年功序列を壊し、経営する大学へ。「攻めの財務」が主導した京都芸術大学の組織風土改革

大学の半数以上が定員割れする時代。多くの学校法人が変化を求められながらも、保守的な体質から抜け出せずにいる。そうした中、京都芸術大学を運営する学校法人 瓜生山学園は、役割等級制度の厳密な運用、そしてデジタル教育の世界展開を見据えたDXを進めてきた。

「学校法人の経営も、企業の経営も変わらない」──そう語る財務担当理事の高久正史氏と、現場に近い立場から改革の広報・DX推進を担当している木原考晃氏に、改革の背景と実践を聞いた。

Profile

高久 正史 氏

学校法人 瓜生山学園 財務担当理事

学校法人瓜生山学園および学校法人東北芸術工科大学の財務担当理事を務める。学生募集や就職支援の成果にまでコミットし財務の健全化と組織改革を推進。個人の成長と組織の成長を連動させる人事制度改革にも携わる。

 

 

木原 考晃 氏

京都芸術大学 広報課 課長

学校法人 瓜生山学園 広報・DX推進担当京都芸術大学の広報統括およびDX推進に携わる。グループ会社のクロステック・マネジメントと連携した教育プラットフォーム構想の推進など、大学の成長戦略の実行を現場で担う。採用面接にも関わり、組織文化と人材のマッチングにも注力している。

「財務担当理事」はなぜCFOでなければならないか──大学を動かす「攻めの財務」

──高久さんは京都芸術大学を設置する学校法人の「財務担当理事」としてどういった業務を担っていらっしゃるのでしょうか。

高久:財務担当理事は、企業でいえばCFOのような存在です。

私立大学の収入は、主に学生のみなさんの学費で成り立っています。学校の収入を維持するために何が一番大事かというと、学生を集めること。企業でいうと商品を売ることと同じです。何十億、何百億をかけて設備投資をして、学生が集まったら黒字になる仕組みの事業を行っているわけです。語弊を恐れずに言えば、装置産業のような財務構造を持っている事業です。しかしながら、現在、日本の大学の5割以上が定員割れしている状況です。

一般企業でいえば、CFOが売上構造や顧客の動向に関心を持つのは当然のことです。サービスの品質が落ちれば顧客が離れる──だから財務の数値管理だけでなく、事業の実態にも踏み込む。同じく、大学経営を健全に維持するには「数字を管理する」だけでは不十分です。学生募集の状況や教育の質、就職支援まで含めて、大学の事業構造全体を見ていかなければならない。

一般的な財務担当理事であれば、執行部の会議で学生募集の状況報告にまで口を出さないと思います。でも、私は積極的に関与しています。学生が集まらなかったら財務状況は逼迫しますし、大学経営そのものに影響しますから。

就職支援に関しても同様です。学部3年生の夏のインターンシップ参加率などは重要なKPIですので、教学の執行部が集まる会議にも出席し意見をしています。財務担当理事は、財務に関わる数字を管理するのが仕事と思われるかもしれませんが、学生にとって価値のある教育や環境を提供できているかという視点と、財務の健全性は切り離せないはずです。

結果を受けて財務を調整するのではなく、結果そのものにコミットする。「攻めの財務」とでもいうのでしょうか。それが京都芸術大学を設置する学校法人の財務運営の特徴だと思います。

結果を出した職員に報いる──「個人の成長」を「組織の成長」に変える仕組み

──近年、京都芸術大学では組織改革に取り組まれてきたと伺いました。どういった課題感があったのでしょうか。

高久:大きな課題は2つありました。職員の待遇改善と、評価制度です。

改革前は当時の学校法人としては一般的であったであろう年功序列型の給与制度でした。勤続年数に応じて昇給していく仕組みです。安定はある一方で、成果を出している人もそうでない人も同じ処遇になってしまう構造でした。一方、オーナーが存在した学校法人だったこともあって、努力をして結果を出す若い職員を役職者に抜擢するなど、新しいことに挑戦したいというマインドを持つ人も増えていました。積極的にアウトプットを出す人と、アウトプットを出すことを重要だと思わない人が給与制度上では同列に扱われる。これは組織として健全とはいえません。

