サービサー業界で脅威のエンゲージメントスコアを記録。「人が第一」で進める組織再構築の舞台裏

アイ・アール債権回収株式会社は、アコムグループの一員として債権管理回収業を行っています。通例では離職率が高いとされる業界ですが、組織文化醸成やDX、「自律型人材」を目指した数々の育成制度に注力した結果、離職率の劇的な低下、過去最高のエンゲージメントスコア、そして多様な人材の獲得に成功しました。

常務取締役の菊地氏は、「形のある商品がない金融業だからこそ、人が最大の差別化要因になる」と断言します。今回は、菊地氏へのインタビューを通じ、生まれ変わりつつある組織の変革の真髄に迫ります。

Profile

菊地 隆文氏

アイ・アール債権回収株式会社 常務取締役

1994年、アコム株式会社に新卒入社。営業店勤務を経て海外事業に従事し、タイ子会社への出向では業界初の個人向けカードローン事業に携わる。その後、財務部長として資金調達、広報・IR、サステナビリティ推進等を担当。2025年4月よりアイ・アール債権回収の常務取締役として人事部門を管掌。

無形サービスの金融業で問われる“人”の力。迫る組織高齢化への挑戦 

—— まずは、菊地様のキャリアについてお聞かせください。 

菊地氏: 約30年ほど前、当社の親会社であるアコム株式会社に新卒で入社し、7年ほど営業店を経験しました。その後、2001年にタイにある子会社へ出向し、4年半ほど駐在して、業界初となる個人向けカードローンのプロジェクトに携わりました。本社に戻った後も海外事業部に勤務しましたが、そこで業界を揺るがす「過払い金問題」が勃発しました。廃業に追い込まれる他社も多い中、約10年にわたり、その対応事務や業務設計に奔走しました。 

その後は財務部長として、金融機関や投資家様からの資金調達、広報・IR、そしてサステナビリティ推進室を担当してきました。こうした経験を経て、2025年4月にアイ・アール債権回収に配属され、人事部門を管掌する常務取締役に着任しています。 

 

——現在、組織づくりに関する様々なお取り組みをされていますが、組織づくりに注力された背景はどのようなものでしたか。 

菊地氏: 私は人事という職務は今回が初めてですが、以前から各現場の部長として、常に組織の課題には向き合ってきました。私が一貫して大事にしているのは、経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」の中で、何よりも「人」が優先されるということです。特に我々のような金融業は、目に見える商品を扱っているわけではありません。商品の差別化が極めてしづらい業界です。 

となると、お客さまがいかに納得してサービスを使っていただくか、その鍵を握るのは社員一人ひとりの対応であり、その人間性そのものになります。だからこそ、他業種以上に「人」を重要視しなければならない。これは親会社であるアコムをはじめとするグループ全体の「人間尊重の精神」という理念にも基づいています。 

 

—— 着任されてから、どのような組織課題に直面されましたか。 

菊地氏: 当社が設立されたのは約25年前で、当時の社会問題であった不良債権処理を背景にサービサー業界が普及したタイミングでした。しかし、長らく新卒採用を行わず中途採用も最小限だったため、近年は社員構成の高齢化が顕著に進んでいました。これは業界共通の課題でもあります。ノウハウを持つ社員が年を重ね、定年退職を迎えていく中で、いかにして技術を継承し、組織を若返らせるか。当時の人事部長を中心にこの現状に強い危機感を抱き、3年前から変革に着手しました。今我々がやらなければならないのは、避けては通れない組織の再構築です。 

まず人員構成を可視化し、数年後にどのような組織構成になるかをシミュレーションした上で、「採用・育成・定着」という3つの柱で計画を立案しました。 

 

金融経験より“聴く力”。異業種人材が戦力になる理由 

—— 採用において、特にこだわっているポイントはありますか。 

菊地氏: 債権管理回収業というのは、ドラマや映画などの誇張表現の影響もあり、決してイメージが良い業種ではありません。そんな中で「ここで働きたい」と思ってもらうためには、情報のオープン化が不可欠です。そのため、当社の姿を嘘偽りなく、誇張せずに発信することを徹底しています。 

