組織はトップが引き上げるもの。快進撃を続けるミラタップの経営・組織哲学
2025.03.26
目次
デザイン性の高いオリジナルの住宅設備・建築資材のインターネット販売を行う、株式会社ミラタップ。2024年には創業45年を迎え、同年10月には旧社名である株式会社サンワカンパニーから社名変更し、海外展開の本格化など新たな挑戦の局面を迎えている。
同社の山根社長は、10年前に創業者である先代の後を継いで社長に就任し、厳しい状況の中で経営・組織変革に取り組んできた。今回は、様々なチャレンジを最前線で牽引する山根社長の経営観・組織観についてお話しいただいた。
Profile

山根 太郎 氏
株式会社ミラタップ 代表取締役社長
1983年、奈良県奈良市生まれ。関西学院大学経済学部を卒業後、2008年に伊藤忠商事株式会社繊維カンパニーに入社。上海駐在などを経験した後、2014年4月に父親の急逝を受け、後継ぎとして株式会社ミラタップに入社。同年6月に代表取締役社長へ就任。

『アトツギが日本を救う ――事業承継は最高のベンチャーだ――』(幻冬舎)
社内の分裂、離職増加からスタートした事業承継
——山根様は2014年に創業者であるお父様の跡を継いで代表取締役社長に就任されましたが、当時どのような心境でしたか。
山根氏:父からはずっと「後を継ぐ必要はない」と言われていたため、「社長をやってほしい」と言われた際には驚きました。同時に、父が自分を評価してくれていると感じ、嬉しく思いましたね。
ただ、当初は経営者としての仕事がどういうものか、イメージが湧きませんでした。皆さんが突然「明日から社長をやれ」と言われても、困惑しますよね。
そんな中で2014年に代表取締役社長に就任しましたが、当時は非常に大変な状況でした。
実は、父の跡を直接継承したわけではなく、父と私の間に就任した社長がいました。社内が前任の社長と創業家派に分かれ、対立していたのです。さらに、退職者も増え、人的リソースが不足している状態でスタートを切ることになりました。
——そのような困難な状況をどのように乗り越えたのでしょうか。
山根氏:もちろん大変ではありました。が、私は幼いころ身体が弱く、そんな中で死ぬほどの覚悟をしてテニスに打ち込んだ経験や、留学中に人種差別を受けた経験など、多くの大変な経験をしていました。なので、それ以上に大変なことはない、と考えられるようになっていたのです。
とにかく、どんな困難でもネタになる、自分の経験として楽しんで乗り越えよう——そういうモチベーションで取り組んでいました。
理想は「フラットな議論ができるピラミッド型組織」
——当時の組織で特に大きな課題はどういったものがありましたか。
山根氏:一番は、「自走する組織」ではなかったことです。創業者のカリスマ性が強く、従業員はその指示を待つ受け身の姿勢に陥っていました。その結果、求心力がどこにあるのかがはっきりしていない、むしろどこにもないという状態でした。
私は、会社が求心力を持つポイントは大きく3つあると思います。
1つ目は「人」。カリスマ性のあるリーダーに人が集まる形です。
2つ目は「事業」。成長している事業ならば、この会社にいれば間違いないと感じるものです。
そして3つ目は「理念やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」。この会社で、このメンバーとともに、この目標を達成したいという強い意志が組織を支えます。
以前の弊社は、典型的な「創業者に求心力がある会社」でした。しかし、創業者が去った後、進む方向も定まらず、MVVを口にすることすらない状況に陥っていました。そこで、2017年にこれらを再構築し、「くらしを楽しく、美しく。」という経営理念を掲げました。

──山根様が考える理想的な組織像とは、どのようなものなのでしょうか。
山根氏:弊社では、流行りの「ティール組織」のようなものを導入するのではなく、従来のピラミッド型組織を維持しています。ただし、ピラミッド型だからといって、上の人間が偉いわけではありません。単に責任と権限が大きいというだけです。仕事を能動的にできる人に、より大きな責任と権限を与えていくことは自然なことです。
