DXの"X"は人の変革。学び、変わり、成長する組織づくりへの挑戦
2025.08.05
明電グループとして、様々な社会インフラ(電力・電鉄・施設・水処理等)のソフトウェア開発事業を手掛ける明電システムソリューション株式会社。同社は、DXや技術継承といった課題を解決するための土台に「心理的安全性」を軸にした組織文化を据え、今まさにカルチャー変革に挑んでいる。
代表取締役社長 吉野康裕氏、取締役 黒崎博明氏に、カルチャー変革の背景と取り組みの内容、「変わりつつある」という現在の組織について伺った。
Profile

吉野 康裕 氏
明電システムソリューション株式会社 代表取締役社長
1987年に明電舎に入社。沼津事業所のコンピュータ装置工場に配属され、主に発電、変電の監視制御システム開発に従事。その後、JR東日本情報システム(JEIS)への出向、明電舎本社のICT技術部を経験し、2017年にコンピュータシステム工場長に就任。2022年からは執行役員 DX推進本部長に就任。2024年に明電システムソリューションに転籍し、代表取締役社長に就任。

黒崎 博明 氏
明電システムソリューション株式会社 取締役
1993年に明電システムソリューションの前身である明電ソフトウェアに新卒入社。以降30年近く、主に明電舎製品である「半導体製造装置ホストオンラインパッケージ」や「水処理監視制御システム」等のソフトウェア開発現場でプログラマ、SE、PL、PM、管理職等のステージを経験。2023年に取締役就任。生産改革グループ長として「組織風土改革」や「社内DX」を推進。
組織の存続につながる、マインド変化やDX促進の課題
——お二人とも明電グループの在籍が長いですが、これまでのご経験の中で、組織にどのような課題があるとお考えでしたか。
吉野様:私は1987年に明電舎に入社し、製造現場である工場でソフトウェア開発を長く担当していました。当時の組織は、今と違って下から意見を言いにくい雰囲気が強く、ハラスメントに相当するようなこともあり、トップダウンの文化。上の指示に従い、背中を見て育つという風土が根付いていました。なかなか従業員の声は届かず、また意見を言うという風土もなく、管理職にならない限り理想的な組織はつくれないと漠然と感じていました。
そんな中、他の企業へ出向する機会がありました。そこではプロジェクト単位で仕事が進むため、工場のような厳格なルールは少なく、自由度が高かったのです。例えば、朝礼、終礼は無く、プロジェクト単位での行動となり、昼食もプロジェクトメンバーと一緒にとるといった協調的な環境でした。このような環境では、意見を交わしやすくコミュニケーションも活発で、とても楽しく仕事ができました。私にとって理想的なカルチャーに近いものでしたね。その経験から、みなが意見を言い合える組織を目指したいと考えはじめました。
黒崎様:私は、1993年に明電システムソリューション社の前身である明電ソフトウェア社に新卒入社し、以降30年ほど、ソフトウェア開発現場でさまざまな役割を担ってきました。その中で組織に対して感じていたのは、「改善や挑戦、部門内の助け合いや部門の枠を越えた連携が少ない」「自主的な学びが少ない」ということでした。
これは弊社に限った話ではないかもしれませんが、目の前の仕事は責任感を持ってしっかり取り組むものの、「自分の仕事はこの業務だ。以外は余計なことだ」という意識が強く、新たなインプットをしない——その結果、アウトプットするものがなくなり、アウトカム(成果)につながらない、という人が多いように思います。

——その上で、どのような組織を理想像とされていますか。
黒崎様:今の成果に直結する目の前の業務に取り組みつつも、組織として課題を解決、改善し、次の事業を生み出す挑戦が起きる組織が理想ではないでしょうか。
私たちの業界では、AIをはじめとして技術の変化が激しいため、学び続ける必要があると考えています。何もしなければどんどん取り残されてしまう。
以前は残業や休日出勤が当たり前でしたが、そのような状況の中、個人的には早くから「学び」、すなわちインプットの重要性を認識して、時間を作って勉強を続けてきました。それが業務改善や新たな役割への挑戦につながったと実感しています。目の前の業務を淡々とこなすだけでは、個人としての成長は限定的となります。
インプットがアウトプットに、アウトプットがアウトカム——時には失敗という学びにつながります。私は個人的な危機感がきっかけでしたが、組織文化もしくは仕組みとしてそれを自然発生的に促せるのが、良い組織だと思います。
その結果、「私の仕事じゃない」「私には関係ない」「私にはできない」ではなく、「もしかしたらできるかも」「やってみたい」「やらなければ」というマインドが醸成できるのではと考えています。
——ご自身の経験から、組織風土を変える必要性を感じられていたのですね。そのほか、内部環境の変化などのきっかけはあるのでしょうか。
吉野様:人材の年齢層という面での課題があります。現在の弊社は、年齢構成がかなり偏っています。50代以上の社員が多く、30~40代の人材が薄い、上がすごく大きい「砂時計型」です。現在は採用に注力しており若手は増えてきているのですが、年齢ギャップがいまだ大きい状況です。
今後10年で、今いる人材の多くがリタイアします。離職も含め、今後さらに人材の流動化が加速していくでしょう。そのため、心理的安全性を高め、若手が意見を言うことができて成長できる環境を作らないと、組織の持続が危うくなると考えています。

