MVVが文化になる組織、形骸化する組織。その差は「組織構造に沿った届け方」にある

MVV (ミッション・ビジョン・バリュー)や企業理念が浸透しない、理解はされていても行動に移らない——そういったお悩みを持つ方は多いのではないでしょうか。その原因は、単なる共感不足や認知の浅さではなく、「前提の見落とし」にあるかもしれません。 

MVV浸透が困難な背景には、「立場ごとに異なるMVVの見え方」という認識のズレと、「自社の組織構造にフィットしていない施策設計」という構造的な問題があります。 

本稿では、MVV浸透がうまくいかない理由を分解しながら、組織の構造タイプごとにどのような“つまずき”が起きやすいのか、そしてその処方箋としてどのような設計が有効なのかを具体的にご紹介します。 

Profile

仲里成央

Unipos株式会社 ビジネス本部 営業部 第一営業ユニット アカウントエグゼクティブ

MVVが浸透しにくい背景には、立場ごとに異なる「認知のズレ」がある

MVVや企業理念自体は、多くの組織で定義されています。しかし、MVV・理念の意義については、立場によって捉え方に大きな違いがあることを認識する必要があります。 

たとえば経営陣にとって、MVVは「企業経営の羅針盤」です。10年先を見据えた意思決定の判断軸であり、社員一人ひとりがMVVに基づいて行動することで、組織としての強さや一体感を生み出したいと考えています。 

一方で、人事や経営企画の立場から見ると、MVVは「組織を束ねるための共通言語」という役割が強くなります。多様な人材、多様な価値観が混在する組織において、MVVを軸に方向性を揃える。そのための制度設計や仕組みづくりを担うことが彼らの関心の中心です。 

さらに、事業部の管理職にとっては、MVVの重要性には共感しつつも「目の前の数字目標が最優先」になりがちという現実があります。「良い取り組みだとは思うが、今やるべきことなのか?」と、経営・人事の温度感とのギャップが感じられやすいのもこの層です。

そして現場メンバー目線では、MVVの存在は理解していても「それが自分の仕事とどう結びつくのか」が腑に落ちないという声は少なくありません。MVVが抽象度の高い言葉で語られるほど、日々の業務との接点が見えにくく、「遠い存在」に感じられ自分ごとになりにくいのです。 

このように、MVVの捉え方は役割や立場によって大きく異なります。多くの浸透施策がうまくいかない背景には、こうした「認知のギャップ」を理解していないということがあるのです。だからこそ、MVV浸透を考えるうえで、このギャップを把握することが第一歩になります。 

MVV浸透施策は「組織構造」によって変わる

MVV浸透は、一般的に「認知→理解→共感→行動」の4つのステップで考えられます。しかし、多くの企業が直面しているのは「認知や理解を促すことはできても、行動に落ちない」という課題です。MVVを掲げるポスター掲示やメッセージ動画、イントラネットでのコンテンツ配信など、認知・理解を促す施策は広く行われています。しかし、「どれだけ発信しても、社員の行動が変わらない」というケースは少なくありません。 

この原因のひとつが、「施策と組織構造とのズレ」です。どんなに良いメッセージでも、それを受け取る側の組織の構造や動き方と噛み合っていなければ、意味がうまく伝わらず、途中で摩耗してしまうのです。 

たとえば、階層の多い組織では、MVVの意図が現場まで伝わる前に薄れてしまうことがあります。また、拠点や部門ごとに組織文化が異なれば、同じ言葉でも解釈がバラつき、期待した浸透が難しくなります。 

このような課題に対して、私たちUniposは「構造に即した設計」を重視した支援を行っています。つまり、MVVそのものを変えるのではなく、組織構造に応じて「誰に、どんな距離感で、どう届けるか」を丁寧に翻訳し、届け方を設計していきます 

役職ごとの情報伝達の流れ、拠点間の連携の強さ、意思決定のスピード感などの要素を踏まえて施策を設計することで同じMVVでも“受け取られ方”が変わり、現場に手触り感が生まれるのです。 

組織構造に合わせたMVV浸透——4タイプ別の落とし穴と設計ポイント

前節で解説したように、MVVを浸透させるためには、「自社の組織構造をどう捉えるか」が非常に重要です。同じ施策でも、組織の成り立ちや文化、働き方によって“伝わり方”はまったく異なります。 

まず、浸透施策の進め方は、組織の規模や構造によって、大きく以下の2つパターンに分けられます。 

全社一律で施策を進める型
セグメントを分けて施策を進める型 

一概に人数だけで判断することはできませんが、300名未満の規模で会社全体で一律の動きをとることが習慣化している場合は、パターン①に該当すると考えてよいでしょう。一方で、300名以上の規模感であればセグメントを分解するパターン②で進めるほうが成功しやすいです。 

ここでは、②のようにセグメントごとにアプローチする場合を前提に、組織構造を4タイプに分類し、それぞれの「つまずきやすいポイント」と「設計のヒント」を紹介します。 

 

A. 単一事業・職種組織 

たとえば、地域密着型の企業など、ひとつの事業・ひとつの職種が中心となっている組織です。全社的に文化や働き方が揃っており、トップのメッセージが比較的スムーズに伝わりやすいという特徴があります。 