重要なのは、フラットな議論ができること。そして、各レイヤーで裁量権を持てることです。
ピラミッド型組織は、上の指示を下がただ実行するだけの体制になりがちですが、そうではなく、メンバーが主体的に動く文化をつくりたいと考えています。
優秀な個より強い組織。定量・定性を合わせた評価の重要性
——ミラタップ社では「人」や「組織」に対して優先して投資されていますが、その背景を教えてください。
山根氏:やはり「いい人材が入ると会社は一気に成長する」という実感があったからですね。2023年12月、ライフネット生命保険の創業者である出口治明さんに社外取締役として参画いただきました。このように素晴らしい人材が入ってくると、それだけで組織は大きく成長する。それを経験して、人や組織に対する投資の重要性を確信しました。
やるべきことは大きく2つです。1つは、外部から優秀な人材を採用すること。これは私の役割として取り組んでいます。もう1つは、既存のメンバーが成長し、優秀な人材に育っていくような仕組みを作ること。これに関しては人事チームに取り組んでもらっています。
——では、どのような仕組みで人材を評価されているのでしょうか。
山根氏:ROIC(投下資本利益率)を経営指標として導入しています。これは、投下資本の効率性を測る指標です。
例えば、人事チームも売上高に対する人件費率を下げるというKPIを持ち、総務部も賃貸コストの適正化を意識するようになっています。これによって、間接部門であっても数値目標が明確になり、成果が可視化されるようになりました。
一方、数値目標だけで評価すると、会社が殺伐とします。
例えば、以前こんなことがありました。あるショールームで、全く売上が上がっていないスタッフがおり、上長に詳しく聞いてみました。すると、「彼女は対人的なコミュニケーションが比較的苦手であることを認識しており、他のスタッフが接客しやすいようにサンプルを丁寧に並べるなど、他のスタッフがスムーズに接客できる環境を作っている」ということが聞けたのです。
定量的なKPIだけでは、このような貢献が評価されません。そこで、定量的な数値評価と定性的な貢献度を組み合わせた評価を行うことが重要になります。
さらに注意しなければならないのは、「アウトローのトップセールス」のような存在を生まないこと。たとえ個人の成果が素晴らしくても、その人の存在が周囲のパフォーマンスを下げてしまうようでは、組織全体の成長にはつながりません。仮に一人が10%優秀でも、周囲の生産性が10%下がったら意味がない。むしろマイナスです。
だからこそ、定量的な成果だけでなく、組織の中でどのような影響を与えているのかを評価する仕組みが必要です。

管理職ではなく、経営者を育てる
——では、人材育成についてはどのように取り組まれていますか。
山根氏:まず、幹部人材育成を実施しています。
私はもともと超大手企業の社員としてキャリアをスタートし、その次が現職、つまり上場企業の社長に就任しており、中間管理職の経験がありません。ただし、そのおかげで経営というものを論理的に深く学ぶことができたと思っています。
この経験から、取締役としての役割は単なる管理職の延長ではなく、経営者としての視座が必要だと考えています。取締役は、社長であろうと専務であろうと、すべて1票しか持ちません。全員がフラットな立場で経営を監視し、議論できる武器を持つ必要があります。
さらに、当社はホールディングス経営を目指しており、今後複数の事業会社を持つことを前提としています。そのため、それぞれの事業会社の社長となる人材を育成する必要があります。
それを実現するためには、例えば経営理念研修を実施し、企業の存在意義やビジョンをしっかりと理解してもらうようにしています。
また、ジェネラリストとしての基礎を身につけつつ、個々の専門分野での強みを活かせる研修を行っています。単なる専門知識だけでなく、組織全体を俯瞰して経営の意思決定ができる人材を育成することが目的です。
——ボトム側へのアプローチについては、どのようにお考えですか。
山根氏:まず、大前提として私はボトムアップという考え方があまり好きではありません。トップが引き上がることで、必然的に下のレイヤーもそれに追随して成長する、という考えのほうがしっくりきます。
