地銀を変えた、“同時進行的”コミュニケーション施策の内幕とは?
2024.09.30
目次
2019年の設立以降、社員一人ひとりが正しい行動をできる企業風土を目指して、様々な変革に取り組んできた関西みらい銀行。その中で特に力を入れてきたのがコミュニケーションの量と質を高めるための施策だ。関西みらい銀行の取り組みが着実に成果を出しつつある背景について、同社人財サービス部の牧博文氏と経営コンサルタントの遠藤氏がディスカッションした。

牧博文 氏
株式会社関西みらい銀行
人財サービス部担当 兼 コンプライアンス統括部担当 執行役員

遠藤功 氏
株式会社シナ・コーポレーション 代表取締役
トップダウンの変革だけでは現場が置き去りになる
りそなホールディングスに属する関西みらい銀行では、グループパーパス「金融+で、未来をプラスに。」をふまえ、多様化する顧客ニーズや課題に対応し、地域に寄り添って金融の枠を超えた価値の提供を実現する人財戦略を掲げている。そして、一人ひとりが正しい行動ができる企業風土の醸成を目指して、2023年度から様々な施策に取り組んできた。
こうした戦略にいたった背景には、大胆な経営改革や新規ビジネスの創出に取り組んだ結果として組織が疲弊し、社員の結束が弱ったという課題があった。加えて、コロナ禍で社員同士がリアルな接点を持てず、1人で悩んでいる社員や解決方法がわからないままの社員が増えてしまったことも、関西みらい銀行の危機感を募らせた。
関西みらい銀行の牧博文氏は当時を「若手社員が将来への希望を感じられずに退職するケースも増えていました」と振り返る。
関西みらい銀行が陥った経営改革の負の側面について遠藤功氏は、「トップダウンで改革を進めた結果、現場が置き去りになってしまうというケースは多くの会社でみられます。経営改革においてはトップダウンで進めることが必要ですが、急速な改革には当然負の効果がともなう。結果として組織が痛んでしまい、社員の心も離れてしまいやすいのです」と指摘する。
「現場の人たちが孤立してしまうと、離職率が高くなるだけではなく、誰にも助けを求めることができずに不正に手を染めてしまうことにもつながりかねません。1人ひとりの社員が組織に帰属意識を持ち、互いに支え合い、結束できている状態をつくることが大切です」(遠藤氏)
「圧力」ではく、「熱」で動く組織に
組織を覆う疲弊感を打ち破り、不祥事が起こらない企業体質へと変革するために、関西みらい銀行では特に社内のコミュニケーション改革に力を入れている。「コロナ禍で大きく減少した社員のコミュニケーション量を戻すためには、何かしらの仕掛けが必要だと考えました」と語る牧氏。
「今の時代、いろいろなデバイスを使ってオンラインでコミュニケーションを取ることができます。しかし、オンラインで『熱』を伝えることは難しい。デジタルツールを活用しつつ、リアルのコミュニケーション機会を増やしていくことが大切です」(牧氏)
たとえば、関西みらい銀行ではメンターとメンティの懇親会や社内のサークル活動などに補助金を出すことで社員同士が集まって交流する機会を増やしたほか、部支店の枠を超えたリアルな交流の場として社内運動会を開催。こうしたコミュニケーション施策をいくつも実施することで、社内の雰囲気は変わりつつあるという。
こうした取り組みに対し、遠藤氏は米国のIT企業がコロナ禍後に3日間スタジアムを貸し切って大規模な社員イベントを開催したことを例に挙げ、「最先端のテクノロジーを提供する会社がアナログで人間くさい取り組みをしている。それは、やはり帰属意識を高めるために必要だからです。帰属意識は人と人のつながりを肌で感じることで醸成されるものだと思います」と語った。そして、日本企業の多くが抱える課題として次のように指摘した。
「不祥事が起きた会社では『熱』ではなく、『圧』ばかりが下にのしかかっています。経営トップは『熱』を伝えているつもりでも、現場に行くほど『熱』は消え、『圧』が大きくなってしまっている。今、日本企業の多くがこうした状態に陥っていると感じます。どうやって組織全体に『熱』を帯びさせるかが組織風土改革においては重要です」(遠藤氏)
同時進行的に様々な施策を展開し、社員の心を動かす
関西みらい銀行の取り組みの特徴的と言える点が、様々なコミュニケーション施策を同時進行的に展開していることだ。牧氏によると、施策のアイデアは現場の社員から発案されることも多いという。
「メンターとメンティーの懇親会費補助は現場の支店長たちから出たアイデアです。1人2000円なら大きなコストではないので、まずはやってみようということでスタートしました。また、若手が役員とコミュニケーションを図るリバースメンタリングも、他社で成功している事例を知り、当社でもすぐに導入を決めました。経営陣や人事だけで施策を考えるのではなく、現場からもアイデアを出しやすい雰囲気づくりを大切にしています」(牧氏)
関西みらい銀行のようにテーマを決めて同時進行的に施策を実行することで、「単体で取り組むよりも大きな成果を生み出すことができる」と語る遠藤氏。
「単体の施策だけでは一部の社員には響いたとしても、すべての社員に響くことはおそらくありません。だからこそ、経営陣はあの手この手でいろいろな施策を実行し、社員の心を動かすメッセージを発信し続けることが必要です」(遠藤氏)
関西みらい銀行の事例でも、たとえば、リバースメンタリングに参加する若手社員はたった16人しかいない。数字だけを見れば、この施策だけで組織が大きく変わることはないかもしれない。しかし、そのほかのコミュニケーション施策を同時に進行することで、それぞれが有機的につながり、組織が少しずつ変わっていくのだ。