落とし穴MVVの抽象度が高く、現場では手触り感が生まれにくい
処方箋:全社MVVを具体的な行動に翻訳した「スローガン」を作成し、具体的な言葉で日常の業務に紐づける
設計方針:トップ主導の明快な打ち出し × 方針の揃えやすさを活用する
プロセス例: 
 1. 経営陣によるMVVの語り直し(タウンホールMTGや動画での発信)
 2. 現場に期待する「推奨行動」を具体例として明文化
 3. 1on1などの場でMVVと日常業務を接続する 

 

B. 機能分担型組織 

たとえば、メーカーやIT企業などで、営業・開発・マーケティング・コーポレートなど職種の専門性が分かれている組織です。部門ごとに文化やMVVへの理解も異なりやすいため、一律の施策では効果が出にくい傾向があります。 

落とし穴:職種ごとにMVVの解釈が異なり、一律の浸透施策が響きにくい
処方箋:全社MVVを起点に、職種ごとにMVVの体現行動を定義する
設計方針:職種ごとにMVVの解釈と行動を明文化し、互いに理解し合う構造をつくる
プロセス例: 
 1. 各職種がMVVをどう解釈するかを言語化するワークを実施
 2. 職種ごとに「自職種らしいMVVの体現行動」を整理・明文化
 3. 全体に共有し、他職種からのフィードバックを通じて相互理解を促進 

 

C. 事業部制組織 

たとえば、総合商社や大手小売チェーンなど、複数の事業領域を持ち、事業部ごとに裁量やKPIが異なる組織です。事業ごとに独自の価値観が形成されやすく、MVVを“自分たちの話”として受け止めにくい傾向があります。 

落とし穴:事業部ごとに大切にされる価値観が異なり、浸透にばらつきが出る
処方箋:全社MVVを起点に、事業部ごとにMVVの体現行動を定義し、横展開しやすい行動モデルを共有する
設計方針:事業ごとの文脈差を尊重しつつ、同職種間での横展開を設計
プロセス例: 
 1. 各事業部でMVVの再解釈を実施(ワークショップなど)
 2. 同職種間で「自職種らしいMVVの体現行動」を共有し、他事業部へ横展開
 3. 他事業の好事例を「MVV体現ストーリー」として紹介 

 

D. コングロマリット型組織 

たとえば、グループ会社を多数抱える大企業やホールディングス体制をとる企業などです。ブランドや事業ごとに独立性が高く、社員の帰属意識や価値観が複線的になりやすいのが特徴です。 

落とし穴:社員の帰属意識の在処や大切にされる価値観が複線的になりやすく、共通施策では意味が届かない
処方箋:全社MVVを起点に、事業部・事業会社ごとに「バリュー」を定義し、さらに職種別に体現行動を定義し、具体化する

設計方針:「共通MVV×個別再定義」の多層構造を明確に
プロセス例: 
 1. 全社MVV提示と並行して事業部単位で「事業部バリュー」の再定義を行う
 2. 「事業部バリュー」を起点に、職種別に期待行動へ翻訳
 3. 言語化した内容をドキュメント化・共有し、事業部内で深化を図る 

上記で紹介した設計方針・プロセス例が唯一の解ではありませんが、組織構造が変わるとこれほどに設計方針も変わることがお分かりかと思います。 

いずれの構造においても、「全社共通の旗印」を押し出すだけでは、行動や文化の変容にはつながりません。自社の構造的な特性を正しく捉え、それに合わせて翻訳・適用していくとが、組織全体の納得感と行動変容を生む鍵となります。 

画一的なアプローチを前提とせずに、まずは特定の範囲から始めていくことも視野に入れて、施策を進めることをおすすめします。 

全社と現場の橋をかける、MVV浸透に必要な「翻訳」と「設計」

ここまで見てきた通り、MVV浸透の難しさの本質は、「全社最適」と「現場最適」のギャップにあります。  

トップダウンでの発信は伝播力がある一方で、現場でのリアリティを欠くと形骸化しがちです。逆に、現場の声に寄り添いすぎると、組織全体としての共通軸がぼやけ、バラバラな組織運営になってしまう可能性があります。両者のバランスをどうとるのかがポイントとなります。 

私たちは、この間をつなぐのが「翻訳」と「設計」であると考えています。 全社MVVという共通軸を、各事業や各職種に合った文脈で“翻訳”し、それが現場が体験する形で施策を“設計”する。  

MVVそのものを変えるのではなく、「どのように届けるか」「どう体験させるか」を構造的にデザインする視点が欠かせません。 

こうしてMVVが現場の日常に“手触りあるかたち”で実感されるようになれば、現場で自然と対話が生まれ、主体性や行動力が育ち、やがてそれが組織の当たり前ともいえるカルチャーへと変わっていきます。 

MVVを組織全体で活かしていくためには、誰かが“橋渡し役”として丁寧に設計し続ける必要があります。 それは、経営だけでも現場だけでも実現できません。だからこそ、人事や企画、あるいは部門横断のプロジェクトチームのような“構造を跨ぐ存在”が、設計者として機能する必要があります。 

時間がかかり、関係者が多く、正解のないプロジェクトではありますが、組織構造を捉えた設計が奏功したときには、組織の中に好循環が生まれMVVを体現する行動が指数関数的に増えていくと考えています。 

その組織状態こそが自社の強みとなり、他社が簡単にまねすることができない、競争力の源泉になると信じています。 

本記事が、MVVの浸透・価値観の共有・自社(自組織)らしさの言語化などの組織テーマに取り組む皆さまの一助となれば幸いです。 

 

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※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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