経営理念・MVV浸透の秘訣は「今ある行動に着目すること」

急激な市場の変化や人口減少などのビジネス課題をかかえる現代において、企業の求心力を持たせ、意思決定のスピードを高めるため、より一層MVVの浸透が求められている。MVVとは「ミッション・ビジョン・バリュー」の略語で、明確な定義は存在しないが、経営理念や企業理念を内包する概念といえる。人的資本経営の推進が必要とされる昨今、会社が目指す姿などに関する社内外へのコミュニケーションの一つとしてMVVが使われることもある。
一方で、抽象的な文言であることが多いMVVを社内で浸透させることは一筋縄ではいかず、苦心している企業は多い。
そのような企業の悩みを受けることが多いUnipos社では、2023年12月、少人数限定でMVV浸透勉強会を開催した。今回は、大好評に終わった本勉強会のレポートをお届けする。

Profile

前田 章悟 (まえだ しょうご) 

新卒で企業のインターナルブランディング支援の企画営業に従事し、理念策定・浸透社内イベント表彰制度設計・運用社内報作成支援などを手掛ける。2020年、Fringe81株式会社(現Unipos株式会社に入社。現在は50名~2000名規模の企業のカルチャー変革支援の一環としてUnipos導入設計に従事するなど、キャリアでは一貫して組織風土づくりや価値観浸透に携わっているUnipos社のバリュー策定浸透チームに所属し、自社のバリュー浸透も先導 

 

MVV浸透はなぜ困難なのか

MVV浸透を課題としてよくお問い合わせいただく中で、当社ではMVV浸透のきっかけとなる経営イベントを主に下記の7つに分類した。

①組織構造の変化(例:組織階層の増加、拠点の増加、組織拡大)
②経営統合
③社長代替わり/交代
④商号変更、拠点変更
⑤周年
⑥上場/市場鞍替え
⑦中期経営計画の経営方針の上での必要性発生

実際、少人数勉強会に出席いただいた10名にどれに該当するか挙手していただいたところ、ほとんどの項目に手が挙がった。
上記に共通していることとして「何となく社員に大事なことが伝わっていない」という経営陣の直感から、プロジェクトや施策が始まることが多い。そして、そもそも感覚的な課題であり抽象度が高いため、経営からオーダーされた担当者が悩んでいる、という構図になりやすいようだ。MVVそのものよりも会社の価値観——どういう行動を推奨したいのか、ということに着目したほうが本質的だが、上記の結果としてMVVの文言そのものを浸透させよう、という力学が働きやすいのである。

価値観は“言っていること”より“やっていること”で伝わる

MVVとは「Mission」「Vision」「Value」の頭文字をとった語だが、これらを総合して「会社の価値観」と捉えることができる。
しかし、抽象的な価値観を浸透させること自体が非常に困難であり、これがMVV浸透に関する悩みの根本につながっている。

ここで提案したいのが「行動にフォーカスする」ということだ。
社員は経営陣や上司が“言っていること”よりも、“やっていること”を観察している。そして、 “やっていること”から、良くも悪くも「自社らしい」と感じることが、価値観や規範として伝わっていく。
これを踏まえ、抽象度が高い価値観だけに着目せず「行動」にフォーカスして施策を分解・整理していくという切り口についてこれから解説したい。

MVV実現に向かう3段階の行動レベル

「行動」に着目するといっても、社内では日々さまざまなレベルの行動が起こっているだろう。ミッション・ビジョン・バリューを3つの行動レベルに当てはめると、上記の図の形になる。一番上の③が経営理念やCIなどで表現されることが多く、③に向かうための①や②の行動を、行動指針やスローガンで示すことができる。

ここで、先ほどの3段階を、より現場の行動レベルに落とし込んでみる。
①は、例えば挨拶をすることや嘘をつかないことなど、人としての在り方に近い。前田は、この①の基礎的な部分がおそろかになると、組織風土が傷むと話す。②は、現状をより良くするための改善提案・活動が該当する。そうした基礎行動や改善活動があった上で、③の新しいもの・イノベーションを生み出す行動が生まれる。
③に向かうためには、①②の行動の集積が重要である。そして、①②がおろそかになっている状態で「新しいものを生み出そう、イノベーションを起こそう」というメッセージが先行すると、言行の不一致が起こり、社員にとっては逆効果になってしまうのだ。

