【住信SBIネット銀行】目指すは「銀行を超えたテックカンパニー」。人事トップに聞く、優れたプロダクトを生む組織づくりと人事戦略
2025.08.05
目次
近年、デジタル化の波が急速に進む金融業界において、「銀行を超えたテック企業」を標榜し、様々なユニークな戦略を展開し成長を続ける住信SBIネット銀行。既存の銀行とは一線を画すカルチャーを、どのように構築し、事業成長につなげているのか。今回は同社の人事トップである酒井氏に、その組織づくりの全体像から、バリューの浸透、採用・人事戦略、そして描く未来について詳しく伺いました。
Profile

酒井 剛士氏
住信SBIネット銀行株式会社 執行役員 人事・データサイエンス担当
銀行を超えた「テックカンパニー」へ。変革の源泉は“人”
――まずは、住信SBIネット銀行がどのような立ち位置にあり、どのような組織を目指しているのかについてお聞かせください。
酒井氏:当社は、既存の伝統的な銀行と比べると社歴が短く、ネット銀行としても数社目の参入という立ち位置になります。当社が成長していくためには、はじめて口座を開設されるお客さまに我々をご選択いただく、または既存の銀行から移ってきていただく必要があります。
そのために重要なのが、今までのサービスを圧倒的に便利にして提供することと、今までだと思いつかなかったような革新的なサービスを提案することの2軸です。そして、それを実現するための価値の源泉は、すべて「人」にあると考えています。社員一人ひとりのアイデアや問題意識こそが、変革の出発点となるからです。
そのためには社員からのアイデア創出を促す企業カルチャーの構築が非常に重要になります。ある意味、既存の銀行の慣行・文化とは対極にあるようなカルチャーイメージです。当社の採用ページをご覧いただくと感じていただけると思うのですが、「テクノロジーで開拓せよ」を合言葉に、銀行を超えたテックカンパニーを目指す姿勢を明確に打ち出しています。これには、社員自身の自己認知も変えていこうという意図もあります。

挑戦文化を支える6バリュー(シックスバリュー)と浸透施策
――「テクノロジーで開拓せよ」という合言葉に、既存の銀行とは異なる企業文化を築こうという強い意思を感じます。その企業文化を具体的に形にするための核として、「6バリュー」を設定されているとのことですが、その内容や浸透施策について教えてください。
酒井氏:「6バリュー」は、成長に向けて必要だと考える行動指針です。多くの会社では、バリュー(行動指針)を設定していても、社員がその内容を言えないことも多いでしょう。そこで、当社ではシンプルなバリューにすることを心がけました。これらのバリューは、お客さまへの付加価値の提供という目標から逆算して作られています。

▲住信SBIネット銀行 HPより引用
6バリューの浸透施策としては、まず人事考課制度に「バリュー評価」を組み込んでいます。社員自身が6バリューに対して自ら点数をつけ、上司も点数をつけるという形式です。これに「役割遂行度評価」を組み合わせることで、年功序列を廃止した評価体系としており、若手の積極的な抜擢にも繋がっています。ちなみに、各レイヤーの最年少は、グループ長は28歳、部長は32歳、執行役員は37歳です。
他には、トップが目指す姿を繰り返し発信し続けることを大切にしています。当社では、毎月月初に、社長や会長から大切にしたいことを全社員に話をする場を設けています。また、表彰制度も実施しており、バリューを体現した社員を表彰対象として称賛しています。組織全体のモチベーション向上を図るため、発信の仕方、見せ方の工夫を社内の広報メンバーと連携して行っています。
バリューの実現レベルについては、さらに高めることができると考えています。キャリア採用、新卒採用ともに選考時に当社のカルチャーに共感いただいた方が入社いただいています。他社から入社された方は意思決定の速さや柔軟性に驚かれるケースもあるのですが、経営層からは「まだまだ」との声もあります。社員一人ひとりに6バリューが深く浸透し、日々の行動により強く影響していくように、粘り強く繰り返しその重要性を伝えていくしかないと考えています。
内定承諾率8割を実現。採用の秘訣は「同業他社と異なる層のターゲット化」
――バリューに対する考え方についてよく理解できました。次に、人材戦略、特に採用についてお聞かせください。多様な業界からのキャリア採用を進めつつ、新卒採用も強化されているとのことですが、背景や狙いについて教えてください。
酒井氏:当社の現在の社員構成は、約85%がキャリア採用で、ジョブ型雇用が主流です。銀行出身者だけでなく、他業界からの人材獲得も積極的に実施しており、多様性の確保を重視しています。多様なバックボーンを持つ人たちが集まることで、今までの銀行にはなかったようなアウトプットが生まれることを期待しています。
また、ここ数年は新卒採用も強化しています。これは、より強いカルチャーの浸透を目指すことが目的の一つです。新卒社員はカルチャーをピュアに体現してくれるため、組織全体のカルチャー構築に良い影響を与えてくれると考えています。
平均年齢は現在39歳ですが、戦略的に若手比率を上げ、3~4年後にはメガベンチャー並みの年齢構成である36~37歳を目指しています。
採用の強化は、実績として現れています。新卒採用の応募者数は前年比180%増となり、キャリア採用の内定承諾率も80%近くに上昇しました(*編集注:実績は2025年5月時点)。
新卒採用力が強化された要因としては、主に二つあると考えています。一つは、発信と接点の頻度を強化したこと。特に、業界比で高水準の初任給を積極的にアピールしました。これには、有能なタレントにはそれに見合う給与を支払いたいという想いがあります。もう一つは、意図的に金融業界内の一般的なポジションからずれた立ち位置で採用活動を行ったことです。銀行の中では異質な存在としてポジショニングし、競合はSIer、メガベンチャーやコンサルティング会社であると学生にも伝えることで、リーチできる学生層が増えました。大学の就職課との連携強化やヒアリング、学生団体との交流を通じた露出増加も、接点を増やす上で効果的でした。
キャリア採用の承諾率が向上した背景には、人事部門と現場、そしてエージェントを交えた対話を徹底的に増やしたことがあります。ミスマッチを減らすことに注力した結果、内定承諾率が向上しました。
一方で、闇雲に社員数を増やすのではなく、現在約750名の社員という少数精鋭で価値を生み出す組織づくりを重視しています。DXやAIを取り入れることで生産性を高め、業容規模の拡大・伸びと社員数の増加・伸びをパラレルに増加させることなく少数精鋭を貫いている分、社員に給与として還元できる構造になっています。

