【伊藤羊一】マネージャーに求められる「1:1✕N」のコミュニケーション
2023.05.23
今よりもっと自由に、軽やかに、他者と働くコミュニケーションとは何か。「今は役職や権威によって尊敬を獲得する時代ではない。役職はあくまでも機能である」と語るのは、Zホールディングス株式会社 Zアカデミア学長、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長の伊藤羊一氏である。組織に蔓延する「上意下達・縦割り組織・双方向性の欠如・たこつぼ化」の処方箋となるフラットなコミュニケーションの本質と組織的に取り組む方法を解説する。
Profile

伊藤 羊一 氏
Zホールディングス株式会社 Zアカデミア学長
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長
日本興業銀行、プラスを経て2015年よりヤフー。現在Zアカデミア学長としてZホールディングス全体の次世代リーダー開発を行う。またウェイウェイ代表、グロービス経営大学院客員教授としてもリーダー開発に注力する。2021年4月に武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)の学部長に就任。

『僕たちのチーム』のつくりかた
代表作「1分で話せ」は60万部ベストセラーに。その他「1行書くだけ日記」「FREE, FLAT, FUN」「『僕たちのチーム』のつくりかた」など。
役職は「ただの役割・機能」である
心理的安全性(組織的・集団的なコミュニティのなかで、他者から拒絶されたり組織から罰を与えられたりすることがなく、誰でも安心して発言できる状態)の高い組織には、職場間のフラットな人間関係が欠かせない。そして、その人間関係づくりの重要な手がかりが組織の「マネジメント力」だ。
そもそもManagementを直訳すれば「管理」のこと。Manager(マネージャー)も「管理職」「管理する人」と訳されることが多い。しかし上意下達がまかり通ってきたこれまでの日本の会社組織においては「マネージャー=偉い人」と考えられることが多く、Zホールディングス株式会社 Zアカデミア学長・武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長の伊藤羊一氏は、それら旧来の風潮に強く異議を唱える。
「本来Manage(マネージ)という言葉には『どうにかする』『なんとかする』などの意味があります。だから僕の考えているマネージャー像は、一言で言えば『なんとかする人』。職位としてのマネージャーなんて単なる役割・機能に過ぎず、どんな立派な職位に就いていようがそれは“偉さ”とは何の関係もありません」
さらに伊藤氏は「少し厳しい言い方をすれば」と前置きしたうえで「日本の組織・文化は、フラットな関係性からはほど遠い生活習慣・伝統のもとで成り立ってきた」と話した。
フラットな関係性からはほど遠い日本の生活習慣や伝統——。例えば取引先との名刺交換が象徴的だ。お互いに“強い手札”を出し合うカードゲームがごとく、名刺に刷られた“役職”をチェックしながら「上の階級は下の階級に偉そうにする」「下の階級は上の階級に妙に縮こまる」。そうしたことを皆で瞬時にやってしまうのが、日本の企業人だとされてきた。
「職位と偉さなんて何の関係もない、とする考えが根底になければ、フラットな人間関係構築にはほど遠い。ましてやマネージャー・管理職が偉ぶっていたら、組織なんて変わりようがありません」

では、改めて考え直すべき「マネージャーの仕事」とは何か。
伊藤氏曰く、マネージャーは「あらかじめゴールを設定してから、それをチームに共有しなければいけない」。そして「その後ゴールまでのプロセスを明確にしながら、チームをゴールに導いていかなければいけない」。
しかしチームに火をつけなければ、ゴールには到底導けない。そのため、ゴールを目指す前提条件として重要なのが“チームの最大化”だ。すなわち心理的安全性の働かせやすい“安全・安心な職場”をつくり、そのうえで個人が“自分の才能と情熱を解き放てる”状態をつくる。いわばマネージャーは「そうした職場づくりの牽引者」だといえる。
「“個人の才能と情熱を解き放つこと”なんて人事部の仕事だろ、なんて思う方もいるかもしれません。たしかに人材底上げという意味では人事の仕事とする側面もあるかもしれませんが、やはり1人ひとりに目を向けながらやっていくのは、マネージャーにしかできません」