MVV浸透に対する3つの提言

ここまでの話を踏まえ、前田は3つの提言をする。

①MVVを“浸透させる”のではなくMVVを“体現した行動を見つけて可視化する”
まずは「今ある良い行動」に目を向けて、自社の価値観を体現していることの意味付けをすることから取り組みを進めるのはどうだろうか。
「未来」はイメージするものだが、「現在」は行動が規定する。より行動に落としやすい現在に焦点を当てるのである。

②今ある行動から良いものを称え、悪いものを正す
皆さんの組織の中で、良い行動は今でも必ず存在するはずだ。その行動を表出化・称賛し、悪いものは正すという活動が、第一歩目になるはずである。

③価値観は、経営陣やマネージャーがとっている行動から伝わる
経営陣やマネージャーがとっている普段の行動や意思決定から、価値観は自然と伝わっていくものだ。その行動が、組織で掲げているMVVとちゃんと一致しているか。その整合性をとっていくことが、社員の腹落ち感につながる。

Unipos社でのMVV浸透事例——「良い行動を見つけること」にフォーカス

ここからは、実際にMVVの策定・浸透を実施した2社の事例を紹介する。

一つ目に紹介するのは、全社参加型カルチャープラットフォーム「Unipos」および組織風土改革コンサルティングを開発・提供している Unipos社の事例だ。

▼策定フェーズ
Unipos社は、2021年に創業事業であるWeb広告事業から事業転換し、Fringe81株式会社からUnipos株式会社に商号変更した。このタイミングで、Fringe81社として定義していたMVVを再策定するプロジェクトチームが手挙げ制で発足した。
プロジェクトチームが経営陣から受け取ったオーダーは「経営理念を実現する上で、社員がとるべき『行動』の定義」だったという。
10名ほどのプロジェクトチームで、「弊社らしい行動とは?」「逆に弊社らしくない行動とは?」「今はないが将来増やしたい行動とは?」という3つの視点からアウトプットし、グルーピングしながら抽象化していき、4つのバリューが完成した。また、文言のみではなく、それぞれのバリューに対して「最高基準の行動」と「最低基準の行動」を例示することで具体性を持たせ、より正確に共通認識を持てるようにした。


▼浸透フェーズ
4つのバリューをどのように浸透させていったのかについては、一貫して「今ある行動」にフォーカスしたほか、ボディーブローにようにバリューに触れる環境を作ったという。
以下、浸透施策をベースに紹介していく。

①目に触れる環境づくり
社内チャットツール「Slack」でバリュースタンプを作成し、積極的に使用する。
また、オフィスの柱にバリューを刻印するなど、バリュー文言が目に触れる機会を作る。

②ミニイベントの開催
役職者が中心となり「部署別にバリュー体現について考える会」を開催。
また、隔週で全社集会後に「この2週間でこの人のバリュー体現を発見した」というエピソードをチームで発表し合う10分ほどのイベントを行う。

③年一でのミッション・バリューDay開催
新年度4月に「ミッション・バリューDay」を開催。自薦・他薦で、バリュー体現度が高い人を選出・エピソードを募集後、役員内で選考会を実施。全社総会にて発表し、「バリューエバンジェリスト」を選出する。

④Uniposでのチームハッシュタグ活用
Unipos内に「バリューハッシュタグ」を追加し、投稿にハッシュタグをつけることで、日々の行動とバリューを紐づけている。バリューつきの投稿数など、定量的なトラッキングを施策の参考にしている。

⑤発見大賞の実施
毎四半期に開催している社内表彰。バリューハッシュタグつきのUnipos投稿を切り口とし、全社員が自由にノミネートできる。その後、役員を中心にバリューを体現した行動を選出し、表彰する。