——貴社はDX推進やナレッジの共有も注力されていますが、これらを進める背景にも、世代交代があるのでしょうか。
吉野社長:そうですね。今までのような人から人への技術継承が難しくなってきています。そのため、ベテランの暗黙知を形式知化して、生成AIを活用した技術継承を進める必要があります。
当社では、「技術継承」と「属人化の解消」をセットで考えています。この二つは、時間軸が違います。
技術継承は、未来へ技術を引き継ぐという、長期的に見た課題です。それゆえに、「自分にはまだ関係ない」と感じる人もいるでしょう。
一方で、属人化は、今まさに解決が求められている課題です。特定のキーマンに業務が集中し、負荷が偏っているため、即時的にサポートできる人材を増やす必要があるのです。この解決のためには、サポートしあうマインドにつながる心理的安全性や、信頼関係、感謝が重要になります。

ナレッジ共有を加速させたのは「感謝による関係性構築」
——貴社で推進している「MSS生産改革プラットフォーム」の取り組みも、信頼や感謝を土台に据えていると聞きました。どういう構想なのか、詳しくお聞かせください。
黒崎様:「MSS生産改革プラットフォーム」とは、組織風土改革と技術継承、生成AIによる生産性向上や業務改革を狙った社内基盤全体を指します。
推進する背景には、先ほどからお話している課題感に加え、心理的安全性の欠如、それによる組織の硬直化という課題がありました。昔からの慣習や暗黙のルールがあり、何か新しいことをやろうとすると否定されることが多く、責任だけが個人にのしかかってくる——そんな風土がありました。失敗すれば糾弾されますが、成功したところで感謝されるわけでもなく、「やって当然」といった雰囲気があるのです。
こうした風土を打破するために、信頼関係を構築し、心理的安全性を高める必要がある。そして、その土台となるのはやはり挨拶や感謝といった基本的なコミュニケーションであるという結論に至りました。
弊社で実行している組織風土改革は、実質「Unipos」を活用した取り組みです。成果として、お互いの業務や貢献が見えるようになり、心理的安全性向上だけでなく、技術継承やノウハウの共有の活性化にもつながりました。教えてくれた人に感謝が送られるので、学びのサイクルが回りやすくなりました。つまり、感謝の文化の上に、技術や知識を共有する基盤ができています。
ナレッジ基盤は、過去に幾度となく立ち上がっては陳腐化を繰り返す状況を見てきました。なぜ誰も使ってくれないのか考えてみると、2つに整理できました。1つ目は、業務が忙しい中で、自分の知っていることを他人のために共有しなければならないので、大変な労力をかけているにもかかわらず、それに対して感謝されることがないことです。自分の知っていることをわざわざ投稿しても、インセンティブは感じられないですね。2つ目は、そもそも何を投稿したらいいか分からなかったことです。コミュニケーションがとれていないため、「誰がどういう情報を必要としているのか」が見えづらかったのです。
感謝の文化の定着をみて、今ならいけるのでは?と、ナレッジ基盤の構築と推進を始めました。現在は、溜まったノウハウや業務ナレッジを生成AIにチャットで問合せできる「社内生成AI基盤」を構築し、全社で活用しています。生成AIが急速に広まった際、すぐにここまで立ち上げできたのも、感謝とナレッジ蓄積を同時に推進してきたからだと思っています。
——理想の組織を目指すためのもう一つのお取り組みとして、「10%カルチャー」についてお伺いしたいと思います。これはどのような取り組みなのでしょうか。
吉野様:働き方改革が叫ばれる中で、業務密度が非常に濃くなり、従業員には余裕がなくなっています。この状況では新しいことに挑戦する余地がなくなってしまいます。どの会社も同様の課題を抱えていると思いますし、私たちもそこを変えていく必要があると感じました。そこで、業務時間の10%を新しい取り組みや自己成長に充てる「10%カルチャー」を根付かせようとしています。
実業務以外の活動として、自己啓発による学び、新しいことへの挑戦ができる時間的余裕は常に与えたいと考えています。そうした実業務以外の活動を通じて、失敗を恐れずチャレンジする体質に変わっていけると信じています。

——これら新しい取り組みを進める中で、上手くいかなかったことはありますか。
黒崎様:やはり「本業が忙しい」「人が足りない」という声が聞こえ続けています。また、近年は働き方改革として残業削減にも取り組んできましたが、「10%カルチャー」に相当する時間が真っ先に削減されてしまったとも感じました。組織として手を打たなければいけない課題として認識して、改めて取り組みを進める必要があります。
「10%カルチャー」自体、まだ浸透しきれていないのが実態です。特に、新しいことに積極的に取り組む人と、そうでない人との間で二極化が進んでいると感じています。新しいことに挑戦している人に称賛を送り合うことによって、より推進していきたいですね。