なぜなら、採用できたとしても、入社後にギャップが生じれば育成も定着も望めないからです。当社は現在中途採用のみ行っていますが、面接で最も重視するのは「なぜ当社なのか」という動機や、理念への共感です。若手の方は特に、仕事の対価だけでなく「やりがい」を重視する傾向があります。我々のお客さまは、支払いが滞り、心理的に健全ではない状況にある方々です。それを強制的に動かすのではなく、一緒に解決の道を考える。「再生」の視点に立ち、人助けに繋がる仕事であると共感してくれる方を求めています。 

驚かれるかもしれませんが、入社される方の前職は多彩です。銀行など金融出身者もいれば、物流、薬局、ケーキ屋、携帯電話の販売、さらには電車の運転士や医療事務の方までいます。金融経験の有無よりも、「人の話をきちんと聴くことができ共感できること」、「周囲との協調性があること」を重視して採用した結果、今の多様な組織が出来上がりました 

 

—— 異業種からの方が多いということは、その後の「育成」が特に重要になるのでしょうか。 

菊地氏: おっしゃる通りです。我々は「自律型人材」の育成を掲げています。サービサーという仕事は、法律やルールが特殊で、覚えなければならないことが山ほどあります。そのため、社内に常駐している弁護士などの専門家による集合研修や、気軽に相談できる環境を整えています。 

また、本人がやる気になればいくらでも学べるよう、通信教育の支援や好きな書籍を購入できる読書支援など、グループ全体で手厚いサポートを行っています。人事部にはキャリアコンサルタントの資格を持つ社員もおり、入社1ヶ月・半年・1年といった節目で定期的な面談を実施しています。 

ちなみに、現在活躍しているキャリアコンサルタントは、実は元々は現場の第一線で活躍し、役職定年を迎えられた方です。自ら「資格を活かして、人事部でこういうことをしたい」と提案してくれました。彼女自身がまさに「自律」を体現した社員だと言えます。 

彼女は現場経験を活かし、当社の業務に即したケーススタディを用いた研修を若手向けに行っています。外部の講師では語れない、「当社における自律性とは何か」を具体的に教えられる強みがあります。このように、社員が自ら動こうとしたとき、会社がそれをしっかりと受け入れる姿勢も、自律型人材を育む土壌になっていると感じます。 

その他の研修として、最近は親会社であるアコムのコンタクトセンターを見学する機会も設けています。グループが誇る「応対のクオリティ」を肌で感じてもらうためです。 

債権回収の現場では、長年支払いが滞っているお客さまに対して、どうしても「返さない人が悪い」という偏った見方をしてしまいがちです。しかし、お客さまが抱える悩みを理解し、その尊厳を傷つけない応対が不可欠です。目指すべき姿を実際に見てもらい、「自分に何が足りないか」を社員自ら考えてもらう。人事はそうした機会を創出する役割に徹しています。 

「今の1.1倍頑張れる環境」を目指した組織風土づくり 

—— 組織風土やカルチャーの面では、どのような取り組みをされたのでしょうか。 

菊地氏: 異業種からの転職が多いということや、親子ほど年齢が離れたメンバー同士が一緒に仕事をするということもあるため、まずは相互理解が重要だと考えています。 

物理的な面では、2025年7月にオフィスを移転し、ワンフロアのオフィスになりました。以前のオフィスは3つのフロアに分かれており、同じ会社にいながら顔と名前が一致しない、話したことがないという状況が起きていました。現在は全社員が同じ階で働いているため、接する機会が非常に増えています。 

また、相互理解のために「ピアボーナス®Unipos」を導入しました。例えば、ある部署の人が別の部署の人を手伝ったとき、140人の社員全員に見える形で「ありがとう」という言葉が飛び交います。投稿を見た他の社員が拍手を送ることで、感謝や称賛が何倍にも増幅される。承認欲求がない人間はいません。一つの行為が二重、三重の承認に繋がることで、モチベーション向上につながります。当初は若手中心かと思っていましたが、ベテラン勢も今では積極的に活用しており、大半の社員が参加しています。 

こうした取り組みの積み重ねが「お互いを知り、承認する文化」を醸成しているのだと実感しています。 

 

