組織風土を変えるために、誰でもすぐにできるたった1つのこと

心理的安全性のある組織を目指して変革を掲げながらも、「なかなか成果が出ない」「社内の雰囲気が醸成されない」といった課題を抱える組織は多い。「変わる組織」と「変わらない組織」にはどのような違いがあるのだろうか。

組織風土文化やコミュニケーションを専門とする識者4名が集まり、変わらない組織を変えるために必要なことについて議論を交わした。

Profile

石井 遼介 氏

株式会社ZENTech 代表取締役
一般社団法人日本認知科学研究所理事
慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科研究員

中竹 竜二 氏

株式会社チームボックス 代表取締役
日本オリンピック委員会サービスマネージャー

篠田 真貴子 氏

エール株式会社 取締役

伊藤 羊一 氏

Zホールディングス株式会社 Zアカデミア学長
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長
※所属や役職は記事公開時点での情報です

変わろうとしない経営トップを変えるには?

現場は組織風土の劣化を感じているのに、経営トップがそれを認識できていないケースは意外と多い。組織風土改革に率先して取り組むトップと、そうではないトップの違いとは何か。また、経営トップに現場の状況を適切に把握してもらい、組織風土変革の必要性を実感してもらうためには、どうしたらいいのだろうか。

「変わろうとしない経営トップを変える方法」をテーマに、石井遼介氏、中竹竜二氏、篠田真貴子氏、伊藤羊一氏の4名がそれぞれの見解を述べた。

篠田氏:経営トップにどうすれば変革の必要性を実感してもらえるのか。それにはトップが使っている言葉の奥にどんな背景や意図があるのか興味関心を持ち、自分から変わっていくことが必要だと思います。

相手が自分にしているコミュニケーションと、自分が相手に向けているコミュニケーションは合わせ鏡のようなもので、受け取り方は主観によります。「経営者はわかっていない」と感じる人は、実は経営者に対して「私のこと、どうせわからないでしょ?」という態度を取っている可能性があります。

他人を変えることはできないですが、自分の受け取り方を変えることはできます。冷たく対応されたら冷たく返したくなるし、優しくしてくれた人には優しくしたくなる。まずは自分がしてほしいコミュニケーションを相手にすることで、求めている対応が返ってくると思います。

中竹氏:私も「うちの社長は組織が劣化していることをわかっていない」といった相談を受けることがあります。そのとき私は必ず、「本当に社長はわかっていないんですか?」「あなたは本当に社長の話を聞けていますか?」と質問します。

「あの人はわかっていない」「私たちはわかっている」という対立構造ができると、寄り添うことが難しくなります。もしかしたら、経営者側も「うちの社員はわかっていない」と思っているかもしれません。しかし、深く話をしてみると実は同じことを言っていた、対立していなかったということがよくあります。

すれ違いを防ぐためには、「経営者はわかっていない」と決めつけるのではなく、まずは自分が変わり、身の回りの人を変える。そのうえで、本音で話し合う場を何度もつくることが重要です。

もう1つ意識したいのが、セルフダウト、つまり自分を疑うことです。これは信じることと同じくらいに重要です。「自分の考えは本当に正しいのか」という問いがなければ、人の話を聞けずに相手を攻撃してしまいます。自分の考えや現状を疑う意識を持つことが、お互いが歩み寄っていくためには必要だと思います。

石井氏:セルフダウト、つまり自分を疑うという文脈で言うと、『THINK AGAIN』つまり考え直すこと、もう一度考えること、心のしなやかさを持つことが重要だと思います。「経営者は、何もわかっていない」「どうしたら経営者に気づかせることができるのか?」と考えた時、その考え自体をしなやかに問い直すことが大切なんですね。

例えば「気づかせる」と言う表現は気になる表現です。経営者をはじめ、状況の違う他者が「勝手にわかってくれる」ことは、なかなかないんですよね。気づいてもらえる、わかってもらえるのを待つのではなく、「私はこう思います」と自分の考えを言ったほうが、生産的なコミュニケーションになります。経営者や上司と直接腹を割って話すのは怖いから、つい「こうしたら、気づいて変わってくれるんじゃないか……」「やっぱ、ダメだったか……」というコミュニケーションをとりがちなんですけれど、それは話し合うことから眼を背け、不満だけを抱えていることにほかなりません。