事業成長につながる組織の変化を実感
——課題はまだ残っているとのことですが、社内に変化はありましたか。
吉野様:少しずつではありますが、変化は感じられます。例をあげると、産学連携のプロジェクトが始まりました。これまで弊社は自前主義が強い傾向にあり、他組織との連携には消極的でした。外部組織と協力することで新たな開発ができるようになり、組織に良い影響を与えていると感じています。対社外だけでなく、社内においても部門間や世代間のコミュニケーションが増えています。
プロジェクト制だと、部門を超えてメンバーが集まるので、情報共有や技術継承の面でも効果があるのではないかと思いますね。
黒崎様:他にも、社内向けDXに取り組むチームや、新事業の創出を目的としたチームが生まれており、彼らが新事業の開発や新技術の習得に励んでいます。プロジェクトは、最初はクラブ活動のような軽い取り組みでしたが、現在では会社の支援を得て進めているものもあります。また、以前と比べて積極的に手を挙げて参加してくれる人が少しずつですが増えているように感じています。
——手挙げ文化が醸成されつつあるのですね。そういった活動に参加されている方々の雰囲気はどうですか?自発的に参加することで、活気が感じられるのでしょうか。
黒崎様:参加しているメンバーは、日々の業務で忙しい中でも時間をやりくりして、新しい挑戦に意欲的に取り組んでいます。ただ、現時点では活気という面ではまだ限定的に感じられます。社員一人ひとりが実感できるような活気を生み出すためには、小さな失敗やすばやいトライ&エラーを受け入れ、それを奨励するような雰囲気を組織として醸成していく必要があると考えています。そのためにも、会社としては利益に直結する成果だけにとらわれず、挑戦的な取り組み自体を評価していくことが大切です。そうすることで、より活気ある組織へ成長していけるのではないかと思います。
——組織づくりの取り組みと業績との関係についてはどのようにお考えですか。実際に事業成長につながりつつある実感や手触り感はお持ちでしょうか。
黒崎様:組織づくりと事業成長とはつながりが深いと考えていますが、現在の取り組みが事業成長の実態を伴っているかというと、まだまだこれからだと思っています。
ソフトウェア開発やITプロジェクトでは、生産性の可視化が難しく、現状、生み出した付加価値高から結果論で語っている状況です。また、個人成果主義的になってしまっては逆効果なので、チームやプロジェクトとしての成果を評価する枠組みの必要性を感じています。
生産性を向上させて定常的に可視化し、それによる成果を実感できるのはまだ先かもしれませんが、そのための土壌のようなものはできつつあるという手応えはあります。いよいよ次の施策へ向かっていける段階だと思っています。
——最後に、組織づくりに関してどのようなことを大切にされているのでしょうか。また、今後についてもお聞かせください。
吉野様:私は、自分の能力が特別優れているとは思っていません。ただ、他のメンバーの意見をしっかり聞き、取り入れる姿勢を大切にしています。社内外で学ぶ機会も多く、特に社外の講演やセミナーなどから新しい知識を積極的に吸収しています。
私は「利他」という考え方を大事にしていて、他者のために行動できる人間を増やしていきたいと思っています。これも、会社全体の成長やDXの推進につながる考えだと思います。
また、当社では今、非常に多くの取り組みが同時に進められています。しかし、何を残し、何を変えるべきか、特に「やめること」についての文化がまだ十分ではないと感じています。今の形に固執せず、よりよい未来を見据えて柔軟に変えていく必要があると考えています。
黒崎様:私がマネジメントで意識しているのは「勇気づけ」と「危機感」の2つです。前向きな姿勢でメンバーを励ましつつも、変化に取り残されないための危機感を持ってもらうことが大事だと感じています。
そのために現状を可視化し、部門間や他社、更には業界全体と比較することで「このままではまずい」と感じてもらうことを心がけています。データドリブンで、定量的に現状を示していくことが重要です。
その前提として、メンバーと密にコミュニケーションをとることは欠かせません。最近、「挨拶をしない権利もある」とか「人前で褒めないでほしい」などの極端な論調も見かけましたが、会社組織は人が集まってシナジーを発揮し、集まった人数以上の成果を生み出すことを目的としたコミュニティです。その上では、挨拶や感謝といった基本的なコミュニケーションは必要不可欠であると考えています。そうしたコミュニケーションによって人と人が「信頼」という線でつながり、その線が多く・太くなることでチームとしての協力が生まれ、次第に思ったことが言える雰囲気が醸成されて心理的安全性が向上し、改善・挑戦活動の促進につながる——こう考えています。VUCAの時代であるなどと言われますが、この部分をぶれなく取り組むことで、その先にあるエンゲージメントの向上と会社としての成長があると思っています。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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