元素記号で社内の技術を可視化?創業100年の老舗メーカーの“グローバル”人的資本経営
2025.03.19
グローバルでの人的資本経営の実践には困難が伴う。人事は、異なる環境の拠点でも、従業員それぞれが能力を発揮するための制度や機会を提供しなければならない。企業のグローバルな成長を見据えた人的資本経営は、どのように実現すれば良いのだろうか。
産業機械メーカー株式会社荏原製作所は、グローバルでの持続的成長の視点から人的資本経営に取り組む一社である。海外事業が成長し、外国籍の社員数が増え続けている中、さらなるグローバル人材の活躍を後押しするため、さまざまな人事施策を実践してきた。同社CHRO佐藤誉司氏が、人事のミッションと戦略、その達成に向けてのチャレンジについて語った。
Profile

佐藤誉司 氏
株式会社荏原製作所 執行役 CHRO 兼 人事統括部長
1987年株式会社荏原製作所に入社後、環境プラント事業に長く携わり、 2012年青島荏原環境設備有限公司総経理、2019年荏原環境プラント株式会社取締役を歴任。2022年より株式会社荏原製作所執行役兼人事統括部長、2023年より現職。CHRO(最高人事責任者)としてグローバル人材戦略やDE&Iの取り組みを推進。
世界中で働く従業員が活躍できる環境を
荏原製作所は、長期ビジョン「E-Vision2030」を掲げている。「技術で、熱く、世界を支える」というスローガンを掲げ、その実現のための重要課題の一つになっているのが「人材の活躍促進」だ。
現在は「世界で6億人に水を届ける」という目標を達成するために、アフリカなど海外市場の開拓に力を入れており、外国籍の社員の数も増えている。全従業員数2万人に対して、1万2000人が外国籍の社員だという。グローバルで働く従業員が、力を発揮できる環境がますます求められている。
そんな中、荏原製作所は人事政策のキャッチフレーズとして「One Ebara HR」を掲げる。「一つの仕組みの中で、世界中で働く従業員が活躍できる環境を作ることが、人事の重要な責務だと考えている」と佐藤氏は言う。
2024年には「世界中どこから入社しても、どこで働いていようとも、グローバルで戦える多様多能な人材が活躍できる仕組みを整えることで、経営計画の実現とともに企業価値の向上に寄与する」という方針を、人事部門で共有した。
また、荏原製作所では、2030年までの具体的な目標としていくつかのKPIを設定している。例えば、グローバルエンゲージメントサーベイを86以上、GKP(グローバルキーポジション、全世界での重要ポジション)の非日本人比率を50%、といった目標だ。現在、目標達成のための方法を模索している最中だという。
「現時点では、グローバルエンゲージメントサーベイは78~79で頭打ちになっていることが課題です。GKPの非日本人率は23%まで増えましたが、今後も順調に伸ばしていくための施策を検討しています」

グローバルへの挑戦を支援し、人的資本を可視化
荏原製作所では、人材が活躍する環境を全社で、グローバルに整えていくというミッションに向き合っている。佐藤氏は、そのために取り組んでいる特徴的な施策を二つ紹介した。
一つは、「グローバル人材育成プログラム」、GCDP(Global Career Developmet Program)だ。従業員は手挙げ制で応募でき、2年間海外の現場に派遣されて実務経験を積むことができる。
2012年からスタートしたこの取り組みには、これまで163名の従業員が参加した。2023年からは、日本から海外への派遣だけでなく、海外から日本、海外から海外への派遣も行っている。さらに2024年度からカンパニー(事業領域)を越えた異動も可能になり、2025年度からは年齢の上限も廃止。
「キャリア採用も増えている中で、年齢の制限を廃止し、誰でも参加できるプログラムにしました。海外で働くことの喜びを感じてもらう入口の施策なので、できるだけ多くの人に門戸を開こうという狙いです」
このプログラムへの応募は手挙げ制だが、「受け入れ先とのマッチングも重要」と佐藤氏は語る。公募ののちに派遣先との相性が考慮されたうえで、最終的な参加・不参加が決定するプロセスになっている。

二つ目の取り組みは、荏原グループの「技術元素表」という、技術力・組織力を可視化した表だ。これは、自社の主要技術を記号に分類し、化学元素の周期表のように分かりやすくしたものである。
荏原製作所では、インフラ、エネルギー、建築・産業、精密・電子、環境の5つのカンパニー(事業領域)ごとにさまざまな専門技術を備えており、技術者のスキルも幅広い。

技術部門では、この記号をもとに組織が保有する技術と人材のデータを分析し、採用・育成に役立てようとしている。例えば、年齢ごと・専門技術分野ごとの人材の数を比較することで、どの分野の技術者を育成するべきか、またはキャリア採用や技術のM&Aで補っていけばよいか明らかになる。
佐藤氏は、こういった可視化の取り組みを、技術組織に限らず全社に広げていこうとしている。
「まだこの表は現時点では人事制度とは連動していません。将来的には、タレントマネジメントの仕組みの中で、『この人はこのカンパニーの経験があり、この領域に詳しい』といったバッジを表示していきたい」
技術元素表は、経営戦略の実行にも役立つ。例えば新規事業の立ち上げ時に、技術元素表があることで、人材のAs-Is/To-Beのギャップが一目でわかる。人事は、どんな人材が必要か理解したうえで、キャリア採用に取り組むことが可能になる。
反対に、技術元素表から人的資源を明らかにすることで、中長期の経営戦略に役立てることもできるはずだ。佐藤氏は「これによって経営戦略と人事戦略の連動性がもっと高められると考えて、日々議論している最中」と、可能性を語る。
グローバルな人事の透明化が経営に貢献
今後、注力する活動として、佐藤氏は先述の「技術元素表とタレントマネジメントの連動」に加えて、「サクセッションプランとグローバル人材育成プログラムの連動」を挙げた。
リーダー向けの多様なトレーニングプログラムは用意しているものの、各リージョンでばらばらに存在しており、一つの“マップ”になっていないことが課題だという。リーダーが次のステップを目指す時に、どのリージョンで何をすれば実現できるのか。現在どのポストが空いていて、どんなスキルがあればそのポストに志願できるのか、「ポスティングの見える化」も重要である。
「道しるべとなるものがあれば、人材の力をより発揮できるはず」。佐藤氏は、こうした情報の可視化をグローバルなプラットフォームで進めることで、タレントマネジメントの成果を発揮できると語る。
「人材の情報をグローバルHCMに集約して、世界のどこからでもマルチランゲージでアクセスできる状態が理想的です。つまり、人事の透明化を進めることで、従業員が挑戦するチャンスを最大化できる。そうした取り組みにより、経営目標を達成できるはずだと考えています」
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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