実際、日本の伝統的な大企業であっても、若手社員が勇気を持って飛び込み行動することで、経営トップへ影響を及ぼし、全社で心理的安全性醸成への取り組みを前に進めたケースがあります。

その会社である日、役員のひとりが「心理的安全性が大事だ」というメッセージを発したそうです。その機会を上手に捉えて、その若手社員は役員の方へ「心理的安全性づくり、私も協力したいです!」と直接メールを送り、協力を申し出ました。なんと、その若手担当者主導で「反対派・懐疑派」の役員陣も含めて心理的安全性についてしっかり伝える役員研修の場をつくることができたんですね。その役員研修の講師としてお呼び頂いたのですが、「研修をやって終わり」ではなく、担当チームと協力して「役員の心理的安全性づくりのコミットメント(行動の約束)を書いてもらう」「それを顔写真とともに全社に周知・掲示する」など、その研修が実際に組織に波及するためのいくつかの工夫を行いました。

結果として、実際に心理的安全性の高い役員報告会となり、意見交換が活性化するなど、ポジティブな影響が出始めたのです。この若手の担当者が勇気を持って踏み出さなかったら、これらは起こっていない変化かもしれませんよね。

「経営者は分かっていない」「社長は気づいていない」と考えが浮かんできたとき、ぜひしなやかに考え直し、分かってもらえるための具体的な行動を起こすことが大切だと思います。

伊藤氏:経営陣の側の課題に話を変えますが、組織変革に取り組む意識の高さは、ヒエラルキーの中で生きている人か、フラットに現場の声を聞きに行く人かという違いに関係していることがあります。

ヒエラルキーの中で生きている人は、自分の直下にいる管理職の人たちの情報しか聞きません。これでは現状を適切に把握できませんし、誰も反対意見を言ってくれず、裸の王様になってしまいます。

私自身、500人規模のカンパニーのマネジメントをしていたときに同様の経験があります。ある企画を自信満々で提出したとき、直下の管理職メンバーは「伊藤バイスプレスプレジデントの企画にみんな心酔しています」と言ってきたんです。一方、僕は同時に全社員と1on1をして関係性を築いていたのですが、現場からは「この施策、やめたほうがいいです」という声が寄せられました。

間に管理職を挟むことなく、フラットに現場の意見を聞かなければ見えてこない現状があります。そのときに忘れてはいけないのが、「何でも言ってほしい」とあらかじめ伝えておくこと。言いにくいことも言ってもらえる関係性を築くことが重要だと思います。

心理的安全性の経済的メリットとは

企業の経営陣は結果責任を負う立場にある。結果が出ていなくてもプロセスを評価されるということはないに等しい。経営時を動かすためには明確なメリットや成果を示すことが早道だ。では、心理的安全性という目に見えないもののメリットを示すためにはどうすればいいのだろうか。

石井氏:心理的安全性を高めることのメリットとしてわかりやすいのは離職率です。

ある日系グローバルメーカーで心理的安全性のスコアと離職率を調査したところ、チームの心理的安全性が上がるごとに離職率が下がるという結果が出ました。離職にともなうコストよりも、心理的安全性を改善するためのコストが低かったため、「これなら投資対効果が合う」と経営陣にメリットを説明したそうです。

この会社では経営トップも巻き込んで心理的安全性を社内に醸成し、組織風土の改革を行うプロジェクトチームを走らせており、当社ZENTechとしてもプロジェクトチームの立ち上げから伴走させて頂いています。1期・2期とプロジェクトには期限を設けているのですが、各期の締めとして、プロジェクトチームから社長に「フォーカスしたい組織の課題と、取り組みたい解決策」のプレゼンテーションを行っています。

これまでに無かった様々なアイデアが寄せられることで、社長自身「心理的安全性の高いチームでは提案・挑戦が増える」というメリットを実感され、またその社長が「そのプロジェクト、ぜひやってみてほしい」と経営としてプロジェクトにGOを出すことで、プロジェクトメンバーも「実はウチの会社は、挑戦させてもらえる会社・組織なんだ」を実感できるという好循環が生まれています。

