業界トップの健康企業に認定。SOMPOひまわり生命保険は社内の「健康」をどう実現したのか?
2025.09.17
目次
「健康経営優良法人(ホワイト500)」に9年連続で認定され、2025年には業種内第1位を獲得したSOMPOひまわり生命保険株式会社。かつて20%以上だった社員の喫煙率は6.2%まで低下し、2024年度の男性育児休業取得率は100%を達成するなど、数々の成果を挙げている。2023年にCHROに就任した野田美智子氏に、同社の人事戦略や、健康経営の具体的な取り組み、成功のポイントを伺った。
Profile

野田美智子 氏
SOMPOひまわり生命保険株式会社 執行役員 CHRO 人財開発部長
「『健康経営』を企業文化として根付かせる仕組みづくり」
——SOMPOひまわり生命保険では2016年から「健康応援企業」を掲げていますが、これはどのようなコンセプトなのでしょうか?
「健康応援企業」は少子高齢化という社会課題にSOMPOグループ全体で取り組む中で生まれたコンセプトです。
生命保険会社としての伝統的な役割は、万が一のときに経済的な面でお客さまを支えることです。しかし、お客さまにとって最善なのは、そもそも万が一が起こらないことだと考えました。そこで、「万が一をできるだけ遅らせるために企業として何ができるか」を真剣に考え、その答えとして「健康」にたどり着きました。
そして、お客さまの毎日の健康を応援する「健康応援企業」をビジョンに掲げ、保険本来の役割(Insurance)と健康をサポートする機能(Healthcare)を組み合わせた「Insurhealth®(インシュアヘルス)」を新たな価値として提供しています。
「お客さまの健康を応援する」という使命を果たすためには、大前提として、私たち社員自身が健康であることも大切です。社員とそのご家族が健やかでいられるよう、私たちは「健康経営®」にも積極的に取り組んでいます。
※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
お客さまの健康と社員の健康、両者を実現することが健康応援企業に込めた想いです。

——SOMPOひまわり生命保険は「健康経営優良法人大規模法人部門(ホワイト500)」に9年連続で認定され、健康経営で高い成果を挙げています。中でも、社員の喫煙率を20%超から6.2%まで下げたことは驚きです。
当社では2016年から本格的な禁煙推進に取り組み、9年かけて段階的に進めてきました。いきなり全社で禁煙にすると大混乱を招くため、「何から始めるべきか」は慎重に検討しました。
最初に着手したのは、役員や部長といった幹部層の就業時間内禁煙です。幹部層が率先して取り組むことで、「会社は本気で禁煙に取り組んでいる」というメッセージが社内に浸透し始めました。すると、「自分も禁煙を考えてみようかな」といった空気が少しずつ生まれていきました。
次に注力したのは、禁煙を前向きに捉える雰囲気づくりです。例えば、卒煙によって「家族が喜んでくれた」「お子さんの誕生を機に卒煙した」といった個人の成功体験を社内で広く共有し、共感の輪を広げました。また、有料の禁煙プログラムへの参加を会社が補助するなど、卒煙に取り組む社員をサポートする姿勢も明確に打ち出しました。

施策を推進するうえで一貫して心がけたのは、喫煙者を悪者扱いするのではなく、対話を重ねながら卒煙をサポートするというスタンスです。喫煙所の廃止も段階的に行うなど、時間をかけて丁寧に行いました。
結果として、約20%だった喫煙率は9年かけて6.2%まで下がりました。2020年度以降は採用要件を「非喫煙者であること」としていることもあり、その姿勢に共感して入社を決める候補者も増えてきています。健康経営は企業ブランディングにおいても重要な役割を果たしています。
——社内喫煙率の低下が採用にも影響を与えているんですね。ほかにも、健康増進の取り組みとして、ウェアラブル端末を社員に配布したり、独自の体操を考案したりなど、ユニークな施策も多いですよね。
「これが絶対の正解だ」という方法はなく、社員が健康を意識するきっかけを試行錯誤しながら提供しています。
代表的な取り組みが、2016年から始めたウェアラブル端末の活用です。健康の維持には日々の意識が欠かせませんが、いきなり高い目標を立てても長続きしません。そこで、「まずは自分の1日の歩数を知る」という身近な一歩から、健康に関心を持ってもらおうと考え、全社員にウェアラブル端末を無償で貸与しました。
もちろん、私たちの目的は端末を配ることではなく、社員が楽しみながら健康を意識し、それが日常の価値観として自然に根付いていくような職場づくりです。その一環として、職場対抗の歩数競争を年2回開催しています。イベントをきっかけに、「どうやって歩く時間を確保するか」といった会話が職場で交わされることも増えました。健康が社員共通の話題となり、組織の一体感を醸成しています。