—— 経営層と社員とのコミュニケーションの場はどのように設けられているのでしょうか。 

菊地氏: 今年から、役員と社員が少人数で話し合うタウンホールミーティングを設けています。上半期だけで30回ほど実施しました。ここではあえて、理念や中期経営計画といった難しい話はしません。まずは親睦を深め、お互いの意外な一面を知ることが目的です。冒頭に「1分間自己紹介」をしてもらうのですが、趣味や好きな食べ物、マイブームなど、話しやすいテーマをいくつか提示します。すると、皆さん1分のつもりが5分くらい熱弁されるんです(笑)。20年以上一緒に働いている仲間でも、初めて知る一面がたくさんあります。経営層が貴重な時間を使ってこうした場を設けることに驚かれることもありますが、私はこうした相互理解の機会こそが重要な投資だと思っています。 

私はこれまで天才的な仕事をする人を何人か見てきましたが、それでも一人の力はせいぜい人の2倍程度です。しかし、140人の社員が今の1.1倍頑張れるようなモチベーションを持てれば、それは14人分の力が増えた状態になります私一人が14人分の仕事をすることは絶対に無理ですが、みんなが気持ちよく働ける環境を作ることはできます。それが経営の役割だと考えています。 

 

—— DXに関して、新しいお取り組みはされましたか。 

菊地氏: 業務効率化、そして社員のストレス軽減のために、音声の自動文字起こしと感情分析ツールを導入しました。仕事の特性上、お客さまとの会話を正確に記録に残す必要があります。以前はメモを取りながら聞き、それを後で聞き返して入力して……という作業に、会話と同じかそれ以上の時間を費やしていました。これは社員にとって大きな負担です。 

文字起こしツールの導入により、この「聞き返すストレス」から解放されました。精度は8〜9割ですが、ゼロから書くよりはるかに良いです。また、このツールには感情分析機能も付いており、お客さまの機嫌が良いときはニコニコマーク、怒っているときは別のマークが表示されます。 

感情分析の結果分かったこととして、お客さまのニコニコマークが非常に多い応対上手な担当者は必ずしも金融経験者ではなく、元ケーキ屋や元薬局店員といった、全くの異業種から来た方だったりします 

お客さまの話をしっかり受け止め、共感する。その結果、厳しい内容の会話であっても、最後には信頼関係が生まれています。こうした成功体験がUniposでも共有され、「そんなふうに解決できたんだ、すごいね」と称賛される好循環が生まれています。 

過去最高のエンゲージメントスコア、離職低減を実現。積み重ねが組織を変えた 

—— 一連の施策の結果、どのような変化を感じていらっしゃいますか。 

菊地氏: まずは感覚的なものですが、着任した4月と比較して、明らかに社員の笑顔が増えました。債権回収という仕事は、どちらかというとお客さまから感謝される機会が少ない仕事です。それにもかかわらず、社員が笑顔で、自分の仕事に誇りを持って取り組めている。これは非常に価値のある変化だと思っています。 

定量的な面でも、驚くべき結果が出ています。エンゲージメントサーベイのスコアは直近で過去最高の61.7を記録しました。同業他社では50を超えることすら難しいと言われる業界で、この数字は突出しています。採用も非常に順調で、以前は課題だった離職率も大きく低減しました。まだまだ改善しなければならない課題はありますが、会社に対する満足度は上がってきていると感じています。 

—— 最後に、この記事を読んでいるリーダーの方々へメッセージをお願いします。 

菊地氏: 私たちがやってきたことは、特別なことではありません。ツールを導入することも、対話の場を作ることも、どの企業でもその気になればできることです。 

大切なのは、「足元の小さな石ころを疎かにしないこと」です。人間は大きな岩には注意しますが、足元の小さな石ころにつまずいて転びます。仕事も人間関係も同じです。些細な挨拶、小さな感謝、そうした「足元」をしっかりと見ることが大事だと思っています。 

私は、これまでのキャリアで様々な失敗をしてきましたが、それでも今のポジションで仕事をさせてもらっています。その恩返しを、今の社員たちにしていきたいと思っています。社員がいかに納得して、気持ちよく働けるか。そのために経営が何を見せるべきか。これからも、それを考えながら、背中を見せ、投資し続けたいと思います。 

※記載されている情報はインタビュー当時のものです。

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