――素晴らしい成果ですね。特に、一般的な銀行とは異なるターゲット層にアプローチすることで、採用の成功につながっているというのはユニークです。では、採用した人材をどのように育成し、組織全体のレベルアップを図っているのか、人材育成方針についてお聞かせください。
酒井氏:これまではキャリア採用が主体だったため、育成についてはそれほど重視できていなかったのが正直なところです。しかし、新卒採用を増やす方向性である以上、人材育成とカルチャーの構築が必須であると考えるようになりました。これらは、社員の長期的なコミットメントと会社の成長のために不可欠です。
具体的なアクションとしては、階層別研修を強化しています。新卒メンター・OJT担当者・マネージャー層など、各階層の社員に対して研修を実施しています。これは、それぞれの次のステップに必要なスキルを習得してもらうためです。実際に、社員一人当たりの年間研修時間は大幅に増加しています。
挑戦できる企業だからこそ、退職は「卒業」である
――採用・育成ときて、退職についてはどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。
酒井氏:当社では、退職をネガティブに捉えていません。むしろ「卒業」と捉え、退職率は7%~8%程度を目安に考えています。これは、「人材を輩出していける会社」を目指したいという考えがあるからです。リクルートさんのようなイメージですね。もちろん、有能な人材には会社に残ってほしいと考えており、昇給やポストの提供など残ってもらうための仕組みも整備しています。しかし、社員が次のキャリアステップを望む場合には、それを応援する姿勢を持っています。退職率が低すぎることが必ずしも良いことだとは考えていません。挑戦者であり、新しいものを作り続けていく会社としては、外に出てさらに挑戦したいという人もいてほしいとも考えています。

