目で数値が向上しており、一連の施策の効果が出ていることがわかる。特に20代社員における数値の向上が顕著だったという。
「関西みらい銀行でも若手の離職が課題になっていたため、今後も一連の取り組みを続けていくことで『長くこの会社で働きたい』と思ってもらえる企業を目指していきたいと考えています。今後も取り組みを継続してお互いを認め合う文化を根っこのように組織に浸透させ、企業としての持続的な成長につなげていきたいと考えています」(牧氏)
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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