その上で、組織には、基本的に三種類の人がいると思っています。
一つには、自ら進んで階段を上がっていける人。二つには、少し背中を押せば成長できる人。そして三つには、そもそも階段を上がる気がない人です。これを面接だけで完全に見抜くことは難しいので、実際に一緒に働いてみて初めて分かることも多い。
よって、私は離職率が一定あることは自然なことだと考えています。離職率を0%にすることが理想ではなく、会社全体の成長に寄与しない人が長く居続ける状態が続く方がむしろ問題です。
——なるほど。組織や人に対する考え方について、よく理解できました。様々なお取り組みについて伺いましたが、社長に就任された10年前と比べて、組織が変化している実感はお持ちですか。
山根氏:10年間で少しずつ改善され、ビジネスモデル・システム・人材・経営チームとしての機能など、組織全体が強くなってきた実感はあります。
ただ、よく「この商品でV字回復しました」といったエピソードを求められることが多いのですが、実際のところそんなに単純な話ではありません。経営はそんな甘いものではないですし、私たちの成長は、一つの施策による劇的な変化ではなく10年間にわたる積み重ねの結果です。
特に、人材のレベルは確実に向上していると思います。例えば、2024年10月1日に社名変更をしたのですが、正直色々なトラブルが起こると思っていました。法務局の手続きミスや、ホームページの一部修正漏れ、お客様からのクレームなど想定していたのですが、実際にはほとんど問題が発生しませんでした。これは総務部門をはじめ、各部署がしっかりと準備を進めてくれたおかげです。
こうした一大プロジェクトを限られたリソースの中でまとめ上げることができたのは、組織全体の強化の証です。

——従業員同士のコミュニケーションにも変化はありましたか。
山根氏:人事チームが以前は積極的に取り組んでいなかった活動を始めたことで、少しずつ変わってきたと感じています。
例えば、年末の最終営業日には「社長賞」の発表を行うのですが、以前は個々の成果に対して表彰していたものが、最近では「複数の部署が協力して取り組んだプロジェクト」に対して表彰するようになっています。
これは一例ですが、これらの取り組みもあってか、日常の業務の中で自然に協力が生まれるようになりました。
例えば、ある営業担当が情報システム部門に「受発注システムがお客様対応をする際に少し不便なのですが……」と相談すると、「それならシステムを見直しましょう」といった流れになり、さらに「システムを変更するなら、物流のプロセスも見直したほうがいいよね」「受発注がスムーズになるように商品開発の視点も加えよう」と、連鎖的に複数の部署が関与することになります。
こうした動きは、以前はなかったものです。今では、問題が発生したときに「それは別の部署の仕事だから」と線を引くのではなく、「一緒に解決しよう」という姿勢が当たり前になってきています。
——組織変革を進めるうえで、山根様には津﨑様(取締役副社長)という強力なパートナーがいらっしゃいます。いわゆる「ナンバー2」は、どういう役割を担うべきとお考えですか。
山根氏:ナンバー2としての役割を果たすための大前提となるスキルは、2つあると考えています。一つは高いコミュニケーション能力、もう一つは経営と現場の両方を理解できるバランス感覚です。
例えば、僕が時計回りに手を回して「時計回りだよね」と言ったとしても、相手から見ると反時計回りに見えることがあります。このように、同じ事象でも経営視点と現場視点では異なる解釈が生まれるのです。
経営側としては「これは重要だ」と思っていることでも、現場からすると「そこまで大きな問題ではない」と感じることもあるし、その逆もあります。ナンバー2には、そのギャップを埋める役割が求められます。
また、単に決定を押し付けるのではなく、現場と対話しながら進めていくことが重要です。経営の意向を理解し、現場にも納得してもらう形がベストですが、最低限「なぜこうするのか」を理解してもらうことが必要です。ここでもコミュニケーション能力が求められます。