そこで、2017年に新しい制度を導入しました。「個人の成長と組織の成長が一致する仕組み」です。個人の成長と学校の成長が同じ軸で揃うような人事制度を設計し、成果を上げた人が評価され、昇格と昇給をしていく。それが学校法人の成長につながるようにしましょうと。

そのため、役割等級制度を導入して、年齢と給料を完全に切り離したんです。結果として、若くて役職についていた職員の処遇は大幅に改善されましたが、一方で、年齢が比較的高く、役職についていない職員の給与が下がるケースが発生しました。想定されることだったので、制度導入にあたっては、全職員と個別面談を重ねました。役割等級の仮配置、本配置、評価の透明化などを数年かけて進め、実現させました。年収が2割以上下がることになった職員もいましたが、それだけ職責と処遇が乖離していたということでもあります。組織のさらなる成長を目指すためには避けては通れない改革でした。

「現状維持は評価しない」──失敗を許容し、挑戦を生む組織へ

──制度導入後、組織にはどのような変化がありましたか。

高久:評価制度のインパクトは大きかったと思います。評価は数値目標の達成基準と、役割等級に求められる職務行動の2軸で行っていますが、管理職は特に数値目標に重きを置いています。学生募集であれば志願者数やオープンキャンパス参加者数、就職支援であれば就職率やインターンシップ参加率、教務であれば授業アンケートの評価結果や退学率の改善など、部署ごとに具体的な数値目標を設定しています。

重要なのは、現状維持の目標を認めないことです期初に年度の目標を立てるのですが、「去年と同じだけの業務を失敗なく処理します」というような目標は立てないようにしてもらいました。目標は必ず何かを改善する、新しい挑戦をするという内容でなければならない。去年と同じことをしていても評価をしないという仕組みです。

その一方で、挑戦した結果の失敗は許容するとも繰り返し伝えています大学業界は縮小マーケットです。失敗を恐れて何もしないより、挑戦を続ける方が重要ですから。

元々、本学の経営層のメンバーは良い意味で挑戦的といいますか、ベンチャーマインドを持っているんです。新制度が導入されたことで、そうした組織の風土が仕組みとなり、職員間で共有されていったという印象があります。

先日、課長全員を対象にした研修で組織サーベイを行ったのですが、その中に「うちの組織はどういう組織ですか」という項目があったんです。成長性、革新性、正確性、安定性という4軸の中で、ほぼ全員が成長性と革新性に位置づけられると認識していました。これは制度改革の1つの成果だと受け止めています。

全員と向き合い、妥協しない──制度改革を貫いた実行力

──評価基準が明確になったことで、職員の行動も変わりましたか。

高久:成長した職員は多くいますね。何をすれば評価されるかが明確になったことで、より結果にコミットするようになりましたし、新しい提案や改善についての重要性についても共有できていると感じています。また、チャレンジが増えたこともですが、失敗からちゃんと学ぶようにもなったことも良い変化でしたね。

──それだけ大きな改革となると、内部からの反発もあったのではないかと想像します。木原さんは、どのように感じられましたか?

木原:大学職員の間では、「安定」や「ワークライフバランス」を重視する傾向が根強くあります。 そうした環境下で役割等級制度を導入したことで、当然ながら現場からは一定の反発や慎重な意見が上がりました。

高久:先ほども申し上げた通り、全員の承諾を得るために、一人一人と丁寧なコミュニケーションをとり、時間をかけて対応をしました京都芸術大学の「あらゆる世代、あらゆる地域、あらゆる言語の壁を越えて芸術教育を普及させていく」という理念を実現するためには、必要な変化であると説明し、理解していただきました。

役割等級基準制度を導入している学校は他にもありますが、本学はかなり厳密に運用していると考えています。導入にあたり、すでに役割等級制度を導入している大学へヒアリングをしましたが「ある程度の年齢になったら役職を与えている」と言っていました。反対意見を尊重した上での折衷案なのでしょうが、それでは制度を導入した効果が限定的になってしまいます。なので、京都芸術大学は厳密な制度運用をしています。

大学も企業も、経営の本質は変わらない

──大学業界全体で組織改革の難しさが指摘される中で、なぜ京都芸術大学はこうした改革を実現できたのでしょうか?