——健康にまつわる取り組みはなかなか社内に浸透しないケースも多いと聞きます。SOMPOひまわり生命保険では、社内に浸透させるためにどんな工夫をしているのですか?
当社が恵まれている点は、本業で「お客さまの健康を応援する」という考え方が根付いていることです。
社員には「お客さまの健康を応援する」という使命感が深く浸透しています。例えば、社内でガンの早期発見に関するセミナーなどを開催すると、あっという間に満席になります。参加者をよく見ると、営業社員が多くを占めています。社員はそこで得た知識を自分自身のためだけでなく、お客さまや保険代理店への情報提供に活かそうと、非常に意欲的に学んでくれます。このように、社員向けの健康施策が自然とお客さまへの価値提供にもつながっているのです。
また、健康経営の施策を一過性にせず、文化として根付かせるための仕組みづくりも重視しています。その代表例が、月に一度、全社の職場で必ず実施している「健康応援ミーティング」です。各職場で健康をテーマにした話し合いの時間を設けることで、自然と健康が職場の共通話題となります。ウォーキングイベントなどの全社施策についても、このミーティングの場で「今度のイベント、みんなで参加しよう」といった具合に、職場単位で盛り上がっていく流れができています。
ただこうした施策も、様々な考えや事情があって積極的な参加が難しい方もいます。当社では一人ひとりの状況を尊重しながら、誰もが前向きに、そして楽しく参加できる環境づくりを大切にしています。重要なのは、多様な考え方を受け止めながら取り組みを信じて続けること。そうすることで、時間をかけて少しずつ組織全体に伝わっていくのだと思います。 だからこそ、当部は、誰もが気軽に参加でき、楽しみながら取り組めるような雰囲気づくりを大切にしています。そうした積み重ねが、時間をかけて少しずつ組織全体に広がっていくと考えています。
「育休を取得して当たり前」の雰囲気をつくるには?
──2024年度は男性育児休業取得率100%を達成しています。
社員には、当社で長く活躍していただきたいと願っています。そのためには、仕事のやりがいだけではなく、プライベートの充実が仕事でのパフォーマンスを最大限に引き出すための基盤になると考えています。
特にお子さんの誕生は、人生におけるかけがえのないライフイベントです。その大切な時間を会社として心から尊重し、社員が安心して家族と向き合えるよう最大限サポートしていきたいと考えています。
男性の育休取得率100%という成果も、まさにその考え方を体現したものです。ただ制度を設けるだけでなく、社員が気兼ねなく取得できる職場文化を築くことを重視してきました。
この100%という数字は、決して自然に達成できたわけではありません。背景には、職場の部門長による丁寧なフォローがあります。お子さんが生まれたという連絡を受けると、必ず所属長を通じて本人に「育児休業、取得されますよね」とポジティブな声かけを徹底しています。上司からの「しっかり休んでください」という後押しが本人の安心感につながり、結果として100%の取得に結びついています。
今後の課題は、平均取得日数を増やすことです。会社としては1カ月程度の育休取得を目指しており、少しずつ取得期間を延ばしていきたいと考えています。
──「まご・おいめい育児休暇」という制度もユニークですね。
「まご・おいめい育児休暇」は、男性の育児参画をさらに積極的に推進するために導入した制度です。
20年ほど前には、男性が育児休業を取得するという選択肢自体が一般的ではありませんでした。そうした世代の方にも、今度は孫の誕生を機に、育児をサポートする喜びや大変さを体験していただきたいという思いがあります。
また、共働きが当たり前となった今の時代においては、若い世代が「甥や姪の誕生」を機に育児に関わる経験を積むことも、将来の子育てや家族支援の視点を育むうえで重要だと考えています。
この制度を通じて、世代を超えて育児に関わる機会を広げ、誰もが自然に育児に参加できる社会づくりに貢献していきたいと考えています。
──社内の反響はいかがですか?
取得された方からは「とても良い経験になった」という声を多くいただいています。「育児休暇」として取得することで、家族との会話も生まれますし、育児にまつわる具体的な支援を考える機会にもなります。実際に取得した方が周りにも取得をすすめるケースも多く、良い循環が生まれていると感じています。
一方、甥・姪の育児休暇については、まだ情報が届きにくいという課題もあります。そのため、各所属長から「甥や姪がもうすぐ産まれる人はいますか?」といった声かけをしていただくなど、きめ細かいサポートを通じて制度の周知を進めています。
育児に関わる経験を積んだ社員が増えることで、結果として、育休が組織全体で当たり前のこととして受け入れられる土壌ができると考えています。
異動を希望しない人にも、「今の部署で挑戦したいこと」を言語化してもらう
──2024年度からは社員の自律的なキャリア形成を支援する「ひまわりMYパーパスキャリア制度」を導入されています。導入の背景をお聞かせください。
当社の人事異動は、社員が希望を出すことはできても、最終的な人事異動は会社主導で行うのが主流でした。しかし、これからの時代にふさわしい人事のあり方として、「会社主導」から「社員主体」へと重心を移していきたいと考えています。社員一人ひとりが「自分は何をしたいのか」「どういったことで活躍したいのか」を深く考え、それを自ら発信していくことが不可欠です。 なぜなら、受け身でキャリアを歩むよりも、社員が本当にやりたい仕事に挑戦する方が、個人の成長と会社全体の成果、その両方を最大化できると確信しているからです。
この考えから導入したのが「ひまわりMYパーパスキャリア制度」です。
この制度では、社員は年に一度、自身のキャリアについて5つのコースから選択します。