トップの本気が社員の背中を押す
組織変革を成功させるためには、経営トップが本気であることも重要だ。経営トップが本気で変革に挑む組織は、社員も自分ごととして捉えて本気で参画する。そして、社員が主体的に取り組むことで組織への帰属意識も高まっていく。
遠藤氏は、「トップが本気になって会社を変えるというメッセージを発信することで、社員の共感も高まります」と語る。
関西みらい銀行の場合、社員同士が互いに感謝の気持ちを伝えることを目的に、Uniposを活用した「Mecha!(めっちゃ)」という仕組みを導入している。この名称を考えたのは、実は人財サービス部の若手スタッフだという。「若手の意見やアイデアを施策に反映することで社内で好意的に受け取められ、浸透しやすくなると思います」と牧氏。
また、社長自らが「Mecha!」を通して社員に向けて感謝を伝える発信を積極的に行っており、社員一人ひとりの意識変革を後押しすることにもつながっている。

同様の事例として遠藤氏が紹介したのが3M社の取り組みだ。グローバル企業である3Mでは、CEOが各国の現場を訪れ、優れた取り組みを全社員に向けて発信しているという。
「現場の取り組みを可視化することは非常に重要です。CEOが現場で起きていることを直接知り、全社員に発信することで、ナレッジが共有できるだけでなく、『自分たちもやってみよう』というモチベーション向上にもつながります」(遠藤氏)
良いカルチャーがない企業は選ばれない時代

コミュニケーションの活性化を図る一連の施策によって、関西みらい銀行では若手のモラルサーベイの数値が向上するといった成果があらわれているという。
「この1年の取り組みを通して社員のモチベーションが向上しており、退職も減っています。会議でも若手が積極的に発言していて、すごく良い笑顔を見せてくれるんです。機会を与えたら若い人ほど貪欲に成長するということを実感しています。今後もカルチャー変革を推進し、社員が『ここで働きたい』と思えるような会社にしていきたいと考えています」(牧氏)
関西みらい銀行の取り組みや成果を振り返り、遠藤氏は「関西みらい銀行の取り組みは多くの企業の参考になると思います」と語った。そして、改めて組織風土変革の重要性を次のように述べた。
「これからは企業が社員を選ぶ時代ではなく、社員が会社を選ぶ時代になります。良いカルチャーが根付いていなければ選ばれません。その点で良いカルチャーというのは優秀な人に選んでもらい、長く働いてもらうために不可欠な条件なのです」(遠藤氏)
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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