前田は、Unipos社でのバリュー浸透のポイントは「良い行動を見つけることにフォーカスした点」と語る。最初から全員がバリューに沿った行動ができなくてもよい。少数の良い行動を見つけ、表出化し、拡散することで、社員のバリューに対する理解や認知が深まっていく。そして、段々とバリューに紐づく良い行動が増幅する、という好循環が生まれた。
こうした流れを生むためには、最初の「良い行動を見つける」ことを意識するべきだという。

UACJ社でのMVV浸透事例——「言行一致」と経営陣のコミットメント

2社目に紹介するのは、アルミニウム業界の国内トップシェアである株式会社UACJだ。UACJ社は、2013年、業界ツートップの2社が経営統合して生まれた。

2019年、貿易摩擦など外的要因によるビジネス環境変化をきっかけに、全社的な構造改革をスタートした。統合して5-6年が経つ中で、各出身会社の違いだけでなく、新入社員、M&Aや事業再編などによる社員の増加など、統合当時と比べて、グループ全体が大きく組織が変化していた。UACJ社ならではの存在意義を改めて見つめ直すべく、1年かけて新企業理念体系(パーパス)の再定義を行い、2020年度より理念浸透活動を行い、専任部署である「新しい風土をつくる部」が設置された。

▼策定フェーズ
UACJ社の取り組みは、過去の記事でも紹介しているため、ここでは詳細を割愛する。ぜひ下記記事をご参照いただきたい。
【実践事例】「企業風土・文化」の改革、鍵は「対話と心理的安全性」

▼浸透フェーズ
様々な理念浸透の施策を実施の中から、一部を抜粋して紹介する。

①理念・Vision2030対話会
最初に実施したのは、社長と現場の対話会だった。社長自らが現場に回り、理念や思い描くビジョンをありありと語るなど、経営自身が行動で示しにいくことから始めた。次第に社長だけでなく、事業部門長による対話会へと拡大している。

②目安箱・Reborn通信
誰でも経営側に改善提案できる仕組みと、毎月のフィードバック施策。社員の自主性を求める上で、発話をする機会そのものを生む施策である。 現場社員から声が上がりやすい風土醸成のきっかけになっている。

③ふどつくフレンズ
「新しい風土をつくる部」を親しみやすい「ふどつく」と呼び、有志のアンバサダーを「ふどつくフレンズ」と呼んでいる。彼らが感じる課題や改善案をPJチームに発信すると、それを会社が支援する仕組みである。
自律性を促す発信をし、行動が生まれたとしても、会社の支援がないと手上げ損になってしまう可能性がある。行動した人をしっかりと支援することが、言行一致につながっている。

④360度評価
副社長以下の管理職に対して、360度評価が取り入れられている。価値観に沿った行動ができているか、価値観を支える思考ができているかについてフィードバックし、改善につなげている。

⑤社長表彰「UACJグループウェイ賞」
グループ全体に理念・ウェイを体現する活動を活性化させることを目的として、 行動に着目した表彰制度を設計している。

UACJ社の取り組みのポイントは2点ある。
1点目は、理念を定義しっぱなしにするのではなく、理念に沿ってとられた行動を可視化・奨励することで、行動を意味付けしていることだ。
2点目は、経営陣のコミットメントである。社長自らが現場と対話して傾聴する、発信をするという姿勢を徹底していることが、心理的安全性の向上にも寄与している。

おわりに

今回の勉強会でのメッセージは「行動に着目する」ということだった。経営陣やマネージャー陣の普段の行動や意思決定の集積が、企業の価値観になっていく。また、MVVを浸透させていく上でも、今起こっている行動に注目することで、空中戦ではない浸透施策が実施できるだろう。
一つ一つの行動の積み重ねが、企業の価値観・カルチャーを作り上げていく。そして長期的には、イノベーションが生まれる企業体質や事業伸長につながるのだ。まずは、今会社の中で起こっている良い行動に目を向けることから始めてみてはいかがだろうか。

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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