地方企業の事業承継に求められる姿勢とは
——山根様ご自身、先代の跡を継がれた2代目として、事業承継に関するお考えをお聞かせください。
山根氏:まず一つ言えるのは、事業承継は「先代がいなくなってからが本当の承継」だということです。例えば、私のように父親が亡くなって事業を継いだケースもあれば、先代が会長として居続けるケースもあります。しかし、後者の場合、実質的には事業承継が完了していないことが多いと考えています。
「ほとんど会社にはいないが、先代がいるから忠誠心が保たれている」という従業員が一定数いる場合、いざ完全に承継したときに、その求心力が一気に崩れることがあります。そのため、事業承継を成功させるには「会社を自分の組織にする」ことが不可欠です。
弊社では、承継時に56人の社員がいましたが、現在の300人のうち当時のメンバーで残っているのはわずか1桁です。それくらい大きな変革が必要なものなのです。
——ミラタップ社が新卒採用に注力されているのは、そのお考えがあるからなのでしょうか。
山根氏:その通りです。私は終身雇用や年功序列といった仕組みは、大企業にとって大きな課題だと考えています。特に、優秀な社員を縛りつけている点が問題です。
例えば、大企業の若手社員が地方の事業承継企業に転職し、部長や役員クラスとして活躍できるような仕組みがあれば、双方にとってメリットがあります。地方企業には新しい視点やノウハウが加わり、大企業側の社員も、単なる「作業」ではなく「仕事」とは何かを学ぶことができます。
大企業では、「仕組みの上で作業をこなすこと」が仕事になっているケースが多いですよね。ですが、「自分で仕組みを作ること」が本来の仕事のあり方です。事業承継の場では、その違いがより明確になります。
——では、事業継承にあたって、どのような姿勢が求められるのでしょうか。
山根氏:結局のところ、「言い訳をしないこと」が大事です。私は地方の事業承継企業から講演を頼まれることが多いのですが、その際に「山根さんはエリートだけど、自分には無理」とよく言われます。しかし、それはただの言い訳です。
例えば、弊社のクリエイティブチームには、外部顧問として元ソニーのトップデザイナーやトップマーケターがいます。彼らをどうやって採用したかというと、自ら見つけ出し、熱心にアプローチしただけです。そこに特別なコネクションがあったわけではありません。何度も断られましたが、それでも粘り強く交渉を続けた結果、実現しました。
地方だから、小さい会社だから、と言い訳せずに行動する。それこそが、事業承継においても、新たな価値を生み出すためにも、最も大切なことだと考えています。

トップ自らが引き上げることで組織は成長する
──最後に、山根様の組織づくりにおけるポリシーと原動力について教えてください。
山根氏:組織運営に関しては、トップダウンではなく「トップが引き上げる」スタイルを意識しています。トップが前に立って影響を与えることで、組織全体に波及するような形が理想です。そして、その組織が機能するためには「フラットかつフェアであること」が大前提です。
また、私の原動力は、“Make a mark”——「生きた証を残す」ということ。この会社でこそ解決できる課題を見つけ、それに取り組むことに意義があると思っています。
例えば、日本では建材の選択肢が限られているといった課題がありますし、インドネシアでは人口増加に対して住宅供給が追いついていないといった課題があります。
SDGsの目標の一つに「すべての人に清潔なトイレを」というものがありますが、そもそも清潔なトイレがある住宅自体が不足しているのです。そこに対して、安価で大量供給が可能な住宅を提供することで貢献できるのではないかと考えています。
単に利益を追求するのではなく、社会にとって意味のある事業を展開していきたいと思っています。
──社会課題解決にも挑戦していくという強い覚悟と信念が伝わりました。本日はありがとうございました。
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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