長期的な経済メリットとしては、心理的安全性の高い組織のほうがイノベーションを起こしやすい点です。先程の日系メーカーでも挑戦が増えたケースを紹介しましたが、コロナ以前から主にエンジニアリングの部門で心理的安全性づくりに取り組み続けていたある自動車会社のケースがあります。コロナや戦争にあって原材料が高騰する中で、あるチームが自発的に新しい製造プロセスをつくることを提案し、経営から定められていた毎年のコストカット目標を遥かに超えた大幅な原価改善を達成した事例がありました。同部門の別チームは最近、学会から表彰も受けたといいます。

このように、心理的安全性が高いチームが自発的に行動してイノベーションを起こすケースは、日本各地で生まれ始めています。

中竹氏:心理的安全性がすぐに売上に直結するとは限りません。しかし、確実に言えるメリットとして、経営陣や管理職に情報が集まるようになることが挙げられます。

小さなミスの報告が増えるにともない、アイデアも集まるようになる。そう考えれば、情報が集まることは心理的安全性の経済的なメリットと言えるでしょう。

伊藤氏:私は、心理的安全性の効果を測る独自のマイルストーンを置いてみると良いと思います。「ここが変わるとこうなる」という仮説を立てて、実際の取り組みに関するデータを収集していくことで、社内での説得力を増すことができるはずです。

私は大学の学部長をしているのですが、1年生全員と1on1を実施しています。そのなかで、4月に実施した1on1を録画しておき、8月にした1on1と比較したところ、話すスピードが早くなったり、表情が明るくなったりという明らかな変化が見られました。こうした独自のデータを自社で集め、どうしたら組織風土が良い方向に変わるのか仮説を立てて検証していくことが大事だと思います。

篠田氏:ドイツの研究では、企業が心理的安全性を高めることでROA(総資産利益率)が上がったという結果が出ています。

私たちが疑問や悩みに思う大抵のことには、世界のどこかに同じように考えて、壁を突破した人がいるはずです。海外や先人の事例を探してみると、いろいろなヒントが見つかるのではないでしょうか。

ボトムアップで組織を変えていくためには

変われない組織の中には、マネージャーやリーダーが昔ながらの価値観や方法を変えようとしない、というケースもあるだろう。ボトムアップで経営陣の意識を変え、組織を変革することはできるのだろうか。4名は次のように回答した。

石井氏:組織を変えるためには、やはりトップや経営陣が率先して取り組む影響が大きいでしょう。特に「宣言」と「実際に宣言通りの行動へ変える」というコミットメントを経営トップが示し続けることで、全社が「やろう」という雰囲気になります。ある省庁で心理的安全性の研修を実施した際は、事務次官まで含めた幹部職が、心理的安全性の研修を踏まえて「こういう職場をつくる」と宣言し、テレビで見るような省庁名入りのパネルの前でコミットメントと共に写真を撮影し、省内ポータルに掲載するという取り組みを実施して頂きました。

一方、ボトムアップで組織を変えるにはどうしたらいいのでしょうか? それは、組織というあまりに大きなものを見据えるのではなく、まずは身の回りの小さなチームに目を向けることです。

例えば、身近にいる3〜5人程度であれば、これまでのコンフォートゾーンを離れてほんの少し行動すれば、影響を及ぼすことができるかもしれません。同僚や先輩といった身近な仲間でチームをつくり、まずはそのチームを、ともに変えていく。お互いに違和感を報告し、思いついたアイデアを共有し、相談も失敗の報告も歓迎する。そして、会社や組織に何かを提案するときはチームでぶつかってみる。1人で変えようとするのではなく、身の回りの仲間を増やして「チームで取り組む」ことを試してみると上手くいきやすいです。

チームで成果が出たり、取り組みが注目を集めたら「心理的安全性に取り組むことで、こんな成果が出た」などとキーワードを出して社内周知を図り、チームや部署の外へ仲間が増えていく、結果として組織が少しずつ変わり始めるといったケースも少なくありません。

中竹氏:今はダイバーシティーの時代でみなさん個性が大事だと言います。しかし、一方で他者はどう思っているかを気にしている人が多くいます。「おかしい」と思っても、周りが行動しなければ自分からは言わないといった意識が日本には深く根付いています。これ、社会心理学では多元的無知と呼ぶのですが、裸の王様もそうですよね。本当は裸なのに、裸と言ってはいけないような同調圧力がある。でも、子どもが「裸だよね」と言ってくれるとみんな安心するという。

