「軍事的世界観」から脱却せよ。組織のOSをアップデートする5つのレンズとは?

1940年代以降、ビジネスの世界で定着してきた高い目標に向かって全員で成長を目指す「軍事的」な組織づくり。しかし、不確実性の高い今の時代はこうした古いビジネス感では対応できなくなっています。「いつまでも軍事的世界観を引きずっている組織からは人が逃げ出していく」と語るのは、『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』の著者で、MIMIGURI代表の安斎勇樹氏です。

古くなった組織のOSをアップデートし、「冒険する組織」へと変革するためにはどのような視点が必要なのでしょうか。安斎氏に詳しく伺いました。

Profile

安斎勇樹 氏

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO

1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。人の創造性を活かした新しい組織・キャリア論について探究している。主な著書に『冒険する組織のつくりかた:「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』『問いのデザイン』『問いかけの作法』などがある。Voicy『安斎勇樹の冒険のヒント』放送中。

 

なぜ今、「組織のOS」アップデートが必要なのか

——近年、個人の多様な生き方を尊重しようと価値観をアップデートする組織が増えています。今の時代、どういったパラダイムシフトが必要なのでしょうか。

今、組織づくりやマネジメントの世界では「心理的安全性」「多様性」「傾聴」「従業員のエンゲージメント」といったキーワードが注目され、多くの企業が試行錯誤しています。しかし、これらの取り組みが表面的なものに留まっているケースもあります。

たとえば、心理的安全性の重要性が認識され、研修を導入する企業は増えています。しかし、その目的が「不正や不祥事を根絶するために、現場のミスを些細なことでも報告させること」だったとしたらどうでしょう。

現場は安心して発言するどころか、「何かあったら必ず報告しなければ」と萎縮してしまう。結果として心理的安全性のサーベイ結果は高くなるかもしれませんが、それは本来目指すべき状態とは言えませんよね。

施策を取り入れても、その前提となる考え方が変わらなければ成果は出ません。1on1を導入しても、その目的が共有されなければ、「何か話すことある?」「特にないです」「じゃあ終わり」と形骸化してしまうのです。

——なぜ、施策がうまくいかないのでしょうか。

それは、これまでの経営や組織論の多くが「軍事的世界観」に基づいて構築されてきたからです。戦略、戦術、勝利といった言葉に象徴されるように目標達成を最優先し、そのための手段や道具として従業員を扱ってしまう。もちろん、こうした考え方が経済成長を支えてきた側面もあります。

しかし、現代では人々の価値観が大きく変化しました。人生100年時代となり、働き方が多様化し、「会社に自分を合わせる」のではなく「自分の人生の一部として会社を選ぶ」という感覚に変わっています。かつてのように危機感を煽って変革を促そうとしても、「この船は沈む」と言われれば優秀な人から去ってしまう時代です。

ビジネスのあり方も変化しています。単にシェアを奪い合うのではなく、多様なステークホルダーと協力しながら新しい価値を創造していくことが求められています。会社の存在意義、事業の意味、そして働く意味そのものが、組織的にも個人的にも問い直されている時代と言えるのです。

人々の価値観やビジネス環境が大きく変化する中で、組織のOSがアップデートされずに古い「軍事的世界観」のままになっている。このギャップこそが、組織や人材育成のさまざまな問題や違和感の根源にあるのだと思います。

これからの不確実な世の中では、自分たちの好奇心に基づいて新しい価値を追究していくような、「冒険的世界観」へのアップデートが必要なのです。

探究し合い、柔軟に変化できる「冒険する組織」へ

——「冒険的世界観」がある組織とは具体的にどのような組織でしょうか。

「冒険的世界観」の組織とは、経営レベルと個人レベルの両方で探究が行われ、それらが共鳴し合いながら柔軟に変化し続けられる組織のことです 。   

まず、経営レベルでの探究について。従来の「軍事的世界観」では短期的な売上目標やシェアといった「短期的な勝利条件」を設定し、それを達成することが最重要でした。 もちろん、市場で健全に競争し、利益を生み出すことは今後も引き続き重要です。しかし、現代のように不確実性が高い時代には、「短期的な勝利条件」を設定することが難しくなっています。

たとえば、動画配信サービスを運営する場合、会員数や視聴時間を追うことも重要ですが、「人は余暇に何を求めているのか」「コンテンツを視聴する意味は時代とともにどう変わるのか」といった本質的な問いを探究し続けなければ、変化に対応して中長期に事業を発展させることはできません。