管理職ポストにチャレンジする「マネジメントチャレンジコース」、新たな部署にチャレンジする「他部署チャレンジコース」はイメージしやすいと思います。
制度の中でも特徴的なのが「スカウトコース」です。社員が「スカウトを待つ」と宣言すると、部門長がその社員の経歴や実績を見てオファーを出すことができます。社員にとっては、思いがけない部署から声がかかることで自身の市場価値や新たな可能性に気づく機会になります。一方、部署側にも「スカウトしても魅力的な部署でなければ選ばれない」という健全な緊張感が生まれ、組織全体の活性化につながっています。
また、今の部署での活躍を宣言する「自部署チャレンジコース」においても非常に効果的でした。これまでは漠然と同じ部署に残ることを希望する人が多かったですが、このコースでは「なぜ来年もこの部署で頑張りたいのか」を上司との面談を通じて言語化してもらう必要があります。これにより、同じ部署に留まるという決断を目的意識を持ったポジティブな挑戦に変えることができるのです。
そして最後が、自身のキャリアパスに悩む社員が会社に配置を委ねる「キャリアアサインコース」です。このコースは、自身のキャリアパスに悩んでいる社員や、あえて会社の判断に委ねたいと考える社員が選択するものです。この選択も、社員の主体的な意思表示の一つだと捉えています。自らの可能性を広げるために、あえて会社の視点を取り入れるという姿勢は、社員と会社の信頼関係に基づいた制度運用につながっています。
人事が信じて突き進めば、組織は必ず変わる
──多様な人事施策を推進する中で、野田さんがCHROとして今後注力していきたいことは何ですか。
私がCHROとして取り組んでいきたいのは、「挑戦する社員の後押し」です。当社が目指す「健康応援企業」へのさらなる進化は、まだまだ道半ばです。実現するためには、何事も自分事として捉え、課題を見つけ、解決のために行動できる社員を1人でも多く育成する必要があります。
そのための具体的な施策の1つが「学びサポート制度」です。社員が「この会社でこういう活躍をしたいから、このスキルが必要だ」と考えたとき、その学習費用を会社が補助することで、社員の挑戦を後押ししています。これに限らず、今後もさまざまな施策を通して社員の挑戦を後押ししていきたいと考えています。
——最後に、野田さん自身の人事トップとしての哲学を教えてください。
私が大切にしているのは、「人生の中に会社がある」という考え方です。制度や仕組みを整えるだけでなく、社員一人ひとりの人生や個性を尊重し、そのうえで働きやすさとやりがいの両方を最大限に発揮できる環境をどうつくっていくか、という点を常に意識しています。
そのため、私自身のパーパスは、「社員が『迷ったら挑戦してみる』という勇気ある一歩を踏み出せる職場づくり」です。ただ、こうした変革や挑戦を促すには覚悟も必要です。社員の意識を変えるには、長い時間がかかります。新しい人事施策を始めれば、肯定的な意見がある一方で、後ろ向きの反応が出てくることもあります。
それでも、そこで諦めては駄目で、成果がすぐに見えなくても、信じて推進し続けることが何よりも大切だと思っています。最初は小さな変化かもしれませんが、粘り強く続けていけば、数年後には確実に組織が変わっているはずです。人事の仕事は、未来の組織をつくること。結果は後からついてくると信じて、これからも一歩一歩、前に進んでいきたいと考えています。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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