だからこそ、違和感を覚えたときに「ちょっとおかしいのでは?」と言ってみることが大事です。もしかすると袋だたきにされるかもしれないですが、まずは言ってみる。すると、同じように考える仲間ができるはずです。しばらく経てば、「あのときに言ってたこと、良かったね」と周りが評価してくれるようになると思います。

伊藤氏:組織の考え方が古いと感じたときに、「あの人たちと話しても無駄」と諦めてしまうのは良くないですよね。結局は語り合うしかない。大事なのは、とことんコミュニケーションを取り、考えをすり合わせていくこと。組織の中に話しにくい人がいても、自分から率先して話しかけていくことが大切です。

もしかしたら、耳の痛いことを言われるかもしれません。しかし、それに対する自分の考え方を伝えて、お互いの理解を深めていくことが大事だと思います。

篠田氏:「上司を変えたい」というのは、その人自身を変えるというよりも、「関係性を変える」ということだと思います。関係性が表れるのはコミュニケーションの仕方です。

上司と部下は、評価する側と評価される側という関係です。今の管理職世代は「背中を見てついてこい」という風土で育ってきた方が多い。彼らにとって、1on1をして心理的安全性の高いチームをつくることを求められるということは、自分たちが育ってきたときとは異なる方法のコミュニケーションを求められているということです。適切な知識がない状態で、自分の過去を投影して部下を攻撃しているというケースも中にはあるかもしれません。

こうした関係性を理解したうえで、管理職が効果的なコミュニケーションを取れるような仕組みやステップを組織として整えることが必要だと思います。

まずは自分の言動から変えていく

変わらない組織、変わらない人をどう変えていくか。様々な角度からそのヒントが示された今回のディスカッション。最後に4名から次のようなメッセージが語られた。

石井氏:みなさまは、何とか組織、チームをよくするぞという想いでこの場に来て頂いたのだと思います。ぜひ何か一つで構いませんので「このアクションからやろう!」と決めてください。
実際に行動に起こす時に重要なヒントがあります。それは「相手の置かれた立場や状況を一度、想定しようとしてみる」ことです。例えば、声かけ一つであっても、相手の立場を踏まえて行うことで、より相手に受け入れられやすい、これまでと違うポジティブな変化に繋がります。皆さんからはじめる小さなアクションの積み重ねで、組織が一歩ずつ前に進んでいくはずです。

中竹氏:当社が商標を取った言葉で、「Yet Mind(イエットマインド)」というのがあります。これは「Growth Mindset(グロースマインドセット)」と同じ概念ですが、「まだ」の力を差す言葉です。どんな人にも可能性があり、それがまだ見えていないだけであって人は必ず変わります。ぜひ、相手を信じてください。

「Yet Mind」があれば、なかなか相手にわかってもらえないときでも、相手の可能性を信じて見方やアプローチを転換することもできると考えています。

篠田氏:何でも言い合えるような心理的安全性のある状態って、実は不自然な状態です。自然な状態であれば、余計なことを言わずにラクしたいと思うのが人間ですから。人はそういうものだと認識したうえで、低い期待値から始めるのが良いと思います。

志は高いほうがいいですが、「こうあるべき」という高い理想と現実のギャップに文句を言うのではなく、低い期待値から少しずつ取り組んでいくのがいいのではないでしょうか。

伊藤氏:組織を変えるために大事なのは、たくさん話すことです。話をして、相手の話を聞く。レイヤーを超えてこれを繰り返すことができれば誤解は解け、前向きな話が出てくるはずです。日本人は世界と比べてもコミュニケーションの量が少ないと思います。話していないし、聞いていない。だから、モヤモヤした気持ちが生まれてしまう。まずはたくさん話して、聞くということを、意識してみてください。

今回のパネルディスカッションではオンラインで視聴者から識者への質問を募った。
心理的安全性に関するさまざまな問いが集まる結果に。

 

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

本記事に関連するサービス

本音が見える、真の組織課題が特定できる「組織インサイトサーベイ」

この連載の記事一覧

UNITE powered by Uniposをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む