テクノロジーや価値観が常に変化する現代においては、実務家自身が研究者のように探究テーマを設定し、物事の本質を探りながらビジネスを進めていく必要があるのです。

一方、個人レベルでも探究は不可欠です。人生100年時代、1つの専門性を身につければ安泰というわけではありません。生成AIの進化を見てもわかるように、自分の得意技がいつ陳腐化するかわからない。だからこそ、自分自身の個性や才能、興味関心に向き合い、「自分は何を探究したいのか」を問い続けながらキャリアを形成していく必要があります。

組織の世界観を変える「5つのレンズ」

——組織のOSをアップデートするには、具体的にどうしたらいいのでしょうか。著書では「まずは、ものの見方(レンズ)を変える必要がある」と提案しています。

組織のOS、つまり根底にある「世界観」を変ようとしても、いきなり全体を変えるのは難しいですよね。そこで、まず組織の考え方が強く反映された部分を取り出し、「ものの見方=レンズ」を変えなければなりません。

どんなに大きな組織でも「目標」「チーム」「会議」「成長」「組織」 の集合で成り立っています。これら5つの要素について、「軍事的世界観」に基づいた古いレンズを、人間本来の自然で創造的なあり方に根差した「冒険的世界観」の新しいレンズに取り換えることが必要です。

——「目標」「チーム」「会議」「成長」「組織」の5つにおける、「冒険的世界観」のレンズとはどのようなものですか?

まず「目標」について、従来のレンズでは人を管理統制し、言い逃れできないように行動を縛り付けるための「司令」として捉えられてきました。目標は達成度を厳しく評価するためのものであり、未達は許されないという考え方です。

これに対し、新しいレンズでは、「目標」を未来への希望を持たせ、ワクワクするような好奇心をかき立てる「問い」として捉えます。個人的な目標設定のように、「こうなりたい」「こんな挑戦をしてみたい」といったポジティブなエネルギーを引き出すことを目指します。   

次に「チーム」です。古いレンズでは、騎馬隊と弓矢隊を分けるように、機能を合理的に分担させ、管理しやすくするための「編成」と考えられてきました。

しかし、新しいレンズでは、一人ひとりの個性を尊重し、それをお互いに生かし合う「仲間」として捉え直します。   

「会議」も同様です。古いレンズでは、偉い人の決定事項を末端に正確に伝え、指示を徹底するための「報告会」や「伝令の場」と見なされていました。

一方、新しいレンズでは異なる意見や前提を持つ人々が集まり、対話を通じて互いを理解し、そこから新しいアイデアや解決策を生み出していく「対話と創造の場」と位置づけられます。   

「成長」に対する見方も大きく異なります。古いレンズでは、目に見える行動の変化やスキルの獲得量で成長を測ろうとします。たとえば、営業成績が上がらない人に対し「もっと電話をかけろ」といった行動レベルの改善ばかりを求めるような捉え方です。

しかし、新しいレンズでは、人が「自分は何者か」とアイデンティティを変容させていくが本質的な学びであり「成長」だと考えます。

たとえば、若い頃は営業として成約数を増やすことに喜びを感じていた人が、経験を積むうちに「もっと顧客の深い悩みに向き合いたい」と感じてコンサルタントへの転身を目指すこともありますよね。一時的には営業時代と比べるとパフォーマンスが低下したように見えるでしょう。

しかし、これは退化ではなく、その人自身の「自分らしさ=アイデンティティ」が変化し、新しい挑戦に向かっている「学び」のプロセスです。スキルや知識は、このアイデンティティの探究と変容の過程で身につけたり、手放したりする一部分に過ぎません。

最後に「組織」そのものの捉え方です。古いレンズでは、事業戦略を達成するための「ツール」として、事業に従属するものと考えられてきました。事業状況が変われば、組織は変更されたり、不要な部署が切り捨てられたりします。

しかし、新しいレンズでは、人と事業の可能性を広げていくための「土壌」として捉えます。日頃から「組織」という土壌を丁寧に耕し、将来的に多様な人材や新しい事業が自然と育っていく。そうした可能性を育む基盤として組織を捉え直すことが、新しいレンズの考え方です。  