“1:N”ではなく“1:1”×Nを目指そう
伊藤氏は、職場づくりの牽引者たるマネージャーが力を発揮する際の考え方を「“1:N”のコミュニケーション」と「“1:1×N”のコミュニケーション」の違いを挙げて説明した。
両者の違いとは何か。
例えば、ある組織のマネージャーが「N名」のチームを引率していたとする。このとき組織のコミュニケーションは「1人のマネージャー:N名のメンバー」(1:N)で成り立っているのか、はたまた「“1人のマネージャー:1人のメンバー”×N名分」(1:1×N)で成り立っているのか。
もちろん現代の会社組織に求められるのは後者のコミュニケーションである。優秀なマネージャーほど「1:1」の人間関係を築くのに長け、それを人数分だけ成立させることができる。さらにはそれができるマネージャー管轄の組織であれば「Aさん:Bさん」「Bさん:Cさん」「Aさん:Cさん」……というように、メンバー間でのたすき掛けのコミュニケーションも成立しやすくなるという。

さらに伊藤氏は続ける。
「ときとして『1:N』が必要な局面もあります。特にフラットで、自由で、心的安全性が高い組織というのはチームの皆がバラバラの方向に向かいがち。それをまとめるのは“リーダーの軸”=リーダーの過去・現在・未来において変わらないこと・譲れないこと・貫き通していることに他なりません。もちろんリーダーの軸のさらに後ろ側には“会社の軸”(=ビジョン・ミッション)もありますが、いずれにせよ会社・リーダーとしてぶれることのない軸を示せると、チームは“磁石に引きつけられる”がごとく、まとまりやすくなると思います」
チームメンバーとのコミュニケーションは「1:1×N」が基本。例えば期初のキックオフ会議などで「今期目標○○億円達成」などの目標を掲げていても、実際のところはメンバー個々人で能力・経験・実績・コンディションは異なる。楽勝だと感じる人もいれば、内心「やばいな…」なんて思っている人もいることだろう。そうしたことは「1:1」で話してみないことには絶対にわからない。
「具体的な施策としては“1on1ミーティング”となりますが、特に若いメンバーは、成果達成やキャリアアップに向け『これでいいのか?』『どうやって成長するか?』『どこを目指せばいいのか?』などモヤモヤした思いを抱えるものです。若いうちはモヤモヤを持つのも仕事のうちですからそれで構いませんが、いつまで経ってもモヤモヤが晴れないままではいけません。その解消のためにも1on1ミーティングは非常に効果的です。マネージャーが彼らと1対1で話し、考えさせ、気づきを与え、そして行動してもらう——そんな経験学習サイクル(内省・教訓・実践・経験)にも似た考え方が必要になると思います」
縦から横へ。次世代リーダーの素養
そのうえで伊藤氏はこう述べた。
「1980〜2020年の国別GDP推移を見ると、日本は1995年以降ずっと横ばい傾向にあります。言い方を変えれば、1995年に日本の経済成長が止まり、以降はすっかり別の国になってしまった。では1995年に何があったかといえば、Windows95の国内販売です。すなわちインターネット社会になってヒエラルキー構造からフラット構造になったのだけれど、そこの変化についていけていない。その状態をずっと引きずっているのが今の日本だと思います」
その打開策となるキーワードを伊藤氏は3つ挙げる。それは先に述べた「1on1ミーティング」、そして「FREE, FLAT, FUN」「ダイバーシティ」である。
「FREE, FLAT, FUN」は伊藤氏の自著タイトルにもされた言葉だ。それぞれ「FREE=常識から解放され、1人の人間として自由に生きる」「FLAT=1人ひとりが異なる意思を持つリスペクトされる存在である」「FUN=1人ひとりが意思を決めて生きられれば、楽しく幸せな社会になる」状態を意味しており、いずれも「ダイバーシティ」との関連が深い。

伊藤氏は「縦の社会から、横の社会へ」として、最後にこう述べた。
「これまでの日本は圧倒的に、ダイバーシティが欠如していたのだと思います。名刺交換に限らず、日本の企業人は至るところでマウントの取り合い合戦をしている。特に年齢・役職を見て、相手が自分よりも下だと思えば偉そうにするし、上だと思えば必要以上にへりくだろうとする。日本人の歴史的に単一民族のなかで序列をつけようとすることが、DNAに組み込まれてしまったのかもしれません。
しかしそんな日本人・日本社会も今変わりつつあると思います。一昔前を“縦の社会”とすれば、今は“横の社会”です。上意下達の“縦の社会”では、上の人間が下の人間を教育・管理し、画一的な人材が育てていました。下の人間は早く正解に辿り着こうと、上の命令にただ闇雲に従っているだけ。それが旧来の会社組織だったと思います。
しかし“1:1×N”のコミュニケーションが成立しているフラットな“横の社会”では、みんなが違っていて当然です。上司に求められる正解に早くたどりつく必要なんてなく、自分の想い・ドリブン(原動力)が尊重される。これからの時代を生きるマネージャー・リーダーの方にはそんな時代変化をきちんと認識したうえで活躍していただきたいと願っています」

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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