高久:理由はシンプルで、大学を教育事業として経営しているからだと思います。

私は東北芸術工科大学でも財務担当理事を務めています。山形にある1学年の定員600人ちょっとの大学で、業界では「地方小規模単科大学」と言われています。この分類の大学は、募集定員の充足が厳しく、存続が厳しいと言われていますし、実際そのような状態になっています。東北芸術工科大学は、私が着任するまで定員は充足していても収支差額がマイナスでしたが、私が就任してから20年弱、一度も赤字を出していません。教職員の努力により学生募集も好調で、ここ3年ほど志願者数は過去最高を更新し、2026年4月には定員増も実施するなど、非常に健全な経営を行っています。

この2つの学校法人に共通しているのは、教育事業を経営として捉えていることです。経営責任を持つ人材を理事に選任し、数値目標を設定し、組織を運営しています。大学教員は研究や教育の専門家ですが、必ずしも経営の専門家ではありません。学校法人の経営者として数値目標は不可欠であり、その上で教育を行わなければならないのです。また、学校経営を支えているのは教員だけでなく「職員」だとも考えています。そのために、職員の専門能力を高め、大学職員のプロフェッショナルとして成長することが重要だと考えています。

制度上の違いはありますが、組織を経営していくという点において企業と学校法人に大きな違いはないと思いますね。一般企業のCFOなら、売上が落ちれば当然その原因に踏み込みます。なのに大学の財務担当は予算管理だけ、という発想が多い。学生が集まらなければ財務が悪化するのに、そのことにコミットしない財務担当理事は、果たしてその職責を担っていると言えるのでしょうか?

組織文化の変化が生んだDX構想                               

──京都芸術大学ではDX推進についても、意欲的に取り組まれていると伺いました。DX推進のご担当者である木原さんに、取り組みの概要を伺いたいです。

木原:本学の理念を実現するためにはデジタルの力が不可欠だと考えていますそこで、2年ほど前からDXに関する取り組みをスタートしました。

まだ構想段階ではありますが、長期的な目標は、東アジアを中心に1,000万人が学べる学習プラットフォームを構築することです。AIを活用した多言語化、教材のデジタル化、自己主導学習が進むような仕組みづくり。単なる業務効率化ではなく、全く新しい学習モデルを作ろうとしています

通信教育課程の学生数はこの5年で約2倍に拡大しているのですが、これは放送大学を除く私立大学では最大規模です。場所に縛られない通信教育は、芸術教育をより多くの人に届けるという理念とと非常に相性がいいと考えています。

高久:日本の大学業界は国内で見れば縮小マーケットですが、世界に目を向ければブルーオーシャンです。本学でも留学生の志願者が増えていますが、その多くが漫画、アニメ、ゲーム、キャラクターデザインといった日本のコンテンツを学びたいと思っている。カリキュラムをデジタル・多言語化して、自律的に学習できるプラットフォームができたら、世界最大級の芸術大学を目指せると思っています。

 

芸術大学の教育モデルを変える──「特別な人のもの」から、すべての人へ                 

──財務担当理事として、DXを推進する立場として、お二人は今後どういったことに取り組んでいきたいですか?

木原:今後、このペースで18歳人口が減っていったとしても、今の50代・60代は自分たちの雇用は確保されている状況です。一般的な大学では、その世代の方々が意思決定をしているんです。こうした状況の中で、将来のリスクよりも現状維持を優先した判断が生まれやすい構造があると感じています。

本学の経営層は少し先行投資して、本気で他の大学ができなかったことを実現したいと思っているんです。加えて、若手が「出る杭」になっても打たれない環境があります。こんなに面白い取り組みにチャレンジできる環境はないなと実感していますね。まだまだ未熟ではありますが、本気で日本の教育を変えたいと思っています

高久:これまで芸術大学は、限られた才能を見出し磨き上げる「選抜型」の教育モデルが主流でした。 私たちはそうではなく、芸術を教養や人間力を育てる教育として捉えています。芸術を学んだ学生が社会でしっかり活躍できるような教育を目指してきました。学生数が増えているのは、その結果ではないかと受け止めています。 

芸術教育を特別な人のものにするのではなく、世代や地域を超えて多くの人に届けるDXもそのための取り組みの一つです。DX推進を担うチームメンバーとディスカッションしていると、日本の高等教育のあり方そのものを変えられる可能性があるのではないかと感じます。ぜひ、それを成し遂げたいですね。

 

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

この連載の記事一覧

UNITE powered by Uniposをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む