組織の「ズレ」を見つけ、整合性を取り戻す

——「5つのレンズ」のうち、特に「組織」の捉え方をアップデートするために、人事は何から着手すればいいでしょうか。

大切なのは、組織を「部分の寄せ集め」ではなく、「相互に連関し合う1つのシステム」として捉え、「ズレ」を解消することです。

たとえば、人の身体でも、腰が痛いからといって腰に湿布を貼っただけでは根本的には治りませんよね。姿勢や食生活、運動習慣など、複数の要因が絡み合っているはずです。

組織も同様で、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。しかし、多くの企業で起こりがちなのは、「経営層は事業戦略ばかりを語り、現場で起きる問題は人事に丸投げされる」という状況です。

そうなると、人事は「離職率の高さ」「エンゲージメント低下」など現場から上がってくる問題に個別に対処するだけの、いわばモグラ叩きのような状態に陥りがちです。これでは根本的な解決はできません。

では、どうすればいいか。まず着手すべきは、「今、この組織の中で、もっともクリティカルな『ズレ』はどこにあるのか?」を見立てることです。

私は組織づくりとは、「ズレ」を解消して「整合性」を取り戻すことだと考えています。この「ズレ」というのは、「挑戦を推奨するメッセージを発信しているのに、評価制度は減点主義になっている」「事業戦略と組織文化が合っていない」といった、組織内の矛盾や不整合のこと。   

「ズレ」を診断するためには、人事部門内だけでなく他部門のメンバーも巻き込んで「この組織で一番ズレているのはどこだと思うか?」と問いかけ、議論することが必要です。

「冒険的世界観」の組織をつくるための羅針盤として私が考案したのが「CCM(Creative Cultivation Model)」です。このモデルを用いてディスカッションを行い、組織の「ズレ」について議論してみてください。 

大切なのは、客観的な正解を探すことよりも、チームとして「解くべき課題は何か」という課題設定をそろえることです。認識がそろわないままでは、各自がバラバラの方向に努力することになってしまいます。

そして、クリティカルな「ズレ」が見えてきたら、一点突破ではなく、関連する複数の箇所を同時に変えていくアプローチが有効です。

たとえば、ある企業の事例では、能力ベースの評価制度を改定する際にミドルマネージャー研修を実施しました。単に新しい制度をインストールするだけでなく、マネージャー同士が対話し、会社として大切にしたい価値観への理解を深め、連帯感を醸成する機会としたのです。

評価という「制度」の変更と、マネージャー層の意識や関係性という「人・文化」への働きかけを両輪で進めることで、組織全体の変革を効果的に後押しすることができた好例だと思います。

「本当に解くべき課題は何か?」を考える

――「冒険的世界観」の組織を目指す際、組織づくりで気をつけるべきポイントはありますか? 

よく陥りがちなのが、組織の課題を知識やスキルを教えれば解決できる「技術的課題」として捉えてしまうことです。

たとえば、会議で若手から意見が出ないのを「主体性の問題」と捉え、研修で解決しようとするケース。

もちろん、スキル研修にも価値はありますが、問題の本質が、人々の価値観や思い込み、部署間の対立といった変化への抵抗をともなう「適応課題」、つまり、「自分たちが変わらなければ解決しない問題」にある場合は技術的なアプローチだけでは不十分です。

研修を実施する際は、この違いを意識することが重要です。単に知識やスキルをインストールする場として設計するだけでなく、参加者同士が対話し、既存の思い込みや関係性を見つめ直す機会としてデザインするたとえば、研修を部門横断で実施したり、参加者自身が対話を通じて自ら答えを見つけるプロセスを重視したりすることが考えられます。

こうした工夫によって、研修が単なる点の施策ではなく、組織全体のOSをアップデートしていくための「テコ」となるのです。

——改めて、組織変革を成功させるために人事にとって必要な視点や心構えをお願いします。

人事は、組織を構成する「人」に深く向き合う仕事であり、組織づくりにおいて重要なキーポジションです。

日々の業務では目の前の課題解決に追われがちかもしれません。しかし、時には一度立ち止まり問題の発生パターンを俯瞰し、「本当に解くべき課題は何か?」を見立てることを意識してみてください。

人事が立てる「問い」の質が、組織を変えると言っても過言ではありません。良い問いを立てることで、これまで「点」で行ってきた努力が「線」でつながり、より大きなシナジーを生み出すはずです。 

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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