――そのような「挑戦できる組織文化」を築く上で、重視されているテーマはありますか。
酒井氏:「心理的安全性」の確保は、テックカンパニーを目指す上で非常に重要だと考えています。社員が萎縮せずに自由に発言し、新しいアイデアを出せる環境が不可欠だからです。
具体的な取り組みとしては、ハラスメント対策のガイドラインを作成し、社内ポータルにハラスメント相談窓口の情報を目立つ位置に配置するなど、相談しやすい環境を整備しています。制度を導入しただけで終わるのではなく、早い段階で問題の芽を摘み取れるようにしたいという意図があります。
挑戦できる環境が、体験価値を創造する。8年連続最高益を支える強い組織
――これらの組織づくりへの取り組みは、事業成長にどのように繋がっていると感じられますか。どのような変化があるか教えてください。
酒井氏:組織づくりの取り組みと事業成長には、密接な関係があると考えています。
定性的な面では、現場の各所で「いいな」と思える行動が増えています。例えば、手数料無料で個人宛送金ができるサービスである「ことら送金」のUI/UX開発は、若手社員が顧客志向に基づいたリーダーシップを発揮してプロジェクトを推進しました。他にも、新人UXデザイナーが自社の魅力を発信する採用イベントを企画・運営しています。住宅ローン新規実行額で日本トップ水準を誇る住宅ローンの部門では、社員がローン案件の急増に対して創意工夫の効率化施策を進めており、テクノロジーを活かした打ち手としてお客さま・不動産事業者・当社を繋ぐデジタルプラットフォーム「かんたん住宅ローン」の提供開始、活用促進にもチャレンジしています。
ここに例を上げたのも一例にすぎず、その他の色々な部署で、社員一人ひとりが主体的に動き、バリューを体現する場面が増えてきました。社員の思いが実際の行動に繋がり、カルチャーが醸成されてきていることの現れかとだと感じています。
業績面では、8年連続で過去最高益を達成しています。景気に左右される銀行業界の中で、このような成長を続けられていることは、こうした社員の日々の行動・挑戦が着実に成果につながっている証だと捉えており、組織として成功体験を積み重ねられている実感があります。
もちろん、厳しい外部環境の変化もあります。コロナ以降、2024年までは金利が非常に低かったため、金利よりもサービスの利便性で顧客に選ばれていました。しかし、金利のある世界に戻った今、金利が再び重要なファクターになっています。この新しい競争環境の中で顧客に選ばれ続けるために、当社はBaaS(Banking as a Service)の強化に挑戦しています。BaaSは提携先さまの顧客基盤を活用するものであり、金利ではない観点、すなわち「体験価値」で勝ち抜く必要性があります。提携先さまのもつさまざまな特色を活かし、金利以外の価値提供を通じて競争力を高め、提携先さまとともにさらなるサービス向上に向け、たゆまずチャレンジしていきます。このような新たな挑戦を成功させるためには、強いプロダクト、強い個人、強い組織が必要だと考えています。

「作り手の状態」が価値に直結する、ネット銀行だからこそ重要なカルチャー
――最後に、今後の展望や、酒井様ご自身が人事として大切にされている想いをお聞かせください。
酒井氏:当社はネット銀行であり、支店がありません。お客さまとの接点は、モバイルアプリやインターネットを通じたものになります。お客さまはアプリの向こうにいらっしゃるのです。ですから、当社をお選びいただき、継続してご利用いただけるかは、モバイルやインターネット上でいかにお客さまにご満足いただけるような付加価値を提供できるかにかかっています。一方、お客さまからのご相談とそれに対する対面での対応が強く希望される住宅ローンにおいては、当社独自に生み出した代理店モデルの構築や手続きのDX化によってそのニーズを満たすなど、新たなビジネスモデルやテクノロジーによる仕組を構築することでさらなる付加価値の提供を実現しています。このように魅力的なオンラインサービスや新たなビジネスモデルの構築による力強い成長をし続けるには、それらを生み出し、実現させる社員が集まり、長く働き続けたいと思える会社にしていく必要性があります。
銀行業には、クリエイティブな発想だけでなく、堅牢性やセキュリティにおいて、高い水準が求められます。特にセキュリティは銀行の信頼の根幹であり、預金の安全性や個人情報保護は絶対です。当社では、オンライン認証技術の国際標準規格FIDOを早くから搭載し、アライアンスメンバーとして規格のさらなる向上と発展に取り組むなど、最先端テクノロジーによるセキュリティの強化に努めています。このように銀行としての責任をまっとうしつつ、優れたプロダクトを作り出せる組織――独創性と堅牢性を両立できる組織をつくりあげることを重視しています。

「テクノロジーで開拓せよ」という合言葉に対する私の想いは、まさにこのネット銀行の世界でお客さまにこれまでにない体験や価値を提供し、金融の未来を切り拓いていくことです。無機質になりがちなネット銀行だからこそ、「作り手の状態」が非常に重要になると考えているのです。社員がやりがいを感じ、前向きに働いている状態が、提供するサービスの質に直接的に影響すると信じています。
この目指す組織像を実現するために、適切な人材の採用戦略、処遇システム、そして育成方法を設計・実行していくという使命感が、私の原動力です。
――最先端のテクノロジーを活用し、独創性と堅牢性を両立することで、「作り手の状態」がサービス価値を左右するというお話、大変示唆に富んでいました。「銀行を超えたテックカンパニー」を目指す御社の挑戦を、今後も応援しております。本日は貴重なお話をありがとうございました。

▲住信SBIネット銀行 人事部の皆さま
※記載されている情報はインタビュー当時のものです。
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